妖精の軌跡second   作:LINDBERG

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第26話 受け入れるしかない事もある

ツァイス中央工房

 

ZCFの略称が有名な、大陸最高レベルの導力技術を有するリベールの企業。帝国都市ルーレと同じ様に町全体で導力機関の開発と製造に取り組んでいるようだが、常に忙しないラインフォルト社とは違い何処かのんびりとした印象を受ける。

 

ん……いい加減にこのバイクのセーフティを解除して欲しい。

 

カシウスとの会話後、一緒に昼食を頂いたフィーは(卵が品切れになっていて、チキンライスとコンソメスープだけだったが……)レイストン要塞からバイクを飛ばし、ツァイスの町を訪れていた。

 

帝国に帰ってからでも良いけど、どうせなら早いうちに何とかしてもらおっと。

 

低速での走行が不可な為、バイクを押しながら町に入ると、ルーレと同様で町の真ん中に巨大なエスカレーターが設置されているのが目に止まった。

 

ん、確かこっちが世界初で造ったとか聞いた気がするけど、ルーレの方がデカいかな?……何となくアリサのお爺さん辺りの負けず嫌いが影響してそうな気がするけど。

 

苦笑いを浮かべながら動く階段を見つめていると、上階から金髪と蒼髪の若い女性2人が並んで降りて来るのが目に止まった。楽しそうに導力談義に話を咲かせているようだが、聞こえて来るのは専門用語ばかりで内容は全く理解出来ない。……だが、金髪の女性の方は明らかに見覚えがある。

「……ん?あれ?アリサ??」

フィーの声に反応する様に女性が顔を向けた。

「えっ?フィー??」

驚いた表情を浮かべたアリサ・ラインフォルトが、エスカレーターを駆け降りてフィーの前に走り寄った。

白を基調にしたビジネススーツが良く似合っていて、たった半年会わなかっただけで「仕事の出来そうな大人の女性」という印象を受ける。……そして胸元が『コレでもか!』という程にザックリと開いていて、大きなバストが溢れんばかりだった。

「奇遇じゃない!まさかリベールでⅦ組の誰かに会うとは思ってなかったわ!どうしたのよ!?」

「ん、貰った導力バイクをちょっと見て貰おうと思って。アリサは?」

「私は今ZCFに研修生として泊まり込んでるのよ。それにしても久しぶりね、元気にしてた?」

「ん、ボチボチかな?」

互いに近況を報告し合う2人の元へ、アリサの連れ立っていた蒼髪の女性が近寄って来た。

「……アリサさん、こちらの方は?」

「ああ、ゴメンなさいティオ主任、紹介するわね。この娘は私と同じトールズの同窓生で、今は遊撃士をしてるフィー・クラウゼル。フィー、こちらはエプスタイン財団の主任技師で、私と一緒に研修を受けてるティオ・プラトーさん」

ティオと呼ばれた女性がペコリと頭を下げ、釣られてフィーも頭を下げる。再び頭を上げて目が合うと、何故かティオは怪訝な表情を浮かべていた。

「……気のせいでしょうか?何処かで貴女に会った様な気がするんですが」

「ん……気のせいじゃない?完全に初対面だよ」

不思議そうな顔で首を傾けて見せるが、フィー自身も気付いていた……いつぞやのクロスベルだ。……あの時は顔を隠してはいたが、みっしぃの目の前で思いっきりヤり合っている。導力バイクを握る掌にジンワリと汗が滲んだ。

「……そうですか、アリサさんの友達であれば、あんな愚劣で万死に値する行いをなさる訳がありませんし……きっと私の勘違いでしょうね」

ティオは自分に言い聞かせる様にボソッと呟く。その様子を見たフィーは、気付かれない様にホッと安堵の溜め息を漏らした。

 

「あら?この導力バイク何処かで見た様な気がするんだけど?」

アリサが呟きながら導力バイクに手を伸ばす。

「ん、元々ラインフォルト製らしいんだけど……色々あってタダで貰った」

「その色々ってのは気になるけど……まぁ良いわ。でも、ウチで造った製品なら、ZCFじゃなくて私に診させて欲しいんだけど?」

「ん、安全装置を解除して欲しいだけなんだけど……出来そう?」

スタンドを立たせて、バイクをアリサに任せた。

「どれどれ?……」

しゃがみ込んだアリサが、導力エンジン周りのチェックを始める。屈んだ事により一層胸の谷間が強調されていた。

「……何よ、このセーフティロック。飛行艇で使うヤツじゃない」

呆れた様に溜め息を吐き出す。

「何でバイクにこんなの付けてるのよ?……いいわ、解除するのも面倒だから、導力カットして丸ごと外しちゃいましょう」

アリサはおもむろに胸の谷間に手を突っ込んで工具を取り出すと、慣れた手付きで作業を始めた。

 

オイオイ!?何処にしまって持ち歩いてんだ???

