妖精の軌跡second   作:LINDBERG

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第9話 人は結構変わるが変わらない所もある

「あれ~?また行き止まりだよ?」

「ん、そんじゃさっきの十字路のトコに戻ろっか」

「オッケー♪」

オーロックス砦の通風ダクトを這い進むフィーとミリアム。砦の各所に空気を送り込んでいるだけあり、かなり複雑な造りになっていた。

 

一応アルバレアの屋敷で、砦の見取り図は見させて貰ったから、ある程度の構造は頭に入ってるけど……。コイツは、思ったよりもしんどいな……。

 

迷路の様に張り巡らされたダクト、しかも夏場近い季節の影響で中は蒸し風呂状態だ。

ミリアムなど、早くも着て来た上着を脱ぎ捨て、上半身はTシャツ1枚になっている。

 

「ふぃ、フィー……、暑くなってきたから、もう一枚脱いじゃっても良いかな?」

「ん、でもそれ脱いだら、下着だけになっちゃうんじゃないの?」

「だ、だって、暑いんだもーん……。そうだ!がーちゃんに冷房にトランスして貰おっか?」

「……気持ちは分かるけど、こんな狭いトコでそれはダメ」

 

アガートラム……、家電にも変形出来るのか……。万能過ぎるだろ。

 

ちょっとだけミリアムが羨ましくなった。

 

「でもさぁ、マキアス1人残して来て良かったのかなぁ?」

「ん?大丈夫でしょ。ダテにⅦ組の副委員長やってないって」

「あはは、言えてる~。考えてみれば問題児しか居なかったもんねぇ♪」

「ん、ホントホント。担任教官も含めてね」

Ⅶ組でもトップを争う問題児2人が、言いたい様に言い合う。

 

……それにしてもアヂーな、この中。……ミリアムじゃないけど、ワタシも脱いじゃおかな?

 

左肩の間接を外している為、片腕しか利かない状態のフィー。熱気が籠るダクト内を、右腕1本で進むウチに汗だくになっていた。

 

早いトコ依頼片付けて、ユーシスん家でお風呂借りよ。

 

来た道を引き返して、別の道に進む……。

……油でベトベトの厨房のダクトに繋がっていた。

もう一度引き返して、別の道を探索……。

……トイレだった。

再度引き返し、別の道を探る。

……

……

……

ご、拷問か……。

 

げんなりした顔を見せるフィー。ダクト内の汚れが服にこびり付き、すでに全身真っ黒の状態だ。

「フィー。服の汚れなら気にしなくてもダイジョーブだよ?後でがーちゃんがまとめて洗ってくれるってサ♪」

「……」

 

アガートラム……。洗濯機にもなるらしい……。

 

「30分で乾燥まで出来るから任せろ、って言ってるよ♪」

「……さ、さんくす」

 

あ、アガートラム……、……お母さんか!!?

近い将来『一家に一台アガートラム』の時代が来るのかも知れない。

 

そんな事を考えながらダクトを這い進んでいると、ようやくお目当ての場所が見つかった。

「ふぅ……、あったよ、フィー」

砦の南にあたる位置、ようやく地下深くまで続くダクトを発見した。

「イヤー、手こずったね♪」

「ん、でも、本番はここから。気を引き締めていくよ」

ワイヤーフックをダクトの繋ぎ目に取り付けながら、フィーが鋭い視線を向ける。

「ニシシッ♪ダイジョーブだって。ボクとフィーのコンビなら、何があってもヨユーでしょ?」

「まぁ、ね」

 

言われてみれば、ミリアムも諜報活動で相当な修羅場は潜ってるワケだし、仮に機甲兵が襲ってきても逃げる位ならどうとでもなるかな?

