勝利の女神が微笑むのは?
「ガキが……やるじゃねーか!」
少年が雪菜を睨んだ。
「ガキでありませんよ。団長さん?」
睨む少年を雪菜が、挑発した。
雪菜 盾1 手札5 マナ8
「だが、お前は俺に勝てねぇ!!こんな状況読んでない訳ねーだろ!!
呪文超次元リバイブホール!」
少年が唱えたのは超次呪文。
その効果の多くはサイキッククリーチャーを呼び出すことだが、この呪文の効果は――
「俺は墓地からドギラゴン剣を回収。
そんで、呼びだすのは時空の凶兵ブラック・ガンヴィートだ!」
少年が呼び出すのは、ヤギの様な角が生えた髑髏の馬。
それに跨る主人も同じく骸骨の体をしている。
「相手のタップしているクリーチャーを一体破壊だ。
じゃあな、プチョヘンザ」
ブラック・ガンヴィートの2本の剣によってプチョヘンザが一瞬にして屠られる。
「さっきのプチョヘンザでアパッチをマナに置いたのが仇になったな。
おかげで呪文が唱えられた。
俺のターンは終わりだ。さて、こっからどうする?
お前は俺に勝てるか?」
勝利を確信したのか、手元でたった今回収したドギラゴンを見せつける。
少年 盾5 手札2 マナ5
「準備は十分です。私にここまでのマナを溜めさせた……
短期決戦にしきれなかった貴方のミスです。
私はマナをチャージ!これにて9マナ!!これが私の切り札!!」
雪菜のマナゾーンのカードがバトルゾーンに集まってくる。
1つ、2つ、3つ……
3体のドラゴンのマナが集まり一体の巨大なドラゴンの姿を形作る。
「さぁ!いざ出陣です!バルガの名を持つ龍よ!!
超!天!星!バルガ!ライゾウ!!」
『むぅふふふふ!!』
それは西洋の
どこか優しささえある瞳に、長い髭が揺れる。
「バルガライゾウでプレイヤーをアタックです!
その時、メテオバーン能力発動!」
雪菜がバルガライゾウの進化元のドラゴンを全てバトルゾーンから離した。
すると、雪菜の山札の上から3枚がめくられる。
「バルガライゾウは3体進化元のを墓地に送ることで、進化ではないドラゴンを踏み倒しします!
来てください!!私のドラゴンたち!!
無双龍幻バルガ・ドライバー!
ボルメテウス・サファイア・ドラゴン!
音感の精霊龍エメラルーダ!」
一体は剣を構えた侍の様なバルガの名を冠すドラゴン。
一体は相手の盾を全て焼き払う蒼いを持ったドラゴン。
一体は黄金の体と杖で自らのシールドを操るドラゴン。
「エメラルーダの能力で手札のカードをシールドに追加!」
雪菜のシールドが増えると同時にバルガライゾウの攻撃よって少年の盾が3枚破られる。
「三枚程度なんだぁ!!!シールド・トリガー発動!!
Dの博才サイバーダイス・ベガス」
少年が発動したのは呪文でも、クリーチャーでもないシールドトリガー。
D2フィールドと呼ばれるそれは、バトルゾーン一枚のみ存在でき、使用プレイヤーに様々な恩恵を与える。
このフィールドの能力は……
「バルガドライバーで攻撃!!能力で山札の上をチェック!
永遠の流星カイザーをバトルゾーンに出します」
バルガドライバーもまたバルガの名を持つドラゴン。
山札の上を確認し、ドラゴンを呼び出せるのだ。
「俺はデンジャラスイッチを発動!!
手札からコスト7以下の水の呪文を使用する!!」
少年がサイバーダイス・ベガスの上下を入れ替える。
それにより手札の呪文が唱えられる。
「呪文!
お前のサファイアと永遠の流星カイザーを選択!」
「く、サファイアを墓地へ流星カイザーを手札にくわえます」
雪菜が一度に2枚ものクリーチャーを失った。
だが――
「それだけじゃねーぜ!更にマナゾーンからボルメテウス・ブラックドラゴンとバルガドライバーを選択!
さぁ、一枚墓地に一枚手札に戻しな!」
エターナル・ソードはたった一枚で相手のクリーチャー2体とマナを2枚奪う能力がある。
このカードがD2フィールドで使われると0コストで撃てるとなれば、どれほどの脅威か分かるだろう。
「エメラルーダは攻撃できない……ターンを終了です」
雪菜 盾2 手札5 マナ4
「俺のターン、ドロー……さて、もう一回コイツの出番かな?」
少年が手札のドギラゴン剣を見る。
だが、その内心は穏やかでは無かった。
(コイツ、さっきから攻めにくい戦いかたばかりしやがる!
