妖精の軌跡second   作:LINDBERG

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第7話 翡翠の貴族

初夏の薫りが始まる梅雨晴れの時期。

帝国東部クロイツェン州 翡翠の公都バリアハート

 

内戦時に領主が起こしたケルディックの焼き討ち事件……、今でも思い出すと胸が苦しくなる……。

仮にワタシが西風ではなく北の猟兵に属していたら、あの行為に加担しなくてはならなかったのかも知れない。ワタシが直接手を下さなかったとしても、それは同じ。猟兵団は仲間というよりも一つの家族。だから喜びも悲しみも善も悪も生も死も、等しく分け合わなければならない。

生きる為に誰かを傷付け、一山幾らの端金で簡単に死地へと足を踏み入れ、大義も無くただ命じられるがままに命令をこなす存在。『猟兵』

……そりゃ、ギルドと対立する訳だ。

 

駅舎から出てバリアハートの街を見つめる。目の前にはアルバレア家のカラーである、淡いグリーンを基調とした壮麗な街並みが拡がっていた。

だが1年程前に実習で来たあの時とは、少しだけ印象が違う。以前は貴族が我が物顔で大通りを歩き、平民はその顔色を窺いながら、小さくなって暮らしている様に感じられたが、今はそれほどの隔たりが見受けられない。

内戦以降の貴族の在り方を見れば当然とも言えるが、どうやら現領主代行はその辺をしっかりと考えてるらしい。

 

結構頑張ってるみたいだね、ユーシス。

 

依頼人の顔を思い浮かべ、少しだけ笑みが溢れた。

 

ユーシス・アルバレア。

クロイツェン州の現領主代行で今回の依頼人。そしてⅦ組の仲間。会うのはトールズを卒業して以来だから、3ヶ月ぶり位だろうか?

ARCUSで連絡を取ると「内密な依頼内容の為、会ってから直接話す」とか言ってたけど……。

 

ユーシスが、遊撃士に頼み事か……。

 

人間変われば変わるモノだ。入学式が終わって早々に、元副委員長と2人で騒いでたのが遠い昔の様に感じる。

 

……にしても、サラとトヴァルが居ないから、協力員として『あの2人』に声掛けちゃったけど、良かったのかな?

 

そんな事を思っていると、タイミング良くその2人組が空港からこちらに向かって歩いて来た。

どうやら時間通りに飛行艇が到着したらしい。

 

「おーい!フィー!」

「久しぶりだな!随分背が伸びたんじゃないか!?」

相変わらず元気いっぱいなチビッ子と、季節感を無視してロングコートを羽織った眼鏡の男がフィーに声を掛ける。

 

……ま、いっか。久しぶりにⅦ組だけでパーティー組むのも楽しそうだし。

 

フィーは片手を上げて2人を出迎えた。

 

 

 

 

 

 

貴族街最奥 アルバレア邸

 

内戦の時に少しだけ来た事はあるが、相変わらず凄い屋敷だ。玄関ホールだけでレグラムのギルドがスッポリ収まってしまう程に広い。屋敷を管理する従業員の数も相当だろう。

 

……はぁ、何なんだろうね、このやるせなさは。

 

ホールを歩きながら、キラキラと光り輝くシャンデリアを、目を細めて見上げる。

 

「お待ち致しておりました」

ホールの先で老執事が出迎えてくれた。

「執事のアルノーでございます。本日はご多忙の中、良く起こし下さいました」

「ん、ども」

3人を代表してフィーが会釈する。

「当主代行がお待ちです。ご案内致しますので、こちらへ……」

「ん、ヨロシク」

3人は促されるまま、屋敷の奥へと向かった。

 

 

 

 

 

 

フカフカのカーペットに緑鮮やかな観葉植物、有名な風景画と彫刻。アルバレア家の執務室はフィーが初めて目にするモノで溢れていた。

 

はぁ……、溜め息しか出ないや……。

 