確かにヨユーかもね。

 

フィーは口元に笑みが浮かべながら、ワイヤーをダクトの縦穴に垂らした。

 

「よーし♪行くよー、フィー!」

身体を入れ替えるスペースが無いので、最初にミリアムがワイヤーを掴んで地下へと降りていく。

「らじゃ!」

フィーはその後を、右手一本だけで器用に懸垂下降して追い掛けた。

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……、くっ、……な、何故僕がこんな目に!?」

オーロックス砦に程近い山中を、息遣いの荒いマキアスが駆け抜ける。

 

今更ながら、何故僕は囮役を引き受けたのだ??どう考えても適役じゃないんじゃないのか???

 

手にしたショットガンが重い。戦闘時には頼りになる長年慣れ親しんだ相棒も、こんな場所では只邪魔なだけだ。季節外れのロングコートが走る度にバタバタとはためいて、更に自分の行動を制限している。

 

……お、重い。何故僕はこんなに沢山の武器を持ち歩いているのだ?? というかそもそも、爆弾を1キロも持って生活している学生など、この世に存在して良いのか???……フィーじゃあるまいし。

 

あまりにも遅すぎる後悔に、顔をしかめる。

 

もっと強さが欲しいと考える様になったのは、トールズを卒業する間近の事だ。

この先に何があっても、また煌魔城での様な事が起きない様に。大切な仲間達を守れる様に。もう2度と『姉さん』の時と同じ様な事にならない様に……。

 

帝都の政治学院に入学してからは、成績トップで前期のカリキュラムをやり遂げた。

だが、まだ足りない……。

自分がしている事など、他のⅦ組の仲間達に比べれば、あまりにも甘っちょろい事など自覚している。

 

……少し焦っていたのかも知れない。

 

そんなある日、行き付けのカフェでコーヒーを飲んでいる時に、とある女の子と出会った。

彼女は武器商人の家に生まれ、今では自分も商売に携わっているらしい。来年の春からは、小さいながらもリーヴスに自分の店をオープンするそうだ。

まだ年端もいかない女の子が、武器屋を切り盛りするなど並大抵の事ではない。素直に感心すると同時に、自分に対しての焦りが強くなった。

 

そんな僕に対して、彼女は言った。

 

「……何なら、少し武器卸してやろうか?今はシーズンオフだから、格安で提供出来るぞ?」

武器商人のシーズンがいつなのかは良く解らなかったが、モノは試しと思った僕はハンドガンを数点購入し、その足で帝都の郊外へ出て、魔獣相手に試し撃ちをする事にした。

 

彼女が選んでくれた銃は、僕の手のひらにピタリと収まり、まるで長年慣れ親しんでいるかの様にフィットした。

危なげ無く魔獣を数十頭倒した僕は、手に入れたセピスを換金してから再び彼女の元を訪れ、今度はサブマシンガンを購入してみた。

今度も僕の為だけにあつらえたかの様に、短機銃は僕の手のひらにピタッと馴染んだ。気分を良くした僕は調子に乗って、数百頭の魔獣を狩った。辺り一面に空薬莢が転がっていた。

 

……ところが、今回はそれで終わりではなかった。

運悪く幻獣の一種とみられる超大物と遭遇してしまい、懸命に応戦してはみたものの結局は歯が立たず、何度か死にかけながらも何とかその場を逃げ出した。

生き延びた僕は、再び彼女の元を訪れた。

 

一通り僕の話を聞き終えた彼女は。

「おー、大変だったなお客。どうする?もっと強い武器が欲しいか?」

再び武器を売ってくれる話を始めた。

「……ちなみに、どんなのがあるんだ?」

「今ならRPGを弾3発付きの格安で提供出来るぞ?」

「こ、こ、こんな街中のカフェで、ロケットランチャーを買う人間が何処に居るんだ!??」

「?、そんなの、ハンドガン買った時点で今更だと思うけどなぁ。それじゃあ、爆弾何かどうだ?C4ならすぐに卸せるぞ?」

「……そっちの方がまだ良さそうだ、買おう」

「まいどありー。お客、良い買い物したぞ」

爆弾を購入した僕は、再び1人で幻獣に挑む事にした。

 

一応爆薬の取り扱いに関しては、トールズ時代に研修を受けていた(フィーはその時間「今更知る事は何も無い」とばかりにグッスリと眠っていたが……)

街道外れの空き地にC4をセットし、僕自身が囮となってポイント地点へ幻獣を誘導する。

 

……

……

……もう少し。

……

……

……後一歩。

……

……

……

…………

………………

……………………ignition!!

