妖精の軌跡second   作:LINDBERG

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第29話 仔猫と妖精さん

「……えーっと、結局何をすれば良いの?」

 

遊撃士協会ルーアン支部、通信で要請を受けたフィーは依頼内容の確認をしていた。時刻は19時過ぎ、すっかりと日も落ち、近隣の民家からは食欲をそそるカレーの匂いが漂っている。

 

「う~ん、それが僕の方でも良く分からないんだよね。この依頼は協会本部から直通で送られてきたモノだから、情報は依頼書に記載されてる内容のみだし……」

ジャンと名乗った細面の受付は、手にした依頼書を見ながら申し訳なさそうに応じる。

「簡単に言うと施設調査って事なんだけど……調べて貰いたい場所がちょっと曰く付きの場所でね」

「曰く付き?」

「うん。以前リベールの異変の際に、蛇の連中が根城にしていた所なんだ」

「蛇……」

「異変が収まった後にギルドと七耀教会で徹底的に調べたんだけど、結局目立った物は何も出て来なくてね。それでそのまま放置されていたんだけど、今になって急に本部から再調査の依頼が来て……それをフィー君にお願いしたいというわけさ」

「んー、何かを見つけろとか、具体的な指示は何も無いんだよね?」

「うん、あくまでも再調査って事しか聞かされてないよ」

「……」

 

う~ん……なんとも微妙な内容だ。結社の施設なんか何が起きたとしても全然おかしくない。……っていうかそもそも、ワタシは助っ人でリベールに来たワケじゃなかったよな?何でいいようにコキ使われてんだろ?

……はぁ……さぁて、どうしたもんか?

 

「どうかな?気が乗らないなら勿論断ってくれても良いけど、本部からの依頼だけあって報酬はS級並みだよ?」

「ん、そんじゃちょっと行ってくるね」

フィーはもぎ取るように、ジャンの手から依頼書を掴み取った。

「……決断が早くて助かるよ……。あ、そうだ。一応民間からの協力者って事で、サポーターを1人お願いしてあるから」

「サポーター?」

ジャンが横に視線を向けると、カウンターの奥から1人の少女が姿を現した。綺麗なスミレ色の髪を黒のリボンで纏め、口元に薄い笑みを浮かべている。

「こんにちは、妖精さん」

少女はスカートの端を摘まんで持ち上げながら、ペコリと頭を下げた。

「私がお手伝いしてあげるわ。一応善意の協力者って事なんだから、感謝なさい」

「……」

 

いやいや、協力してくれんのはありがたいんだけど……子連れで調査して来いって事か?

 

「彼女の名前はレンちゃん。……えーっと、フルネームは……」

「ブライトよ、レン・ブライト。妖精さんには『殲滅天使』って言った方が分かりやすいかしら?」

「っ……」

殲滅天使の通り名はギルドの情報でフィーも知っていた。結社の元執行者。リベールの異変で暗躍したメンバーの1人。趣味はデンジャラスなお茶会とスゴく大きな人形遊び。

現在は蛇から離れてリベールの遊撃士宅で暮らしている……だったかな?

 

……まぁ、いっか。折角手伝ってくれるって言ってるんだし。

 

「短い間だけどよろしくね、妖精さん」

「ん、よろしく」

若干の不安を感じながらも、フィーは挨拶を返した。

 

 

 

 

 

 

「あはは♪サイコーね、このマシン!」

 

ヘッドライトが照らし出す夜の街道に、導力バイクのエンジン音と、後部シートに股がったレンの心底楽しそうな笑い声が響き渡る。

「本当に風になったみたいで気持ち良過ぎ♪」

「ん、喋ってると舌噛むから気を付けて」

「うふふ、心配してくれるの妖精さん?大丈夫よ、エステルじゃあるまいし、レンはそんなドジしないわ」

レンは笑みを絶やさぬまま応じた。

「ん、まぁ、大丈夫なら良いけど」

「ねぇ、もっとスピード出してよ!最高速で飛ばして♪」

「いいよ。……あ、言っとくけど、まだセカンドギアだから」

「……え?これでセカンドなの??」

フィーはゆっくりとアクセルを開けると、ギアをサードに引き上げた。

「んじゃ、しっかり掴まってて」

「ひっ!?!?!?」

一瞬にして加速したマシンは、猛スピードで闇夜へと消え去った……。

 

 

 

 

 

 