 

「ビジネススーツだと工具箱を持ち歩く訳にもいかないでしょ?だからここしかしまう所がないのよね」

言い訳がましい言葉を並べながらも、はにかんだ笑顔を見せて作業に取りかかっている。

 

……い、いや、工具箱持ち歩けばいいじゃん?別にビジネススーツ着ててもいいじゃん……それともなんだ?見せようとしてんのか?学生時代より更にデッカくなったオッパイを、ワタシに見せつけて自慢したいのか!?どうなんだオイ!??

 

不意に、否応もない敗北感を覚えた……。

 

……

……

……

「……うん、コレでOKよ!」

手際良く作業を終わらせ、再び工具を谷間の奥へと仕舞い込みながらアリサが振り向く。

「お待たせ、フィー!」

一仕事終え、爽やかな笑顔を見せていた。

「……さ、サンクス……あ、アリサ……さん」

それに対し、フィーは無意識に「さん」付けでお礼を返した。突然の敬語にアリサさんは不思議そうに首を傾けている。

 

……さ、流石は大陸最大企業、ラインフォルト社……業績もオッパイも右肩上がりらしい……恐ろしい……。……ん?アリサでコレって事は、エマは今頃どうなってんだ??もはや人類のレベルを飛び越えて『魔乳』の領域まで辿り着いてんじゃねーのか???……魔女だけに。

 

ブルッと1つ身震いをする。努力だけではどうにもならない世の不条理に、フィーは強く打ちのめされた気がした。

 

「流石アリサさんです、見事な手並みですね」

そんなフィーの隣で、ティオが感心したように嘆息を漏らす。アリサさんとは対象的に、コチラは見事な程に真っ平らだった。何とは無しに『絶壁』という言葉を思い浮かべる。

「パーツの取り外しだけですから、褒められる様な事じゃないですよ」

言葉では謙遜しているが、その大きな胸はプルンと喜んでいる様に見えた。

 

もう、いいや……勝てない戦はするだけムダだ、考えない様にしよ……。

 

無意識下の敗北宣言だった。

 

 

 

「あ、そうだ!フィー、この後時間ある?」

「ん?特に用は無いけど……なんで?」

「丁度ギルドに依頼を出そうとしてた所なんだけど、良かったら貴女が受けてくれないかしら?」

「ん、全然いいよ。導力バイクのお礼もしたいし」

「良かった、内容が内容だけにどうしようか迷ってたのよね」

 

迷ってた?……なんかヤな予感。

 

「ふぅ……アリサさんは気にし過ぎです。頼んでも大丈夫だと何回も言っているではありませんか」

ティオがジトリとした視線を向ける。

「うーん……話には聞いてるけど、帝国で生活してるとあんまりブレイサーギルドに馴染みが無くて……」

「大丈夫です。遊撃士はかなり無茶なお願いをしても、大抵は何とかしてくれます!」

ティオが力強く言い切る。

 

いや、出来れば無茶なお願いは、しないで欲しいんだけど……。

 

「そうね、何かあってもフィーなら大丈夫よね。それじゃ、よろしくお願い!」

ティオに釣られる様にアリサさんも力強く言い切った。語尾が妙に弾んでいる。

 

……なんでワタシなら大丈夫なんだ??……っていうか何をやらされるんだ???

 

何処か楽しげな金髪と蒼髪の2人に挟まれ、フィーはエスカレーターへと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

ツァイス中央工房 B2試験場

 

新製品の開発を行う為に設けられたという20アージュ四方の部屋は、壁全面を分厚いコンクリートと鉄板で固められていた。所々に深い傷や焼け焦げた後が残っていて、今までに行われたテスト内容の凄まじさが窺い知れる。

「工房長さんに確認したら、ここを好きに使って良いって言ってくれたのよね♪」

何処かウキウキした様子のアリサが説明してくれる。

「そんで、何するの?」

「私が開発した新兵器のテストよ」

「……」

 

新兵器のテストねぇ……。……ま、そんな事だろうとは思ったけど。

 

「母様やシャロンにも内緒で造ってるから、帝国内だとテスト出来る場所が無くて困ってたのよ」

 

ん、テストなんかやったら、あの2人にはすぐバレちゃうだろうからね。

 

「だからリベールでフィーに会えたのは、最高の渡りに舟だったワケよ♪空の女神に感謝しなくちゃネ♪」

 

ん……っていうかそれを言ったら、空の女神さんはワタシの事キライなのかな?

