妖精の軌跡second   作:LINDBERG

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第39話 地の底に鬼はつきもの

ん、ヤッパ動きにくいな、この服。

 

安物のドレスを捲し上げ、音を立てない様に注意しながら、ダクト内を四つん這いで進む一向。各部屋の空調を管理しているだけあり、思ったより複雑に張り巡らされているらしい。

施設内の地図が手に入らなかった為、先頭を進むフィーの方向感覚と勘だけを頼りにしているのだが……。

 

んーっと……さっき通り過ぎた所が、多分オークション会場の隣の部屋辺りの筈だから……ん、こっちだね。

 

息が詰まる程に狭くて薄暗いダクトの中を、なんの迷いもなく最短で突き進んで行く。

 

よいしょ、よいしょ……こういうトコに潜り込むのは、いつぞやのオーロックス砦以来だけど、あの時はミリアムと2人で死にかけたからな……今回は穏便に済めば良いけど。……にしても。

 

チラリと後ろに視線を飛ばす。

 

「だから!本来だったらパンツなんか普段は見えねーんだから、ベージュでもなんでも良い筈だろ!?それをわざわざフリフリの透け透けのエロいヤツ履いてるって事は、見られる事を前提にしてるって事じゃねーのか!?」

「それは『いざ!』という時に好きな人限定で見せる為のパンツです!女の子はいつ来るか分からない『いざ!』の為に日夜努力しているのであって、誰にでも透け透けのエロエロパンツを見せる訳ではないのです!」

「男の立場から言わせて貰うとだな、『いざ!』の時はもうパンツに用は無くなってる訳だから、ハッキリ言って何を履いてようが構わねーんだけどな」

「な!?なんてヒドイ事を言うんですか!アッシュさんは今、全国の女子を敵に回しましたよ!!潔くこの場で切腹して謝って下さい!!」

「何でこんな狭っ苦しい所で、腹切んなきゃなんねーんだよ!?」

エマとアッシュは、四つん這いで薄暗いダクトの中を這い回りながら、何やら言い合いをしていた。

「……」

 

こ、コイツらは、何を熱く語っていやがんだ?……それに、ワタシのは透け透けパンツではねーからな。

 

やれやれと眉をひそめながらも、相手にするだけ無駄だと割り切り先へと進む。

 

……ん、そろそろオークション会場は越えてる筈だな。どっかに出口は……お?

 

角を曲がったところで、格子の隙間から明かりが漏れていた。

 

ん、あそこから出れば良さそうだね。

 

息を潜めながら格子へと近付き、外の気配を窺う。

 

……ん、よし、近くには誰も居ない。今のうちに出ちゃおっと。

 

財布からコインを取り出すと、枠を固定しているボルトを器用に外していく……その一方で。

 

「いいかメガネ!男が好きなパンツと、女が可愛いと思ってるパンツが一緒だと思ってんじゃねーぞ!」

「何言ってるんですか!?真に可愛い物は、老若男女で共通してるに決まってるでしょうが!」

「いや、たま~に居やがる良い歳してキャラパン履いてる女を可愛いって言う男は、単にコマしたくて調子合わせてるだけのクズか、どうしようもねぇ真性のド変態だけだ!」

「女の子は幾つになっても可愛いキャラクター物が好きなんです!ヤッパりアッシュさんは今すぐ腹を切り裂いて下さい!私が介錯します!」

エマは魔力を物質化して、銀色の剣を作り出していた。

 

「……」

 

こ、コイツら……いつまでパンツの話してやがんだ?にしてもアッシュはともかくとして、エマも相当溜まってんな。巡回魔女って、そんなに大変なのか?……いや、これは多分ロゼのせいだな、うん。……っていうか、こんなトコでそんな言い合いしてたら。

 

「ん?誰か居るのか?」

格子の隙間から覗き見ると、警備スタッフらしい黒服2人がこちらに向かって近付いて来る。

 

ほら、言わんこっちゃない、案の定こうなったよ。……さぁて、どうしよっかな?

 

ダクト内に隠れているのがバレて短機関銃でも乱射された日には、こんな狭い所じゃ迎撃も回避も不可で、3人仲良く穴だらけで女神送り確定だろう。先手を打って素早く片付けるしかない。

 

ん、ワタシがやると銃声で周りに気付かれちゃうし……よし、ここはいっちょ、色々と溜まってる魔女殿の実力を見せて貰おっかな?

