妖精の軌跡second   作:LINDBERG

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第38話 究極の絶技

「ん、美味しいね、コレ」

「そ、そうか……」

目の前に出される黄金色の飲み物を次々とゴクゴク飲み干すフィー。その様子を、アッシュは唖然としながら見つめていた。

 

無事にオークション会場へと潜入した一行。雑居ビルの地下を秘密裏に改築したらしく、内部はかなり広い造りになっていた。各部屋の空調もしっかり効いていて、部屋数もかなりのものだ。

開始までに出来るだけ情報を集めようという事になり、エマは単独で行動し、フィーとアッシュは待機場所になっている豪奢なダイニングルームに足を進めていたのだが……。

 

いやぁ……止まらんわ、このジュース。

 

フィーはボーイに勧められた極上物のゴールドシャンパンを、矢継ぎ早に飲み干していた。テーブルの上には空のグラスがタワーの様に積まれている。ボーイは苦笑いを浮かべながらも、ゲストをもてなすためにありったけのボトルを出してくれて、他の参加者達はフィーの飲みっぷりを遠目に惚れ惚れと眺めていた。

 

ん、シュワシュワしてて美味しいし、キラキラでキレイだし、何よりタダだし……ん、闇オークション、最高だね♪

 

遠慮なくガバガバ飲んでいるうちに、用意してあった高級シャンパンを1人だけですっかりと飲み干した。

「あれ?もう全部飲んじゃったか……ちょっと物足んないけど、まぁ満足かな」

「……よ、良かったな」

それを見ながら、アッシュが引きつった笑みを浮かべる。

 

こ、このヒンヌー娘、只者じゃねぇ。1人でシャンパン5本分は飲んでるのに、ケロリとしてやがる!……つーかいくら非合法な場所って言っても、未成年がこんなおおっぴらに酒飲んで良いもんなのか???

 

本来であれば自分も相伴したいところだったが、特殊過ぎる状況と使用人という設定から、1滴も飲む事が出来なかった。

 

「ん……そんじゃここのチェックは済んだし、次行ってみよっか?」

もうする事は何もないとばかりに、出口へ向けて足を進める。

「い、いや……チェックって、1人でたらふく飲んだだけで、何にもしてねぇじゃねーか!?」

「ん、他の参加者の顔ぶれが確認出来たから十分。思った通りヤバめな面子だね、殆どがギルドの資料で見た顔」

周りに気付かれないように視線だけを動かし、もう一度部屋中を見回す。

「東方マフィアの幹部に、もぐりの武器商人。貴族派の悪徳政治屋に、違法薬物密売の元締め。指名手配になってるのも何人か居るし、TMPにリークしたら金一封貰えるかもよ?」

「正に悪の巣窟だな……そんで、どうすんだ?ホントに憲兵に連絡して、ガサ入れで混乱してる間にターゲットを頂戴する、ってのもアリだと思うぜ?」

「んー……それは止めとこう」

「まぁ、そこまで大事にしたら、教会の連中は立場が無くなるか」

「いや……もしクレアが来たら、また怒られちゃうから」

「どんな理由だよ!?」

「それにアンタだって、マフィアとか猟兵ならともかく、警察に追いかけ回されるのは御免でしょ?」

「い、いや……出来ればどっちも遠慮してぇんだが」

「だからタレ込みは無しでよろしく。取り敢えずエマと合流しよっか……っ?」

丁度ダイニングから出ようとしたところで、後ろから肩を叩かれた。

 

……はぁ、またかよ。

 

面倒くさそうに顔をしかめる。

 

この建物に入ってから、既に5回程同じ様なシチュエーションに遭遇していた。内容は全部一緒で、簡単に言えばナンパだ。闇オークションという裏世界のイベントには、あまりにも不釣り合いな一見可憐で綺麗な少女。闇社会に席を置く親に同行した子息共が、興味を持たない筈がない。

普段は1人で街をブラついていても、隠しきれない鋭い気配に気圧されてか、滅多に男から声など掛けられないので、初めのうちは満更でも無さそうに振る舞っていたフィーだったが、こうも続くと流石に鬱陶しい。自分が出ると揉め事になる可能性もあるので、使用人役のアッシュに追い払って貰う事にしていた。

 

はぁ、めんどいな。モテる人達は毎日こんな感じなのかな?……アッシュ、悪いけどまたお願いね。

 

後ろを振り返って確認する事なく、横に居るアッシュに「ちゃちゃっと追っ払って」と視線だけで合図を送るが、後ろを向いたアッシュは青冷めた顔に冷や汗を浮かべて硬直している。

 

?、なんだ、そんなにヤバそうな相手なのか?

