D-クロニクルズ   作:ホワイト・ラム

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さて、さて、久しぶりの投稿ですよー


ハイドローズ~水切れ~

「さ、君のターンだぞ」

一人の少年、一輝がそう言って、手のひらを差し出してくる。

所謂『どうぞ』のジェスチャーだ。

 

「あ、えっと……」

一輝と向き合う少年が、困ったように愛想笑いをした。

 

「ん、どうしたんだい?ドローならまだだよ?」

一輝がぼーっとしてこっちを心配そうに見てくる。

 

「いや、その俺、もうデッキが……」

気が付くと、山札があるハズの場所にデッキは無かった。

いや、それどころか手札も盾も、バトルゾーンにすら何もない。

 

「あちゃ……困ったね」

一輝がつまらなそうに、唇を尖らせる。

彼は俗にいう天才と呼ばれるタイプの人種だが、ふとした時に見せる顔は非常に子供っぽい所がある。

 

「おやおや~お困りかな~?」

その時、一人の少女が天地逆さまの姿で現れる。

金色の髪に青いと赤のオッドアイ、左右で長さも色も違うソックスに、派手なカラーリングの服装。

頭の先から足元までが全てが派手なその姿。

その少女が、こちらの顔を覗きこんで来る。

 

「ん~……ん~……どうしようかな?

悩むな~、これは悩むよ~?」

少女が困ったように、眉間にしわを寄せる。

 

「あ、あの……」

 

「よし!きーめた!」

話しかけようとした時、その少女が指を鳴らした。

その瞬間――

 

 

 

 

 

「ん……?あさ、か?」

カーテンから入る朝の陽ざしで中埜が目を覚ます。

すっかり見慣れてしまった白い部屋に、消毒液の香り。

だが、その日々とも今日で終わりだ。

 

「ついに明日で退院か」

意識不明で運び込まれて、約一か月。

長い検査も終わり遂に、退院の目途が立った。

突然の意識不明。気が付けばこの病院の病室に寝かされていた。

家族は突然の事に酷く動揺していたが、中埜自身はそこまででは無かった。

意識を失う前の記憶はぼんやりして、詳しくは思い出せない。

だが、現在は何の不都合も無く、入院という名の休みをもらったという感覚に本人は近い。

 

「けーっきょく原因不明か、元気なのは元気だけど不安だよな。

ノド乾いた……なんか、飲みに行くか」

ちらりと、ベットの横にある引き出しに視線を向ける。

そして、引き出しを開け自身の財布をポケットにねじ込み歩き出す。

体に異常はない、何らかの原因で衰弱していたが点滴と食事と休養で完全に回復している。

こうして院内を歩く事も、買い食いも許されている。

一階に併設されているコンビニの、開店時間を過ぎている事を確認して病室を出る。

エレベーターに乗り『閉』のボタンを押そうとした時、数人の子供の声が聞こえる。

 

「のりまーす!」

 

「待って、待って!」

 

「ああ、ごめん」

中埜は咄嗟に扉を開け、二人の少年を招き入れる。

 

「何階?」

 

「12階!」

12階は最上階だ。長期入院患者の為に展望スペースがあり、町を一望できる。

確かレストランも併設されていたはずだ。おそらく、この少年たちの目的地は遊戯室だろう。

自身の目的のコンビニは1階。一瞬降りようかと躊躇したが遊戯室にも自販機位あるだろうと考えを改める。

 

「よーし、んじゃ昨日組んだこのデッキで――」

 

「かっ!?」

少年が手にしていた、カードの束を見た瞬間中埜の時が止まる。

体が震える。呼吸が苦しい、視界が揺れる、自分が立ってるかどうかすら分からなくなる。

 

「おにーちゃん?おにーちゃん!」

 

「12階についたよ」

 

「へ、あれ、俺は?」

気が付くと二人の少年がこっちを、心配そうにこっちを見ていた。

 

「あ、つ、着いたのか……ごめん、ぼーっとしてた……あはは」

必死になって繕い、なるべく少年たちの持つカードを見ない様にしてエレベーターから出る。

 

(帰ろう……はやく、ジュースでも買って……)

少年達から逃げる様に、遊戯室へ足を向ける。

その先には、先客が居た。

ついこの間知り合いになったばかりの――

 

「あれ?中埜君じゃん!」

気さくな声を顔を上げると――

 

「一輝……?

