本来こんな事あっては成らないのでしようが……
今回は所謂説明回となりました。
デュエルが終わった後、四ッ谷はおもむろに立ち上がった。
さっきまで戦っていたバトルフィールドは消えうせ、テーブルの上でコーヒーが湯気を立てている。
「来てくれ。今の君には――いや、君たちになら話せる」
「?」
想護は不思議に思ったが、今回ばかりは四ッ谷の言葉に従って後をついていく事にした。
会計を住ませ、四ッ谷が図書館の奥――秘密の入口の本棚のある場所へと向かっていく。
カッ、カッ、カッ……
徐々にひとけが無くなり、四ッ谷の立てる靴音が大きく感じるようになっていく。
そして、目的の本棚にたどり着き、本棚を開くためのシカを動かし始める。
「君は――魂を持つカードたちをどう思っている?
何処から来て何を目的とし、そもそもなぜカードが心と人格、所謂『魂』とすら呼べるものを持つのか……考えた事はないか?」
例の本棚をスライドさせ、その下の階段に向かいながら四ッ谷が話す。
『想護が考える訳ないじゃない』
「どうって?えっと……とりあえず、すごい?」
つられて足を進めた想護が、非常に間の抜けた回答をする。
『バカ丸出しね。バカの回答としては100点かしら?』
その回答に間一髪入れず、コートニーが毒を吐く。
考えてみればコートニーが話すなんて事は異常なコトでしかないが、想護はコートニーの件はすっかり当たり前になってしまっている。
「うぐっ……そう言えば、ずっと相棒してるけど、考えたことは無かったな……
居るのが当たり前って感じで……」
想護の言葉に、階段を下りる四ッ谷の動きが一瞬止まる。
「そう、か……私は、君たちのそう言った関係がうらやましいよ」
こちらを振り返りもせず、四ッ谷は階段の一番下の部屋へとたどり着いた。
「四ッ谷さ――その人……」
部屋の中、雪菜が四ッ谷に声をかけようとして、背後にいる想護を見て黙る。
明らかに歓迎的ではないムード。どうやら彼女は四ッ谷とは違い、本気で想護たちを排除しようと思っていた様だった。
「彼のテストは合格だ。私が直々にみて判断したんだ。
文句はないだろ?」
「はい……四ッ谷さんが言うなら……」
非常に、非常に気に食わないと言った様子で、雪菜が煮え切らないという態度を示しながらも渋々うなづいた。
「さぁ、歓迎してくれ。今日から彼は私達『Dシーカーズ』の仲間だ」
『Dシーカーズ?』
コートニーが想護の疑問を代弁する。
「私たちのグループの名だ。と言っても、非公式だし大規模な組織と言えるほどでもない。
だから、我々は敢えて『グループ』と称している。
今我々は多くの仲間を求めてる。残念な事に今いるメンバーは私を含めて3人しかいない……」
四ッ谷が若干、気まずそうに語る。
「3人……四ッ谷さんと、その子の他にも?」
「ああ、彼はあまり顔を見せたがらないんだ。
だが、有事の際にはキチンと来てくれる」
想護の言葉に、四ッ谷が答える。
四ッ谷、雪菜の実力は戦った想護がよくわかっている。
おそらく、その最後の一人も同じ位強いのだろうと、勝手に想像する。
「さて、君には見て貰いたいものが有るんだ」
「四ッ谷さん、まさか!!
