妖精の軌跡second   作:LINDBERG

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第4話 ギャンブルは程ほどに楽しむモノ

いきなり競馬場かよ……。

 

ヘイムダルに到着すると、ロゼは脇目も振らずに競馬場への案内を要求してきた。今は観客席の最前列に腰を下ろし、フィーはジュースを、ロゼはビールを飲みながら競馬観戦を楽しんでいる。

 

まぁ、馬は観てて飽きないし、コレはコレでアリかな?

 

目の前ではサラブレッドが美しい筋肉と毛並みを靡かせ、颯爽とパドックを闊歩している。乗馬の経験は未だに無いが、是非とも1度は乗ってみたいものだ。

そういえばガイウスが、ノルドに来れば朝から晩までいくらでも乗せてくれるとか言ってたな。

 

「馬は良いのう。強く賢く気高く、ただひたすらに前を向いて走るという生命の力を感じるわい」

ロゼが口を開く。

「ロゼは馬に乗った事あるの?」

「ん?獅子戦役の頃はドライケルスやリアンヌの背に乗って、一緒に戦場を駆けたものじゃが、1人で乗った事はないのう」

 

ドライケルス・ライゼ・アルノール……獅子心皇帝。リアンヌ・サンドロット……槍の聖女。250年前の英雄達。

……交遊関係が広いね、……どっちもとっくの昔に教科書の中の人だけど……。

 

「そういえばフィー、おぬしもリアンヌと仲良くしておるそうじゃな?」

「え?……。……いや、何かの間違いでしょ。ワタシの周りに槍を持った250歳のババアなんて……っ。……あ」

唐突に『ある人物』が思い当たった。

「今は『身喰らう蛇』とやらで活動し、確か『アリアンロード』とか名乗っとるらしいの」

 

……え?マジで?……って事は。

 

「……マスターって、リアンヌ・サンドロットなの?」

「?、なんじゃ、知らんかったのか?……むぅ、……もしやすると、本人は内緒にしていて欲しかったのかも知れんのう……。スマンが、今聞いたのは忘れてくれ」

「ん、忘れるのはムリだけど、誰にも言わないよ」

「うむ、では、それで頼む」

 

何か、スゴい情報を聞いた気がするけど……。ま、いっか、遊撃士協会にも内緒にしとこ。

 

「そろそろ第1レースが始まるのう。フィー、馬券を買って来てはくれぬか?」

「イヤイヤ、買えないから」

「?……、何故じゃ?」

「何故って……、未成年だから」

「ほう、成人していないとギャンブルは出来んのか?仕方ないのう、妾が買って来るとするか」

「イヤ、だから無理だって!」

「?……、何故じゃ?」

「何故って……、子供にしか見えないから」

「なっ!?妾は800歳じゃぞ!?成人40人前じゃぞ!?」

「何人前でも無理でしょ、自分のナリを考えなよ」

「むう、面倒じゃのう。……じゃがまぁ、何とかなるじゃろ」

ロゼは腰を上げると、スタスタと馬券売場へと歩いていく。

 

……ホントに大丈夫かよ。そういえばビール自体、良く売って貰えたな……。

 

目を細めてロゼの後ろ姿を見送る。

 

 

 

数分後

 

 

 

「バッチリ買えたぞい!」

馬券をヒラヒラとさせながら、笑顔のロゼが戻って来た。片手には競馬新聞がしっかりと握られている。

「……良く売って貰えたね」

「ふっ。売場の小僧が『お嬢ちゃん、子供にはまだ早いよ』とか抜かすもんじゃから、暗示の魔法に掛けてやったわい!」

 

……魔法、万能かよ。……っていうか、ビールもそうやって買ったのか?

