妖精の軌跡second   作:LINDBERG

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第36話 夕暮れから始まる町で

某日夕刻 歓楽都市 ラクウェル駅前

 

夕日に照らされた雑多な町並みは、夜の賑わいを迎える為に今しがた目を覚ましたばかりの様に感じられる。規律を重んじる帝国内で唯一と言っても良い猥雑で刺激に満ちた町、ラクウェル。だが、そこから政府にもたらされる少なくない税収が、帝国の屋台骨の一端を支えているというのもまた事実だった。

 

ふぁ~~……ようやく着いたか。

 

レグラムから長時間の列車移動でお疲れのフィーは、身体を伸ばしながら大口を開けて欠伸をした。

「ちょっとフィー、もう少し緊張感持ちなさいよね。今回はかなり大きい仕事なのよ」

その様子をサラが咎める。

「いや……俺も流石に腰が痛ぇや。ヤッパり交通費ケチらないで、オルディスまで飛行艇で飛べば良かったかな?」

トヴァルは顔をしかめながら腰を擦っていた。

「仕方ないでしょ、本部から貰った今月分の運営費、全然残ってないんだから!」

「何言ってやがる、お前が飲み代で全部使っちまったからだろうが!」

「遊撃士は身体が資本よ!食事代は必要経費の範疇に決まってるわ!」

「百歩譲って飯代は良いとして、酒代くらいは自分で払え!」

「何言ってんのよ、食事中にドリンクを飲むのは当然の事でしょうが!」

「いやいやいや、水を飲め!せめてお茶にしろ!っていうか、ギルドの予算で酒を飲むな!!本部にバレたら、マジで運営費ゼロになるぞ!!」

帝国ギルドは、色々な意味で崖っぷちだ。

「ふぁ~~……そんで、何処行くんだっけ?」

「ハーミットっていうアタシ行き付けの宿酒場で待ち合わせよ。案内するから付いてきて」

「ん、らじゃ」

「おい、まさかとは思うが飲みながら待つ気じゃねーだろうな?」

サラを先頭に3人は夕暮れのラクウェルへと繰り出した。

 

今回は七耀教会からの依頼で、ギルドと教会の合同作戦だ。今宵、ラクウェルの某所で開催されるという闇オークション。そこに出品される品物がターゲットらしい。

詳しい内容に関しては、現地で全員が集合してから改めて説明されるそうだ。民間からの協力者も手配済みらしく、万全の状態で臨むらしいが……陣頭指揮がサラという時点で、嫌な予感しかしない。本人はこの仕事が無事に済めば、晴れてA級に戻れるらしく張り切っているが……どうなる事やら。

 

「そういえば、フィーはラクウェルに来た事あるのか?」

トヴァルが首を向ける。

「ん?西風の皆と良く来たよ、殆どがカジノ巡りに付き合っただけだったけどね」

「……何と言うか……実に猟兵らしいな……。でも未成年じゃ入る事は出来ても実際にプレイは出来ないから、あんまり面白くなかっただろ?」

「ん、でも後ろから『ヒット』とか『2枚チェンジ』とか言ってたら皆がその通りに賭けてくれたから、まぁまぁ楽しめたかな?」

「……重宝されてるな、お前」

「ん、何件かのカジノで、ワタシだけが出禁になっちゃったりしたけどね」

「プレイしてもいないのにカジノ出禁になってるのは、多分世の中でお前くらいのもんだぞ」

「まぁ、結構昔の事だから、もう時効だろうけど」

「いや、ほんの2~3年前の話じゃねーのか?」

そんなトヴァルの台詞を裏付けるかの様に、カジノの店前をフィー達が通り掛かると、それを目撃した呼び込みのボーイが、大慌てで『close』の看板を掲げていた。

 

 

 

 

 

 

宿酒場 ハーミット1Fカウンター

 

完全貸切にしてくれたらしく、店内はフィー達3人だけだった。もっとも、まだ書き入れ時には早い時間、ある程度の融通は利きやすいのだろう。

 

ふぁー……、……なんか疲れた……。久しぶりに列車移動したからかな?ワタシだけバイクで来れば良かったかも。

 

首をコキコキしながら生欠伸を連発していると。

「フィー、2Fに部屋は取ってあるから、眠いんなら少し横になって来ても良いぞ?時間になったら起こしてやるから」

トヴァルが気を遣ってくれる。

「ん、さんくす……でも今寝たら、明日の朝まで起きないかもよ?」

「いやいや、12時間以上も寝る気かよ……」

眉をひそめられた。

「フィー、もうちょっとだけ我慢なさい。眠気なんか吹き飛ぶ様な助っ人達が来るから」

「そういや、俺も詳しくは聞いてなかったけど、誰が来るんだ?」

「ふふん、殆どがアンタ達も良く知ってる人達よ♪」

サラが意味ありげにニヤニヤと笑っていると、カランカランという音を立てながら入り口の扉が開いた。

「あら?噂をすれば来たみたいね」

寝惚け眼で首を回すと、法衣を纏った男2人に眼鏡を掛けて三つ編みの女性が1人、そして町の不良といった装いの金髪の少年が1人の、計4人が立っている。

 