 

仕方ないので自分で対処しようと振り返り……フィーも同じ様に固まった。

長い黄金の髪を後ろで纏め、簡素ながらも仕立ての良い白いドレスを身に纏った女性。見る者全てを惹き付ける圧倒的な美貌ながら、同時に万物を平伏させる重厚な威圧感。

「おや?失礼。知人と気配が似ていたもので、間違えてしまったようです」

以前と変わらぬ涼やかな声音で、鋼の聖女は済まなそうに謝罪の言葉を口にした。

 

いやいやいやいや、オメーかよ!??って、こんなとこで何やってんだマスター!?

 

綺麗にメイクした顔を歪めるが、周りからは可憐な少女が小首を傾げている様に見えた。

 

「見ず知らずの方を、後ろかろ気安く叩くなど、自分の不調法さに恥じ入るばかりです……大変申し訳ない」

聖女は重ねて謝罪を続け、その様子を背後で付き従う2人の女性が微笑ましく見守っていた。

 

い、いや、見ず知らずも何も思いっきり知り合い……あ、ひょっとしてワタシだって分かってねーのか?

……ん。

 

「……い、いえ……どうかお気になさらず」

正体を明かしても別に構わないが、面白そうなので声色を変えて返事を返す。

「本当に失礼しました。……ですが変ですね、私が気配を読み違えた事など、今までに1度としてなかったのですが?」

不思議そうに顎に手を当てている、どうやら後ろ姿と気配だけで声を掛けて来たらしい。

「良くある事ですので、気になさらないで下さい。……ちなみにですが、どの様な方と間違えたのですか?」

興味本位で聞いてみる。

「そうですねぇ……」

聖女は少しだけ逡巡する素振りを見せてから徐に応えた。

「貴女の様に清楚で淑やかな感じの女性……」

 

おお!予想外の高評価?

 

「……ではなく」

 

違うんかい!

 

「ボーッとしてて無愛想で何を考えてるのか良く分からなくて、恥も礼儀も色気も胸も全く無くて、慎みという言葉からは絶望的に掛け離れていて……」

「……」

「敬虔や謙虚とは無縁で、気まぐれで怒りっぽくて面倒くさがりで女性らしい事はまるでダメで。少しは遠慮というモノを学んで欲しいと前々から思っているのですが……」

「……」

 

いくらなんでも言い過ぎだろ、マスター!またドタマにバカでっかい岩でも落としたろか!?

 

「……ですが、いつも周りを気遣っていて、不器用な優しさと真っ直ぐな心を持った、素敵な少女です」

嘘を付けない聖女はそう締めくくった。

「そ、そう……」

おい!フォローが少ないんじゃねーのか!?と思いながら引きつった笑みを浮かべるが、周りからは可憐な少女が聖女の話に微笑みを返している様にしか見なかった。

 

「そう言う貴女は、失礼ながらこの様な場所には似つかわしくありませんが、どのような経緯でこちらに?」

「ええ……あまり詳しくは話せませんが、義父が猟兵団を率いておりまして、その代理として参りました」

「猟兵団……成る程、そうでしたか」

聖女は取り敢えず府に落ちた顔をみせた。

「そちらは?何かお目当ての物でも?」

「ええ、こちらで出品される『聖女の首飾り』とやらに興味を引かれて、共を連れて参った次第です」

後ろで控える2人の女性に目配せする。

いつものポンコツ剣士ではなく、綺麗で優しそうなお姉さんと、凛として真面目そうな女性の2人組だ。初めて見る顔だが、おそらく鉄機隊とかいうチームのメンバーなのだろう。

「聖女の首飾り……ですか」

 

ん……って事は、自分の物を買い戻しに来たのか?

 

「ええ、かの槍の聖女が愛用していた物だとか……折角ですから一目見るだけでもと、お邪魔させて頂いております」

「……っ?」

 

見るだけ?

