今回のデュエルは結構あっさり目です。
「すいません。俺、昨日結局別れてそれっきりです……」
想護の通う高校、私立
「中埜、具合が悪かったとか言ってなかったか?
最後にどこ行くとか……」
何処かだるそうに、やる気のない男の先生が告げる。
その態度は、何かを知ろうというよりも、義務的にやることをしている
「いえ、それも……」
「そうか、じゃもう行っていいぞ」
想護が職員室を後にする。
「中埜……」
廊下の壁、想護が力なくもたれ掛かった。
今朝の事――
「あ~、出席の前に……この中に、中埜の行きそうな場所を知ってるやついるか?」
担任の言葉に、クラス全体がざわめいた。
「え、なに?」「中埜君?」「え、あいつさぼり?」「いや、いい加減な奴だけど……」「って……え、いないし」「なになに、事件?」
「はぁ~い!お前ら静かにー、あい、静かにー」
パンパンと、先生が手を叩いて教室をだまらせる。
「えー、中埜は昨日から、行方不明だそうだ。
見かけた、または昨日午後7時以降に、連絡を受けた者は後で職員室で話を聞かせてくれ」
自身の親友の行方不明という、事態に想護は昨日最後にあった時のことを職員室へ話に行ったのだ。
「中埜……どこ行ったんだよ……」
形容しがたい感情が想護の中で、回る。
昨日の7時から連絡が取れないという事は、最後に一緒にいたのはきっと自分だ、
大会が終わり、別れたのが夕方4時半から5時。その後帰ったと、思っていたが……
心配は勿論、あの後自分が一緒にいれば、一緒に帰っていればなどの後悔が渦巻く。
しかし、起きてしまったことは戻しようがなく――
「想護クン――ひどい顔、しておりますよ?」
自身にかけられた声で、想護が顔を上げる。
痩せすぎと称される体躯に、病的と呼ぶ一歩前の蒼白の肌。
何処か公家口調を思わせるしゃべり方は、想護もよく知る人物だった。
「藤御門先輩……」
「ご機嫌よろしゅう……ないようですな」
困ったような顔をするのは、想護の所属する部活の先輩『
「中埜が……中埜が……」
「ああ、落ち着いてくだされまし。話は、我のクラスにも入って来ておりまする……
想護クンは特に中埜クンと仲が良かったでしたからな……」
心中を察した藤御門は、想護の肩を抱く。
「我の薄い胸板でしたら、いくらでも貸しもうしまする。
好きなだけ、泣いてくださいまするよう……」
「いや、そこまでは結構です」
冗談めかした、藤御門の言葉を想護がきっぱりと断る。
「ほっほっほ、それは無念。
では、部室で詳しい話、お聞かせ願えまするか?
毒はため込むだけ、ため込んでも良い事など、ありますりません。
何処かで、吐き出す所が必要とおもいまする」
茶化す様に、扇子を取り出して口元を隠す。
『コイツ――変なトコ鋭いのよね……口調は完全におかしいけど……』
コートニーが胡散臭そうな目を藤御門へ向けた。
「部長サン。ただ今、帰りました」
藤御門が部室棟の端のさらに端にある、卓上ゲーム部と書かれた部屋のドアを開ける。
ここは想護たちの部室だった。スポーツをやっている中埜はここの部員ではないが、ここの先輩二人とは面識がある。
意気揚々と、藤御門が扉を開けるが――
「んあ……ぐご……」
返事の代わりに帰ってきたのは、いびきだった。
「あら、相互クン静かにお願いもうしまする。部長サン、お昼寝中のようです」
閉じた扇子を口に当てて、シーのサインをする。
「実紅部長……」
想護の視線の先、小学生と見紛うような体躯の少女が眠っている。
大きな一人様のソファーに身を預け、傍らの小さなテーブルの上には食べ散らかされたお菓子の袋が無数にある。
指先や口元にチョコレートやクッキーの食べカスが付いている。
まるでお菓子を食べてお昼寝する女児に見えるのこ少女こそが、この卓上ゲーム部の部長――
先輩と呼ばれることから予想出来るとは思うが、一年の想護。二年も御影の上級生で三年である。
「ぐぐぅ……陸井にぃ……」
寝言を聞きつけ、御影が小さく笑う。
「起こすのは可哀そうでありまするな。しばらく寝かしておきましょうぞ」
「先輩……俺は……」
誘ってくれたのはうれしいが、自身の友人が行方不明というのだ。
心中穏やかになれる訳はなかった。
「――そうでありましょうな。
けど、我らは警察ではありません。名探偵でもありません。
けど、それでもじっとしているつもりはありません」
御影が手慰みの様に、デッキを取り出しシャッフルし始める。
「歯がゆいものがありまするな……どこか、そう――元気でいてくれまするとよろしいのでするが……」
「先輩……あの、こんな時くらいその口調やめたらどうです?」
非常に、非常にどうしようもない事だが、シリアスが彼の『公家っぽい』よくわからん口調で消えていく気がする。
「あらら、これは失礼もうしました。けど、この口調すっかり癖になっておりまするのでな?