……金髪の少年以外は全員が見知った顔だ。

 

「え?……エマ?ガイウス?それと……えーっと……確か……、……ボビン・グラハムだっけ?」

「フィーちゃん!会いたかったですよ!」

エマが魔乳を揺らしながらフィーに駆け寄る。

「フィー!久しぶりだな!」

ガイウスは爽やかな笑顔を浮かべ手を上げている。

「久しぶりやなフィーちゃん!って、なんやねん!?そのミシンに取り付ける小っこい部品みたいな名前は!?そんで何でグラハムだけは律儀に覚えとんねん!?」

ケビンが早口で捲し立てる。

「……ちっ」

そして見知らぬ金髪の少年は、つまらなそうに舌を打つと、壁に寄り掛かって腕を組んでいた。

 

民間からのサポートって、エマ達の事か……これは確かに寝てる場合じゃないね。

 

駆け寄って来たエマに抱き付かれたフィーは、嬉しそうに笑みを漏らす。

 

「全員揃ったわね、このメンバーが今回の作戦パーティよ!」

サラは立ち上がると、奥のテーブル席へ足を進める。

「ジャレ合うのは後にして皆こっちに来てくれる?早速だけど今回の内容を説明するわ!」

全員が一所に集まり、作戦会議が始まった。

 

 

 

 

 

 

「えーっと、それじゃあ、殆どが見知った顔だとは思うけど、一応全員自己紹介しときましょうか?」

サラ、フィー、トヴァル、エマ、ガイウス、ケビンの順で簡単に挨拶を済ませ、最後に金髪の少年の番になった。

「ほら、アンタの番よ」

サラが少年の脇を小突く。

「……ったく、めんどくせーな」

頭を掻きながら少年は立ち上がった。

「アッシュ・カーバイドだ、バレスタインから町の案内役を頼まれてる」

ぶっきらぼうにそれだけ言うと、アッシュは大股を開けて腰を下ろした。

「アンタ、もうちょっと愛想良くしなさいよね……。アッシュは町の不良グループでリーダーをしてるの。内戦時には町を占拠しようとした猟兵団を撃退した実績もあるわ。ラクウェルの事なら何でも知ってるから、皆ヨロシクしてあげてね♪」

「……言っとくが何でもは知らねーぞ。特に今回の闇オークションの話は、今までに聞いた事も無ぇ」

「まぁ、前回迄クロスベルでやってた闇イベントを、帝国に移動して行うってモノらしいからね。仕切りもラクウェルとカルバードのマフィアが合同でやってるみたいだし、町の不良少年の耳に入る様な話じゃないわ」

「それじゃ、俺は何の為に呼ばれたんだ?」

「文字通り町の道案内よ。いざって時の為には、裏路地に詳しい人間が必要だからね」

「ちっ……要するに只の雑用係じゃねーか」

「まぁまぁ、そうボヤかないの。それじゃケビンさん、今回のターゲットについて説明して下さる?」

「了解や」

ケビンが立ち上がる。

「え~、簡単には説明されとると思うけど、今回の依頼は七耀教会からさせて貰ってます。そんでターゲットなんやけど、闇オークションに出品予定されとる『聖女の首飾り』と呼ばれる品や」

「聖女の首飾り?」

フィーがあからさまに顔を渋める。

「そや、かの槍の聖女が愛用したとされる首飾りや。こいつをオークションに出品される前に、飾り着けてある台座ごとゲットして貰いたい」

「……」

「ん?、どないした、フィーちゃん?渋い顔して」

「ん、いや……何でもない」

聖女と聞くと何故か良いイメージが湧いて来ないが、取り敢えず口を挟まない事にした。

「?、ほな続けるけど、この品は法聖省に定められとる歴としたアーティファクトで、持っとるだけでも重罪になる代物や」

「つまりその首飾りを、オークションに出る前に手に入れて来いと?」

トヴァルが口を挟む。

「まぁ、ぶっちゃけて言ってしまえば、そういう事やね」

「い、いや……それって……泥棒と殆ど変わんねーんじゃ……」

「遊撃士協会のお偉いさんから承諾は貰っとる、その辺は全部ノープロブレムや!」

ケビンは力強く言い切った。

 

ホントかよ?まぁ、依頼料も弾んでくれてるし、下手にツっ込まないでおこう。

 

「行動は2チームに分けて行うわよ。Aチームはオークション潜入組、Bチームは外で待機するバックアップ組。チームリーダーはAチームがアタシで、Bチームがケビンさん。何か質問は?」

「オークションで出る品物の順番は分かってるの?」

「予定だとターゲットは1番最後よ。だからオークションがスタートしてから約1時間以内が勝負ね」

 

ん、競売が始まれば、観客の意識はオークショニアに集まる。その間に楽屋裏に潜り込んで、ターゲットを奪って即時離脱……まぁ、何とかなるかな?問題はブツの守備か……。

 