彼には、早すぎます!!」
四ッ谷の考えを察したのか、雪菜が声を荒げとあるドアの前に両手を広げる。
「さっきも言ったはずだ。彼は信用できる。
それに、仲間に成ってくれるのなら、このことは秘密には出来ない」
四ッ谷の視線を受け、雪菜が唇をかみしめる。
「……わかりました」
渋々と言った様子で、雪菜がその場を退いた。
「これから見せるのは、私達の『戦果』だ」
四ッ谷がシャツに手を入れ、首から下げていたと思われる鍵を取り出した。
そして、雪菜の後ろに在ったドアノブに鍵を差し込んで回す。
「魂を持ったカードの起源は私達にもよく分かっていない」
地下の部屋の中の、更に5つある部屋の内真ん中のドアに手をかける。
「忠告はしましたからね?」
「構わない。一番最初に彼には知ってもらうべきなのだ」
諫めるような雪菜の言葉を、受け流しながら四ッ谷がその部屋のドアを開ける。
『あん?ナニコレ?』
そこは部屋ですらなかった。
3メートルにも満たない短い廊下の先、鉄製のドアが鎮座していた。
「ここは、保管庫だ」
四ッ谷がカードキーを取り出し、更にドアに備え付けられた電卓のような機械をプッシュする。
四ッ谷の持つ鍵、そしてカードキー、パスワードによる3重の、いや、この地下へ入る為の隠し扉を含めるのなら4重のロックだ。
「まるで、映画みたいだ……」
現実離れしたセキュリティをみて、想護が声を漏らす。
「……カードと共存している君だから敢えて言おう。
これから会うやつに、決して心を許すな」
「会う、
まるで人物に会うかのようなセリフに、想護は四ッ谷のいう『戦果』が何なのか、予測出来た。
パチッ!
四ッ谷が部屋の電気をつける。
そこはまるでカードショップだった。
壁にショーケースが並べられ、ガラスにカードがディスプレイされている。
『くっくっくっく……なんだ、また来たのか小僧?』
「ぞわり」或いは「ぞくり」。
マンガやアニメでよく見る表現を今、想護は自身の体を以てして理解した。
この世には聞くだけで、危険と分かる声がある。
この世には聞いただけで、二度と近寄りたくないと思える声がある。
そして、その声は酷く矛盾を孕んだ表現だが、その声は同時に聞く者に安心感を与える声だった。
『ここから私を出してくれる気に成った……という訳ではないな?
なるほど、その子供が新しい仲間か』
部屋の中央に、個別のケースでディスプレイされたカードはディアボロス。
想護は不思議とそのディアボロスから目を離せなくなってしまった。
「黙れ。ディアボロス。黒札 想護、自分を強く持て!」
「はっ!?」
四ッ谷の声に、想護は一瞬自身に相手に魅入られていた事に気が付く。
「これは……」
魂を持ったカードだと一瞬で分かった。
圧倒的な存在感を持ち、暴力的なまでの優しい声色で、そのガラスケースに封印されているカードはそこに在った。
「ディアボロス
そのカードは『時空の支配者ディアボロス
超次元クリーチャーにして唯一たった一枚で5つの文明を持つサイキッククリーチャーだ。
強力なカードとして、尚もドロマー超次元では切札として見かけるカードである。
「ここに在るのは、すべてが魂を持ったカードたちだ。
我々がここに封印している」
「コレ、全部がか!?」
想護が声を上げる。
ここに在るカードは全部で100は下らない。
それらすべてが、コートニーたちの様な意思を持つカードだとは、にわかには信じがたい。
「無論意思を持つと言っても、その差は様々だ。
唸り声をあげるだけの物がほとんどで、理性的なモノを感じさせるのは一割にも満たない。
自我がまだ未形成なのだろう。
だが、問題はその一割にも満たない存在達だ。
奴らは、自らの波長の合う人間に使用されることで、力を解放する」
『くっくっく……その通り。人間など我々クリーチャーの力を行使する為の道具でしかないよ』
ディアボロスが楽しくてたまらないと言った声を上げる。
「な、なら、前に中埜を襲ったのも……!!」
想護の中に、以前見た男の姿がフラッシュバックする。
始めての命を懸けたデュエル。
そのひり付く様な感覚は、未だに消えない。
「落ち着け。黒札 想護。
ディアボロスと奴は別の一派だ」
「別……?
あんなのが、まだ他に居るんですか!?」
恐怖のフラッシュバックのせいか、だんだんと想護の口調が荒くなっていく。
事実、想護の心臓が早鐘の様になり響いている。
「だから、落ち着けと――」
『うっさいのよ!バカ想護!!
