妖精の軌跡second   作:LINDBERG

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明けましておめでとうございます。
本年も宜しくお願いします。


第6話 魔女の里の名物

「……まさかこの歳になって、あんなに怒られる事になるとは、夢にも思わなかったわい……」

 

憲兵隊の事務所でクレアからタップリと絞られたフィーとロゼは、帝都の街を後にして、すっかりと日の落ちた西オスティア街道を、カレル離宮方面へ向かって歩いていた。

 

「……何度も言うが、妾は800歳じゃぞ!?もう少し敬老の精神を持ってくれても良いのではないか!?」

「悪い事したら怒られるのは、子供でも大人でも一緒。都合の悪い時だけ年寄りぶらないで」

「……おぬしは、時々真っ当な事を言いよるのう」

「ん、それほどでも」

「いや、別に褒めてはおらんのだが……」

「それより、里から無断で持ち出したミラは、どうやって補填する気?」

「むぅ~~~っ……、……全く案が浮かんでおらぬわい……」

 

……はぁ、……ったく、しょうがねぇな。

 

財布から20万ミラを取り出し、ロゼに手渡す。

「ほら、これで仲間に迷惑掛けなくて済むでしょ?」

「……いや、それは一度おぬしに渡したモノじゃ。返して貰うなどという、カッコ悪い真似は出来ぬ!」

「ん、ロゼはそれで良いかも知れないけど、里の皆が困るんじゃないの?」

「そ、それは……」

「良いから受け取って、どうせ『予想外』で舞い込んだミラだし」

「?……。そ、そうか?……では、おぬしの心意気に甘えるとするぞい」

ロゼは少しだけ畏まった様子でミラの束を受け取り、笑みを浮かべた。

「ふふ、エマに聞いていた通りの娘じゃな、フィー・クラウゼルよ」

「?。エマはワタシの事何て言ってたの?」

「むぅ……、それを妾の口から言う訳にはいかぬな。後で直接聞いてみるがよかろう」

「……ん、そんじゃ、そうする」

 

何を言ったんだ?ボイイン長。

 

「まぁ、色々とあったが、楽しい時間を過ごさせて貰ったぞい。世話になったな、フィーよ」

「ん、ま、仕事だからね」

「ふふ、里に帰ったら礼も兼ねて、しっかりと持て成してやるから、楽しみにしておるが良い!」

「……お構い無く」

「心残りがあるとすれば、デパートに行けなかった事じゃな……。最新の導力ゲームとやらで遊びたかったのじゃが……」

 

このババア、遊ぶ事しか考えてねぇのか?……ったく、しょうがねぇな。

 

「ん……。そんじゃ、ワタシが今度ヘイムダルに行ったら、買って来て届けてあげるよ」

「な、何!?ほ、本当か??」

「まぁ、中途半端に終わらすと、気持ち悪いからね」

「さ、流石は妾が見込んだ娘じゃ!恩に着るぞい!」

「……」

 

……いつ何処で見込んだんだよ?……まさか、競馬場でじゃねぇだろうな?

 

「ゲームソフトはギャルゲーを頼むぞ!帝都近郊の全寮制の学院に入学した黒髪の朴念仁が、女生徒を片っ端から口説きまくるというゲームがあるらしくてな!」

「……」

 

……どっかで聞いたストーリーだ。もしも、発売元がラインフォルト社だったら、企画制作は金髪のお嬢様で間違いないだろう……。

っていうか……、ひょっとして、ワタシも出てるんじゃねぇだろうな???

 

「はぁ……、らじゃ」

 

ま、いっか。……ちょっと興味あるし。

 

「では、エリンの里に帰るとするぞい。フィーよ、もう日も暮れておるし、今日は泊まっていくが良かろう」

「ん、さんくす。そんじゃお言葉に甘えて……」

「水臭いのう、妾との仲で礼など不要じゃ」

 

……どんな仲だよ。

 

「では、参るぞい!」

導力灯が照らし出す夕闇の街道を、2人は並んで歩き出した。

 

 

 

 

 

 

湯けむりの向こうには青み掛かった夜空と、薄明に包まれた深い森が広がっている。虫の囀りとフクロウの鳴き声が耳に心地好く、全身を包む温もりが、今日1日の疲れを溶かしてくれる様な錯覚を覚えた。

「どうじゃ?コレぞ我が里の名物、魔女の湯じゃ!」

ドップリと肩まで湯に浸かるフィーに向かって、酒瓶を片手にロゼが自慢気に語る。

「妾がこの地に里を築こうと思った理由はのぅ、霊脈が集中する場所であるというのもそうなんじゃが、何よりもこの温泉に魅せられてな。そもそも妾がこの地を見つけたのは……」

ゴクゴクと『どぶろく』らしきモノを美味しそうに飲みながら、なおもロゼは昔話を語り続ける。

 

