妖精の軌跡second   作:LINDBERG

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第5話 お金は見せびらかすモノじゃない

「追うのじゃ、フィー!絶対に逃がすで無いぞ!!」

「……はぁ、……らじゃ」

2人組の男達を追ってフィーが走り出す。

時刻は夕方、帰宅する学生や会社員でヴァンクール大通りは人波に溢れていた。

人混みを掻き分けながら逃げる男達、渋々といった様子ながらも懸命にそれを追いかけるフィー。……そして『追跡はフィーに任せて、妾は援護に徹しようぞ』と決めたロゼは、ピクリとも動こうとせずに、その後ろ姿をただただ見送った。

 

 

 

数分前

 

 

 

「見よフィー!この光輝くミラ紙幣の束を!」

換金を終えた2人は競馬場を後にし、ヴァンクール大通りへと移動していた。

人目を全く気にもせず、帯封がされたミラの束2つと数枚の紙幣を、ロゼが高々と掲げて見せる。

「ちょっと、ダメだって。こんな人通りが多いトコでそんな事しちゃ」

「なーに、構うものか。喜びとは他者と共有してこそ意味のあるものじゃ!」

「いや、そういう意味じゃなくて……」

「ともかくフィー、おぬしには感謝しておるぞ!約束通り借りた2万の10倍、20万ミラを渡しておくぞい!」

ロゼが数枚の紙幣を束にして、フィーへと手渡す。

「……ホントに良いの?こんな大金」

「なぁに、おぬしに20万渡したとて、まだ220万も残っておるわい!デパートで買い物をしても、ちょっと遊ぶ位は余裕じゃろう!」

「……」

 

いや、っていうか、里から無断で持ち出した分は、先にキープしとけよ……。

 

「わはははは!ヘイムダルは楽しい所じゃのう!」

 

……ほんの数十分前は、真っ白な灰になってた筈なんだけどな……。

 

元気な800歳だと感心しながらも目を細める。

 

「おっと!……ゴメンよお嬢ちゃん」

不意に2人組の男達がロゼに肩をぶつけ、謝りながら通り過ぎる。

 

「ぬぉ!?おわぁ!?」

突然の事にバランスを崩し、ロゼが尻餅を着きそうになった。

「っと……、ほら、浮かれて周り見てないからだよ」

フィーが倒れそうになるロゼの背中を受け止め、真っ直ぐに立たせてやる。

「む、むぅ……すまん、年甲斐もなくはしゃぎすぎたわい……」

ロゼは幾分反省した様子で、フィーへと向き直り謝罪を口にした。

「そんな事より、お金はあんまり人に見せびらかしちゃダメだよ。ちゃんとしまって」

「む?そ、そうなのか?……競馬場での事といい、人の子の世は色々と決まりが多いのう……」

渋々といった様子でフィーの言に従う。

 

……いやいや、魔女の世でもその辺は同じじゃねぇのか?エマは結構しっかりしてたぞ?

……あ、でも内戦の時は人目も気にしないでバンバン魔法使ってたな。……そういや、セリーヌも後半は誰彼構わず、普通に喋ってたし……。

 

学生時代の前半、自分だけがセリーヌと話せるものだと思っていたフィー……。真実を知った時は、少なからずショックを受けていた。

 

「む?ぬぉ!?」

突然ロゼがすっとんきょうな声を上げる。

「……ふぅ、……今度は何?」

「な、な、無い!右手に持っていたミラの束が無くなっておるぞい!?」

慌てふためくロゼが捲し立てる。

「さっきぶつかった時、落としたんじゃないの?」

「さ、探してくれ、フィー!」

「はいはい、分かったからそんなに慌てなくても……、?」

不意にフィーの脳裏に、先程ぶつかって来た2人組の様子が思い出された。

 

……あれ?……微妙に違和感が。

 

さっきはロゼに気を取られ見逃していたが、今思うと、向こうから意図的にぶつかって来た様に思えた。

 

……って事は?