……

……

……

「……」

「大丈夫?」

目的地に到着して早々、道端にしゃがみ込んだレンの背中を優しく撫でるフィー。

「……レン、こんなに怖い乗り物に乗ったのは初めてよ……パテル・マテルはあんなに速くても安心だったのに……」

「いや、だって最高速って言うから……ゴメンね」

一応それとなく心配しておく。

「……っ……ま、まぁ、良いわ……心配してくれてありがとう。さっさと済ませましょう」

レンはフラフラしながらも何とか立ち上がった。

「ん、らじゃ。そんじゃよろしく」

2人は並んで歩き出すと、湖の畔に建つ廃施設へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

取り敢えず建物周辺をぐるっと1回りするが、特に気になる箇所も気配も見受けらない。既に日は落ちているが、月明かりだけでも十分に様子を見る事は出来た。

「ん、これと言って何もないね」

「ええ」

「んじゃ、ささっと中見て帰ろっか」

「そうね。……その……出来れば……帰りは安全運転でお願いするわ……」

やや躊躇いがちにレンが呟く。

「ん、らじゃ」

2人は正面扉前に移動し、建物内に踏み込む事にした。

 

「ん……」

力を込めて扉を押したり引いたりするが、ピクリとも動かない。どうやらロックされているらしい。

「ここの扉は確か、中からしか開かない造りよ」

「ん、さっき裏にあった、小さい扉も締まってたよね?」

「ええ、あっちも中からしか開けられないわ……参ったわね」

レンはやれやれと腰に手を当てた。

「他に入り口は?」

「屋上にあるわ。元々飛行艇で出入りするのがメインの施設だから、本来はそこが正門って事になってた筈よ」

「ん、らじゃ」

フィーはワイヤーフックを取り出すと、くるくると回して勢い良く屋上の柵に向かって投げ掛けた。

「ん……上手く引っ掛かった。そんじゃ、行こか?」

「え?ちょっと待って、まさかこれを登れって言うの?」

「だって外階段なんか無いし、しょうがないでしょ?」

「……レン、スカートなんだけど?」

「ん、大丈夫。ワタシのスカートの方が短いから」

「……大丈夫の意味が全く分からないわ」

「んじゃ、行くよ。付いて来て」

フィーはスルスルとワイヤーを登り始める。

「……妖精さん、レンの話聞いてる?」

レンは不機嫌そうにしながらも、渋々ワイヤーに手を伸ばし後に続いた。

 

 

 

 

 

 

「……噂通り無茶苦茶ね、妖精さん」

屋上に辿り着いたレンは、肩で息をしながら膝を付き、非難めいた視線をフィーへと送る。

「腕がパンパンよ……ワイヤー登りなんて、結社の定期訓練以来だわ」

「ん、でもたまには運動も良いでしょ?」

「まぁ、最近引きこもり気味だったから、丁度良かったけど……」

「どうする?もうちょっと休んでから行く?」

「いえ、大丈夫よ……レンの事を子供扱いしないで」

「いやいや……子供扱いしてたら、そもそもこんなトコの案内頼まないでしょ」

「……そう……それならいいわ、行きましょ」

すくっと立ち上がり、内部へ続く扉へと足早に歩を進めるレン。その後ろを、フィーはやれやれと思いながら追いかけた。

 

 

 

「……参ったわね」

レンは横開きの自動ドアの前で腕を組んだ。

「ここも閉まってるわ……」

扉の上のランプが赤色で点灯している。脇に認証コードを打ち込むテンキーが取り付けてあり、5桁の解錠コードを入力しなくてはならないらしい。

「……しょうがないわね、レンが開けてあげるわ」

レンは懐から携帯端末を取り出すと、ケーブルで接続してロック解析を始めた。

「ちょっと待っててね妖精さん、すぐに終わるから」

「ん……」

レンが言い終わらないうちにフィーは双銃剣を取り出すと、近くの壁を引っ掻いて粉末を手の平の上に集め、ふぅっと息を吹き掛けテンキーにまぶした。

「使われてるのは、1、2、5、6、9か……ん」

何の迷いも無く5、6、1、2、9と打ち込む……上部のランプが緑に変わり、自動ドアが解錠された。

「ん、開いた。そんじゃ行こっか」

事も無げにレンを促す。

「ちょ、ちょっと待って妖精さん!何よ今の!?」

目を白黒させながらレンはフィーの腕を引っ張った。

「削った壁の粉末で、使われてる数字を特定したのは分かるわ!問題はその後よ!何で5個の数字の組み合わせが1発で解ったの!??」

「ん?……勘かな」

「か、勘???」

「数字5個の組み合わせなんて大した確率(1/120)じゃないでしょ?この位は1発で当てないとね」

何を当たり前の事を聞いてるんだこの子は?と言わんばかりの視線を送っている。

「ただの勘……妖精さん、結構チートなのね」

レンは呆れ顔を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

「ん~……これと言って何も無いね」

「そうね……」

屋上から侵入した2人は、建物内部をあれこれと探索しながら最下層まで辿り着いていた。元々は大型の工作機械等も設置されていたらしいが、教会で全て押収されたらしく、内部は殆どすっからかんだ。人形兵器を作製するベルトコンベアも、完全に撤去されたらしい。

 

はぁ、調べて来いって言われても何もねーじゃん……どうしろってのよ?