 

無意識に上方へと視線を向けるが、分厚いコンクリと鉄板に阻まれたらしく、空の女神はフィーの問いかけに答えてはくれなかった。

 

「じゃあ早速始めるけど、準備は良い?」

「ん、いつでも」

観念し双銃剣をクルクルと引き抜いて構える。

「行くわよ!オーバルギア、起動!」

突然アリサの背後に異空間への裂け目が出現し、白い機甲兵器が姿を現す。見た瞬間から頭の中で警報が鳴り響き出した……コイツはかなりヤバい相手だ。

「本当は私が乗り込んで操作する機体なんだけど、自律思考も出来る様に造ったから今回はそっちで相手して貰うわ」

言いながらアリサは胸の谷間から携帯端末を取り出している、どうやらデータ採集に集中したい様だ。

 

……いや、というかオメーの胸はマジでどうなってんだ!?谷間の先が異空間にでも繋がってんのか??

 

首を傾げながらも集中力を高め、相対するオーバルギアを見つめる。

「一通りの装備を試させて貰うわね、それじゃあ始めるわよ!」

アリサの掛け声と同時に複数のポッドミサイルが発射された。

 

い、いきなりソレかよ!?

 

内心で悪態を付きながらも素早く着弾点から身を翻し、背後を取るべく全速で駆け出す。すぐ側でポッドミサイルが爆発し、その衝撃を追い風代わりに使う。

「甘いわよ、フィー!」

オーバルギアから射出口が飛び出し、広域に火炎がバラ撒かれた。

 

ちぃ!?

 

舌を打ちながら飛び退いて避けると、追加のスライサーと矢が飛んで来た。炎の壁がブラインドになって一瞬反応が遅れる。

 

や、ヤバい!

 

身体を捻って何とか皮一枚で避ける……が、態勢が整わない内にオーバルギア本体が炎を越えて突っ込んで来た。しかもいつの間に出したか分からないが、左右に槍と剣が握られている。

 

ぐっ!

 

双銃剣を構えて受け止めるが、吸収しきれずに壁際まで吹き飛ばされた。

 

ちっ、受けに回ったらダメだ、こっちが先手を取らないと押しきられる。

 

再び舌を打ちながらも空中でクルりと1回転して壁に着地し、そのまま壁面を蹴って駆け上がる。

 

アリサ、ぶっ壊れても文句言わないでよ。

 

重力を無視して垂直歩行しながら爆薬を取り出すと、天井付近で半回転して投擲の構えを取った。

 

ん、いくよ!……って、え!??

 

振り返ったフィーの瞳が驚愕で見開かれる。常人離れしたアクロバットを敢行し、確実に相手とは一定の距離が出来ているものと思っていたら、どういうわけかオーバルギアは既に至近距離に迄迫って来ていた。……というか、明らかに空中を飛行している。

 

はあぁぁ!?マジかよ!?!?

 

「ふふん♪ティオ主任にも協力して貰って、昨日完成した飛行ブースターよ。空中戦もイケる様にしたの♪」

アリサの顔には清々しいドヤ顔が浮かんでいた。大きなバストが誇らしげにプルンと揺れている。

 

いやいや『イケる様にしたの♪』じゃねーよ!!なんちゅうモン造ってんだ!?

 

心の中で悪態を付いていると、再び両手の剣と槍が襲い掛かる。流石のフィーも空中では避けようがない。

 

ちぃ!?こうなったら!

 

ヤケクソ気味に至近距離で爆薬を起爆させた。爆風で吹き飛ばされて危機を脱する事は出来たが、フィー自身もダメージを負ってしまう。

 

痛っー!?ニャロー頭来た!絶対スクラップにしてやるからな!!

 

飛ばされながらも何とか空中で態勢を立て直し、双銃剣の銃口を向ける。金属フレームのマシンに対して銃撃は威嚇にもならない、狙いを導力エンジン一点に定めてトリガーを引こうとする……が。

 

……あ、あれ?機関部って何処だ???