 

素早く視線を大通りの先へ飛ばし、瞬時に先程の2人組を視認する。男達はニヤニヤとした笑みを浮かべながら、20アージュ程離れた所を歩いていた。

「ねぇ、アンタ達、ちょっと待って」

フィーが男達の背中に向かって声を掛ける。

「っ!!」

男達はフィーに何も応える事なく、一目散に走り出した。

 

「?、どうかしたのか?フィーよ」

「ん、さっきぶつかった2人組。スリだったみたいだね」

「な、何!?」

ロゼが既に50アージュ程離れた2人組を見つめる。

「ぬぅ、何という事じゃ!これが人の子の悪意というやつじゃな!?」

「……」

 

……いやいや、どっちかっていうと、こんなトコで堂々と札束見せびらかしてる、アンタの方が悪意あるから……。

 

「追うのじゃ、フィー!絶対に逃がすで無いぞ!!」

「……はぁ、……らじゃ」

銀髪を靡かせ、フィーが追跡を開始した。

 

 

 

 

 

 

相手は成人男性2人、一見したところ戦闘に関しては素人、武器の所持は不明。

街中だから流石に銃器は使えないけど……、ま、余裕かな。

 

薄い笑いを浮かべながら、人混みを縫う様に大通りを疾走する。2人組を捕まえたら今日1日溜まりに溜まった鬱憤を、全部ぶつけてやるつもりだった。

 

 

 

一方、追いかけられる男達は驚愕していた。女学生と言っても差し支えない年頃の娘が、後ろからとんでもないスピードで迫って来ている。

……しかも、全身から目に見える程に、強烈な怒気を発していた。

……明らかにヤバい。

「な、なんだあのガキ!?可愛い顔してメチャクチャ速ぇぞ!!」

「は、走れ!どう考えても捕まったらタダじゃぁ済まねぇ!!」

人間に僅かながら残された、野性の本能が告げる。

『逃げろ!心臓が張り裂けるまで走れ!足を止めるな!止まったら煉獄で火あぶりだぞ!』

息を切らしながら、全力で男達は走る。だが後ろから迫る少女は、それ以上のスピードだ。

……生き物としての桁が違う。

 

『……に、に、人間じゃねぇ……』

思わず男達が声を揃えて呟く。

 

「ど、ど、どうすんだ!?捕まったら絶対ひどい目に合うぞ!?」

「ぐうっ!?……仕方ねぇ」

男達は目配せをすると、互いに懐から黒く光る導力銃を取り出した。

 

 

 

 

 

 

!?、ちぃ、持ってやがった。

 

フィーが顔をしかめる。

人で混雑する大通り。こんな場所で導力銃など撃たれた日には、怪我人だけでは済まないかも知れない。

 

んー、どうしよっか?念のためARCUSで憲兵に連絡取った方が良いかな?事故があってからじゃ遅いし。

……っていうか、何でワタシは1人でスリなんか追っかけてんだ?確か朝はサラと一緒だった筈なんだけど……。

あれ?そういえば、サラどうしたっけ???

 

今更ながら自分の恩師の存在を思い出す。

 

ま……、いっか。サラならほっといても自分でなんとかするでしょ。

 

……だが、思い出しただけで、1リジュも心配する事はなかった。

 

そんな事を考えているうちに、男達に動きがあった。車道に止まっている導力車に向かって銃を構え、無理矢理運転手を引き摺り下ろしている。

 

はぁ、……ったく、余計な面倒増やしやがって。

 

「あはははっ!ざまぁ見やがれ!」

「あばよ、くそガキ!」

男達は強引に車を奪い取ると、フィーに向かって中指を立てながら導力車を発進させる。

 

……ちっ。

 

軽い舌打ちの後、腰の双銃剣に手が伸びるが、ギリギリの所で思い止まった。

 

イカンイカン、こんなトコで銃撃戦はダメだよね。もう少し人通りが少ない所に追い込んでからにしよっと。

 

エメラルドの様な瞳が、妖しく輝く。

 

……っていうか参ったな。走って追いかけても追い付けそうだけど、導力銃で狙い撃ちにされちゃうしなぁ……。

何か足変わりになるモノは……。ん?