 

「ですがオークションの開始までには少し時間があるようですので、折角ですからこちらのダイニングで少しお酒でも飲ませて頂こうかと」

『え!???』

フィーと鉄機隊2人の声が重なった。

「何か美味しいドリンクがあれば良いのですが……」

そのままダイニングへ向かって歩き出そうとする聖女を。

『んま、んま、nマスター!!?』

鉄機隊の2人が慌てて遮った。

「開始まであまり時間もありませんし、会場の席で待っていた方が宜しいのでは!?」

「そうです!帰ってから留守番をしているデュバリィを交え、ゆっくりとお飲みになられるのが1番良いと存じます!!」

必死になって止める2人。顔は笑っているが、その瞳から『ここは何が何でも止めなくては!』という強い意思を感じる。

「そうですねぇ……ですが折角来たのですから、何か1杯くらい……」

「えーっと……申し上げにくいのですが」

フィーも助け船を出す。

「ダイニングに用意してあったドリンクは、先程ワタシが飲んだ分で終わってしまったようです」

「あら?そうなのですか?」

「楽しみにされていた様子なのに……ごめんなさい」

ペコリと頭下げる。上目遣いに様子を伺うと、後ろの2人組は

『良くやった!!(^o^)b』

『グッジョブ!!(^ー゚)b 』

と言わんばかりに親指を立てていた。

「そうでしたか……仕方ありません、開始まで大人しく会場で待つとしましょうか」

聖女は寂しそうに肩を落とした。

「ええ!そうしましょう、そうしましょう!!」

「さあ、私達がエスコート致しますわ!!」

また妙な事を言い出さない内に、さっさとDangerZONEから遠ざかろうと、2人組は聖女の手を取りそそくさとその場を後にする。

「では、ごきげんよう」

フィーに対して最敬礼で感謝を示し、聖女一行は去っていった。

 

 

 

「ふぅー、助かった……。……ったく、勘弁してよ、マスター」

聖女の姿が視界から消えた途端に、溜まっていた息を盛大に吐き出す。

「ヤッパ知り合いだったのか……何者だよ今の凄ぇ綺麗なオバハン。対面したプレッシャーだけで気絶しそうだったぜ?」

アッシュもへたり込みそうになるのを懸命に堪えていた。

「ん……詳しくは言えないけど、一歩間違ったらこの建物ごとペチャンコに潰されててもおかしくない相手」

「そ、そんなにヤバかったのか?」

「ん……それどころか、下手したらラクウェルが地図から消滅してたかも」

「……」

アッシュの顔が青ざめる。

「まぁ、追い払ったから、もう大丈夫でしょ……多分。んじゃ、エマに連絡取ってからケビン達にも報告入れるからちょっと待ってて」

ARCUSを取り出した。

 

 

 

 

 

 

「……という訳で、こちらも有益な情報は大して得られませんでした」

 

オークション会場の入り口でエマと合流し、入手した情報を確かめ合う3人。中の様子を伺うと30程の座席が既に半分以上埋まっており、参加者達はカタログを見ながらオークションの戦略を練っているようだ。先程遭遇した聖女達も奥まった一角に陣取り、ラインナップに目を通しているらしい。

壇上脇では黒服を着た警備員が目を光らせており、赤く点滅する警備装置があからさまに設置されている。天井に目を向けると、何らかの気体を吐き出す噴出装置が目に止まった。守備態勢は万全らしい。

「ん、らじゃ。一応バックアップ組には先に現状報告しといたよ」

「ありがとうございます。一応出品カタログだけは手に入れて来ましたよ、見ますか?」

「ん、見る」

受け取ってざっと目を通す。

 

1.ヘクトルⅠ世の兜

2.ドライケルス帝のパイプ

3.黒ゼムリアストーンの詰め合わせ

4.リベルアークのレプリカ(1/32スケール浮遊機能付)

5.アルフィン殿下のプロマイド(入浴シーン有り)

6.ノーチラスのエンブレム

7.エイリアンの卵

8.プレデターの肩のアレ

9.有名な芸術家の彫刻

10.セブンスヘブン看板娘の白いタンクトップ(使用済み)

11.エクスカリパー

12.アルテマウェポン風の剣

13.絵

14.聖女の首飾り

 

「……」

歴史的遺物から世界を滅ぼしそうなものからどうでもいいものまで、多岐に渡っていた。

 

