申し訳ありませぬ……
カっ、カッ……
人気のない階段を、ゆっくりと足音が進んでくる。
カッ、カッ……
「ちっ、遂に最上階か。ツイてねーな」
何時もの好戦的なギラついた瞳は何処へやら、ホムラが病院の階段内にある階を示す数字を何処か退屈そうに眺める。
此処へ来た本来の目的は『サンジェルマンの孫娘』を追う事。
先日襲撃を掛けた葉久野曰く「此処には奴が居たのは確実」との事だが……
『万が一を予測し、お前は痕跡の調査をしろ』
葉久野の言葉を思い出し、怒りに震える。
「俺が何で、こんなドブ攫い見たいな事しなきゃいけねーんだよ!」
ガァん!!
苛立ちの命じるままに、階段のドアを蹴りつけた。
そして乱雑にその扉は開かれた。
「っ……」
若干のまぶしさに、眼を細ませて階段から最上階へと降り立った。
後は適当なデュエリストを倒して、情報を聞きだせば良い。
明確な理由は不明だが、サンジェルマンの孫娘はデュエリストとの接触を好む傾向にあるのは明らかだ。
「そうだ……さっさとこんな仕事を終えて俺は――」
ホムラが一瞬だけ、自身の言葉に詰まった。
(俺は、どうしたい?この仕事を終えて……その次は?)
忌々しい葉久野の顔が浮かぶ。理由は分からない。
だが、心がチクりと痛んだのは確かだった。
その時、目の前のエレベーターが開いて一人の少年が歩み出た。
「おい、お前」
その少年はわずかに指を震わせながら、ホムラを見据えた。
「あ?」
「デュエルしろよ!」
中埜はホムラにデッキを突き付けた。
中埜 後攻2ターン目。
「俺は『Wave All ウェイボール』を召喚だ!」
中埜の手にしたカードが光を放ち、バトルゾーンに降臨する。
それは青いメカニカルなボディをした球体のロボット。
『ふむふむ、早速我の出番なりナ!』
フンすと鼻息を荒く、ウェイボールが両手をぶつけあう。
中埜 手札4 盾5 マナ2
「てめぇ、舐めてるのか?そんなオモチャ相手でよ?
つまんねーデュエルに時間をかけるつもりはない。
さっさと決めさせてもらうぞ」
ホムラがマナゾーンのカードを3枚タップした。
「詠唱『イーヴィル・フォース』。
火又は闇のコスト4以下のクリーチャーを、スピードアタッカーを付与しつつバトルゾーンに呼び出す」
「な、踏み倒し!?まさか――」
「来い――『不吉の悪魔龍 テンザン』」
『うるろろろろろろろ…………』
ホムラが呼び出したのは、刃の様な羽を持つ悪魔龍。
その名が示すかのように胸にはⅩⅢのマークが刻まれている。
『ぬぬぬ!?これはかなりの大型が出て来たなりナ』
「んな、他人事みたいに!?」
『パワーまでもがご丁寧に13000……狙いすぎなりネ』
「お前のオモチャに構ってるほど、俺は暇じゃねーんだ!!
テンザンでお前を攻撃!!行け、トリプルブレイクだ!!」
「スピードアタッカーの上にトリプルだって!?」
テンザンがその爪を掲げ、中埜に襲い掛かる!
『ラァウ!!』
テンザンの爪が中埜のシールドを一気に半分以上奪い取る。
「うわわわっ!?」
迫りくる衝撃に中埜が地面を転がった。
衝撃から逃げる先で、一枚のカードが光を放った。
「シールドトリガーか!?詠唱!『ゴーストタッチ』!
