エレボニア帝国 遊撃士協会レグラム支部
ん、こんなもんかな?
フィーはギルド裏の空地に作った、お手製の花壇に水を撒いていた。植えているのは比較的手間のかからないハーブ等が中心で、辺りには香草の良い匂いが漂っている。
はぁ……先週は散々だったからなぁ……今週は何事もなければ良いけど。
リベールから強制送還された後、否応なしに導力車免許を取得させられ、更に無理矢理保険にも加入させられたのだが……。
……っていうか、保険料が月々10万って……いくらなんでもぼったくり過ぎじゃね?そのうちもう少し下がるとは言ってたけど……はぁ。
導力車の普及が増え始めたとはいえ、総数としてはまだまだ国民の一部に出回っている程度に過ぎない。当然保険料は高い。
税金払って、宿代払って、ミシュラムの会員費払って、保険料払って、バイクの維持費払って、etc、etc……月に幾ら使わせるつもりだ!?
フィーは若干17歳にして、支払いに追われまくっていた。
……はぁ、こりゃマジで裏カジノしかないか?
溜め息を吐いた代わりに、ハーブの香りを思い切り吸い込む。ほんの少しだけ気が楽になった気がした。
「おーい、フィー」
呼ばれて顔を向けると、トヴァルが小包を抱えて立っている。
「お前宛てに郵便が届いてるぞ、クロスベルからだ」
「ん、らじゃ」
「カウンターの上に置いとくからな」
「ん、さんくす」
「そんじゃ、俺は飯食って来るから、少しだけ受付頼むな」
「ん、行ってらっしゃい」
郵便?クロスベル?……全く心当たりがない。
何となく嫌な予感を感じながらも、フィーは水やりを終えて事務所に戻る事にした。
・
サラは依頼の打ち合わせで出ている為、ギルド内はもぬけの殻だった。もっとも、去年はトヴァルが1人で回していたワケだし、お客さん達も受付が居なければ勝手に依頼書をボードに張り付けて行くので、無人でもさして問題ないとフィーは思っている。
ん、これか。
カウンターの上に30リジュ四方の箱が置いてあり、上に伝票が乗っていた。
えーっと、差出人は……クロスベル警察特務支援課?……何で警察?っていうか今のクロスベルに警察ってあったっけ?
恐る恐る開封してみる。
……
……
……
……え?
出てきたのはみっしぃのぬいぐるみだった。
こんなの注文したっけ?……あ、特別会員の特典とかかな?……いや、それにしては入ってた箱がちゃちぃな、ミシュラムのロゴも書いてなかったし。……そもそも何で警察からみっしぃ?
取り敢えずぬいぐるみを箱から出して調べてみる。
?、なんか妙に重いな、サイズが大きいからか?……それにしてもみっしぃ、相変わらずとぼけた顔してやがるな……何でこんなのが人気あるんだろ?