「開始まで後10分ってとこか……どうする?3人でもう一回りしてみるか?」

「いや、欲しい情報はもう入ったから大丈夫」

「本当かよ?」

「ん、2組に別れて探索したのに大した情報が入らなかったって事は、ターゲットは会場奥のバックヤードみたいな所に保管されてるのは間違い無さそう。しかもスタッフの通用口みたいなのも見つからなかったから、行き来するにはこの会場を突っ切るしか無いんだと思う」

「い、いや、そんな事分かっても意味ねーだろ。どうすんだ?まさか正面から突っ込むつもりか?」

「ん、そんな面倒クサそうな事はしないよ。まぁ、マスターに一服盛って、暴れてる内にターゲットを頂戴するって手もあるけどね」

「……絶望的に嫌な予感しかしねーから、それは無しで頼む」

「ん、ワタシも同感だから安心して」

「そんじゃどうすんだ?」

「ん……エマ、見て回った時、そっちの空調はどうだった?」

「空調ですか?どの部屋もしっかり効いてましたよ。地下ですし、換気ダクトが全体的に張り巡らされてるんだと思います」

「ん、予想通り。それなら潜入口は決まりだね、さっき行ったダイニングに大きい換気口があったから、ソコからにしよ。オークションがスタートすれば片付けのスタッフしか居なくなるだろうし、多分チョロいと思う」

「成る程……それなら行けるかも知れねーな」

「そうですね、ドレスが引っ掛かりそうで心配ですけど……」

「ん、最悪脱いじゃえば良いじゃん」

「な、なんで脱がそうとするんですか!?」

「……いや、良い案だと思うぜ」

一点をじっくり注視しながら呟く。

「……アッシュさん、鼻の下が伸びてますよ」

エマの眼鏡がキラリと光った。

「まぁ、その辺は何とかなるでしょ。そんじゃ、オークションがスタートしたら開始でヨロシク♪」

3人はそれぞれ頷き合うと、人気の無い場所に移動してその時を待った。

 

 

 

 

 

 

「……ん、参ったね」

「参りましたね」

オークションが始まり、人気の無くなった頃を見計らって再びダイニングへと移動した一向。物陰から中の様子を伺っているのだが……。

「思ったより居るね……」

「居ますね……」

「冷静に言ってんじゃねーよ!?どうすんだ???」

中には片付けのボーイの他に10人以上の警備スタッフがたむろしていた。外で受付をしていた黒服の2人も居る。恐らくオークション中は、ここがスタッフの待機場所になっているのだろう。

「ん……そんじゃ、エマ。もう一回さっきのお願い出来る?」

「いえ、この人数を術に掛けるのはちょっと厳しいですね。しかも1度掛けた相手には効きにくいですし」

「……そっか」

「ちっ、しょうがねぇな、別の場所から潜入するぞ」

「ん、さっきトイレのダクトは見たけど、小さすぎて潜入は無理。他の所も同じ様なもんだったし、ワタシ達が通れそうなのは多分ここだけ」

「んじゃどうする?今からもう一度見回って、新しい潜入口を探すか?」

「んー……いや、メンドいからここでいいや」

フィーは1人で物陰から出ると、ゆっくりとダイニングへ向けて歩き出した。

「え?お、おい!?」

慌てて呼び止めようとするが。

「アッシュさん、ここはフィーちゃんに任せましょう」

エマが肩を掴んでそれを制止する。

「い、いやいや、いくら遊撃士っていっても、この人数は無理だろ?しかもアイツ丸腰だぞ???」

「まあまあ、念のためフォローの準備だけして、ここは黙って見ていて下さい」

エマの顔には笑みが浮かんでいる。

 

マジかよ、コイツら……。

 

アッシュは困惑しながらもそれに従った。

 

 

 

 

 

 

「おや?どうされました、お嬢様?」

1人でフラフラとダイニングへと入って来た銀髪の少女に、受付で対面した黒服が声を掛ける。

「ん、トイレ行ってたら迷っちゃって……オークション会場って何処?」

「ははっ、広い施設ですからね。宜しければ我々がエスコート致しますよ?」

「ん、それじゃヨロシク」

「では、こちらに」

黒服2人が少女へと近付く。他の警備達は遠巻きにその様子を微笑ましく伺いながらも、警戒は解かずに目を光らせていた。

 

 

 

アッシュは物陰から、気が気じゃない様子でそれを見つめていた。

 

ど、ど、どうする気だ??デカパイ眼鏡は安心しきってるみてぇだが、ボーイも含めて15人も居んだぞ??それも身のこなしから見て全員素人のチンピラじゃねぇ。猟兵崩れか軍隊上がりかは分からねぇが、しっかりと戦闘訓練を受けてる連中だ。しかも銃声の1つでも立てちまったら、オークション会場にまで聞こえちまうぞ???