 

エマにお願いしようと後ろを振り返る、すると。

「俺に任せな」

自信有り気にアッシュが前に出て来た。

「え?……大丈夫なの?」

「要は音を立てないであの2人を片付ければ良いんだろ?余裕だ!」

「……」

 

ホントかよ?……ま、折角本人がヤル気になってるんだし、ダメでもターゲットまでそんなには離れてないだろうから、多少手荒でも強引に突破すれば良いだけか……ん。

 

「ん、そんじゃお願い」

身体を入れ替えて、アッシュを格子の側まで移動させると。

「くくくっ、まぁ見てな」

薄笑いを浮かべながら2本のダーツを取り出し、手慣れた様子で先端のティップを取り替えている。

 

「この辺から物音が聞こえた気がしたんだが……」

警戒した様子で黒服達が排気口に近付いた瞬間。

「眠っちまいな!」

格子の隙間から2本の矢を同時にスローイングする。矢は狭い隙間を通り抜けると、見事に黒服達の首筋に突き刺さった。

「うっ!?」

黒服達は膝の力が抜けた様に崩れ落ちると、そのまま泡を吹いて気を失った。

「くくくっ……ティップの先にジギタリスから作った麻痺性の毒を塗ってある。致死量じゃねぇが、しばらくはおネンネしてて貰うぜ」

ドヤ顔を浮かべるアッシュ。

「へー、やるじゃん」

 

意外だ……ただのスケベなヤンキーだと思ってた。

 

そう思いながらもアッシュをほんの少しだけ見直すと、手早く格子を取り外してダクトの外へと這い出し、倒れた黒服達の様子を確認する。

 

……

……

……っ。

 

「……ねぇエマ、ちょっと来てくれる?」

「?、どうかしましたか?」

「ん……」

フィーに呼ばれ、エマも一緒に黒服の様子を伺い、眉をひそめた。

「……これってさぁ」

「ええ……ちょっとマズイかも知れませんね……」

2人は顔を見合わせた。

「あん?どうかしたのか?」

そこへアッシュも顔を覗かせる。

「いや、ダーツの矢が刺さってるトコなんだけど……」

「……動脈のすぐ横です」

「あ???」

矢は首筋の頸動脈を掠める様に、斜めの角度で突き刺さっている。太い動脈まで達しているかは、抜いてみないと確認出来なかった。

「もし動脈を傷付けてたら、抜いた瞬間に出血多量確定かな?」

「ええ……真っ赤な噴水が、天井までピューっと吹き上がりますね」

エマはその光景を思い浮かべる様に、瞳を閉じていた。

「ん、アッシュ、ヤっちゃったね」

「い、いやいやいや!あんな狭い格子の隙間、通すだけで精一杯だったんだぞ!?首のどっかに刺さるとは思ったが、狙ってそんなトコに刺したワケじゃねーからな!?」

「ん、でもヤっちゃったのは事実だから……念のため後で調書取らせてくれる?悪い様にはしないから」

「……この人達にもきっと、家族や大切な人達が居たんでしょうねぇ……」

2人揃って気の毒そうに目を細める。

「そんな目で見るんじゃねー!」

アッシュの顔から血の気が引いていく。

「ふぅ……では、ここは私に任せて下さい」

エマは伊達眼鏡を外すと、瞳を閉じて集中し、魔力を高め始めた。

 

お?流石魔女殿、いつでも頼りになるね。

 

どんな魔女の治癒術が飛び出すのかと、フィーは期待に胸を高鳴らせた。

 

「……ARCUS駆動、ティアラ!」

 

……。

 

「……うん、これで大丈夫ですね」

エマはARCUSをしまうと、ティップだけを残してダーツの矢を取り外した。

「針は抜くと危ないので、このまま残しておきましょう」

回収した矢をアッシュに手渡す。

「アッシュさん、次からは慎重に狙いを定めて下さいね」

「お、おう……」

「……」

 

い、いや……普通の応急措置じゃねーか……魔女の秘術は?