 

小さく溜め息を吐く。

 

「ん、あんたの方で何か心当たりはない?」

案内役であるレンに訊く。

「う~ん……レンもここの施設はパテル・マテルのメンテナンス位でしか使ってなかったから、良くは知らないのよ」

「ふーん……」

「妖精さん……今『使えねーガキだな、全然案内役になってねーじゃねーか。何でノコノコ付いてきやがったんだコイツ?』とか思ったでしょ?」

「ん?……んー、ちょっとだけ」

「……妖精さん、裏表が無いのは好感が持てるんだけど、もう少しくらいは気を遣っていただけないかしら?」

「ん、らじゃ」

「……本当に分かってるの?」

冷たい視線がフィーを見つめた。

 

「まぁ、一回りして問題無かったからOKでしょ?そろそろ帰ろっか」

「そうね……あまりにも何も無さ過ぎな気もするけど……」

「何も無いのが一番でしょ?帰ろ帰ろ。……そうだ、折角だし帰りの運転はアンタがやって……。……?」

不意にフィーはピタリと動きを止めた。

「?、どうかしたの?」

「……ねぇ、この施設って、ここより下は無いよね?」

「ええ、この階で終わりよ」

「……ん」

軽く靴底を床に打ち付けて、反響を確かめる。

「……この下、空間があるかも」

「え?」

「反響音が少し変な気がする」

「そう?レンは特に気にならなかったけど?」

「ん、ちょっと離れてて」

フィーは少量の爆薬を取り出すと、ペタッと床に張り付け。

「え?ちょっ……」

「イグニッション」

何の躊躇いも無く点火する。爆発で白煙が室内を覆い、周辺の視界は遮られていた。

「げほげほ……ホント、無茶するわね」

煙に噎せながらも再び呆れ顔のレン。

 

……

……

……

「ん、やっぱり」

ポッカリと空いた床の穴、その先に真っ暗な空間が広がっていた。

「……良く分かったわね」

「ん?まぁ、このくらいはね」

「これも勘なの?」

「ん~……経験則かな?」

「……」

「さてと、目的の場所も見つけられたみたいだし。ギルドに連絡入れたら帰ろっか?」

「え?折角見つけたのに帰る??探索しないの???」

「いや、だって……メンドいし」

既に帰る気満々のフィー。頭の中では夕食のメニュー立ての事でいっぱいだった。

「手柄を上げるチャンスじゃない。レンも興味あるし、ちょっと行ってみましょうよ」

「え~……」

「これで帰ったら折角来たレンがバカみたいじゃない、少し様子を見る位良いでしょ?」

「ん~……っ……んじゃ、ちょっとだけ……」

明らかに面倒くさそうにワイヤーを取り出し、穴の中に垂らしていく。

「……妖精さん、仕事は出来ても出世はしないタイプね……」

レンは三度呆れ顔を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

……はぁ、ヤな予感はしてたんだよな。

 

視界ゼロの暗闇に包まれた穴の底、常備していたハンドライトの僅かな灯りを頼りに探索を開始した2人。目の前には岩を削り出した洞窟が、一直線に続いている。

 

天然の洞穴じゃなくて、人の手が入ってるのは間違い無さそうだけど……。このまったりと身体に纏わり付く空気……間違いなく上位属性が働いてるし、空間そのものも歪んでるみたいな感じだ。

 

奥を照らしてみるが小さなライトの光は底なしの闇に飲み込まれ、全く用途をなしていない。靴音の反響や空気の流れを鑑みると、かなり奥まで続いていそうだ。念のためARCUSを立ち上げてみたが、しっかりと通信圏外の表示だった。

 

先に連絡入れといた方が良かったかな……ん?

 

やれやれと肩を竦めていると、急に周囲の空気が一変し、禍々しい異形の怪物達が姿を現した。

 

ちぃ!?やっぱ出やがったか!

 

瞬時に双銃剣を引き抜いて身構える。

「聖典に記された悪魔……見た事の無いタイプね」

フィーの隣で、レンは冷静に相手の分析を始めていた。

「ん、ちょっと面倒な相手かな……迎撃するけど大丈夫?」

「誰に向かって言ってるのよ、妖精さん」

言いながら身の丈よりも大きな鎌を取り出している。

 

おお、でけぇな……っていうかデカ過ぎじゃね?そんなに大きいと使い勝手悪そうだけど……意外と見た目から入るタイプなのかな?

 

そんなレンを、フィーも冷静に分析していた。

 

「ん、視界が利かないから背中合わせでフォローし合うよ、OK?」

「了解よ。殲滅天使の力、三千世界に刻みなさい!」

黒鉄の大鎌が漆黒の闇を切り裂いた。

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