……何で、酒飲みの年寄りは、こう話が長いんだ?風呂くらいゆっくり浸からせろよ。

 

「むっ?聞いておるのか、フィーよ?」

「ん……、聞いてる聞いてる。ヤッパリ風呂上がりは普通のミルクよりコーヒー牛乳だよね」

「そんな話はしておらんぞい!?それに、妾はフルーツ牛乳派じゃ!!」

「んー、フルーツ牛乳は甘過ぎて、すぐ喉乾くからな……」

「牛乳の話はもう良いわい!」

ゴクゴクと更に酒瓶を呷る。

 

ホント、元気なババアだ……。んーっ。

 

ぐぃーっと、伸びをして天を仰ぐ。

上空にも魔法の結界が張られているのか、薄翠色の流動物質がオーロラの様に靡いている。その向こうには満天の星空が光輝き、自分の肉体がまるで宇宙と一体になったかの様な錯覚を覚えた。

 

ユミルの雪景色温泉も良かったけど、ココの星空温泉も悪くないな……。遊撃士してるとアチコチに行く事が多いし、ついでに各地の温泉巡りでもしよかな?

 

「……ふぅ、まったくおぬしは。人の話も聞かんで、すっかり満喫しよってからに……」

やや呆れなからも、ロゼは口元に笑みを浮かべる。

「ん、良いトコだね、ホント。ちょっとだけ、エマが羨ましいよ」

「そ、そうか?」

「ワタシは実家とか故郷とかが無いから、余計にそう思うのかも知れないけど……」

「……っ」

言いながら暗い夜空を眺める。目を細めて、ずっと遠くにある星を見つめる。空の彼方より遠くの星。手を伸ばせば届きそうなのに、決して触れる事は出来ない……。

「……」

「ん?」

「おぬしなら、いつでも歓迎するぞい。妾のアトリエも部屋が余っておるし、温泉は24時間いつでも入りたい放題じゃ。じゃから……」

少しだけ照れくさそうにしながらも。

「……じゃから、Ⅶ組の仲間とやらでも連れて、またいつでも遊びに来るが良かろう」

ロゼは精一杯の優しい口調で語り掛けた。

「ん……、さんくす、ロゼ」

「ふふ、遠慮などせずに自分の家じゃと思って来るんじゃぞ?噂のリィン・シュバルツァーとやらにも会ってみたいしのう」

「……」

 

エマはマジで何を話したんだ?

 

「んーっ」

もう一度身体を伸ばして、空を仰ぎ見る。

 

でも、皆で来たら楽しいだろうな。釣り場もあるし、魔女の里ならではの料理もあるみたいだし……。Ⅶ組の皆だけじゃなくて、トヴァルとか、出来ればマスター達とも一緒に……、ん?

 

不意に近くの草むらから、生き物の気配を感じ取った。

 

何だ?野生動物か魔獣でも迷い込んだか?

 

視線を向けると、暗がりの中から人影らしきものが、ヌッと姿を現す。

……その姿形には、あからさまに見覚えがあった。

 

「ふぃ、フィー……」

「あ、サラ。……お疲れ」

「お疲れじゃないわよ!!アタシを森に置いてけぼりにして、何気持ち良さそうにひとっ風呂浴びてんのよ、アンタは!!?」

暗がりから出現するなり、喚きまくるサラ。服がアチコチとほつれ、緋色の髪の毛はボサボサだ。……どうやら相当歩き回ったらしい。

 

「な、なんじゃ、この威勢の良いおなごは?」

「ん、遊撃士の同僚で、学院時代の担任だった、サラ・バレスタイン」

「ほう、そうか!おぬしがエマの!」

「?、……誰?この娘?」

「……また最初から説明するのか?やれやれじゃのう……」

「取り敢えずサラも入ったら?……妖精の湯に」

「な?ちょっと待てフィーよ!自分の家の様にして良いとは言ったが、何故おぬしの異名を勝手に命名しとるんじゃ!?」

「?、だって魔女の湯なんて、何となく身体に悪そうじゃん?入ったら魂が抜かれちゃいそうで」

「抜くか!そんなモン!!」

「魔女より妖精の方が絶対良いって、癒されそうだし」

「む、むぅ……。妙に説得力があるのう……」

「ちょっと!何でアタシを放って小ちゃい娘と言い合いしてんのよ!?」

「だ、誰が小ちゃい娘じゃ!?」

今度はロゼが憤る。

 

やれやれ、サラが来ると一気に騒がしいな……。

 

目を瞑って大きく息を吸い込む。

 

でも、ホント良いトコだな……。絶対皆を連れて来よ。

 

虫の囀りとフクロウの鳴き声に混じり、サラとロゼの言い争う声が聞こえる。

フィーは顔を半分まで湯に沈めると、水中でブクブクと息を吐き出した。

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