妖精の軌跡second   作:LINDBERG

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第33話 生きる事は命懸け

はぁ、はぁ、はぁ……ちょっとマズイね、こりゃ。

 

息を切らせて双銃剣を振り回し、絶え間無く襲い掛かって来る火球を一つ残らず切り伏せながら、フィーはチラリとレンのクローンを見つめた。

 

こうもガンガン攻め立てられちゃ、防御で手いっぱいだ……っていうか遠慮なくファイヤーしまくるもんだから、部屋の中が一面火の海なんだけど?

 

既に周囲は炎に包まれ、延焼により部屋の酸素が急激に消費されていく。恐らく現在の酸素濃度は平常時の70%程度だろう、常人なら既に心停止していてもおかしくない程のレベルだ。空気を求めて肺が喘ぎ続ける。周辺の熱量も耐えられる限界ギリギリの状態だ。

 

はぁ、はぁ……時間の流れが違うせいか、いつもより消耗が激しい、双銃剣がとんでもなく重く感じる……しかも。

 

視線を横に向けてレンの様子を伺う。

フィーに攻撃が集中している間に、クローン本体に向けてアーツと大鎌で仕掛け続けているが、相手の全身を包む分厚い障壁に阻まれ、全くダメージを与えられないでいた。しかも攻撃がヒットしてもアダマスシールドの様に消える事なく、永続的にクローンを護り続けているらしい。

 

ちぃ、物理もアーツも完全に無効化されちゃってる。絶対防御のエナジーシールドか……厄介だね。

時空間を歪めて強制的に自分のテリトリーに持ち込んでから、情け容赦無しの灼熱地獄……そんでもって自分は永久不滅の完全防御に護られてて、おまけが酸素欠乏からの体力低下と窒息責めか……。どんなコンボだよ?いくらなんでも極悪過ぎだろ……。

 

やれやれと肩を竦める。

 

手持ちの爆薬程度じゃあの障壁は破れない、かといってゆっくり考えてたら酸欠からの一酸化炭素中毒と、全身火傷で御陀仏か……マジでマズイね、こりゃ。

 

何か使える物は無いかと、炎の中を躍り狂いながら周囲を確認し、打開策を模索するが、全く良い案が出て来なかった。

 

ダメだ、何も思い付かない……そもそもここの研究施設にあるモンは、得体の知れない薬品ばっかで、何に使えるのかが良く分かんねーんだよ!大体からして、なんで消火器の1本すら用意してねーんだ?普通こういう場所だったら、火事に備えてスプリンクラー位は常備してるもんなんじゃねーのか!?……教授って言ったっけ、ふざけたモン造りやがって、今も生きてたらブチのめしてから爆破してやるトコだ。

 

周りの炎に負けない位に怒りの焔を撒き散らしていると、熱波で周辺の壁が変形し始めているのが目に入った。

 

ん?これって……時空間が切り離されてるだけで、物理的には現世と紐付いたまんまって事か?……って事は、もたもたしてたら洞窟が崩落して、部屋ごと一緒にペチャンコになるんじゃね??……益々もって最悪だな。でも位相空間じゃないなら、逃げる事は出来そうだ。問題は脱出する隙を作れるかどうかだけど……。

 

炎の隙間からクローンを見つめる。レンの攻撃を意にも介さずに次々と火球を生み出し続け、容赦なくフィーに向かって連射し続けていた。

 

ダメだ、全くもってそんな余裕はねぇ。弾切れとかねーのかよ?反則だろそんなの……でも。

 

よくよく見ると、クローンの身体が戦闘開始時よりも更に崩れ始めている。培養液を出て外気に晒されただけで、自身を保つ事が出来ないようだ。皮膚がボロボロと削げ落ち、筋肉繊維どころか神経までもが剥き出しになっていた。

 

向こうも命懸けか、どうあってもワタシ達を始末したいらしいね。

クズ教授の気まぐれで造り出されて、造った本人が死んだもんだから、こんな日も差さない穴の中で誰にも気付かれずに1人ぼっちで薬品漬け。そんで始めて出会った人間が、外の世界で自由に生きてる自分自身……そりゃ死んでも殺したくなるわな……。

 

1人で納得顔を浮かべる。

 

ん~、案はあるにはあるんだけど、かなりのギャンブルになっちゃうからな……どうしよっか?