このままドギラゴン剣でトドメを刺しても良い。
だが、気がかりなのは仕込んだあのカード)
先ほどの戦い、エメラルーダの能力で雪菜は盾に何かを仕込んでいた。
普通に考えるとそれはシールドトリガーで間違いないだろう。
(ドラゴンが多いからな……またコルティオールか?
ならば!!)
「俺はマナを3タップ!再度”龍装”チュリスを召喚!」
少年の場にさっきドギラゴン剣を呼び出した、ネズミが呼び出される。
B・A・Dによりコストは減っているが、それでも基本コストは5のまま。
ドギラゴン剣へのチェンジは十分可能だ。
「俺はお前を確実に処分する」
「!」
想護が少年の冷酷な宣言に息を飲む。
「俺はチュリスでバルガドライバーに攻撃!!」
「ドライバーにですか?」
少年の命令を受けてチュリスがバルガドライバーへと襲い掛かる。
パワーは5000体14000。
到底チュリスに勝ち目は無い。
そう、このままでは――
「革命チェンジ……来ますか!」
「ああ!もちろんだ!!革命チェンジ!
現れたのはドギラゴン剣ではない。
その姿は黄金に輝き、マントをはためかせ剣を持つ。
「ドギラゴールデン、コイツこそ龍の究極!!
その力でお前のエメラルーダをマナの埋め込む!」
ドギラゴールデンの剣が一瞬にして、銃へと変化する。
そして打ち出された光弾がエメラルーダをマナゾーンへと押しやった。
『ドギ――ラァアア!!』
ドギラゴールデンが武器を再度、剣へと戻すとバルガドライバーへと切りかかった。
『むぅん!』
だが、バルガドライバーも同じく剣を抜きその攻撃を受け止めた。
2度、3度と切り結んだ後、お互いの体に深々と剣をつき刺し合った。
そして2体は同時に墓地へと置かれる。
「相打ち狙い、ですか……」
「ああそうさ。俺はこう見えて確実性を重視するんだ。
何かヤバイドラゴンを呼び出すバルガには退場してもらった、もっとも同じバルガでもサイズがでかいだけで、仕事の終わったバルガしか居ないがな。
それに、盾に厄介なトリガーが有るのは分かってる。ま、連ドラだからコルティオール位だろうが、それを超える数を用意するのに時間が掛かるんでな?
危ない橋を渡っても良いんだが、今回は安全策を取らせてもらった。
さて、ターン終了時にベガスの能力で一枚ドローだ。
さ、次はアンタのターンだぜ?
重量級ばかり入れてるアンタでは何か出来るとは思えないんだがな?」
少年が内心で勝ちを確信していった。
少年 盾2 手札4 マナ6
「私のデッキ……確かにドラゴンが多いですが連ドラとは一言も言ってませんよ?」
「なんだよ。負け惜しみか?」
だが俺のシールドはまだ2枚あるそれにトリガー以外の防御だってあるんだぜ?
人間なんかに負ける訳ねぇんだよ!!俺はこの力をこの世界で謳歌してやる!!
こんな所で止まる訳ねーんだよ!!」
少年、いや、背中のドギラゴン剣が吠えた。
「はぁ。これが噂の『止まるんじゃんーぞ』という奴ですね。
クラスの男子がしきりにやっていたので知っています。
しかし、残念ですね。貴方はもう詰んでいます」
雪菜がそう告げる。
その宣言は勝利宣言の様な高らかな物では無く、ただ純粋に、冷酷に、残酷なまでにただ単純に真実を突き付けた言葉に聞こえた。
例えるならば、感情を持たぬ処刑人が斧を振り上げたような、そんな揺らぎ用のない重みを感じた。
「私達『Dシーカー』は使命感で動いている訳ではありません。
安易な話ですが、誰かの為とかそう言った物が第一と言う訳でもありません。
人もクリーチャーも、力を持ち他者を虐げる者を許さないだけです。
貴方は自らの力の使い方を誤った、だから倒します」
「へぇ?ご立派な話じゃねーか!
だがよ、たった5マナで何が出来る?お前のデッキは重量級のドラゴンデッキ!俺みたいに革命チェンジでもしてみるか?