手札を一枚ランダムで捨てる!」
中埜が呪文を唱えると、頭に煙突の様な物が生えた怪しいクリーチャーが姿を現した。
そして、指から黒い煙を吐きだしつつホムラの手札に触れる。
「良いぜ、手札位くれてやるよ」
ホムラの手札から一枚カードを墓地に落ちる。
その様を見て中埜は目を見開いた。
「なんだ?墓地の枚数が異常だぞ?」
ホムラの墓地には既にカードが16枚も落ちていた。
到底3ターン目に溜めれる数とは思えない。
「テンザンには能力があるのさ、コイツは攻撃時自分の山札を13枚墓地に送る。
しかも毎ターン強制攻撃まで持ってるんでな。
少しばかり、使用に苦労するんだよ」
半場自慢する様にホムラがテンザンの能力を語る。
(墓地を肥やすのはデメリット……だけど、墓地を利用するデッキにはまたとない相性だ。
けど、デュエルの始まりで既に山札は30枚。テンザンが2回も攻撃すれば山札切れで敗北だ。
このデッキは見た所、耐久型だ。このまま相手の自爆を待つか?)
中埜が手札のカードを見ながら戦略を立てる。
『おおーーっと!ここで一時停止なり!
我の能力のお目見えの時間なりヨ!』
「え」
「なに?」
中埜とホムラの両名が、一様にウェイボールに注目する。
今は対戦相手のターンだ、そんな中で一体何が出来るのか?
二人は同じ疑問を持っていた。
『我の力は呪文に反応してGR召喚を行う事ナリ!』
「GR召喚だと!?」
『我が相棒よ、GRゾーンを開くナリ!!』
「よし!GR召喚だ!!…………って、どうやるの?」
『我の背中のツマミを回すナリ』
トコトコとウェイボールがやって来て、背中のツマミを指さす。
「なんか、昔やったこと有るぞ?
ガチャガチャだっけ?」
昔懐かしの記憶を思い出しながら、中埜がツマミに手を掛ける。
ガチャ、ガチャ、ガチャ!
『イザ!GR召喚なり~~~~!!!』
ウェイボールが両手から光の球を放ち、それが空中で割れた。
『ホッター!』
現れたのは、ホタテをイメージしましたと言わんばかりのクリーチャーだった。
陽気に中埜の周りを飛び回り、ウェイボールとハイタッチを交わす。
「なるほど、GRゾーンからランダムのクリーチャーを召喚出来るのか!」
初めて見る召喚方法に中埜は興味をそそられた。
デュエリストのサガか、脳裏に一体どんなデッキを組んでやろうかと、アイディアが巡り始める。
そんな事を考えているウチに、更にもう一枚トリガーが発動した。
「2枚目!?よしっ!フェアリーライフ発動だぁ!」
中埜の山札から一枚カードがマナに置かれる。
「そしてフェアリーライフは呪文!
つまりウェイボールの効果でもう一度GRだ!」
中埜が再度ウェイボールの背中のツマミに手を伸ばす。
ガキッ!
「あれ?回らない?」
ガキン!ガッキ!ガッキ!
『いでででで!?ナリ!!
呪文を使ってのGR召喚はターンに一度きりなりヨ!』
背中に手を伸ばしながら、ウェイボールが涙目になる。
「ええ……ターンに一回限定なのかよ……」
露骨に残念そうな顔を中埜が見せる。
『そんな目をするな、ナリ……』
ウェイボールが視線をそらした。
そのそらした視線の先、ホムラが二人を射抜く様な視線を投げていた。
「そうか、お前か?サンジェルマンが手を貸していたのはお前か!
いいぞ、いいぞ!!ようやく面白くなってきた!!
てめぇの首を持ち帰れば、俺の評価もあがるだろうしな……
お遊は終わりだ!!本気で、お前を刈り取る!!」
ホムラの目に再度、ぎらつき始めた。
今、ここでようやくホムラは中埜を『獲物』として認識したのだ。
「俺のターンの終了時、『イーヴィル・フォース』の力で呼び出されたクリーチャーは破壊される。
テンザンを墓地へ!」
『ぐるるるあぁあああ!!!!』
テンザンが苦しみだし、巨大な体が崩れ始めた。
少量のマナでの呼び出しに加え、スピードアタッカーの付与。
それはある意味当然の結果とも言えた。
だが、崩れ行く体が次第に別の形を持ってゆく。
「な、なんだ?」
「テンザンが破壊された事により、もう一つ能力がトリガーする。
ドラゴンの死を合図に、コイツ等は蘇る!!