 

辺りを見回すと、丁度通りの反対車線からTMPの警備車両がこちらに向かって来るのが見えた。

 

ん、グッドなタイミングだね。

 

導力車が行き交う大通りを躊躇いもなく横断し、走行中の車両に走って並走しながら、無造作に運転席のドアをこじ開けた。

「!!?、……な、な、な!??」

ハンドルを握る若い憲兵の目が驚愕に見開かれる。

「ん、ブレイサーギルドの者だけど、ちょっと車借りるね」

出来るだけ優しく振る舞いながら、小さなお尻を無理矢理運転席に滑り込ませ、男を助手席へと追いやる。

「よっと」

座席に乗り込むと、間髪入れずにクラッチを踏みながらハンドルを切り、車体の向きを180°変えてやった。

「なあぁぁ!?!?!?」

助手席に追いやられた男が絶叫を上げる、驚きと恐怖で顔面は真っ青に染まっていた。怯えた子犬の様な瞳が、フィーを見つめている。

「ゴメンね、導力銃を持った男2人が220万ミラと車を盗んで逃走してるから手を貸して」

「ど、導力銃?強盗事件??」

「アンタ市街地警備の人?」

「へ?は、はい!そうです!」

「念のため無線で連絡回してくれる?」

「い、イエス!マム!」

若い憲兵がフィーに対して、これ以上無い程に畏まった敬礼を見せる。

「……いや、ワタシはアンタの上官じゃないから、敬礼はしなくて良いんだけど……」

「い、イエス!マイロード(ご主人様)!!」

「……」

 

ま、協力してくれるんなら何でもいっか。

 

アクセルを強く踏み込むと、憲兵車両は前列の車を豪快に追い越して行った。

 

 

 

 

 

 

「おい!後ろから憲兵隊の車が追って来やがるぞ!?」

「クソが!憲兵ってヤツは困ってる時には一切助けてくれねぇってのに、何でこういう時だけは行動が早ぇんだ!?」

男達が逃走車両内で口々に罵声を垂れ流す。

混雑するヴァンクール大通りを離れ、車はライカ地区方面へ向かっていた。

「構う事はねぇ、このままガンガン飛ばせ!」

「ああ、久し振りのデカイ稼ぎだ!捕まってたまるか!」

 

男達は知らなかった。後ろから追って来ているのが誰なのかを。そして、誰のミラを盗んだのかを……。

 

不意に逃走車の後部から強い衝撃が走り抜け、車体全体が軋みをあげる。

「な、なんだ!?!?」

男達が同時に後ろを振り返ると、リアウィンドウいっぱいに憲兵隊の車両が迫っていた。

「つ、追突して来やがった!?」

「し、信じられねぇ!?人としてやって良い事があるだろうが!?」

驚愕の表情で追突してきた車両を見つめると、運転席には見覚えのある銀髪の少女が座っている。

「や、ヤベぇ、あのガキだ……」

「な、何者だあのガキ……。可愛い顔して、無茶苦茶だぞ……」

男達はようやく悟った。……どうやら虎のしっぽを踏んだらしい事を。

 

 

 

 

 

 

「ん、このまんま人通りがない区画に押し込んじゃうから、向こうが停車したら一気に制圧するよ」

「い、イエス、マイロード!地の果てまでお供致します!」

助手席に座る憲兵の顔に、固い決意が見てとれた。

「……ん、……よろしく」

 

何か勘違いされてるっぽいけど……、ま、いっか。

 

アクセルを全開まで踏み込み、車体をぶつけて強引に前の車を、石畳で舗装された細い路地へと追い込む。

「うぎゃー!!」

「ヤめろぉ!!」

前の車から男達の絶叫が聞こえるが、勿論フィーが気に留める事は無い。

そのまま脇道に入った盗難車両は、壁にガリガリと擦られ、その動きを止めた。

「このくそガキが!!」

「てめぇ!その可愛い顔ぐちゃぐちゃにしてやらあぁ!!」

いきり立った男2人が車から飛び出し、運転席に座ったまま何処か満足気な顔のフィーに向かって導力銃を構えた。

 

ふふん、そんじゃ、仕上げにちょこっとだけ遊んであげよっかな。

 

笑みを浮かべたフィーが、指の間接をポキポキと鳴らしながら、憲兵車両のドアノブに手を掛けた。

 

「動くな貴様ら!既に応援は呼んであるぞ!」

フィーが飛び出すよりも早く、助手席から憲兵が勢い良く飛び出した。

「武装解除して腹這いに……、あ」

……勢い余った憲兵は、石畳の隙間に足を取られ、盛大にずっこけて犯人達の目の前に突っ伏した。

『……』

犯人達は一瞬無言で顔を見合わせると、憲兵を引き摺り起こして、その喉元に導力銃を突き付けた。

「妙な真似するんじゃねぇぞくそガキ!」

「こいつの命がどうなっても良いのか!!」

「……っ」

 