ご容赦願いまする」
「……合ってるんですか?その文法?的に……」
「我は、承知しておりません」
御影が口元を扇子で隠すと、笑ってみせた。
何処かふざけた態度に、想護が小さく笑った。
そして、二人がデュエマを始めた。
「俺昨日、中埜がいなくなる、少し前まで一緒にいたんです……
コートニーを召喚……エンドです」
「ほぉ?まぁ、いつも通り大会でしょうな。
2コス、アクア・メルゲ――エンドです」
「3、フェアリーミラクル。だから、どうしても考えちゃうんです……」
どうぞと、想護が手を出す。
「自分を責める事はありませぬぞ?ただの偶然。ただの不運です。
彼は、そう――自分探しでもしておるのでしょう――デュエマ・ボーイ ダイキ召喚……
モードは…………うーん……マナチャージで、メルゲは使用しない」
どうぞと、藤御門も手で返してくれる。
「心配だなぁ……もしも、なにか……」
何も言わずボアロジーを呼び出し、マナが増える。
「楽観的に考えまする様に。不安で動けないのは、悪手なりまする故……
セブ・コアクアン召喚……3枚オープン、龍神ヘヴィと、メメント守神宮を手札。
フェアリー・ホールは墓地へ……」
「撃英雄 ガイゲンスイでマナ武装7……ガイゲンスイで2枚、能力で一枚追加ブレイク……」
藤御門のシールドが、3枚吹き飛び手札に加わる。
「けど、あえて見守るのも必要かも、しれませぬぞ?」
「じっとしてるって……つらいんです……」
ボアロジーが追加ブレイクを含んだ2枚のシールドを破壊する。
「トリガー発動。グレイブ・ディール召喚、けど……」
グレイブ・ディールは相手のクリーチャーのパワーを2000下げるクリーチャーだ。
コートニーを本来なら、破壊できるが――
「ガイゲンスイの能力で、パワーが上がってまするな……」
「コートニーでトドメです……」
「あららら……まいりもうしました」
コートニーがタップされて、藤御門が敗北を認める。
「気が少し、楽になった気がします。一回家に帰ってよく考えてみます」
「あ、想護クン――」
想護はカバンを取って帰っていった。
「強いお人やな……けど行方不明とは?
気の良い物じゃ、ありませぬな」
「うぅぅ~ん……陸井にぃ……どこ……」
「かわいそうに……特に部長サンには、お話できませんな」
藤御門が気の毒そうに実紅を見て話した。
彼女は多くを語りはしないが、時々こうして知りもしない人物の名をあげて、うなされることが有る。
きっとその『陸井』という人物も……
「難儀な世の中でありまする、ね」
何かを決心した様な想護の顔を思い出しながら、藤御門は扇子で再度口を隠した。
「けどそろそろ……何かが動く時かもしれませぬなぁ……あんさんも、そう思いますやろ?」
『ああ、その通りだ……』
部室に、何者かの声一瞬だけ、響き消えた。
『想護!想護ってば!!』
「なんだよ!!」
コートニーの言葉に、想護が乱暴に答える。
今、想護は家に帰るなり、着替えを済まして近所のカードショップを自転車で行ったり来たりしている。
今は、そのうちの一軒のフリースペースの場で、休憩をしている最中だった。
『闇雲に探して見つかると思うの?』
「闇雲じゃねぇ!アイツと最後に大会に出た店から自転車で行ける3時間以内の店を探してるだけだ……
今の時代携帯で検索すれば、いくらでも見つかる……」
取り出した携帯を使い次のカードショップを探す。
『探すって言ったって、一件の店で長居することだってあるし第一――――っ!?』
「ん、どうしたコート……ん!?」
想護が瞬時にそこから飛びのいた。
何時からいたのか、背後には黒いコートの怪しい長身の男がいた。
なんというか、雰囲気が異様だった。まるで、この世界を一枚の絵としたなら、彼は後から書き込まれた異物の様に感じられた。
「えっと、どなたですか……?」
怪しい風貌に、想護が警戒する。
だがその男はあくまで、にこやかに笑って見せた。
「オマエ、俺とデュエルしないか?