……まぁ、いっか、どのみちこのままじゃジリ貧だし。人間生きてれば、いつだって命懸けだしね。

 

炎に彩られた瞳が、妖しく光った。

 

 

 

 

 

 

はぁ、はぁ……や、ヤバいわね……。

 

息も絶え絶えの状態で、レンは大鎌を構えてARCUSを駆動し続けていた。

 

酸素は薄いし、蒸し焼き寸前だし、攻撃は全部弾かれちゃうし、体力も魔力も尽きかけだし、運動不足のせいで全身の動きは重いし……。

こんな事なら朝の『殲滅体操』くらいは続けておくべきだったわ、パテル・マテルが居た時は毎日一緒にやってたのに。

 

引きこもり生活のツケが、こんなところで影響するとは思ってもいなかった。

 

まったく、赤毛のお兄さんも厄介な案件を紹介してくれたものね。エリカおばさんに有る事無い事言いつけて、殲滅して貰おうかしら?……それにしても。

 

チラリと横目でデコイ役を続けてくれるフィーの様子を伺う。流石に疲労の色が見て取れたが、それでもキレのある動きで双銃剣を振り続けていた。

 

あの妖精さん、思った以上にやるわね。エステル達なんか遊撃士に成り立ての頃は、かなりチョロい感じだったのに……今までどんな修羅場を潜ってるのかしら?

言ってる事は無茶苦茶だし、人の話は聞かないし、なんの躊躇いもなく爆破とかするし、スカートが捲れて紐パン丸出しになっても全然お構い無しだし、面倒になるとすぐ帰ろうとするけど……頼もしいのは間違い無いわね。

 

褒めてるのか貶してるのか、よく分からない感想を漏らす。

 

考えてみれば元々は大陸最強の猟兵団のエースで、その後エレボニアの名門士官学院に飛び級で入学、そしてたったの1年で卒業、更には歴代最年少で正遊撃士に昇格か……あり得ない位の経歴じゃない、ひょっとしたらレンよりも凄い人なのかしら?

 

心が荒んでいるせいか、ネガティブな思考になった。

 

妖精さんが頑張ってくれてる間にレンが何とかするしかないけど、障壁を破る手段が全く思い付かないわ。パテル・マテルさえ居れば、あんな障壁一撃で消し飛ばせるのに……。……駄目、いつまでもそんな事言ってたら、パテル・マテルが心配するわ。レンだけで何とかしなくちゃ。

 

元来レンの得意なスタイルは、お茶会と称する自分のテリトリーに引き込んでから、一方的に殲滅するといったモノだ。戦いは始まる前に終わっている、というのが理想である。そんな考えもあり、火力の高い攻撃はアーツがあれば十分というのが持論だったのだが……。

 

……無理ね、あの障壁は今のレンじゃ破れないわ。

 

どう自分の手持ちカードを組み合わせても、状況を好転出来そうにはなかった。

 

どうすれば……、……っ!?

 

そんなレンにフィーからARCUSのリンクラインを通してメッセージが届く。

『10秒だけ引き付けて』

 

10秒?……そりゃ10秒位なら何とかなりそうだけど、そんな短い時間で何をするつもりかしら?

まぁ良いわ、ここは妖精さんを信じてみましょう。

 

ARCUSを駆動させてクレセントミラーを展開すると、大鎌を上段に構え、思いきってフィーとクローンの間に飛び込んだ。クローンは一瞬虚を付かれた顔を見せるが、現状を理解するとすぐに怒りの表情へと切り替わり、レンへ向けて集中砲火を始める。

 

良し、上手く食い付いた……っ!?!?

 

大鎌を振り回して何とか攻撃を耐え凌ぐが、限界を軽く越えた速度領域下での攻防、あっという間に神経が磨り減っていく。防御アーツもあっさりと消し飛んだ。

 

な、何よこれ!?これで10秒??マジで???ぐっ!!

 

顔をひきつらせながらも何とか応戦する。殲滅天使の名に掛けて、意地でもここは引き下がる訳にはいかない。

そんなレンと相対するクローンの方は、目に見えて変化が起きていた。身体がみるみる内に崩れていっている。グノーシスで強化されているとはいえ、理から外れた外法の能力、デメリットやリストリクションが無い訳が無い。完全に崩壊するのは、もはや時間の問題だろう。それでも狂気じみた笑みを浮かべながら、レンに向かって攻撃を仕掛け続けている。

 

……そんなに、レンの事が憎いのね。……っていうか、レンも殲滅中はあんな顔してるのかしら?……気を付けなくちゃ。

 

ほんの一瞬でも集中力を切らしたら、その瞬間に火だるま確定のプレッシャーの中、レンは一心不乱に大鎌を振り続けた。

 

くっ!?速い!熱い!魔人化したマクバーン並みじゃないのよ!?あんなのでダイエットしようとか思ってたレンがどうかしてたわ!無理無理無理!これはマジで無理!!意地だけでどうにか出来るレベルじゃないわ!!所詮パテル・マテルが居ないレンなんて、博士号を5つ持ってるだけの超絶天才美少女でしかないのよ!!妖精さん早くして!レンだけじゃ10秒なんてギリギリだわ!!

 

死にそうになりながら大鎌を振りつつ、チラリとフィーの様子を伺う。すると、壁を軽く叩いて反響を確かめているのが目に入った。

 

……な、何をしてるのかしら?