みっしぃに対して特に何の思い入れも無いフィー。観察ついでにぬいぐるみのひげを左右に引っ張ってみると、顔が横に伸びて更に人をおちょくった顔に変わった。どこまで伸びるのかな?としばらく遊んでいると、ギルドに設置してある通信機が鳴り出した。
「ん、こちら遊撃士協会レグラム支部」
「……フィーさんですか?」
何処かで聞いた声だ。
「?、……もしかして、ティオ?」
「はい、その節はどうも」
ああ、成る程、コイツの仕業か。
納得顔を浮かべる。
「早速本題に入りますが、こちらから送ったブツは届いてますか?」
「ん、来てるよ。今箱から出して見てる」
「そうですか……では」
「ん?」
「どういう事か納得のいく説明をお願いします!」
突然声に激しい怒気が含まれた。
「な、何が?」
「フィーさんが今、手にしている物の説明です!」
「い、いや、説明って、みっしぃの事だよね?」
「そうです!」
「そうですって言われても、何の事やら?」
「……では、私から状況を話しましょう」
「ん、そうして」
ティオが語り始める。
「そのみっしぃとは、先日クロスベルの古物商で偶然出会い、私は当然その場で購入しました」
「ん……」
当然の意味が良く分かんないけど……まぁ、いいや。
「ところが、買った時から感じていたのですが、そのみっしぃは何故か妙に重量感がありました」
「ん、確かに重いね」
「そこで私は、中に何か入っているのでは?と考え、X線を使って内部を調べてみる事にしました」
「……」
な、何でわざわざX線?縫い目をほどいて中見れば良いじゃん。
「そうしましたら、とんでもないものを発見してしまったのです!」
「とんでもないもの?……何?」
「コンポジション4です」
「……え?」
「フィーさんはご存知かと思いますが、俗にC4爆薬と呼ばれているモノです!」
「っ!?」
危うく手に持ったみっしぃを落としそうになった。
「腹部に約2㎏、これが重量の原因でした」
「……っ」
こ、コイツマジか!?何で警察がギルド宛てに爆弾入りの人形を送って寄越すんだ!!
マニアはみっしぃの事になると、他は目に入らなくなる。
「ん……まぁ、事情は何となく分かったけど、何でワタシんトコに送って寄越したの?爆弾の解体処理位なら、そっちでも出来るでしょ?」
「送った理由は、そのみっしぃがフィーさんと深い関わりを持っているからです。……それと、幾ら爆弾入りだったとしても、私がみっしぃを解体するという選択肢はあり得ません!」
い、いや……そこはあり得ろよ。
「ワタシに関わり?……どんな?」
「みっしぃの足の裏を見て下さい」
「足の裏?ちょっと待ってて」
1度受話器を置き、みっしぃを引っくり返して確認する。
……
……
……
……あっ
……
……
……な、納得。
足の裏には、とある刺繍がしてあった。蒼い鷲に『ゼフィール』の刻印。
見間違いようがない……西風の紋章だ。
フィーは受話器を持ち上げると。
「……えーっと、その……ゴメンなさい」
取り敢えず謝罪の言葉を口にした。
「フィーさんに送った理由、分かりましたか?」
「ん、誰がこのみっしぃに爆弾を仕掛けたのかは……何となく分かった」
「では、同士フィー。成すべき事は分かっていますね?」
「ん……でも、西風の団員が今何処に居るのかは、ワタシにも分かんないよ?」
「探して下さい、私が全力でお手伝いします」
……随分簡単に言ってくれるな、散々探しても見つからなくて困ってるのに。
「ちなみに犯人を見つけた後はどうするの?」
「勿論、みっしぃと同じ目にあって貰います」
「……具体的には?」
「大した事ではありません、口から手榴弾を2㎏分飲んで頂くだけです」
「ら、らじゃ……」
最早突っ込むのも面倒になってきた。
「では、良い連絡をお待ちしていますよ、同士フィー。失礼します」
通信が切れた。
……
……
……ふ、ふ、ふ。
ふざけんなゼノぉ!!あのトラップマニアが、よりにもよって何でみっしぃに手ぇ出してんだ!?今度会ったら絶対に眼鏡叩き割ってやる!!
眼鏡の代わりに手に持ったみっしぃを床に叩きつけようとして、爆弾入りだった事を思い出し危うく思い止まる。
クッソー、どうしろってんだコレ???ゼノの事だから解体の手順間違ったらドカンしちゃう様にとか作ってんじゃねーのか???……って事は、作った本人以外は下手にイジらねー方がいいのかな?……それともいっそのこと、人気の無いとこで起爆させちまおうか?……ダメだ、ティオにバレたらワタシが殺される……。
日々の面倒な雑務や毎月の支払い、そして更に加わった新たな悩み、フィーのストレスは限界に達していた。
えーい、もう知らん!気晴らしに手配魔獣でもやっつけて来よ!!