出でよ!!『黒神龍 グールジェネレイド』!!」
『しゅるるるるるるる……』
テンザンの残骸をもとに、ホムラのバトルゾーンには2体の新たなるドラゴンが姿を現した。
龍の死肉を糧とし、墓場から蘇る死を纏いし龍。
それこそがグールジェネレイドだ。
『な、なんと、屈強なドラゴンが2体もナリ!?』
ウェイボールが震えた声を出す。
「さぁ、この盤面、返せるか?」
ホムラが中埜に視線をぶつけた。
ホムラ 手札2 盾5 マナ3
「ヤバイ……こっちのバトルゾーンには殴れないウェイボールと、GRクリーチャーのホッテホッタ。
対して相手の場にはパワー6000のグールが2体……」
冷静に状況を確認した時、中埜の心臓が大きく鼓動した。
「うぐぅ!?なんだ、コレ!!」
ドクンドクンと、胸の中で心臓が暴れているような感覚がする。
指先が震え、肺が酸素を取り込まない。
視線が意図せずブレる。
「はぁー……はぁー……」
「なんだぁ?ビビってるのか?」
ホムラの投げかけた言葉で、中埜はようやく自分の状況を理解する。
「おれ、怖いんだ……『負けるかも』って思った瞬間……
そうだ……死ぬかもしれない……」
「『カモ』じゃねーよ。お前は死ぬんだよ」
「え?」
ホムラの言葉に中埜が目を見開く。
「真のデュエルは魂を掛けた文字通りの『決闘』だ。
ぬくぬくと甘ちゃんのゲームをしていたお前には分からねぇのさ。
次なんて無いんだよ。お前はただ死ぬ」
その言葉はジワリと音を立てて、中埜の心の古傷をえぐった。
「い、いやだ、いやだ、いやだぁ!!
呪文!『REVタイマン』シールドの枚数が2枚以下なので、次のターン攻撃を受けない!!
ウェ、ウェイボール!GR召喚だ!!速く!!」
『ま、待つナリ!!先ずは冷静になることが先決ナリ!!
そんなんじゃ、戦略すら――!』
ウェイボールの言葉を無視して、ツマミを回す。
『アロロロロ?』
出て来たクリーチャーは機械のチップの様な部品に、眼の様なオーラが絡まったクリーチャーだった。
「こいつは?こいつは何が出来るんだよ!?」
『こやつは
『アロロロ……』
呼び出された天啓には、不思議な事に覇気がない。
『マナに水を含む6枚のカードが無いと力を発揮出来ないナリ……』
「なんだよ!!じゃあ、コイツはただのバニラか?
ふざけるなよ!!こんなんじゃ、こんなんじゃなぁ!!」
『……マナが足りなければそうなるナリ』
困ったようにウェイボールが口を開く。
中埜の暴言に拳を握り耐える。
「使えない!……ターンエンドだ」
苛立たしげに中埜が吐き捨てた。
中埜 手札4 盾2 マナ4
「さ、て、と。サンジェルマンの孫娘のカードだと思って身構えたが、使い手がクズじゃしょうがない。
GR召喚には驚いたが、所詮防御ばかりを」
侮蔑する様にホムラが吐き捨てる。
「くっ」
その言葉に中埜が顔を歪めた。
『違うナリ!!』
「あ”?」
ウェイボールの言葉にホムラが苛立たし気に反応する。
『確かに今のこやつは腑抜けナリ!!
だけど、だけどこやつは、こやつは他人の為に自身を奮い立たせることが出来るヤツナリ!!誰かの為に、自分を変える事が出来るヤツナリ!!
だから、だから吾輩らは中埜と一緒にいるナリ!!』
「ウェイボール……」
今さっき知り合ったばかりだというのに、ウェイボールは完全に中埜を信じ切っていた。
そのことを感じさせる言葉に、中埜の心は震えた。
「そうかよ、他人の為にねぇ?
で?それがどうしたよ!!テメェが聖人だろうと悪人だろうと、今、ここでお前は死ぬんだよ!!
死ねばみんな一緒だ!!