「警備体制がどうなってるかの情報は?」

「そこ迄は掴めなかったわ。ただ状況を考えればマフィアのチンピラだけって事は無いでしょうね。何処かの猟兵団と契約してる可能性も有り得るわ」

「猟兵……」

 

仮に西風が雇われてたら、ゼノとレオが相手になるワケか。……でもまぁ、そん時はそん時か。こないだのみっしぃがどうなったか問い詰めてやろっと。

 

「他に質問は?……。それじゃ、チーム分けなんだけど……」

その後の話し合いの結果、Aチームがサラ、フィー、エマ。Bチームが、ケビン、ガイウス、トヴァル、アッシュとなった。

 

ま、妥当かな。

 

「招待状は手に入れてあるから、後は潜入用の衣装ね。買い物に行くわよ。エマ、フィー、それと……アッシュも付いてきて」

「ん、らじゃ」

「了解しました」

「おいおい、何で俺まで行くんだよ?」

「道案内と荷物持ちよ♪美女をエスコート出来るんだから、役得だと思いなさい」

「ったく、めんどくせー……やっぱこんな話受けなきゃ良かったぜ」

渋々といった様子ながらも腰を上げる、見掛けによらず頼まれたら断れない性格らしい。

「それじゃちょっと出てくるから、3人はゆっくりしててね♪」

4人は連れ立って店を後にした。

 

 

 

 

 

 

「ちょっと!どういう事よ!?」

店内にサラの怒声が響き渡る。

「何でアタシに合うサイズのドレスが無いのよ!」

「無理言わないで下さいよお客さん!そんなバストサイズの服なんか、オーダーメイド以外である訳無いじゃないですか!」

カウンターの前で喚き散らすサラに対し、店員さんは申し訳無さそうに小さくなっている。

「そもそもアッシュ!なんでこんなショボい店に連れて来るのよ!」

フィー達が訪れていたのは、煌やかなパーティードレスやタキシードを取り扱うブティック……などではなく。店いっぱいに多種多様な商品が乱雑に置かれた、雑貨屋だった。外看板に『ド・キンホーテ』と書かれている。

「しょうがねぇだろ。予算1万ミラでドレス3着買える店なんて、ラクウェルにはここしか無ぇんだよ!」

フィーとエマは、それぞれグリーンのフィット&フレアドレスとピンクのバルーンドレスに着替えていた。格安だったが見た目だけはそれなりに見える。

「ちょっとアンタ!何とかしなさいよ!」

カウンターを叩いて気の毒な店員さんに大声を張り上げるサラ。

「無理ですよ!専門店に行って下さい!」

「ん、別に良いじゃん」

見かねたフィーが助け船を出す。

「あそこにあるアストライア女学院のバッタもんみたいな制服ならサイズ合いそうじゃない?」

コスプレコーナー的な一画を指差す。1着だけ不必要な程バスト部分に余裕を持たせた服が吊るされている。

「アレ着て行けばOKでしょ」

「お黙り!何が悲しくてそんな一昔前のビニール本に出てきそうな格好で潜入しなきゃならないのよ!?」

「サラだってバレなきゃ良いんでしょ?絶対大丈夫だよ。……そういう人だとは思われるだろうけど」

「どういう人よ!?」

「サラ教官……他の店に行ってみましょうよ」

エマが残念な生き物に語りかけるように、小声で囁いた。

「ダメよ、予算内でやりくりしなきゃなんないんだから。そもそも、なんでエマのサイズがあって、アタシのサイズが無いのよ!?」

再び店員さんに詰め寄る。

「そちらのお嬢さんはまだ常識の範囲内ですが、お客様のは想定外ですので」

「何よそれ!バカにしてんの!?それとも誉めてくれてるの!?どっちよ!!?」

捲し立てた勢いで想定外バストが縦揺れしている。

 

ん、やっぱオッパイはデカけりゃ良いってもんじゃないんだな……うん。

 

1人で納得顔を浮かべるフィー。

 

「ん……そんじゃワタシとエマで潜入するから、サラはバックアップ組に回ってくれる?」

「アンタ達2人だけ?」

「エマが居れば大抵は何とかなりそうだし、問題ないでしょ?」

腕を組んで検討する。

「そうねぇ……いやダメよ、警備体制も分からないしイレギュラーが起きたら2人だけじゃ……」

「ん……。……それじゃアッシュ、潜入組に入ってくれる?」

「あ?俺がか?」

「脱出の事考えたら、地理に詳しい人間がこっちに居た方が助かるしね。戦闘になったらワタシが何とかすれば良いし。無理にとは言わないけど、どうする?」

「……」

アッシュは少しだけ思案した後。

「……ったく本当にめんどくせーな……。わーったよ、バレスタインの代わりに俺が行く」

渋々了承した。

「ん、さんくす」

 

やっぱ予想通り、頼まれると弱いね。

 

誰にも見られない様にフィーはニヤリと笑った。

 

「そんじゃ店員さん、適当にスーツ見繕ってあげて」

「畏まりました!」

面倒な客には早く帰って貰いたいのだろう。店員は一目散に紳士服コーナーへ走って行った。

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