掲示板に張ってある討伐関連の依頼書を片っ端から引き剥がすと、フィーはギルドを飛び出し表に停めてある愛車に股がった。
あ、そういえばあのボンバーみっしぃ、カウンターに置きっぱなしだ。トヴァル辺りが間違って触っちゃうかも。
……
……
……
まぁ、いっか……トヴァルだし。
フィーはそう割り切ると、導力エンジンを始動させて街道へとマシンを走らせた。
・
「フィー、お疲れさん……って居ねーのかよ?」
食事を終えたトヴァルが帰って来た。
「ったく何処行きやがったんだ?急な依頼が入っても対応出来る様にしとけってあれ程……ん?」
カウンターに目を向けると、見慣れないモノが置いてあった。
「ん?なんだコレ?みっしぃ?」
躊躇いなくぬいぐるみに手を伸ばした。
「何でこんなモンが?……ああ、さっきフィー宛てに届いてた荷物はコレか」
ぬいぐるみを手に持った。
「なんか妙に重いな、コイツ。中に音声装置でも組み込んであるのか?……それにしても、顔立ちといい、色合いといい、何でこんなのが人気なんだ?……最近の若い奴らの趣味は理解出来ん」
ひげを左右に引っ張ってみると、顔が横に伸びて『みししっ』っと笑っている様に見えた。……ちょっとだけみっしぃが可愛く見えた。
「……すみません」
しばらく遊んでいると不意にギルドの扉が開き、2人の子供が姿を見せた。
「トヴァルさん、今良いですか?」
「おう、入って良いぞ」
リンとエリーの兄妹だ。彼らは最近母親と3人でレグラムに越して来たのだが、ある問題を抱えていた。
「頼んでいた薬は、入荷しましたか?」
「……すまない、本部からも打診してるんだが、もう少し時間が掛かりそうだ」
「……そうですか」
兄のリンはガックリと肩を落とし、妹のエリーは泣きたいのを堪える様に唇をぎゅっと噛み締めた。
彼らの母親はとある難病を患っていた。
『石化病』
文字通り身体の一部が石の様に硬くなり、機能しなくなる病気だ。彼らの母親の場合、内臓の一部にその症状が出ているらしい。
幸い病の進行は遅く、直ぐに命の危機に陥るものではないが、早めに対処するに越した事はない。今は治療薬も開発されており、投薬さえすれば完治できるのだが、問題はその薬がなかなか手に入らない事だ。アルテリアの製薬会社でしか精製しておらず、しかも作るのに時間が掛かるため、供給が間に合っていないというのが現状らしい。数年後には生産ラインに乗るらしいが、流石にそれまで待ってはいられない。そこで彼らは、遊撃士協会から何とか働きかけて貰おうと、足しげくギルドへと通い詰めていた。
「他に頼る所が無いんです、何とかお願いします」
幼い兄妹の無垢な瞳がトヴァルに突き刺さった。
「分かってる、俺も出来る事はしてるんだが、コレばかりは何ともなぁ……」
「……そうですか」
2人は見た目にも分かる程落ち込んでいる。無理もない、母子家庭で母親が病気になったら、子供に出来る事は心配する事だけだ。
「そんな落ち込むなよ……そうだ!良いものやるぞ!」
「良いもの?」
「ほら」
トヴァルはみっしぃの人形を手渡した。
「これやるから、元気出せ!」
「みっしぃ!」
兄妹は分かりやすく顔を輝かせ、ぬいぐるみを受け取った。
「良し、それじゃあ薬の事は俺に任せて、お前達は出来るだけお母さんの側に居てやれ。病気の時は不安になるもんだからな」
「うん、ありがとうトヴァルさん!」
兄妹は来た時よりも少しだけ軽い足取りでギルドを後にした。
ふぅ、何とかしてやりたいが、コレばかりはな……。もう一回本部に相談してみるかな?