おま、どうしたんだよその傷!?」

手足に包帯を巻いた一輝が手を振っていた。

 

「あーちょっとねぇ?」

何でもない事の様にケラケラと笑う。

 

「にーちゃん、あーそーぼ!」

 

「リベンジマッチお願いします!」

さっきの子供たちが、デッキを片手に走ってくる。

 

「おー、いいぞー。ぼっこぼこの返り討ちだ!」

 

「わー、おとな気なーい!」

二人の少年と一輝が笑い合う。

包帯だらけの腕で、カバンから自身のデッキを取り出す。

その時、一輝が持つスケッチブックがひどく汚れている事に気が付いた。

半分近くが燃え、泥で汚れ、靴跡の様な物まで付いている。

 

「どうしたんですか、それ?」

中埜が恐る恐る尋ねる。

その瞬間、一輝から笑みが消えた。

 

「ああ、ちょっとね……」

先ほどとほぼ同じ文面。

だが、あふれんばかりの悲しみが感じ取れた。

この明るい態度は、きっと自身の中にある悲しみを誤魔化す為の物なのだと、中埜は反射的に思った。

 

「あ、そうだ。3人だと数があぶれるから、君も一緒にやろうよ」

一輝がデッキを掲げる。

 

「え、にーちゃんもデュエマするの?」

 

「タッグマッチしよぜ!タッグ!」

二人がニコニコしてデッキを掲げる。

 

「ごめん、俺……もう、デッキ無いんだ……」

中埜が絞り出す様に、3人に話す。

そう、想護が見舞いに来てくれた時、渡されたデッキを払いのけて捨てた。

今でも、想護がひどくショックを受けた顔が目に焼き付いている。

 

「じゃ、俺、帰るから」

必死に取りつくろい、その場を後にした。

少年達の持つカードから逃げる様に、隠れる様にそこを後にした。

 

(なんで、なんでだよ……おれ、あんなにデュエマが大好きだったのによ……)

訳も分からぬ、正体不明の恐怖だけが中埜の中に居座っていた。

 

 

 

 

 

「チッ、むかつく、むかつくむかつく……

俺は奴隷兵共と同じかよ」

悪態をついて、ホムラが病院の内部を歩く。

ムカムカする胸中を抱えたまま、脳内で試案する。

 

今回ホムラが与えられた任務は、最後にサンジェルマンの孫娘が居たというこの病院で手がかりになりそうな物を探すという物だった。

だが、逃げ出した場所にサンジェルマンの孫娘が戻ってくるとは思えない。

それに行方を追う手掛かりと言えど、そんな物ある訳が無い。

それが無いからこそ、今まで彼女もサンジェルマン本人も見つからないのだから。

 

(要するに、俺はどうでも良い仕事を振られたって事だ……

おかしいじゃねぇか……いつからだ?

一体俺はいつから、こんなドブ攫いみたいな仕事を振られるようになった?)

最初に思い出すのは葉久野の存在。

大柄な男、自信に満ち溢れ同時におかしな技術を持ち、自分よりも魂を持つカードに詳しい……

 

(いけ好かない奴だが、実力は本物だ。

やつが奴隷兵なんぞ持ってきたせいか?

いや、違うな)

次に思い出すのは、以前自身の邪魔をしたあの少年。

魂を持ったコートニーを連れ、まぐれで自身を負かしたあの男。

 

(チッ、よりによってドルマゲドン様の前で、下手をこいちまうとは……)

思い出すだけで、臓腑がむかむかしてくるのが分かる。

半場無意識にホムラが右足を持ち上げた。

 

ドォん!