結局ありがたいだけのお話じゃ、無意味なんだよ!
力でねじ伏せるのが最も賢いやり方なんだよ!」
ドギラゴン剣が少年の後ろで吠える。
「では行きましょうか――私のターン、ドロー」
雪菜がデッキからカードを引く。
そして、それをマナゾーンに置く。
これで6マナ、今までのカードを見るに雪菜のデッキにこの状況で使用できるカードはジャックポット。
だが、この状況から勝利に持っていけるカードが有るのか、それ自体が入っているのかさえ不明だ。
「貴方はミスをしました。ボルメテウスは確かに強力なカテゴリーです。
容赦なく敵を破壊し、種族も優秀な『ブラック』。
ブロックされる事の無いシールド焼却持ちのスピードアタッカーである『蒼炎』。
そして純粋な強力な力を持った『サファイア』。
そしてその子たちを踏み倒す『バルガ』。
ですが、貴方がもっとも警戒すべきはこの子たちじゃなかったんです」
雪菜が指でバルガライゾウを撫でる。
「良いからさっさとしろ!そんな老いぼれドラゴンどうでも良い!!
速く俺に、お前の体に牙を突き刺させろ!!」
ドギラゴン剣が吠える。
「うわっつ!?」
『へぇ、少しはやる様じゃない……!』
想護、コートニーがドギラゴン剣の威圧する風に気おされる。
だが、それに対峙する雪菜は一切ひるまない。
「私はバトルゾーンの超天星バルガライゾウを、究極銀河ユニバースに進化!」
バルガライゾウの上に進化クリーチャーが重ねられた。
瞬間、空に宇宙が現れる。
いや、正確には宇宙その物では無く宇宙をその身に宿した存在だ。
胎の中に輝く銀河を宿すそのフェニックスは悠然と姿を現した。
「な、ユニ、バースだと!?」
少年の顔いろが露骨に悪くなる。
盾は2枚ある、手札にはニンジャを持っている。だが、それでも少年の顔に有るのは敗北を悟った表情。
無理もない。このカードにある能力を知れば誰でもこのような顔に成るだろう。
このカードの能力。
それは――
「くそ、くそ、くそったれぇぇええええええ!!!
戦う気なんて、
「究極銀河ユニバースで、プレイヤーを攻撃!!
メテオバーン発動!」
雪菜の声に反応してユニバースが羽ばたく。
そして、彼方まで聞こえる女性の歌声にも聞こえる鳴き声が響きわたった。
龍の声は一瞬にして、女神の歌の前に消え去った。
「そんな、そんな、バカなぁああああああ!!!!」
少年の後ろからドギラゴン剣が飛び立ち逃げようとするがもう遅い。
ユニバースの歌声を聞いたドギラゴン剣の体が瞬時に風化していく。
輝く剣が、蒼い鎧が、強靭なる龍の肉体が、錆び付き、劣化し、衰えていく。
そして、すべてが塵となって消える。
『いやだ、いやだぁ!!俺は、俺は止まりたく――』
「ユニバースが攻撃した時、進化元のカードがフェニックスであり尚且つ最後の一枚であれば、私はゲームに無条件で勝利します」
『ね――ぇ……い』
空中でドギラゴン剣が完全に姿を失い消失した。
「雪菜やった!!勝った!!勝ったよ!」
想護が飛び跳ね、へたり込む雪菜の元へと走る。
「はぁ、はぁ……疲れ、ました……カードの回収をお願いします」
どっと疲れが出たのか、息を荒くして雪菜が話す。
「わ、分かったよ。俺、拾ってくる」
『あーあ、小学生の使いッ走りじゃない……』
想護がドギラゴン剣を拾う横で、コートニーがため息を漏らす。
「おや――どうやら外の戦いが終わった様でありまするな」
デュエルゾーンの中、藤御門がなんでもない様に声をあげる。
彼のバトルゾーンには2体の闇の不死鳥が翼を広げていた。
「チぃ!力の反応が消えた。
見どころがありそうなカードだったが、負けて回収されたか」
ホムラが吐き捨てる様に言った。
「……どうですかな?お互い欲しい物は手に入らないと諦めて、ここで手打ちにいたしませぬか?」
藤御門の言葉に、ホムラが反応する。
「テメェ、一度始まった真のデュエルを中断だと?」
「そう、何も命を懸ける事などありませぬ故。
我は貴方に恨みは無い。貴方は我を倒す理由も無い――手打ちで十分。
そうでありましょう?」
二人の視線が交差する。
そして数秒の沈黙が流れ――
「白けたな。いいぜ。これ以上戦っても得くは何もねぇ」
「そうでありまするか。それは良かった。良かった」
次の瞬間には、夜の闇に包まれたフィールドとホムラは消えていた。
残るのは、藤御門一人。
藤御門は小さく笑い店のドアを開けた。
「やや!想護クンではありませぬか?