トヴァルは通信機へと手を伸ばした。
・
同時刻 大陸横断鉄道 レグラム駅
行商の格好をした2人の男が、乗客に混ざって駅舎から出て来た。飄々とした印象ながらも周囲に違和感無く溶け込んだ2人は、雑談を交わしながら辺りを見回している。
「レグラムか……俺は来るの初めてだな」
「まぁ、猟兵とは無縁の町やからね」
薄色のサングラスを掛けた若い男と、無精髭を生やした中年男は、喋りながらも慎重に辺りの気配を伺っている。
「それにしても、生き返って早々にフィーの様子を見に行きたいなんて、団長もホンマに親バカやな」
「結果的には紫電の嬢ちゃんに丸投げしちまった形だからな。それに、娘を心配しない親なんか居ないだろうが」
「いやいや、娘の職場を覗き見に来るなんて、親の嫌われる行為、ダントツのNo.1やで?」
「うるせぇな、お前らだってちょくちょく様子見に来てたんだろ?」
「そりゃまぁ、そうやけどな。フィーは勘が良いから見つからない様にするのは至難の業やったで」
「士官学院の時にも行ってたのか?」
「ああ、行ってたで。いつ行っても中庭か屋上で黒猫と一緒に昼寝しとったな」
「……アイツ、良く1年で卒業出来たな」
「後半は大分頑張ってたみたいやで。ツインテールと眼鏡の同級生2人に、みっちり勉強教えて貰っとったわ」
「……そうか……良い仲間を持ったんだな」
中年男は目頭を押さえ、天を仰いだ。
「学園祭のステージじゃ、最優秀賞取ったみたいやしね」
「ステージ?何やったんだ?」
「クラスメイト全員で生バンドや、凄かったで。フィーはコーラス担当やったんやけど、マジで天使の歌声かと思ったわ」
空を見つめながら美しい思い出に浸る。
「当然、映像は撮って来たんだろうな?」
「それが生憎とギムナジウムの中には入れなくてな、外からちょこっと覗くので精一杯やったわ」
「何やってんだ!父兄に紛れて潜り込めば良いだろうが!!」
「無理言うなや!帝国の士官学院やぞ!?皇族の護衛やら軍関係者やらで超満員だったんやぞ!?中に入って行ったら一瞬で捕まるわ!!」
「そんなもん全部薙ぎ倒してでも撮って来い!!」
「折角の学祭でそんな面倒事起こしたら、ワイらがフィーに殺されるやろがい!!」
いい歳した男2人が揉め始める。
「大体からして、団長が星座の闘神に勝ってさえいれば、こんな事には成らんかったんやで!?」
「お前ソレを言うんじゃねぇよ!こっちは3日3晩飲まず食わずで闘い続けたんだぞ!?」
「ソレを3日3晩見守り続けるこっちの身にもなってくれや!フィーなんか途中、口から魂が抜けそうになってたんやで!」
「しょうがねぇだろ、バルデルの奴がしつこかったんだよ!幾ら斬っても刺しても死にゃあしねぇ!……まぁ、俺もそうだったんだけどよ……」
「要するに2人揃ってアルベリヒの手の上で踊ってたって事やないか!3日3晩も!」
「だから!ソレを言うんじゃねぇ!」
「そもそもアンタらは……おっと!?」
余所見をしていたら男の子にぶつかってしまった、地面に尻餅をついている。その後ろでは人形を持った女の子が、心配そうな顔で立っていた。
「すまんのボン、大丈夫か?」
手を引っ張って立たせてやる。
「うん、大丈夫だよ、おじちゃん」
「お、おじ……ま、まぁ、ええわ。痛い所とかないか?」
「うん、全然平気」
「強いなぁボン、男の子はそうじゃなくちゃいかんわ。お使いの途中かなんかか?」
「うん、お母さんが病気だから、僕がご飯作らなくちゃ」
「な、なに??」