 

「フィー、おぬしの事もしっかりと馬券売場の小僧に刷り込んでおいたからのう。行けば問題なく買えるはずじゃ」

自信に満ちたドヤ顔をフィーへと向ける。

 

……誰も頼んでねぇよ、そんな事。

 

「さあ、レースが始まるぞい!」

「……ちなみに何を買ったの?」

「ん?第1レースは手堅くド本命じゃ!」

「えーっと、1-3?」

「うむ!コレでバッチリな筈じゃ!」

「……」

「な、なんじゃ、その顔は?」

「ん、多分6-4だと思うよ」

「6-4?」

ロゼが競馬新聞を見つめ、すぐに顔をしかめた。

「……フィーよ、若い者はすぐに穴を狙いたがるが、現実はそう甘くはないぞ。ここは手堅く本命が正解の筈じゃ!」

「ん……、そう」

「さあ、出走じゃ!おぬしも妾の馬を応援してくれ」

 

……いや、オメーの馬ではねぇけどな。

 

 

 

数分後

 

 

 

「……」

「あーあ、残念だったね」

ガックリと肩を落とすロゼをフィーが慰める。

「……何故じゃ?」

「ん?」

「何故年端も行かぬ娘っ子が、6-4などという読みが出来るのじゃ!!?馬連で82倍も付いとるではないか!!」

 

あ、そんなに付いてたんだ。……100ミラ位買っとけば良かったかな?

 

「何故じゃ!?フィー!!只のカンにしては冴え過ぎじゃぞ!?」

「ん、半分はカンだけど、馬の筋肉の張り具合とか、歩行の仕方とか、気合いのノリとか……。んー、でも、やっぱ、最後はカンかな?」

「……天才か」

呆れ顔が浮かんだ。

「まぁ、ギャンブルなんて勝つときは勝つし、負ける時は負けるもんだって」

「えぇーい!おぬしの様な娘っ子に、その様に諭されとうないわい!!」

気合いを入れ直してロゼが立ち上がった。

「見ておれよフィー!伊達に800年も生きてはおらぬ所、その目に見せつけてくれるわい!」

ミラ紙幣を握り締め、大股で馬券売場へと去って行った。

 

あーあ、止めた方が良いかな?……ま、いっか。何か面白そうだし。

 

 

 

……数十分後。

 

 

 

「……」

最終レースの重賞を残し、フィーの隣でロゼは真っ白な灰になっていた。

ここまでの成績は全戦全敗……。しかも穴狙いではなく、手堅い所を買っているのに1つも勝てていない。

……魂が口から半分飛び出している。

「……フィーよ、この場で妾の両眼を抉り取るが良い……。800年も生きて来て、どうやら妾には何一つとして物事が見えてはおらなんだ様じゃ……」

……とうとうブッ飛んだ事まで言い始めた。

「ん、目に映るものが物事の全てじゃないし、そんなに気にしなくても良いんじゃない?」

「……おぬしは優しいのう……。じゃが今の妾にそんな優しさを受ける資格など、有りはせんのじゃ……」

「で……、いくらヤられたの?」

「……20万程」

「残りは?」

「……」

 

……はぁ、しょうがねぇなぁ。

 

自分の財布から全財産の2万ミラを取り出し、ロゼに手渡す。

「最終レースは荒れないと思うから、コレで2-3買って来なよ。多分大丈夫だから」

「!!……、よ、良いのか!?」

先程まで死人も同然だったロゼの顔が、輝きに満ち溢れた。

「ん、まぁ、折角来たんだし、ワタシも1レース位は付き合うよ」

「……え、エマは幸せ者じゃ!おぬしの様な心優しき友に恵まれるとは!」

ロゼは大粒の涙を溢しながら、フィーからミラを受け取った。

 

んー、博打の元手を貸すのが、ホントにその人のためになるかどうかは微妙なラインだけどね……。

 

「では買って来るぞい!2-4じゃな!」

意気揚々とロゼが馬券売場へと歩き出し、その小さな後ろ姿をフィーが見送った。

 

……ったくどうしようもねぇ、ババアだな、少しはベアトリクスを見習えよ……。向こうは80年も生きて無いけど、アンタよりもずっと落ち着いてるぞ。

……

……

……

ん?あれ?

あのババア、2-4とか言ってなかったか?