……はぁ、ツいてない日は、とことんツいてないな……。

 

導力車から降りたフィーは、両手を挙げて無抵抗の意を表した。

 

「ぐへへへっ、形勢逆転だな、くそガキ!」

「散々ビビらせてくれやがって、どうなるか分かってんだろうな!?」

「?、どうなるの?」

「そりゃあ勿論、R15の作品じゃあ描けない様な事をしてやるよ」

「ぐふふふっ、ピーっ!とか、バキューン!ってなっちゃう事、いっぱいやってやるからよぉ!」

「……」

 

……ったく、これだから男は……。

 

侮蔑を含んだフィーの目が細くなる。

 

「ま、マイロード!申し訳ありません!わたくしの事など構わず、この無法者達を滅殺してやって下さい!」

まだ年若い憲兵がフィーに向かって懇願する。

「……」

 

イヤイヤ、何でコイツは命投げ出そうとしてんだ?っていうか、滅殺とかはしないから。

……今のトコは。

 

「うるせぇ!てめぇは黙ってろ!」

男の1人が銃床で人質を殴りつける。

「ぐぅっ!?」

憲兵の口から多量の血が吹き出す。歯が折れたのかも知れない。

流石に黙ってられない。

「ん、ストップ。それ以上やったら……、?」

不意に背筋が強張る。

超弩級の手配魔獣や、結社の執行者クラスと対峙した時の様な、嫌ぁな気配が周辺に立ち込めていた。

 

な、なんだ、この感じ?

 

瞬時に全神経を研ぎ澄ませ、辺りの様子を窺う。

 

……っ、上?

 

見上げると、黄金の髪を靡かせた少女が空中を漂い、夜叉の様な顔で紅蓮の魔導杖を高々と掲げていた。

「フィー!良くぞ追い詰めてくれたのう!後は妾に任せるがよい!」

魔導杖があからさまにヤバそうな光を放っている。

 

いやいやいや、ババア!!こんな街中で何する気だ!??

 

「人の子よ、喰らうが良い!我が怒りの業火を!!」

 

咄嗟に煌魔城で相対した、結社のNo.1を思い出す。

あの時はラウラのお父さんが助けに来てくれたから何とかなったが、あのままヤりあっていたら、間違いなくサラを含めたⅦ組全員が、消し炭になっていた事だろう。

……あの時と同じレベルのプレッシャーを感じる。

 

……っていうかババア!ワタシが居る事分かってんだろうな!?

 

『あ、あ、あ……』

目の前に居る3人の男達は、ただ呆然と天を見上げ、子羊の様にガタガタと膝を震わせていた。

 

「燃え尽きるが良いわ!!」

ロゼの杖先から、獄炎の火の玉が放たれた。

 

「ちぃ!!」

フィーが地面を強く蹴って、勢い良く男達に飛び掛かる。そのまま体当たりで3人を弾き飛ばしなから、自分自身も危険地帯からの離脱を試みる。体当たりした拍子に男のポケットからミラの束が滑り落ちるが、拾い上げる余裕は無かった。

直後にすぐ間近で強烈な熱波が弾け飛び、周囲を灼熱の渦へと飲み込んでいく。

小規模ながら、煉獄さながらの業火が辺りを包み込んだ。

 

「わははははっ、天罰じゃ!人の子よ、己の罪を悔い改めるが良いぞ!!ぬはははは……ぐはっ!?」

突然、高笑いするロゼの後頭部を、何か固い物が直撃する。不意を突かれたロゼは、滞空制御のコントロールが出来ずに地面へと落下した。

 

「……い、痛つつっ……。な、なんじゃ一体!?」

頭をさすりながら、ロゼが身体を起こす。

「なんじゃ?じゃねぇよ、このババア!」

ふと顔を上げると、怒りを露にしたフィーが仁王立ちで見下ろしていた。

傍らには3人の男達が折り重なる様にして仲良く気絶している。所々焼け焦げてはいるが、取り敢えず生きてはいるようだ。

 

不意に、何処からともなく双銃剣の片割れが、ブーメランの様にクルクルと回転しながら飛んできて、寸分のくるいもなくフィーの手に収まった。その様子を見て、ロゼは先程自分の後頭部を襲った物が何なのかを理解する。