「ユーシス様、お客様をお連れ致しました」

「ご苦労、アルノー。下がって良いぞ」

「畏まりました」

「解っているとは思うが、内密な話になる。人払いをしてくれ」

「はい、心得ております」

主と私達の両方に恭しく一礼すると、老執事は部屋を後にした。

 

「良く来てくれたなフィー。……それと」

フィーの後ろに控える2人を見るなり、ユーシスが顔をしかめた。

「ミリアムと……、レーグニッツも来たのか?」

「ヤッホー!ユーシス!」

「ふん!久し振りの再会だというのに、随分とご挨拶じゃないか?」

「ん、一応協力員って事で連れて来たんだけど?」

「……バレスタイン教官やトヴァル殿はどうしたのだ?」

「サラはノーザンブリアから応援要請があって、昨日から出払ってる。トヴァルはリベールとカルバードからの要請で、今日の朝から居ない」

「そ、そうか……」

「ん、……新米遊撃士じゃ信用出来ないなら、出直すけど?」

「いや、フィーが来てくれた事自体は心強いんだが……」

チラリと後ろの2人に視線を向ける。

「何だよユーシス、ボク達じゃ心許ないって事?」

「おい、僕だって暇じゃない中、時間を作って来たんだぞ!?」

口先を尖らせ抗議する2人。

「……分かっている、別にお前達に不満がある訳じゃない……。ただ……」

ユーシスは少しだけ言いづらそうにしながらも、改めてフィー達に向き直り。

「……コレから話す内容は身内に関する事だ。くれぐれも他言無用で頼む……」

やや躊躇いながらも、深々と頭を下げた。

「!?」

「えっ??」

「なぁ!!?」

予想外の光景に言葉を失う3人。

「ん……、えーっと」

「ちょ、ちょっと止めなよユーシス!そんなのらしくないってば!?」

「まさか……、生きている内に君のそんな姿を目にする事になるとはな……」

「……それ程に切羽詰まった状況という事だ」

ユーシスが頭を上げてこちらを見つめた。

「ん……、なんか、結構な厄介事みたいだけど。……2人ともどうする?」

フィーがミリアムとマキアスの方を向いて訊ねる。

「ワタシは仕事で来てるから平気だけど、一応2人は善意の協力者って事になってるから。もし気乗りしないなら、断ってくれても良いよ?」

「?、なーに言ってんのさ、フィーまで」

ミリアムがあっけらかんとした様子で言ってのける。

「ふふ……、少し離れている間に、僕達Ⅶ組の繋がりがどういうモノなのかを忘れたみたいだな?」

眼鏡が妖しく光り輝いている。

「今更どんな話を聞いたって、驚きゃしないって♪」

「全くだ!ユーシス、大船に乗ったつもりで話すが良い!」

2人が胸を張って応える。

「……ん、だってさ」

フィーはユーシスの方へと向き直り、目を細めた。

 

ま、当然こうなるだろうとは思ったけどね。

 

「お前達……。……ふっ、そうだな。……俺達はそうだったな」

ユーシスの顔に学生時代の様な薄い笑みが浮かんだ。

 

「んじゃ、早速聞かせてもらおっか?」

「ああ。……今回の依頼は、俺の父上についてだ」

「ユーシスのお父さん?」

「それは……。ヘルムート・アルバレアの事か?」

 

ヘルムート・アルバレア

クロイツェン州領主。昨年の内線時に北の猟兵を雇ってユミルを襲わせ、さらにケルディックの焼き討ちを指示した張本人。

そして……、ユーシスの父親。

 

「そう言えば、内戦が終わった後どうなったか聞かないよね?」

「ああ、てっきりラマール州の軍刑務所に収監されたのだと思っていたが?」

「内戦締結直後はそうなる筈だったんだが、本人の体調が芳しくない理由等もあって、今はオーロックス砦に軟禁されている……」

 

監禁じゃなくて軟禁か……。

 

チラリとフィーがユーシスに視線を飛ばすと、バツが悪そうに視線を反らした。

 