 

目を向けたがエンジン部分もセンサーカメラの類いも、一切視認出来なかった。

 

「ふふん♪主要機関は全部機体内部に収納したから、外部からじゃ手出し出来ない様になってるのよね♪」

アリサは勝ち誇った笑みを見せている。大きなバストもポヨヨンと元気いっぱいに揺れていた。

 

な、なんでワタシがピンチになってんのにそんなに楽しそうなんだ?……アリサもすっかり死の商人だな。

 

苦笑いを浮かべていると、今度は機体の下部から極太の破壊光線が射出された。……不意にアガートラムを思い出す。

 

ヤバい!

 

空中で双銃剣を乱射し辛うじて避ける。光線に接触した服の裾が、まるで蒸発する様に熔けて消え去った。

 

あ、アブねぇ!?喰らってたら1発で御陀仏じゃねーか!っていうか、どんだけ兵器仕込んでんだよ!?

 

「ふふん♪製造コンセプトは、去年煌魔城で闘った緋のテスタロッサよ。アレに現代の導力学で対抗出来る様に造り出したのがこの機体なの♪」

「……」

 

煌魔城?テスタロッサ??

 

「今度あんな事が起きても、私が必ず皆を守るわ!」

アリサが堂々と言い放つ。バストも堂々とプルルンとしている。

「……ふ」

 

ふざけんなぁ!!生身の人間にそんなモンのテスト相手させんじゃねぇよ!!

 

激怒しているところに再びオーバルギアがブースターを使って突撃して来た。しかも機体全面から紅蓮の炎が噴出している。

 

くぅ!?避けるしかねぇ!!

 

横っ飛びに跳躍して何とか難を逃れる。テスト開始から逃げ惑っているだけで、まだ1発の弾丸すら撃てていない。

 

近接戦も遠距離戦もダメだ。こういう時は操縦者にターゲットを絞るしかねぇのに、自律思考タイプじゃそれも無理だ。……こんなモンが量産されたら、猟兵はみんな失業するんじゃねぇのか?

 

足を止めずに相手から一定距離を保ちつつ反撃の隙を窺うが、今の手持ち装備と室内という限られた空間では出来る事が限定され過ぎている。ARCUSを駆動する時間も無い。打開策が全く思い付かなかった。

 

「……アリサさん、そろそろ概ねの兵器データは取れたのではありませんか?」

アリサと同様に携帯端末を操作していたティオが声を掛ける。

「……そうね、取り敢えずこの位で十分かしら?」

入力を終えた端末を胸の谷間にしまい込みながら、アリサは満足そうに頷いた。

「お疲れ様フィー、もういいわよ」

「そんじゃ早くコレ止めて!!」

炎を纏ったマシンに追い回されながらフィーが懇願する。

「オッケー、強制停止を掛けるわね」

端末の代わりに谷間からボタン付きのリモコンを取り出している。

 

……よ、四次元ボインか?

 

フィーはそう思ったが言葉には出さなかった。

 

……カチ

……

……

……?

 

……カチ、カチ

……

……

……??

 

カチ、カチ、カチ、カチ、カチ……。

 

「あら?おかしいわね???」

アリサが首を傾げている。

「どうかしましたか?」

「う~ん……、緊急停止のリモコンが壊れてるみたい」

リモコンを連打しまくるが、フィーは追い回されたままだった。

「他に停止する方法は無いんですか?」

「勿論あるわ、機体に乗り込んでパネルを操作すれば良いだけよ」

「……どうやって乗り込むんですか?」

「えっ?」

「……」

「……」

 

「アリサ!早く止めてってば!!」

逃げ続け、遂に足が縺れてきたフィーが叫ぶ。

 

「ティオ主任!協力をお願いします!!」

「了解です」

アリサは愛用の弓に矢をつがえて構え、ティオは魔導杖を取り出して集中力を高める。

 

その様子を察知したオーバルギアは、フィーを追い回すのを中止し。

『……ギィ!』

光学兵器を発射して出入り口の扉を破壊し、そのまま室外に飛び出してしまった。

「あ!?待ちなさい!!」

「エイオンシステム起動」

ティオが魔導杖を掲げて、周辺探知を開始する。

「どうやらカルデア隧道に向かった様です。エイドロンギア召喚」

素早く自分の愛機を出現させて乗り込む。

「私はこのまま追い掛けますから、お二人は後から付いて来て下さい。連絡はARCUSを使って取り合いましょう」

そう言い残すと、ティオは機体を操って試験場から飛び出て行った。

 

「フィー!私達も追うわよ!」

「はぁ、はぁ、はぁ……ら、らじゃ……」

既に息も絶え絶えといった状態だったが、フィーもアリサと一緒に試験場を後にした。

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