ガタガタ、迷子のガキみたいに喚くんじゃないわよ!!』
四ッ谷の声に被せる様に、コートニーが口を開いた。
「……あ、コートニー……」
『ほい、アンタも話続けて』
落ち着いた想護を見て、コートニーが四ッ谷に話しを促す。
「あ、ああ……」
若干の困惑を見せながらも、四ッ谷が再度説明を始める。
「魂を持つカードが何処から来たかは、私達にも分かっていない。
だが、ただのカードと違い意思を持って、所有した人間に影響を与えるのが分かっている。
主な例は、心の中の具現化だ。
これは、魂を持つカード同士の戦いにおいて『デュエルフィールド』という形で現れる。
君の場合は、遺跡を内包したジャングルだったかな?」
「デュエルフィールドに、そんな意味が有ったのか……」
新な、事実に想護が驚きの声を上げる。
「そして、魂を持つカードはその『
そして、デュエルという形をとり――」
『相手の心を攻撃するって仕組みね?
心を守る盾を全部わって、相手の心の中へ飛び込んでトドメ――
へぇ、ずいぶん理にかなった戦い方ね』
コートニーが言葉を継ぐ。
やはり、彼女もうっすらと気が付いていたのかもしれない。
「な、なぁ、ならさ。肝心の味方してくれるクリーチャーが自分を襲ったら……」
「雪菜がその例だな」
「!?」
ボルメテウス・ブラック、ボルメテウス・蒼炎を使用していた雪菜は確かに苦しんでいた。
デュエルフィールドに現れた、ボルメテウスは雪菜の心の世界を容赦なく攻撃していた。
「あのまま行くと、雪菜はボルメテウス達によって廃人にされていただろう」
「廃人……そんなバケモノが、一体どこから……」
タダのカードではない。文字通り魂=命を懸けた戦いであると、想護は理解した。
「端的に言う。憶測も入ってる部分は多々あるが、この世界とクリーチャーたちの世界を行き来している奴がいる」
「行き来!?」
四ッ谷の言葉に、想護が驚きを見せる。
「私たちは、君が来る以前から、こういったカードを極秘に収集してきている。
そして一部の者たちから「とある情報」を掴んでいる」
四ッ谷が部屋の引き出しから一枚の似顔絵を持ってくる。
そこには、穏やかな笑みを浮かべた老人が描かれていた。
「複数の証言から作られたモンタージュ写真だ。
突然現れ、何を以て区別しているのかは知らないが、魂をもったカードを配っている。
雪菜のボルメテウス、私のミラダンテ、そしておそらく君のコートニーも彼がこの世界に持ち込んだものだろう。
我々は、この男を都市伝説になぞらえ『サンジェルマン』と呼称している」
「サンジェルマン……」
様々な歴史、場所に現れたというとある人物から名をとった男。
それは、想護の記憶の奥に居たコートニーをくれた人間と同じに見えた。
『くっくっく……はっはっは……
懐かしい顔だ。我らは始まりの男と呼んでいる』
「勝手に話すな!!」
四ッ谷が横やりを入れたディアボロスに、怒気を飛ばす。
『そうか?だが、やめてはやらぬさ。
丁度良い、遂に人間にくみするクリーチャーまで出てきたのだ。
そして、今度は懐かしい顔まで見れた、いや、懐かしい男の話だな。
失敬失敬、間違えてしまったよ』
「ディアボロス……!」
四ッ谷がディアボロスをにらみつける。
先ほどから、四ッ谷のディアボロスに対する憎悪は異常だった。
『先ほど、小僧が言ったように確かに我らをばらまいている男は存在する。
だが、すべてのカードがそうではない』
「違う場合があるのか?」
想護が無意識にディアボロスの言葉に応えていた。
『そうだ。この世界にクリーチャーが呼びこまれれば当然だが、そのクリーチャーの痕跡が残る。
いや、痕跡と言うのは違うか?まぁいい。今回は分かりやすさを優先するとしよう。
この場所にクリーチャーが増えれば、そのクリーチャーの気配を感じ、この世界へ向かう者たちがあふれてくるのだよ。
迷い込んだのが、彼らの殆どだが……
「ッ!?」
予測していなかった訳ではないが、想護が息を飲む。
『楽しかったぞ?我が語りかけ、我を所有した人間が我の持つ力におぼれて少しづつ、少しづつ……
我らはこの世界では、ただのカードだが人間という乗り物を見つければ別なのよ。
思い出すな……くっくっく、くっはっはっは!!
