D-クロニクルズ   作:ホワイト・ラム

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新デッキ発売しましたね。
キャップとゼーロのデッキ。

……ゼーロのデッキ見た時、素で「お前誰や!?」と突っ込んだのは私だけではないハズ。


オールorナッシング

「は?賭けデュエル?」

学校の部室の中、想護が声に露骨な不快感を含ませる。

楽しいゲームの話でも『賭け』が付くと一気に不穏な空気に成ってしまうから不思議だ。

 

「なにそれー?お菓子でも賭けてるの~?」

部室の部屋の隅、上靴どころか靴下まで脱いで裸足に成った実紅が2リットルサイズのアイスクリームの箱を抱いて、もっちゃもっちゃと咀嚼している。

少し暑さを感じる様になってきたが、それでも業務用アイスを丸ごと食べるまではいかないだろう。

いや、その前に常人ならば胸やけを起こすのが先だろうか?

 

「その通り……なら、良かったのでありますが……

最近、子供たちの間でカードを賭けたデュエルが流行っている様なのでおりましてな」

痩せすぎの男、藤御門が扇子で口元を隠しながらデュエルをする。

藤御門と想護のデュエル。

何時もの様に、活動と称しての手合わせだ。

 

「ん、ようように来たようですな。

呪文、緊急再誕でセブ・コアクアンを破壊。

能力で手札から究極神アクをバトルゾーンへ。

更に呪文、大地と永遠の神門でマナゾーンから超絶神ゼンをバトルゾーンに。

ゴッドリンク!究極超絶神ゼンアクをバトルゾーンへ!!」

会話も早々に、藤御門はお得意のコンボを仕掛けてバトルゾーンにゼンアクを並べる。

リンクしたゼンアクが想護のブロッカーを破壊し、タップ状態のクリーチャーを攻撃した。

 

「ターン終了時にアンタップしまして、終了となりますな」

 

「俺のターン……逆転王女プリンでゼンアクをタップ、コートニーでトドメです」

藤御門のバトルゾーン。

絶対の防御力を持ったゼンアクだったが、あっさりとタップされてトドメを受けてしまった。

 

「あー!まぁた負けてしまいましたな……

想護クンはホンマにお強いでありまするな。

部長サン!お次はどういたしまする?」

実紅に声を掛けると、実紅の頭のてっぺんのアホ毛がピンと立った。

 

 

「私もやるー!!」

乱雑に置かれたデッキを取ると、そのままトタトタと走って来た。

顔中アイスまみれの姿は、彼女の低身長や子供っぽい言動と合わせて、なんというか、非常に子供っぽい印象を与える。

これでも彼女はこの部活の最年長なのだが……

 

「っふっふっふ。昨日改造したボルコンを見せてやるんだから!

超次元無し!GR無し!禁断無し!同名カード無し!自然文明無し!ボルメテウスよりも強いカードも無し!!

古き良き、ボルメテウスの力見せてあげるんだから!!」

スカートの中にある、デッキケースから実紅が自慢気にデッキを取り出す。

正直な話、その構築では今の時代かなりつらい物が有るのだが……

 

「あの……いや、部長本人がイイって言うなら……」

 

『この女。想護以上にバカなのよね』

明らかに性能が低いであろうデッキを掲げる実紅を見て、想護はため息をついた。

 

 

 

 

 

「あー、部長、そろそろ変わりません?」

想護が藤御門との交代を勧める。

しかし、実紅は答えない。

 

「うぐぅ……うぐぐ……」

あれから1時間程度、想護に10連敗を喫した実紅が唇を固く結ぶ。

 

「うぐぅー!うぐぐぐ!!!」

最早日本語すら忘れたその様子に、ため息すら出てこない。

ふくれっ面をして、プルプルと小さく震えている。

なんというか、弱い者いじめをしている気がすさまじくする。

 

「えっと、コートニーでトドメです」

 

「あぁあああああああ!!!」

コートニーがタップされ、実紅の敗北が決定される。

その瞬間、実紅がぐったりと倒れる。

 

「おや、11敗目でありまするな」

 

「あー!!負けた、負けたぁ!!

解散!カイサン!!かいさん!!部長権限により今日の部活終了です!!」

飛び起きた実紅は手を叩いて、その場を閉めてしまった。

まぁ、流石に11連敗は応えたのだろう。

 

「部長サン――そう短気をおこさないでくださりませ」

どうどうと、動物をなだめる様に藤御門が実紅をなだめる。

 

「誰も私の気持ちなんてわかんないよ!!