 

「さあ、先を急ぎましょう!」

「お、おう……」

「……ら、らじゃ」

少しだけガッカリしながらも、フィーは2人の背を追った。

 

 

 

 

 

 

オークション会場を背にし、気配を殺して通路を進んで行く。地下に造られた施設、幾らなんでもそこまで大きな規模ではない筈だ。目標は目と鼻の先だろう。警報装置や監視カメラから身を隠しながらも足を速める。

と、左に通路が折れる手前で、不意にフィーは足を止めた。

 

「?、どうかしましたか、フィーちゃん?」

「敵か?」

「しっ!静かにして!」

緊張を含んだフィーの声色に、全員が警戒態勢を取る。

 

……この重っ苦しい空気……鼻に付く微かな匂い……ん。

 

ポケットから手鏡を取り出し、そっと折れた通路の先を確認する。

 

ピキッ!

 

当てられた気配だけで、鏡にヒビが入る。割れて歪んだ鏡面の向こうには……見知った顔があった。

 

「こそこそしても無意味だぜ、潔く出てきな!」

地の底から響く様な、威圧的な声が耳に届く。

 

はぁ、そりゃバレてるよな……ちっ、行くしかないか。

 

視線だけでエマに付き合ってと合図を送り、アッシュにはここから絶対に出るなとハンドサインを見せ、フィーとエマはゆっくりと動き出した。

「あん?随分と可愛いのが出て来たな」

仕立ての良さそうな黒いタキシードに身を包み、両手に巨大な戦斧を持った隻眼に赤毛の大男は、少しだけ驚いた様子を見せながらも、ニヤリと口を弛め。

「気配からして、てっきり同族が来たのかと思ったんだが……はぁ、俺も焼きが回ったかねぇ?」

バツが悪そうに肩を竦めた。

「な、な、なんですか?あのライオン的な風貌の、あからさまにヤバい人は?」

エマが一歩後退る。

「ん……戦鬼、シグムント・オルランド……赤い星座の副団長で、多分現役最強の猟兵……」

「げ、現役最強……」

「ほう?俺の事を知ってるのか?……只の娘じゃ無さそうだが、何者だお前ら?」

「ん……」

素早く視線を走らせ、周囲の状況を観察する。

 

相手との距離、10アージュ。その更に後方10アージュに、黒服の男が2人と金属製の扉、ターゲットは十中八九あの中か……ん。

 

……

……

……っ!!

 

フィーは目にも止まらぬスピードで回転し、太腿から双銃剣を引き抜くと、勢いそのままにシグムントへ飛び掛かった。

「その得物、西風の妖精!」

両手の戦斧で双銃剣の刃を受け止めながら、シグムントは嬉しそうに顔を歪めた。

「久しぶりじゃねぇか!兄貴と猟兵王の一騎討ち以来か!?」

巨大な戦斧が横凪に払われる。

「ん、久しぶり……っていうか、双銃剣出す前に気付いてよ」

それをバックステップで避け、距離を保ちながら素早く背後に周り込んだ。

「ははは、それだけ派手に盛ってたら、解るワケねぇだろ!だがなかなか似合ってるぜ、そのドレス」

しかし展開を読んでいた戦鬼は、体躯に似合わぬ素早さでターンし、正面からフィーを威圧する。

「……ん、さんくす」

攻め手を欠いたフィーは、距離を取り直して近くの壁を駆け上がった。

 

……ったくどいつもこいつも、なんで気付かねぇんだ?……まぁ、自分でも盛り過ぎだとは思うけどさ……。

 

壁を蹴って全体重を乗せた上方からの斬撃、それを戦鬼は片手だけで軽々と受け止めて見せた。

「くくく、相変わらずのスピードだが、重さが足りねぇな。ちゃんと飯食ってんのか?そんなだからいつまで経ってもペチャンコなんだよ」

口元を弛めた戦鬼の視線が、フィーの胸元に注がれた。

「セクハラ親父……そんな事言ってると娘に嫌われるよ?」

「うっ……」

突然振られた娘の話に一瞬たじろぐ隙を見逃さず、フィーは髭で覆われた顎目掛けて、立て回転の強烈な蹴りをブチ込んだ。

「ぐお!??」

サマーソルトキックを受けて喉元がガラ空きになった瞬間、躊躇なく刃を突き立てようと飛び掛かる。

「この、痛ぇだろが!」

だが戦鬼は、攻撃を受けながらも戦斧を振ってフィーを牽制する。

「ちっ!」

双銃剣を十字に構えて受け止めるが、吸収しきれずに吹き飛ばされてしまった。

 

にゃろー、馬鹿力め!