そこのオモチャも一緒だ、ドルマゲドンの餌になる!
お前も、お前のカードもみんな餌になるんだよ!!
ドローだぁ!!」
ホムラがカードを引く。
「来たぜ!俺は手札から『神滅翔天ポッポ・ジュヴィラ』を召喚!!
その能力でデッキから上を3枚墓地へ!」
ホムラのバトルゾーンに現れたのは龍の骨を纏った鳥だった。
小さくも狂暴な目がウェイボールを見抜く。
そして、デッキから落ちたカードを見てウェイボールが目を見開く。
『ぬぅ!?あ奴、知ってるナリよ。
墓地のクリーチャーを進化元にフェニックスを召喚出来るようになるナリ!』
たった今墓地に送られたカードは3枚。
前のターンのテンザンの能力を加味すると最早16枚ものカードが墓地に落ちた事に成る。
そしてたった今、墓地に落ちたカードは『デス・フェニックス』。
シールドを焼き払う、死を招く不死鳥だ。
「準備は整った、これで俺はターンを終了だ」
ホムラが十分に溜まった墓地を満足気に見た。
ホムラ 手札1 盾5 マナ4
『やばいナリ、やばいナリよぉ……相手の絶対有利このままじゃ……』
がくがくとウェイボールが震える。
ちらりと横を向くと、中埜は目を伏せたままだった。
「ハァン!ようやく諦めたか?
お前らが俺に勝つなんて最初から無理だったのさ!」
勝ち誇ったホムラの声、それを聞いて中埜が顔を上げる。
「…………違うさ、今分かった。ようやくこのデッキの狙いが分かった」
中埜が手札のカード達を見て、確信を込めてうなづく。
「なに?」
「何分初めて動かすデッキだからさ。
戦法の理解に戸惑っちゃて……けど、ここからは別。
俺と俺のカード達が勝つよ」
中埜の目に光が宿った。
「俺はマナをチャージして、呪文詠唱!『マナ・クライシス』!」
中埜の手札から出現した呪文は龍を形を象った。
そして、ホムラのマナゾーンのカードを一枚を噛み砕いた!
ランドディストラクション、略して『ランデス』通称マナ破壊と呼ばれる、公式からも忌み嫌われる戦法の一つだ。
『な、何をしているナリ!?
マナクライシスは確かに珍しいマナに干渉出来るカードナリ!
しかし、この状況下では
「これで良いのさ、ウェイボール。
奴のデッキはコレが刺さる」
眼鏡の弦を指で軽くつついた。
『ナリ?』
「確証は無いけど、アイツのデッキは墓地から『デス・フェニックス』を召喚するデッキだ。
けど、手札はすごい勢いで消耗する。
なら、呼び出す方法は手札からじゃない。
墓地から、デスフェニックスを吊り上げるんだ。
そのカードでね!」
中埜がホムラの墓地から指さしたのは、一枚の闇のカード。
『じゅ、呪文『パーフェクト・ダークネス』ナリ!!
墓地のコスト4以下のカードを2枚まで呼び出せるカードなり!!』
「そ、しかもご丁寧に墓地から使える機能付きでね。
それで、進化元とデスフェニックスを釣る積りだったんだ。
けど、そいつのコストは5!マナ破壊をされた今、次のターンにそいつは使えない!」
「な、にぃ、この、コイツが……!
俺の戦略を……!」
ホムラが目を見開く。
「ウェイボールが冷静にしてくれなきゃ。こんな動きはしなかったよ。
これは俺の『相棒』が居てくれたからこそ、出来た戦法だ!」
「ふざけるなぁ!!所詮そんな物は時間稼ぎ!!
俺にはお前を十分倒すだけのクリーチャー数が並んでる」
『それは吾輩がさせぬナリ!
呪文を唱えた事でGR召喚!!』
『しゃしゃしゃー!』
ウェイボールが新たに呼び出すのは、ハンマーヘッドシャークの様なクリーチャー。
「シェイクシャークの能力発動!