 

尚も息絶え絶えになりながら大鎌を振りつつ、チラリとフィーの様子を伺う。すると今度は、双銃剣で壁に穴を開け、爆薬をセッティングしているのが目に入った。

 

……も、もしかして、壁に穴を開けて逃げようとしているのかしら???

……

……

……

……妖精さんの大馬鹿!ここは地下なのよ!?そんな事したら逃げるどころか、崩落して生き埋めになっちゃうじゃないのよ!!前言撤回よ!やっぱりレンの方が断然凄いし100倍は可愛いわ!!

 

怒りに任せて大鎌を振り続けていると……。

「……イグニッション」

爆薬を点火し、壁が吹き飛ぶ音が聞こえた。

 

あーーっっ!??馬鹿!馬鹿!馬鹿!妖精さんの銀河系馬鹿!!!ホントにヤりやがったわ、これで生き埋め確定よ!!……終わったわ……今世紀最高の超絶天才美少女は、極悪非道の変態教授が造った秘密の実験ラボで、誰にも知られる事なく天へと還るのよ。……待っててねパテル・マテル、もうすぐにそっちに逝くわ……。絶対に許さないわよ妖精さん!煉獄で再会したら、必ずパテル・マテルと一緒に、全身全霊を持って殲滅してや……っ?

 

不意に聞きなれない異音を察知し、崩れた壁に目を向ける。爆破で直径30リジュ位の細い穴が開き、かなり奥まで続いてる様に見えた。異音は穴の奥から聞こえて来ているらしい。

 

な、何かしら?猛烈に嫌な予感が……。

 

リンクを通して再びフィーからメッセージが届く。

『ん、今の内に、出来るだけ空気吸っといて♪』

 

……っ?

……

……

……

……っ!????

 

唐突にレンは理解した。人里を離れ、誰にも見つからない場所に建造された身喰らう蛇の兵器工場。そのすぐ隣には、リベールが誇る大陸最大規模の湖があった。

 

す~~~~~っ……………………。

 

酸素濃度が薄い空気を、肺の力が続く限り吸い込む。カビ臭い空気に噎せ返り、不安と恐怖と怒りと諦念も相まって涙が一筋零れた。そんなレンの様子を見て異変を察知したクローンも、攻撃を停止して身構えるが……全てはもう終わっていた。

突如吹き出した大量の水が、穴の丁度真正面に居たクローンを吹き飛ばしていく。呻き声を上げて壁に叩き付けられるクローン、そこへ更に強烈な水流が襲い掛かる。自身のエナジーシールドで何とか防ごうと試みている様だが、自然の力に敵う筈もなく、元々崩れ始めていたクローンの身体を容赦なく攻め立てる。

水流は止まる事なく流れ込み、周囲の炎を消し去って、あっという間にレンの胸辺りまで冠水していった。

 

頭おかしい!絶対に頭おかしいわ、妖精さん!!レンが言うのも何だけどけど、ロクな育ち方してないでしょ!?

……っていうか、ここまで来るのに洞穴を200アージュ以上歩いた気がするけど……妖精さん、その辺は考えてるのかしら……ってヤバ!もうそこまで来……ブクブクブクブク……。

 

頭の天辺まで完全に水没する。導力灯の照明も落ち、深海の如き闇に包まれた水中。右も左も分からず、気が狂いそうな静寂と水圧に支配される。

 

うぷっ!で、出口は……。

 

入って来た隠し扉を必死で探すが、視界ゼロの上に流れ込んで来る水流で、上手く移動する事すら出来ない。頭の片隅には『死』という文字が浮かんでいた。

 

は、早くしないと息が続かないわ!壁伝いに手探りで……!?

 

不意に左手を掴まれ、凄いスピードで引っ張られらる。顔を向けると魚雷の様な勢いで泳ぐ、フィーの姿があった。

 

妖精さん、ひょっとして、この暗闇の中でも視えてるのかしら?……どんな視力してるのよ。

 

今日何度目になるか分からない呆れ顔を浮かべていると、闇の中に漂うスミレ色の髪が目に入った。

 

っ……。

 

レンと同じ瞳がジッとこちらを見つめている。この世の全てを呪い殺さんとする、激しい憎悪に彩られた瞳。だが先程までの様に濁った眼睛ではなく、透き通った紫水色の眼がレンを捉えていた。

不意にクローンの意識がレンに流れ込む。

 

ちょっと物足りないけど、最後に賑やかなお茶会が出来たから満足よ。……ありがとう、レン……さようなら。

 

クローンは少しだけ口元を緩めると、そのまま闇の中へ溶け込む様に消えて行った。

 

……。

 

レンはその姿を焼き付ける様に見守ってから、フィーに合わせて泳ぎ始めた。

闇の中に消えた自分に、有り得たかもしれない未来を想像しなくもなかったが……取り敢えず今は、生きていたいと思った。だからもう振り返らずに、前だけを見て進み続けた。

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