 

轟音と共に爆炎が立ち上ぼり、ほんの一瞬で巨大な幻獣は星屑となって消えた。

 

僕は急いで女の子の元へと戻り、事の顛末を事細かに説明した。

「おー、そいつは良かったなぁ、お客」

「そ、それでだ……。C4を追加で売って欲しいんだが?」

「お客、気に入ったみたいだな?良いぞ、在庫処分もしたいから、有るだけ持ってけ」

女の子は3kgものC4爆弾を僕に手渡し、代わりに僕の有り金の全てを奪い取ると、満足気な顔を浮かべてカフェを去って行った。

 

その日から、僕は学業の傍ら武器屋巡りが日課となり、最近では珍しい火薬式の銃器や、仕込み武器の様な物まで手にする様になった。

 

 

 

強くなるために装備を整える事は、間違いでは無い筈だ。……だが、最近自分がどうにもおかしな方向に向かっている事も自覚している。

僕が求める強さとは、決して相手を滅する為のモノではなかった筈だ。

 

この先に何があっても、また煌魔城での様な事が起きない様に。大切な仲間達を守れる様に。もう2度と『姉さん』の時と同じ様な事にならない様に……。

 

……いや、そんな理由は後付けだ。僕はもっと単純な理由で強くなりたいと願った筈だ。

僕は一体、何の為に強さを求めたのだろう?

 

足場の悪い山中を散々走り回り、息を切らせながらも物思いに耽る。

 

 

 

「マキアス・レーグニッツ!!!」

不意にフルネームを呼ばれマキアスは我に返った。

 

……こんな場所で人のフルネームを大々的に叫ぶ人間は、この世に1人しか存在しない。

 

眼鏡越しの視線の先には、白馬に跨がりながら堂々と騎士剣を掲げる、予想通りの男の姿があった。

気付かないウチにARCUSの位置検索機能がONになっている。逆探知の要領でこちらの居場所を特定し、砦の兵士達よりも早くここまで来たらしい。

 

「俺は常識を持って行動してくれと頼んだ筈だぞ、レーグニッツ!!」

騎士剣の切っ先が僕に向けられ、視線と交差した。

 

……頼んだ?……頼んだだと!? 去り際に導力車の中から、命令口調の言葉を発するのを、君は「頼んだ」と言うのだな!!?

 

ショットガンを持つ右手に力がこもる。

 

そもそもこの男とは、初めて出会った時からウマが合わなかったのだ。特別実習でのリィンの仲立ちもあって、トールズではそれなりに上手くはやってはいたつもりだが、根幹部分の関係は今でもさして変わってはいない。

彼が貴族だから? ……始めはそうだったかも知れない。だが、今となってはそんな事は些細な事だ。

内戦時は共に戦禍を潜り抜け、同じ釜の飯を食らい、希望も絶望も等しく分け合った仲間だという事は勿論理解している。だがそれ以上に、この男だけにはどうしても対抗心が生まれてしまう。

この男は僕が時間を掛けて懸命に取り組んだ課題を、いとも容易くこなしてしまう。体格も身体能力もさして変わらない筈なのに、実技テストではどうしても半歩及ばなかった。トールズの期末試験では僕が勝ったが、決定的に打ち負かしたという程ではない。

だいたい何故こんな山の中にまで、白馬に乗って来るんだ?王子様気取りにも程があるぞ!!

 

いつかこの男の鼻っ柱を、思いっきりへし折ってやりたい……。

 

そうだ!簡単な事だった!僕はこの男に勝ちたくて強さを求めたのだ!仲間であり、友であり、好敵手であるこの男に負けない強さが欲しかったんだ!