次のターンお前のグール一体の動きを止める!」
シェイクシャークの呼び出す渦で、グールの動きが阻害される。
「…………ふ、ざ、けるなぁ!!
まだお前は即死圏内!!
いけぇ!グール最後の2枚の盾を叩き割れ――!」
グールの攻撃が姿を見せた黄色い影によって止められる。
「ニンジャストライク、ハヤブサマルだ」
「……ポッポジュヴィラで、盾を一枚ブレイク!!」
「シールドトリガー!『パーフェクトウオーター』!!
その効果で2回GR召喚!更にウェイボールの効果で一回追加!」
発動したトリガーと、その効果に反応したウェイボールによってさらにクリーチャーたちが並んでいく。
「お、俺は……何を見せられているんだ?」
ホムラが茫然とする。
呼び出した回収TE-10の効果でREVタイマンが回収され、次のターンで新たに召喚されたウェイボールと共に使用される。
攻撃を封じられ、さらなるクリーチャーたちが並ぶ…………
「俺の……ターン……ドロー……エンドだ……」
何もせず、茫然とホムラは自身の敗北を感じていく。
一手、僅か一手先読みされて止められる。
まるで、深海で足掻くのを自由に泳ぐ魚たちがあざ笑っている様な、そんな感覚に陥る。
「『タコンチュ』を召喚、自身の水のクリーチャーを全てコマンドにする。
そして、攻撃時に侵略!『S級宇宙 アダムスキー』!」
攻撃したホッテホッタが、円盤をイメージさせるロボへと姿を変える。
そしてその攻撃は盾では無く、ホムラの山札からカードを4枚墓地へ落とした。
「アダムスキーはその攻撃で、盾では無くデッキを破壊する。
俺のバトルゾーンにある攻撃できるGRクリーチャーは後、7体。
そして全てのクリーチャーたちは『タコンチュ』の効果でコマンドになっているし、アダムスキーはバトルゾーンから侵略出来る。
いけ、GRクリーチャーたち!!奴のデッキを破壊しろ!!」
無数に侵略するアダムスキーの攻撃で、もともと減っていたホムラの山札はさらに減っていく。
「な、ありえねぇ!俺が、俺がコイツにまで!?」
「侵略発動!」
アダムスキーの姿が分子レベルで分解される。
そして、シェイクシャークに乗り移り、再度アダムスキーの姿を形作った。
「っ!?」
ホムラが息を飲むそして――
「これで、最後だ」
アダムスキーの攻撃で、ホムラの山札の最後の一枚が墓地へ置かれる。
「う、うわぁあああああああ!!!」
ホムラの声が響くと共に、デュエルスペースが崩壊する。
「あ、アイツは!?」
『逃げたみたいナリね。
おめでとうナリ、お主の勝利ナリよ』
『おっめでとぅー!』
「うわっ!?なんだ、なんだ!?」
急に響く声に、中埜が驚く。
『ミーの名前は
このデッキのもう一つの魂を持つカードさ!』
アアルカイトが声を出し、空中を泳ぐ。
「あれ?さっきは?いた?」
『ユーたちの籤運が悪すぎなんだよ!!
ミーはずっと待機してたのにあんまりだヨー!』
アアルカイトが空中で涙を流す。
『そう言えば、引かなかったナリね』
『引かなかったじゃないヨー!』
「やれやれ、コレからうるさくなりそうだな」
中埜はそんな2体を見て笑みをこぼした。
「くそ……なんでだ、俺は……俺が、負けるハズは……」
敗北したホムラが肩を押えて、暗い路地を歩いていた。
体を引きずり一歩踏み出した時、突如世界が色を失った。
「いやぁ……ずいぶん派手にやられますりましたな?」
「ぅっ!?」
突如後ろから、おかしな口調の少年が話しかけてきた。
暗闇に溶ける様に、怪く立っていた。
懐から取り出した夜色の扇子で、口元を隠し笑った。
「てめぇ!?一体どこから!!」
「さぁて、何処からでありましょうね?」
反射的にホムラが腕を振るうが、むなしく空を切るだけだった。
まるで陽炎を相手にしている様に、その姿はつかめない。
「もしかしたら、最初に会った時。からかもしれますりませんな。
ほら、前にドギラゴンが暴れた時の……」
影の男はおかしな口調でホムラをあざ笑う。
その姿はホムラの脳裏に浮かび上がった。
「思い出した、てめぇか!!