 

緊張から早鐘の様に脈打つ心臓を宥めながら、息を殺して様子を見守る。

 

 

 

「あ、そうだ、良いもの見せてあげよっか?」

銀髪の少女が突然妙な事を言い出した。

「良いもの?」

「ん、良く見ててね♪」

少女はグッと身体を捻ると……。

「よっと!」

その場でクルリと素早く回って見せる。

回転の勢いでグリーンのフレアスカートが、フワリと腰近くまで捲れ上った。

『おおっ!!?♪♪』

その場に居る男共の視線がこれでもかと一点に集中される。

 

 

 

おお!??黒!紐!フロントに赤いリボン!!

 

アッシュも己の動体視力を駆使し、焼き付ける様にその光景をガン見していた。

 

 

 

「……ん」

少女はそんな男共の視線などお構い無しに、捲れ上がった両腿に装備したホルスターから双銃剣を引き抜くと……。

「アクセル……行くよ、シャドウ・プリゲイド!!」

銀閃を煌めかせながら、目にも映らぬスピードで部屋中を飛び回る。

時間にしてほんの数秒……床には白目を向いた15人の男達が幸せそうに寝転がり、破れたジャケットから飛び出した枯葉が乱雑に散らばっていた。

「ふぅー……一丁あがりかな?」

少女は再びクルリと回りながらスカートの中に双銃剣をしまうと、物陰で様子を伺う2人に向かってピースサインを出した。

 

 

 

「ほらね♪凄いでしょう、フィーちゃん」

まるで我が事の様にドヤ顔を浮かべるエマ。それに対して……。

「……」

 

や、ヤッパりあのヒンヌー娘、只者じゃねー……。

 

アッシュは鼻血を垂らしながら前屈みになり、その光景を余すところなく脳裏に刻み込んでいた。

 

 

 

 

 

 

「流石ですねフィーちゃん。トールズの時も桁違いでしたけど、あの時より更に腕を上げましたね」

「ん、さんくす、エマ」

得意気に小さな胸を張る。

「……ですが、あんまり人前でスカートを捲ってはいけませんよ?」

「いや、そう言われても、ここしか装備する所が無いし……」

ちょこんとスカートを摘まんでみせる。

「そうですねぇ……幻視の術でカモフラージュすれば、腰に装着してても周りからは見えなくなりますよ」

「ホント?そんじゃちょっとお願……」

「いや、今のままで良いと思うぜ!」

アッシュが口を挟む。

「絶対に今のままが良い!!回転の反動を利用して相手に飛び掛かる……最高じゃねーか!!」

力強く言い切る。

「アッシュさん……そうするとフィーちゃんは、毎回パンツ丸出しで闘う事になるんですけど?」

「良いじゃねーか!冥土の土産にパンツくらい見せてやっても!!」

「良くありません!!」

「捲れ上がったスカートに目を奪われるのは男の本能だ!俺達は今、絶対不可避の究極の技を目にしたんだぞ!!」

「何処が究極ですか!?単にパンツ見せてるだけでしょうが!!」

「女子のスカートの中には、男のロマンが詰まってんだよ!!」

「変なモノをスカートの中に求めないで下さい!!」

 

……何やら言い合いを始めている。

 

「ん、取り敢えず腰に装着すると、ダクトの中で動き難そうだから後でいいや」

そんな2人を放って、フィーはダクトカバーに手を伸ばした。

「ちっ……しかたねー、後でケリを付けるぜ!」

「良いでしょう、受けて立ちます!」

 

はぁ、もう好きにしてくれ……っていうか、何で人のパンツでそんなに熱くなれるんだ?

 

やれやれと思いながらも、音を立てない様にそっとカバーを壁に立て掛けた。


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