……自分のお父さんが相手じゃ、ユーシスも鬼にはなり切れないか……。

 

ミリアムとマキアスに気付かれない様に、フィーは少しだけ肩を竦めた。

 

「それで、それが今回の依頼とどう繋がるのさ?」

「既に一線を退き、先の内戦では過ちを犯しているとはいえ、今でも父上の権力は絶大だ。そして領邦軍の中には、未だに俺が領主代行の地位に就いている事を不服に思っている人間が、少なからず居る事も事実だ」

「ユーシス……」

「ふぅ、君も気苦労が絶えないな……」

「ふん、元より覚悟の上で領主の役目を引き受けたのだ。その事についてとやかく言うつもりは無い」

ユーシスが強く言い切る。

 

「で、お父さんがまた何か仕出かしたの?」

「その前に。……お前達、内戦前の数年間、ルーレのザクセン鉄鋼山で、貴族派が鉄鉱石を秘密裏に掠め取っていた話は知っているな?」

「うん、モチロン知ってるよ。確か特別実習で、リィン達の班が巻き込まれたんだったよね?」

「ああ、僕とフィーはA班だったから直接関わっているしな」

「ん、帝国解放戦線ともヤり合ったし」

「その時に、貴族派が奪った鉄鉱石の量がどれ位だっだか覚えているか?」

「確か……、戦車2,000台分だったかな?」

「ん、確かトワ会長が調べてくれたんだったっけ」

「そう、戦車2,000台分だ……」

「?、それがどーかしたの?」

「奪われた鉄鉱石は鉄鋼に精製され、内戦で運用された機甲兵等に作り変えられた訳だが……。内戦時に駆り出された機甲兵の総数はどの位だ?」

「ん、東部よりも西武の方に戦力が集中してたとか言ってたけど……」

「試作機を造って、その後帝国全土に展開した事を考えても……、全部で200体程度じゃないか?」

「そう、俺の読みもその位だ。そしてあのパンタグリュエルと揚陸艇を建造したとしても……」

「……あれ?」

「ん~っと……、戦車2,000台分もいくのかな?」

「!?、オイオイ!まさか!?」

「そう、……どう計算しても、まだ相当量の鉄鋼が残っている訳だ」

 

……オイオイ、嫌な予感しか、して来ねーぞ。

 

「……あれ?そう言えばさ、アルバレアの家でも独自に機甲兵を造ってたよね?」

「ああ、たしかヘクトルのプロトタイプはアルバレア家が開発したんじゃなかったか?」

「ああ、その通りだ……」

「?、でもこの屋敷の中にそんな設備は無いよね?」

「地下に施設でもあるのか?」

「いや、アレはここの敷地内で造ったモノではない」

「へっ?」

「それじゃあ……」

 

モノ凄いイヤな予感……。

 

「俺も最近になって知ったのだが……、オーロックス砦には秘密の地下ドックがあるらしくてな。ヘクトルの試作機はソコで造られたらしい……」

 

……やっぱしかよ。

 

「……オーロックス砦には今、ユーシスのお父さんが居るんだよね?」

「ああ、そうだ……」

「そして、オーロックス砦には、機甲兵を造る施設が整っていると?」

「ああ、そうだ……」

「さっき、内戦時に貴族派が奪った鉄鉱石が、余ってるって話をしてたよねぇ?」

「ああ、そうだ……」

「そしてユーシスは、父親の事で僕達を呼んだんだったな……」

「ああ……、そうだ……」

「……」

「……」

「……」

部屋全体には、妙に重たい空気が漂っていた。

 

……はぁ、マジかよ。

 