男の子が語り出す。母親が石化病で寝込んでいる事、薬を手に入れようとしている事、遊撃士協会にも頼んでいるがなかなか上手くいかない事、でも妹と2人で諦めずに頑張ろうとしている事。
「……な、な、なんて健気なんや」
「っ……」
いい歳した男2人の目頭が熱くなった。
「……団長、何とかならんか?」
口元を押さえ、小声で囁き合う。
「石化病か……確かに薬さえあればなぁ。ん?……待てよ?」
中年の男はポケットをまさぐり、数個の錠剤を取り出した。
「これは?」
「アルベリヒに貰ったモンだ。生き返ってすぐは身体が硬直する事があるから、そん時はコレを飲めってな。確か成分は、石化病の特効薬と同じ筈だ!」
「ナイスや団長!アルベリヒの奴もたまには役に立つな!」
素早く錠剤を奪い取って男の子に手渡した。
「ボン、この薬をオカンに飲ませてやれ。きっと良くなるで!」
「え、良いの?」
「勿論や!あ、それとなぁ……」
財布を取り出してありったけのミラ紙幣を抜き出す。
「これで精の付くもんでも買うてったれや」
「え?こんなに受け取れないよ」
「ええって、ええって、道で拾った宝くじが当たった事にでもしとけ!」
「でも……」
「その代わりな、ボンが大きくなって、誰か困ってる人に会ったら、出来るだけ親身になってやるんやで」
「……うん、ありがとう、おじちゃん!」
「それと、ワイはお兄さんやからな!」
「あ、ごめんなさい……」
「まぁ、ええわ。ほら、暗くならないうちに買い物して帰り」
「うん!」
男の子がお辞儀をすると、後ろにいた妹が近寄って来て。
「……これあげる」
持っていたぬいぐるみを差し出した。
「なんや、お礼か?」
「うん……ありがとう、お兄ちゃん」
「そか、ほんなら、遠慮なく貰っとくわ」
兄妹は揃って頭を下げると、手を繋いで去って行った。
「くっくっく……良かったな、おじちゃん」
急に肩を叩かれた。
「ホンマモンのオッサンに言われたくないわ!」
「照れんなよ……それにしても有り金全部渡すとはねぇ、帰りの運賃どうすんだ?」
「え?それは貸してくれや!」
「くっくっく……さーて、どうするかな?」
「ちょ?それはあんまりやで!?」
「まぁ、取り敢えず、フィーの様子でも見に行ってみるか」
少しだけ清々しい気持ちになった男達は、貰ったぬいぐるみをぶら下げて歩き出した。
・
「……居なかったな……フィー」
「せやな……」
レグラムを出て街道を外れた森の中、2人の男は肩を落として歩いていた。
「行く前にスケジュール確認くらいしとけ!完全に無駄足じゃねーか!」
「無茶言うなや!遊撃士の予定なんか調べたって分かる訳ないやろ!」
「ダミーの依頼を入れて、ギルドに居るようにする位は出来ただろ!」
「そんなんして後でバレたら、ワイがフィーに嫌われるやろがい!」
いい歳した男2人の怒声が森に響き渡る。
「そもそも!何で団長も帰りの運賃持ってないねん!?」
「仕方ねぇだろ!生き返って直ぐなんだぞ、財布の中身なんかいちいち気にしてられるか!お前が見栄張って全部渡しちまうのが悪いんだろが!」
「そりゃ渡すやろが!あんないたいけな兄妹放っとけんやろ!」
「クスリ渡して終わりで良かっただろが!」
「細かい事言うなや、ちゃんとお礼も貰ったやろ!」
みっしぃを持ち上げて見せた。
「オッサン2人が、こんなもん貰ってどうすんだよ!?」
無精髭の男がみっしぃを受け取る。
「ワイはまだお兄さんや!それにみっしぃやぞ!?今大人気のミシュラムのマスコットやぞ!」
「知らねーよ!俺は死んでたんだぞ!?」
「アンタが死ぬ前からあったわ!まぁ、そん時はそこまで有名でもなかったけどな」
「なんだ?随分詳しいじゃねーか」