 

パドックを横目で眺めつつ、ロゼが座席に置いていった、競馬新聞を手に取った

 

えーっと、最終レースの出走は……。

2枠、デーブインパクト

3枠、アーメンドイイ

4枠、ハルウラメシヤ

……

……

……

いやいや、どう考えても2-3しかあり得ねぇじゃん……。

 

思わず瞳を細める。

掲示板に現在のオッズが公表されているが、2-3が馬連で10倍なのに対して、2-4は120倍だ。

……ハルウラメシヤの人気は皆無らしい。

 

やべぇ、ミスった、ワタシが自分で買いに行けば良かったかな?

……まぁ、付き合いだし、いっか。

 

そう思いつつも『せめて1万ミラだけにしとけば良かった』と悔いるフィー。

 

 

 

 

 

 

「買って来たぞい!」

出走直前、戻って来たロゼが誇らしげに馬券を見せつける。

ソコにはしっかりと『馬連2-4』と書かれていた。

 

……ヤりやがったよ、このババア。

 

あからさまに肩を落とす。

「ん?どうかしたのか?」

「いや……、今さら何を言っても無駄だし、良いや……」

「???」

「んじゃ、気合い入れて応援しようか。……4番を……」

「うむ!任せておくが良い!喉が張り裂けるまで応援してやるぞい!」

 

応援でどうにかなるのかな?……いっその事ドーピング的な魔法でも、馬に掛けて貰おうか?きっと、薬物検査もパス出来るだろうし……。

 

思わず人の道に外れた発想に行き着いてしまう。

 

「さぁ!最終レースじゃ!終わり良ければ全て良しと行こうではないか!」

「ん、だね……」

 

……はぁ、……奇跡起こらねぇかなぁ。

 

 

 

 

 

 

……レースは序盤の段階でほぼ決まった。

16頭立ての最終レース、スタートの時点で1頭だけが思いっきり出遅れた……(出遅れたのがどの馬かは言うまでもない……)

レースはそのまま順当に進み、最終コーナー手前で好位地をキープしていたデーブインパクトが抜け出し、直線で見た事が無い程の強烈な末脚を爆発させ、2着以下に10馬身以上の大差を付けてゴール!

2着以下は混線の様相を呈していたが、地力の差を見せつけ、アーメンドイイが頭一つ抜け出してそのままゴール!

……するかに思えたその瞬間。

青天の霹靂。ゴールゲートのすぐそばへ、雲一つ無い青空からまさかの落雷。

驚いた競走馬達がパニックに陥り、恐怖で身動きが取れないでいる間に、スタートから大きく出遅れ、落雷の影響を受けずにいたハルウラメシヤがゴール!

2-4……、120倍の万馬券が確定した。

 

……マジかよ、奇跡なんてもんじゃねぇぞ……。

 

思わず、先程の落雷は魔法で起こしたモノなのかと勘繰ってしまい、隣に座るロゼを見やる。

「め、め、女神よ!感謝するぞい!」

……ロゼは全身を震わせながら、空の女神に心からの感謝を捧げている(魔女でも女神信仰の習慣はあるらしい)

どうやらホントにただの偶然らしい。

 

……信じらんねぇ、ワタシの言う通りだったら負けてたじゃん。このババア、マジで最後に万馬券もぎ取りやがった。

 

「……そして女神以上にフィーよ!おぬしには感謝してもしきれんぞい!」

「え?」

「2-4と言い出した時にはどうなる事かと思ったが、おぬしを信じて正解じゃったわい!!」

 

……いや、ただの聞き間違いなんだけどね。

 

「危うく里の連中に内緒で持ち出した20万が、キレイサッパリと無くなるところじゃった!!」

 

……、正気か?このババア……。

 

「さあ!換金して帝都の街に繰り出すとするぞい!」

「ん、勝ったんだから、元金の2万は返してね」

「勿論じゃ、案ずるでない!10倍にして返してやるぞい!」

 

いや、そのまんまで良いから……。

 

「ふはははは!笑いが止まらんぞい!コレ程楽しいのは獅子戦役の時以来じゃ!」

 

……ソコと競馬を比べんじゃねぇよ。

 

「さぁ!付いて参れ!フィー!」

ロゼが肩を揺らして歩き出す。

 

はぁ……、やっぱりこんな依頼、受けるんじゃなかったな。

 

少し俯き加減のフィーがその後に続いた。

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