 

怒りに任せ、消火栓を蹴り倒した。

周囲が一瞬騒然となるが、ホムラの風体を見た瞬間、みなそそくさと逃げていく。

 

「チッ」

再度舌打ちをして、サンジェルマンの残滓を探す。

胸に満ちる、不快な感覚は無くなってはくれなかった。

 

 

 

「なんだ?俺に何か用か?」

男が自身に掛かる視線に気が付く。

 

「ひっ!?」

目の前のコンビニから、中埜がこっちを見ていた。

二人の視線が交差する。

自身の心臓が、つららで貫かれたような恐怖が中埜を襲った。

肉食獣の様な獰猛さを宿す瞳、若干の不機嫌に歪んだ口元。

何よりも、その触れただけで切り裂かれそうな雰囲気、それら全てが中埜の心の奥にしまい込んだトラウマを、痛烈に掻きむしった!

 

「あ、ああ……」

思い出してしまった。

自身の敗北を、自身がその後どうなったかを――

 

「お前、何処かで遭ったか?

ふん、まぁ良い。デュエリストが居そうな場所は――」

ホムラが踵を返した。

そして、そのままエレベーターへ向かっていく。

 

 

 

 

 

(助かった、もう少しだけ生きていられる)

そんな気持ちが中埜の心を駆けた。

逃げ帰ったのは、自分の病室。

布団をかぶり、必死に震えを押える。

だが、ふと思う――

 

(アイツは、何処へ行くんだ?)

ホムラはデュエリストを探していると言っていた。

ならば、当然遊戯室の方へと足を進めるハズだ。

 

「!?」

中埜はとっさに気が付いてしまった。

この男の『目的』に――

 

(止めなくちゃ…………)

恐怖につぶされる心の中で、一滴の勇気が囁いた。

息が苦しい、心臓が暴れ回る。

足がすくんで、手が震える。

 

「や――」

絞り出した声は相手に届く前に消えていく。

ほんの少し、ほんの少しだけ勇気が足りない。

あと、あと一歩の所で――

一輝の顔が浮かんでは消える、名も知らぬ子どもたちの笑顔が微笑んでは消える。

 

(誰か、誰か俺の背中を押してくれ――!)

心の底で、自身に足りない勇気を()()()()()()にねだった。

 

『そんなの、ミーにお任せアミーゴォ!』

軽快な誰かの声、そして水の音。

 

「え……イルカ?」

中埜の後ろに空中を泳ぐようにして、浮いていたのはイルカかシャチのクリーチャー。

その姿は――

 

C,A,P,(キャプテン)アアルカイト?」

 

『ヘイ!アミーゴ!ようやく、ミーたちの声が届いたみたいだネー』

シャチのクリーチャー、アアルカイトが空中を泳ぎ、中埜の目の前に顔を近づける。

 

「だ、だれ!?なんでカードが、夢?幻?」

 

『ノンノン、違うなりナ~』

中埜のすぐ横を、ボールに手足のついたようなロボットが指を振るいながら歩いていく。

 

「わわわ?!今度はwave ALL!?」

後ずさる中埜に、ウェイボールがサムズアップをした。

 

『ユーとミーたちのソウルがシンパシーしたのサ!』

 

『イグザクトリ~、その結果我らの声が届いたと言う訳なりナ!』

2体のクリーチャーたちが、中埜の前に頭を垂れる。

 

『お前の心を受信した。我らに、願いを――』

そして、何処からか更なる声がした。

不思議ともう恐怖は無かった。

 

気が付くと目の前に、一つのデッキが有った。

まるでずっと、気づかれるのを待っていたように。

 

「行くぞみんな!!俺の友達を助けに行く!!」

中埜がデッキを取って走り出した。




何だかんだ言って因縁の対決。
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