奇遇でありまするな?」
デュエルが終わり、こちらの世界に戻って来た想護が最初に見たのは、扇子を持ちこちらに歩いてくる藤御門の姿だった。
「先輩……どうしてここに?」
「何って、部長サン命令でありまするよ。
カード狩りの可能性があるデュエリストは倒す様にとの、事でありましょう?
我は、急いで帰って新型デッキを組んで、ここに参上奉ったのでありまするよ?」
気合十分、と言いたげに藤御門が鼻息を荒くする。
「あ、えっと……」
どう説明するべきかと、想護が一瞬悩む。
「カード狩りはもう捕まりました」
となりにいた雪菜が声を漏らした。
「おや、そちらのお嬢さんは?」
不思議そうに藤御門が尋ねる。
「倉科 雪菜です。賭けデュエルでしたら、昨日目に余った店員に注意されて出禁を食らったそうです。
本人も反省している様で、盗んだカードを返しに来た様ですよ?」
「なな、なんと!それはまことでありまするか!?」
やや大仰に、藤御門が驚く。
「むむぅ、平和になったのは喜ばしい事でありまするが……
我の溜めた気合は何処へ放出すれば……」
藤御門が小さくうなる。
その時――
「あ!フジ君!ソウゴ君!奇遇~」
実紅が手を振りながら現れる。
「おお、部長サン!聞いてくださりまするか?
どうやら件のデュエリストは出禁を食らったようでありまする。
カードも戻ってきたようですし、これは、一応の解決かと……?」
「ほんと!?解決?やったー!」
実紅がその場でぴょんぴょんと跳ねる。
「……愉快がかたがたですね」
「あ、うん……そだね」
雪菜の言葉を聴いて想護が苦々しい顔をして、なんとか答えた。
「よぉーし!なら、部長権限発令!部活再会!みんな、デュエマするよー!」
実紅がデッキを取り出し、掛け声を上げる。
「……私は帰ります」
「なんでー?せっかく来たんだから遊ぼうよー!」
雪菜に実紅が絡んでいく。
「帰ります」「やろうよー」
「やりません!」「やっちゃいなよー」
「お断りです!!」「君、友達いないでしょ?一人でデュエマかわいそー」
「言いましたね!?この、頭のねじが外れてそうな子供は!!
だから、小学生は嫌いなんです!!」
「あ、雪菜ちゃん。一応俺の先輩だから……年上、なんだよ……」
「なんですって……!?」
想護の言葉に、雪菜が今日一番驚いた顔をする。
「あー楽しかった!勝てなかったけど、楽しかった!!」
実紅が2人を連れて道を歩く。
「いや、先輩まさか小学生に間違われるとは……」
「ぶー!あの子の見る目が無かっただけだもん!
フジ君もそう思うでしょ?」
実紅が話しかけるが、藤御門は反応しない。
心ここに在らずといった様相だ。
「???どーしたのフジ君、ぼーっとして?お腹空いた?クレープでも食べに行く?」
実紅が夕焼けの中、佇む藤御門に話しかける。
「おっと、申し訳ありませぬ。少しばかりぼーっとしておりました。
それとクレープは遠慮させてもらいますります。部長サンではないのですから。
夕飯前に甘味など……
しかし、ふむ」
何かを考えるようなそぶりをして、藤御門は実紅の頭に手を置いた。
「部長サンはいいでありまするな。
ただ純粋にデュエルを楽しんでいまする……」
「どーゆこと?」
「いいえ、いいえ。ただの一人言でありまする故、何卒お気になさらぬよう」
藤御門は実紅と想護に背を向けて歩きだした。
「あれ、先輩帰るんですか?」
想護が気が付き声をかける。
「我の家は反対方向でありまするので……では、ごきげんよう」
藤御門は二人、夕日の方向に歩く二人に背を向け、次期に夜が訪れる暗くなりつつある町なかに消えていった。
途中までガチの殴り合いだと思ってたら、急にエクストラウインを狙ってるタイプって、微妙に消化不良になるのって、私だけですかね?