つくづく、人間はおろかな――――』
「黙れ!!黙れ、黙れ、黙れ!!」
四ッ谷がディアボロスのゲージを叩く。
その攻撃は、四ッ谷の拳が傷つき血を流しても終わらなかった。
『はぁっはっはっは!!!もう止まらない。もうすでに動き出している。
この男は灯台なのだ。
暗闇を進む船を導く、灯かりだ。
私を含め、様々なクリーチャーたちがこの世界へ向かっている。
始まっているのだよ。多くのクリーチャーがこの世界で息をひそめている!!
自身の力を引き出せる人間を探し、自らの力を行使しようとする時を刻一刻とな!!
止められるか?脆弱な人間達よ、それに組みする家畜となったクリーチャーよ!!』
「おぉおおおお!!」
四ッ谷の拳が、ディアボロスを封印しているゲージを殴りつける!!
ピィシッ!
ゲージにヒビが入り、そのヒビにより、ディアボロスが笑みを浮かべたように見えた。
「貴様らクリーチャーの勝手にはさせん!!
我ら『Dシーカー』が全てのクリーチャーを此処に集める!!
そうすれば、貴様らは暴れる事は出来ない!
そして、サンジェルマンさえ倒せば新しいクリーチャーがやってくることもない!!」
『くっはっはっは!!そうだ、その通りだ。
小僧、貴様の言うその「サンジェルマン」という奴を倒せば、我らがこの世界にたどり着く事は激減するだろう。
だが、貴様らに出来るのか?
くっくっく、見ていてやるぞ?貴様らが、苦しみ足掻く姿をな!!
はっはっはっは、はぁっはっはっは!!!はぁっはっはっは!!!!!』
「黙れ、黙れ、黙れぇ!!」
四ッ谷が何度も、何度もディアボロスのディスプレイを殴り続けた。
「はぁー、はぁー、はぁー……私としたことが、ムキに成りすぎた……
封印用ディスプレイも新調しなくては……」
血の滴る拳をポケットに隠し、四ッ谷が何時もの冷静な口調に戻る。
『ふっふっふっふっふ……』
ディアボロスは封印されながらも、心を乱す四ッ谷の姿を見て楽しそうに笑っていた。
(なるほど、文字通りこいつは「悪魔」って事か)
想護が尚もぞっとする魅力を放つディアボロスを見ながら思った。
一人の少年が、手にしたカードを見て笑みを浮かべる。
「わぁ!本当に貰って良いの!?」
「勿論だよ。このカードが君の所へ行きたがっている。
大切に使ってあげてくれたまえよ?」
目の前には柔和な優しい笑みを浮かべた老人。
彼は四ッ谷に『サンジェルマン』と呼ばれた老人だった。
「うん!大切に使うね!ありがと、おじいさん!!」
カードを受けとった少年は、大切そうにデッキケースにカードを入れて走っていく。
これからあの少年はあのカードを使って新しいデッキを作るのだろう。
「ああ、さらばだ少年」
サンジェルマンは手を振って、姿が霧散して消えた。
そして、この世にまた一つ、魂を持ったカードが解き放たれた。
本編余談。
完璧っぽく見える四ッ谷は実は、結構弱点が多い。
コーヒーは甘くしなくちゃ飲めないし、鍵もしょっちゅう無くすので、雪菜に首から掛けるように言われている。
このグループを影で支えているのは、しっかり者の小学生の雪菜なのかもしれない。