「あ!!ボクそういえばクレアに用事があるんだった!!」

「そうだ!そういえば僕も来週提出する課題を纏めなくてはならないんだった!」

ミリアムとマキアスが踵を返して執務室を後にしようとする。それをフィーが自慢のスピードをフルに使い、目にも止まらぬ速さで捕まえた。

「2人共!ここまで聞いといて今更逃がさないよ!!」

「ふぃ、フィー離して!ボク本当にクレアの所に行かなくちゃ!!」

「僕は一応現役の学生だ!学業第一なのは当然だろう!?」

「ミリアム、クレアには遅れるって後でワタシから連絡しておくよ。マキアス、忘れてるかも知れないけど内戦の時もワタシ達は学生だったんだからね」

「そ、そんな事言ったってフィー!?」

「は、話が大き過ぎるぞ!?」

「さっきⅦ組の繋がりがどうとか言ってたじゃん!?敵前逃亡は銃殺刑だよ!」

「いつの時代の軍隊だ!!?」

尚もジタバタともがく2人の耳元に、フィーがそっと囁く。

「あのユーシスがどうにもならなくなって、ワタシ達を呼んだんだよ?」

「うっ……」

「ぐっ……」

「あのユーシスがワタシ達に頭下げたんだよ?それでも行っちゃうの?」

「……」

「……」

2人は少しだけ項垂れながらも、大人しく元居た場所に戻った。

 

「……では、話を進めるぞ」

何事も無かったかの様にユーシスが話を続け出す。良く見ると口元には、僅かながら笑みが浮かんでいた。

それを見たフィーはピンと来た。

 

こ、コイツ……、さっき頭を下げたのは、敢えて弱味を見せてコッチの退路を塞ぐのが目的だったんじゃねぇのか!?

……なかなかやるね、ユーシス。アンタならきっと良い領主さんになるよ。

 

思わず苦笑いをうかべた。

 

「何も俺達4人だけで、機甲兵相手に立ち向かうというつもりは毛頭無い。今回お前達に頼むのは、あくまでも砦地下施設の調査だ」

「……調査?」

「先程の話の内容から気になってはいたのだが、もしかして君は……」

「ああ、俺はその地下ドックとやらを目にした事が無い」

「え?」

「俺が知る内容は、砦に詰めている兵達の噂話を小耳に挟んだ程度だ。アルノーにも問い質したが、詳しくは知らないと言っている。どうやら父上と一部の研究職員だけが運用している場所らしい」

「……マジ?」

「オーロックス砦には、俺が知る限り地下へ向かう階段もエレベーターも無い。正直に言えば、そんな極秘施設が存在するのかどうかも怪しいところだ」

「……ん、でも」

「ヘクトルが現実にあるって事は……」

「……その場所は、確実に存在している訳だな?」

「ああ、その通りだ」

 

はぁ、ちょっと面倒な依頼だな……。

 

「俺はこれから視察という名目でオーロックス砦に向かう予定になっている。お前達には砦の兵達が俺に目を向けてる間に、地下施設の所在と実際に機甲兵が造られているのかを確認し、出来れば証拠となる写真を数点撮ってきてもらいたい」

ユーシスが執務机から導力カメラを取り出し、フィーに手渡す。

「念のため言っておくが、今回の依頼は不確定な部分が余りにも多い。だが、何かが起きてからでは手遅れになるのは分かるだろう? あくまでも、事前に打てる手を打っておきたいという事だ」

「……ん、……らじゃ」

「うん、その位なら何とかなるかな?」

「ふぅ、てっきり機甲兵数体を相手に生身で立ち向かう事になるのかと思ったが……」

「俺がそんな危険な依頼をする訳が無かろう、余計な心配は無用だ」

 

さぁ……、どうだかね?

 

さっきとは打って変わって乗り気なミリアムとマキアスを尻目に、導力カメラをチェックしながらフィーは1人小さく溜め息を漏らす。

 

……でも、まぁ。

 

そんなフィーの様子に気付く事もなく、3人は各自の近況を報告し合っていた。

 

ワタシ達の繋がり、か……。ま、このチームなら、何が起きてもどうにかなるかな?

 

少しだけ笑みを浮かべたフィーは、3人の世間話に耳を傾けた。

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