 

空中でクルクルと回転しながら勢いを相殺し、離れて見守っていたエマの隣に着地して双銃剣を構え直す。

「おー、痛てて……こんなにキレイに貰ったのは久しぶりだぜ……やるじゃねーか、シルフィード!」

顎を擦りながらも、ニヤリとした笑みを浮かべている。

「ん、そっちも相変わらずの怪力だね、腕が痺れて上手く動かないよ……」

両手首をぐるりと回して見せる。

「くくく……良く言うぜ、衝撃は完全に流したんだろ?」

「……バレたか」

「全く、これだから西風の連中とヤり合うのは、止められねぇな!」

心底嬉しそうに戦斧を構えている。

「ん、念のために言っとくけど、ワタシはもう旅団の一員じゃ無いからね」

双銃剣を握る手に力を込めた。

「だ、大丈夫ですかフィーちゃん?」

「ん、全然へーき。タダの挨拶みたいなもんだし」

「あ、あれが挨拶……」

エマの顔がひきつり、物陰でその様子を伺うアッシュはあんぐりと口を開けていた。

「んじゃエマ、リンク繋いで。ここから本番」

言いながら戦鬼の背後に居座る黒服達の様子を伺うが、特に動く気配は感じられ無かった。

「安心しな、アイツらは扉に近付かない限り、手出し無用だと言い含めてある。星座の部下達も連れて来ちゃいねぇし、お前らの相手は俺だけだ」

「?、星座の副団長が1人だけで仕事?珍しいじゃん」

「ああ、ここのマフィアとは少しばかり表の商売で取引があってな。招待状が届いたもんだからてっきりオークションの客として呼ばれたんだと思ったら、まさかの警備依頼だったってワケだ」

髭面に苦笑いを浮かべている。

「まぁ、料金は弾んで貰ってるから、文句は無ぇんだがな」

「あ、それでそんな格好してるんだ」

身体にピタリとフィットしているタキシードを見つめる。

「オーダーメイドの特注だぞ、どうだ?」

戦斧を構えながら胸を張る戦鬼……それに対し。

「ん、ビックリするくらい似合ってないよ」

フィーは容赦無い感想を吐露した。

「おいおい、少しは気を使えよ、こっちはちゃんと誉めただろが」

「ん、不器用だから。ゴメンね」

「ったく、これだから近頃のガキは……」

不満を漏らしながらも、そんなに似合ってないかな?と首を捻り、自分の格好を確認している。

「……」

 

その厳ついガタイでフォーマルが似合うとでも本気で思ってやがんのか?……そういや娘も結構イカれたファッションだったし……センスって、遺伝するんだな……。

 

やれやれと目を細める。

「ん、そんじゃ、そろそろ続きといこっか?」

「良いだろう、礼儀のなってねぇガキに、社会人のマナーを叩き込んでやるぜ!」

「いや、それはどっちかって言うとワタシより、自分の娘を優先したら?」

「くっ……減らず口を……」

 

エマとリンクラインを繋ぎ、姿勢を落として足に力を溜める。

「……ん、エマお願い!」

「了解です!」

リンクを通して届いたフィーの指示に従い、エマはここまで通って来た通路に向けて、ヴォーバルフレアを展開する。隠れながら様子を伺うアッシュの後方が、炎の壁に包まれた。

「ん、これで向こうからの援軍も押さえられたね」

「ええ……でも、逃げ道も無くなりましたけど?」

「ん、それはあのオヤジを倒してから考えればOK……そんじゃ、行くよ!!」

烈風を身に纏い、フィーが再び飛び掛かる。

「了解です、フォローは任せて下さい!」

オーバルスタッフを構え、エマが詠唱を始める。

「来やがれ、シルフィード!」

シグムントが声高に吠え、全身から赤黒いオーラを発する。

 

地下施設の狭い空間。空気が震え、床と壁が揺れていた。

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