あの時は逃したが、今回は逃さねぇ!!」
ホムラがデッキを構えた時――!
『勝負の決着はついている。無様な姿をさらさない方が賢明だぞ』
影の中から、黒い炎が槍となってホムラのデッキを叩き落した。
ホムラの目の前でその槍は空へと舞い上がり、不死鳥の形へと姿を変えた。
「デ・スザーク……」
そのクリーチャーの名をホムラは無意識に口に出していた。
「ご名答。我の……そう、こそばゆい言い方をすれば『相棒』に当たるカードでありまするな」
『ふん、相棒などではない。利害の一致という奴だ』
デ・スザークが羽を広げて民家の屋根に飛び移った。
藤御門とデ・スザークの視線が一瞬だけ絡み合った。
「おっと、いけませぬ、いけませぬよ。お仕事を忘れる所でありもうした」
藤御門がホムラのすぐ横に並び立つ。
たったそれだけ、たったそれだけの行為でホムラの脳内には『死』のイメージで一杯になった。
そして――
「はい、これは送り物でありまする」
藤御門が懐から一枚のカードを取り出した。
色を失たった世界が、より一層『黒』に染まる。
「なっ……」
イラストは見えない、ただ完全なる闇が渦巻いている様に見えた。
そのカードをだした瞬間から、まるでゆっくりと世界が溶けていくような錯覚さえ感じてしまう。
「受け取ってくださりませぬか?」
「はっ!?」
藤御門の言葉でホムラが正気を取り戻した。
そして、改めてカードを見て目を見開いた。
「それは!?」
「呪文【オール・デリート】。あんさんたちが、欲しがっていたのでありましょう?」
それはホムラたちドルマゲドンから回収を命じられているカード。
元を正せば、サンジェルマンの孫娘を捕獲する目的も、彼女がこのカードを持っていると予想されているからだ。
だが、今ここに現物が存在している。
「な、なんで……お前が……?
どうして、俺の味方を……する?」
余に出来すぎた状況にホムラは理解が追い付かなかった。
「さぁて?我は善良で親切な一般市民でありまするから……ね?」
困ったように首を傾ける藤御門。
その露骨なまでに誤魔化す姿に、ホムラはあっけにとられた。
「遠慮させてもらうぜ、そんなあやしいカード……」
「おやぁ?その様な事出来るのでありまするか?」
藤御門がホムラに視線を合わせる。
「ご自分の立場を良く考えてくださりますれ。
敗北に続く敗北、失敗に次ぐ失敗、醜態に重ねる醜態……
もう、後がないのではありませぬか?」
『どこの世界も無能は、駆逐され強者の餌となる。
貴様は今までそうしてきたのだろう?次は誰か、分かるだろう?』
デ・スザークまでが追い打ちをかける。
「あんさんには、もうこのカードを手にする以外の道はありませぬ……
命欲しさに、手柄欲しさに……自分可愛さ故に……くっく、くっくく……」
扇子を広げ藤御門が可笑しくてたまらないといった様子で口元を隠す。
「ふ、ふっざけるなぁああ!!」
藤御門の手を払いホムラが走り去った。
「ふむ……しかと、渡しましましたぞ……」
手に【オールデリート】を握り走るホムラの姿を藤御門が見送った。
『ニンゲン。お前がなぜアイツの命に従うのかは知らん。
だが、これは大きな争いが起きるのでは無いか?』
闇の炎の翼を広げ、デ・スザークが舞う。
あたりを闇の炎が包んでいく。
「ああ、あんさんもそう思いまする?
けれど、我は我がしたいからしている事に過ぎないのでありまするよ。
我が欲しい物は――あんさんの言う通り、争いと悲しみと悲劇の末にしかありませぬので……」
すこしだけ、ほんの少し悲しそうな顔をして炎の中に藤御門は姿を消した