「前にみっしぃを爆弾にしてターゲットを始末出来ないか試した事があってな、そん時に色々調べたんや」
「……」
みっしぃを持ちながら、あからさまに顔をしかめられた。
「いやいや、なんで引いとんねん!?」
「引くわ!さっき子供に有り金全部渡してた男が、裏では人形を使って暗殺!?お前の情緒はどうなってんだ!」
「だから、色々試しただけで実行はしなかったわ。……あれ?そういえばあん時のみっしぃ、何処にやったかな?」
「おいおい、爆弾入りの人形無くしたんじゃねーだろうな?」
「いや、探せばどっかにある筈……あ、団が解散した時、故買屋に要らん物全部引き取って貰った様な……」
「お前マジか???」
「大丈夫や、ある手順を踏まんと起爆しない様にしてあるし、足の裏に西風の紋章も縫い付けといたから見ればすぐ分かるわ」
「……何処で器用さを発揮してんだよ。……ちなみにどうやったら起爆するんだ?」
「髭を左右に引っ張ってから逆さまにするっていうのを2回繰り返すんや」
「ふーん……」
念のためのつもりで人形をひっくり返し、足の裏を見てみる。
『……あ』
いい歳した男2人の声が重なった瞬間、辺りが閃光と爆炎に包まれた。
・
その日の夜
「あれ?ここにあったみっしぃは?」
魔獣討伐を終えて帰って来たフィーがトヴァルに聞く。
「ん?ああ、それなら町の子供にあげちまったぞ」
「……え?」
「ほら、最近良く来るリンとエリーだ。母親の薬が手に入らなくて落ち込んでたから、少しでも元気付けようと思ってさ。悪かったな勝手な事して、後で代わり買ってくるから勘弁してくれ」
「……」
や、や、や、やベー……。
顔を真っ青にしながらギルドから飛び出そうとした時、丁度ギルドの扉が開いて。
「お邪魔します……あ、フィーさん。こんばんは」
リンとエリーの兄妹が入って来た。
ほっ、無事だったか。
人知れず胸を撫で下ろす。
「あの、石化病のお薬の事なんですけど……」
「おう、さっき協会本部に改めて催促しといたから、もう少しだけ待っててくれ」
「いえ、それが……」
「ん?」
リンが先程の出来事を詳しく説明する。
「……という訳でもう大丈夫です。色々ありがとうございました」
兄妹揃ってペコリと頭を下げる。
「そうか、そりゃ良かったな」
トヴァルはまるで自分の事の様に笑顔を浮かべた。
「ん、良かった……ところで」
フィーがリンの肩を力強く掴む。
「みっしぃどうした?」
「あのみっしぃなら、助けてくれたお兄さんにあげちゃった」
リンの代わりに妹のエリーが応えた。
「……どんな人だった?」
「えーっと……ひょろっとしてて、色付きの眼鏡掛けてて、訛りがスゴくて……」
……ん?それって???
「……それって、もしかして」
西風時代にみんなで撮った写真を取り出す。
「この人?」
「うん、この人だよ」
「……ん」
フィーはリンを離すと備え付けの通信機へと向かい、ダイヤルを回した。
……
……
……
「あ、ティオ?フィーだけど。えーっと、みっしぃの事なんだけどさ……ワタシの方で解決しといたから」
……
……
……
「ん、詳しい事は今度会った時話すよ。んじゃ」
通信を切った。
・
バリアハートへと続く夜の街道を、いい歳した男2人はトボトボと歩いていた。全身が真っ黒に焼け焦げ、髪の毛は2人揃ってアフロになっている。
「……まさか生き返って初日に死にかけるとは思わなかったぜ」
「……」
「ゼノ……」
「……なんや?」
「次は……フィー、居ると良いな」
「……せやな」
胸に刻まれた西風の紋章が、月の光に照らされていた。