……いつかこの男を、本当の強敵(とも)と呼ぶために。

 

「ユーシス!言いたい事があるなら、力ずくで向かって来るがいい!!」

ジャキッ!っと空薬莢をエジェクトし、銃口を目標に向ける。

「……いいだろう、レーグニッツ。お前との因縁も今日でケリを付けてやる!」

白馬が前足を上げて立ち上がり、騎士剣が日の光に照らされて輝きを放つ。

「行くぞ!ユーシス・アルバレア!!」

「来い!マキアス・レーグニッツ!!」

ショットガンが火を吹き、白馬が軽やかに跳躍する。

 

……男2人、意地の張り合いが始まった。

 

 

 

 

 

 

「……イヤー、予想はしてたけど」

「ん、……ちょっとだけ、斜め上だったね」

細い垂直ダクトを下降し、更に進んだその先。お目当ての場所を見つけたフィーとミリアム。出口に張られた金網越しの景色に、思わず呆れた感想を吐露する。

50アージュ四方以上もある広い空間には、作業用の工作機械が数台、最新の導力コンピューターが数台、戦車と装甲車が数台。

……そして。

「な、なんか見た事も無い機体があるよ?」

「ん、まだ完成まではいってないみたいだけどね……」

独自に開発を進めているとみられる新型数台を含め、機甲兵が10機以上もある。

「あの白いヤツはかなり強そうだね?」

「ん……、何となく『帝国の白い悪魔』とか呼ばれそうな気がする」

周辺の気配を探りながら、思い付いた意見を口にする2人。

 

「さて、どうしよっか?フィー」

「ん……、うっすらと気配はするんだけど、ここからじゃ良く分かんないな」

「それじゃ隠れながら写真撮って、さっさとバイバイしよっか?」

「ん、らじゃ」

金網に手を掛けて慎重に取り外しながらフィーが応える。

「良し、外れた。行くよ、ミリアム!」

「オッケー♪」

素早くダクトから這い出す2人。息を殺して気配を断ち、物陰伝いに移動を開始する。

フィーは未だに左腕をぷらぷらとさせたままだった。

 

んー、間接ハメたいけど、結構音が出ちゃうからな……。どうせ帰りもあるんだし、このまんまでも良いか?

 

基本的にメンドくさがりなフィー。自分の間接を入れるのすら、後で良いやと思っていた。

 

「?、ねぇフィー、うっすら気配がするって言ってたよね?」

声をひそめてミリアムが訊ねる。

「ん?言ったけど」

「でも、誰1人見当たらないよ?」

「……?」

 

変だな、確かに何か感じるんだけど……。

 

周囲は物音一つ無く静まり返っていた。

 

う~ん……、暑いトコを進んで来たから、勘が鈍ってるのかな?

 

首を傾げながら辺りの様子を慎重に窺う。

その時、不意にけたたましく警報音が鳴り響いた。

 

「え?な、ナニ??ナニ???」

「……マズった、赤外線か何かに引っ掛かったみたい」

秘密裏の研究施設。当然セキュリティレベルも、軍施設並かそれ以上だ。

 

「?、えっ??あれ???」

「?、どうかした?ミリアム」

「うん、……あれ、動いてない?」

「えっ?」

ふと見ると、先程2人で強そうだと言い合っていた、新型らしき白い機体の頭部が、ゆっくりとこちらを向いていた。

「な、な、何で??最初から誰かが乗ってたの???」

「いや、人が動かしてる気配じゃ無い。……多分、独立思考して動くタイプだと思う」

頭部のセンサーカメラで2人の姿を認識すると、白い機体おもむろに立ち上がり、スリープ状態から殲滅モードに切り替わった。

 

おいおい、マジかよ。……ユーシス、話が違うぞ。

 

「ど、どうする?フィー」

「ん、適当に相手したらさっさと逃げる。行くよ!ミリアム!!」

「よーし!オッケー!!」

 

素早くARCUSのリンクを繋ぎ、2人は臨戦態勢を取る。

……フィーの左腕は、未だにぷらぷらしたままだった。

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