俺に勝てたら、カードをやろう……ほら」
その男が懐から取り出した、カードの束を机の上にばらまいた。
「いや、俺は……それは!?」
想護はばらまかれたカードを見て、目を見開いた。
アクアン、トロン、アクア・ベーシックーン、ストーリーミングシェイパーなど等の水単色の速攻デッキ。
そのデッキは、想護にとって見覚えのあるデッキであり……
「あんた……それを何処で手に入れた!?」
「へぇ……勘が良いな。まぁ、いい!!とりあえず捕獲してそっからだ!!」
男の姿が一瞬ブレる。そして、その背後に目の無い龍が姿を見せ、半透明なまま想護に襲い掛かった!!
突然の事態に想護が驚く。だが、そんな暇もなくその龍は大きな口を開け覆いかぶさるように――ならなかった。
『こぉんのぉ!!やろー!!』
『ギャァオオ!!』
その龍は大きな声を上げ、コートニーによって蹴り飛ばされた。
「コートニー?」
『チっ……想護、準備して……コイツ、ヤル気よ!!』
「くっはっはっは!!そのカード!!魂を持つカード!!
漸く見つけたぜ!!この世界まで来てようやく見つけたぜ!!
てぇめぇは
その男が、ばッと両腕を左右に開く。
想護はこの時、周囲にいるはずの人間が誰ひとり、いなくなっている事にようやく気が付いた。
『仕方ないわね……相手してやろうじゃない!!』
コートニーが想護の前に立ちふさがり、その手から光を放った。
「『
両者の光が想護を包む。
そして、想護が次に目を開けた時――
「な、なんだここ!?」
気が付くと、見慣れない空間。
何処までも続く様な大地に立ち、周囲には人をはるかに超えたサイズの動物の骨が見える。
それらは、皆コケに覆われ、周囲には巨大な木。
緑豊かなジャングルを思わせる空間だった。
「くっひっひ!それがお前のバトルフィールドか?緑……自然かぁ?」
さっきの男が立っていた。
だが、その男の背景は別物だった。
蒼と赤の絵の具を混ぜた様な、ゆっくり渦巻く銀河。
その中央に、紫の惑星が鎮座していた。
男はその、異様な宇宙をバックに立っていた。
「なんだ、なんだ、何なんだよ!?コレは!!」
想護がパニック気味に話す。理解できない展開、突如訪れた非日常。
通常の高校生である想護には、理解の及ばぬのも無理はなかった。
「てめぇ、初心者か?なら、真のデュエルは初めてか?
喜べよ!!これ以上スリルのあるゲームはありゃしないぜ!!
さぁ!!刈り取ってやらぁ!!ぎひゃぎひゃぎひゃ!!」
男が高笑いを浮かべ、目の前の半透明の四角い盾が並ぶ。
『想護!デッキを構えなさい!!
このクズ野郎が、あんたの友達を攫ったのは間違いないわ!!』
「コートニー!!それより説明を――」
『うっさい!!こいつをぶっ潰したら、いくらでもしてあげるわよ!!』
あっさりと想護の言葉を無視して、コートニーが急かす。
「な、なぁ、コートニー?」
『想護……覚悟を決めなさい。このゲーム下手したら死ぬわよ?』
想護が今まで一度も聞いた事の無いような、冷酷な声でコートニーが話した。
今回急展開過ぎない?
過ぎるよね……
けど、部員の人を紹介するよりも、先になぁ……
なかなか難しいですね。