「な、何をするんじゃ!?」

「それはコッチのセリフ。帝都の街ごとワタシまで吹き飛ばす気?ミラもすっかり燃えちゃったし……」

「なっ!?妾はおぬしがピンチじゃと思って……」

「全然ピンチでも何でも無いから。人質が居たってあんなチンピラ如きに、ワタシがどうにかされると思う?」

「むぅ……。冷静に考えると、向こうに加勢すべきだったやも知れぬな……」

 

……いや、別にスリに手を貸してやらなくても良いんだけど。

 

「……にしてもじゃ、フィー!そんな危険物を投げて寄越さなくても良いではないか!?一歩間違って刃の方が当たっていたら、首から上がキレイサッパリと無くなっておったぞ!?」

「ん、それは大丈夫。ちゃんと柄の方が当たるように、調整して投げたから」

「ほ、本当か??……随分と器用な真似が出来るんじゃのう」

「ん……」

 

ま、ウソだけどね。

 

「っていうか、どうすんの?こんなにしちゃって?」

フィーが顎をしゃくって、辺りを見回せとロゼに促す。

石畳の道路にはクレーターが出来上がり、周辺の建物は高熱で歪に変形している。

……歴史深い古都の一角とは、思えない有り様だ。

「シャレになってないよ、魔法で直せるの?」

「むう……、壊れた物を直す魔法は、あるにはあるのじゃが……」

「じゃが?」

「一度魔力を浴びた物質を再構築するには、ある程度の年月を掛けて浄化してやる必要があってのう。今すぐにはどうにも出来ぬのじゃ」

「……ある程度って、どん位?」

「そうじゃのう……、50年位かの?」

「……」

 

50年?なんでこのババアが出す数字は、イチイチ単位がデカイんだ?……長生きするのも考えもんだな。

 

「まぁ、大丈夫じゃろう。人の子はモノ造りが得意じゃし、この程度ならすぐに元通りじゃろ?」

「……ん、そうなれば良いけど……、!?」

不意に、背後から人の気配を感じてフィーが振り返る。

青い髪を一つに纏めて肩に垂らし、TMPの制服を身に纏った若い女性が、氷の様に冷たい視線でこちらを見下ろしていた。

 

いつから居たんだ?接近に気付けなかった……。流石氷の乙女だね。

 

「あ、クレア。……久し振り」

「ええ、お久し振りです、フィーちゃん」

クレアが穏やかな笑みを浮かべながら応える。

だが、口元は笑っているのに、目はアイスメイデンそのものだった。

「ん、春に准佐に昇進したんだっけ?おめでと」

「ありがとうございます。フィーちゃんも、最年少での正遊撃士昇格、おめでとうございます」

「ん、さんくす」

「……」

「……」

「何か、言う事はありませんか?」

「ん、……ごめんなさい」

「何がごめんなさい、何ですか?」

「えっと、その……、色々壊しちゃって」

「……ふぅ」

呆れ顔を浮かべながら溜め息を一つ吐き出す。

「……もう学生じゃないんですから、もう少し節度を持ちましょうか?」

「ん……、らじゃ」

 

壊したのはワタシじゃないんだけど……。余計に拗れそうだから、説明はしなくていっか。

 

「そちらの女の子はお友達ですか?」

クレアがチラリとロゼに視線を飛ばしながら、フィーに訊ねる。

「ん、まぁ、そんな感じかな……」

「……色々とワケ有りの様ですが、詳しくは鉄道憲兵隊の事務所で聞きます」

「ん、らじゃ。お手柔らかにお願い」

「……はぁ」

やれやれといった具合にクレアは肩を竦めた。

 

「?、フィーよ何処かへ行くのか?」

「ん?このお姉さんが調書作るから、憲兵隊の事務所まで来てって」

「……面倒じゃのぅ。妾の秘術で、ここに居る全員の記憶を消し去ってやろうか?」

「……余計に面倒クサくなりそうだから、何もしないで」

「そ、そうか……」

ロゼがガックリと肩を落とす。

 

はぁ、魔法は便利だけど、あんまり頼り過ぎるとロクな事にならないな……。

 

暮れていく帝都の町並みを見つめながら、しみじみと思った。

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