私は一人孤独なロンリーボーイだよ!!」

 

「あ、えっと、先輩すいません。

今度は手加減します。

あと、先輩はボーイじゃなくて、ガール……」

 

「手加減したら想護君部活クビ!!部長権限でクビなんだから!!」

 

『当たり前よね?』

想護の言葉をかき消し、実紅が言い放つ。

コートニーはそれを横で聞いている。

 

「ああ、これはもうどうしようもありませんな。

(わっぱ)の癇癪と考えて、飲み込むしかありますりませんな」

藤御門が扇子で顔半分を隠す。

 

(藤先輩、絶対あの扇子の下で笑ってる)

想護がそんな事を考える。

 

「むーぅ!!想護君なんて、けちょんけちょんにしてやるんだから!!」

椅子からゼンマイ仕掛けの玩具の様に飛び上がった実紅は、ソファに置いておいた2リットルアイスに食らいつく。

凄まじい勢いでバクバクと食べて、最後に残った分を容器を傾け飲み干すと、口についたアイスを服の袖で拭った。

 

「ぷはぁ……幸せ……

とりあえず、今日は帰るよ~

明日こそリベンジなんだからね!」

実紅が想護を指さし、上機嫌で帰っていく。

 

「ぜ~ったい、負かしてやるんだからね!」

最期、扉を開けて上半身を乗り出した実紅は捨て台詞を吐いて帰っていった。

因みに、脱いだ靴下を忘れ素足にローファーを履いて帰っていった。

 

「部長サンほど、前向きなら人生楽しいでしょうな……」

くくくと笑いながら、藤御門が話す。

 

「まぁ、先輩は元気なのと、気分の転換が早いのが魅力ですから……」

苦笑いを浮かべた想護が同意した。

結局、賭けデュエマについての情報を聞き忘れていた事を、想護が思い出すのは家に帰ったからだった。

 

 

 

 

 

翌日

「こんにち――うわっ!?」

 

『ナニコレ!?』

想護、コートニー両名が部室に入ると同時に放たれる圧倒的な負のオーラに気おされる。

なんというか、部屋の空気が重い!!

カーテンと窓も締め切ったのか、蒸し暑く日差しが無く、暗い!!

 

『うっわ、何?何が起きたの?』

コートニーがドン引きしながら、想護の気持ちを代弁する。

 

「想護君……昨日の話、本当だったんだね……」

その発生源は、ソファーの上に居た。

 

「ぶ、部長!?」

そこに居たのは、部活の部長である実紅本人。

だが、本人だとは思えないほど(やつ)れている様に見えた。

テンションが低いし、全体的にダウナーだし、眼に至っては死んでいる。

 

「ああ、部長サン……!

お気を確かに、ケガの功名という言葉もありますりますよ?」

そしてたった今気が付いた、そばに寄りそう藤御門。

かいがいしく、ジュースなどを実紅に差し出してる。

 

「藤先輩、一体なにが有ったんですか?」

 

「実は部長サン、昨日話した件のの賭けデュエマに勝負を挑まれましてな?」

藤御門の言葉に想護は嫌な予感を受ける。

 

「まさか、賭けデュエルに負けて、デッキを……!?」

この落ち込みよう、想護には分かった。

おそらく、昨日帰る途中で寄ったカードショップで、賭けデュエルを挑まれ実紅は敗北してしまったのだろう。

そして、その賭けのルール通り大切なカードを……

 

「要らないって言われたぁあああ!!

あぁあああ!!あぁああああん!!」

バタバタと寝ころんだまま、実紅が暴れる。

 

「は?一体、どういう事ですか?」

 

「部長サンの話をまとめるに……

昨日、部長サンは帰りがけの店で、賭けデュエマを挑まれたんですわ。

部長サン、あんまり強くないくせに、戦闘意欲だけは無駄にありますりまするでしょ?

だから、意気揚々と戦いに乗ったらしいんですわ。

けど――」

 

「負けて、カードを?」

実紅の態度から、およその結果は読み取れる。

彼女は自分が手塩にかけて、作った出来からカードを奪われたのだ。

こうなるのも、仕方が――

 

「半分正解でありまする」

 

「半分?」

予想外の言葉に、想護君が頭上にクエスチョンマークを浮かべる。

それは、藤御門に見えないコートニーも同じだ。

 

「私のカードは弱いから要らないっていわれたのー!!

うわぁあああん!!うわぁあああ!!

強いのにー、上手く回れば、すんごく強いのに!!」

ダンダンと机を実紅が叩く。

 

「あ、ああ……なるほど……」

正直な話、実紅のデッキはその名の通りボルメテウスが主体のデッキ。

切札も当然ボルメテウスだし、その他のカードも当然そのボルメテウスをサポートするカードだ。

挙句の果てに昨日、実紅本人が『ボルメテウスより強いカードは使わない』と公言している。

そのデッキ内容は到底、賭けデュエマプレイヤーの望むモノでは無かったのだろう。

 

「けど、カードが奪われなかったのは、良かったじゃないですか?ね?」

 

「その通りでありまする。カードが無事で良かったでありますりましょう?」

二人が慰めるも、結局実紅本人は納得できない様だった。

 

「想護君、藤君……」

 

「はい、先輩?」

書き消えんばかりの声を、実紅が出す。

 

「二人で、倒してきて。

その、賭けデュエリスト……」

 

「え、いや、やめさせる気では居るんだですけ――ど!?」

突如想護の腕が強く引っ張られる。

 

「想護クン、これは部長命令でありますります!

ならば、一介の部員でしかない我らは従う以外に道など、無いのでありまするよ?

さぁ!いざ尋常に勝負でありまする!!」

藤御門は息まいて先に行ってしまった。

 

「あ、藤御門先輩!?まだ、場所も聞いてないのに!!」

 

『……なーんで、みんなして話を聞かない連中ばっかりなのかしら?』

コートニーがため息をついた。

 

 

 

 

 

『はぁー、なんでこんな案件受けたのよ?

めんどくさいったら、ありゃしない!』

想護の自転車についていきながらコートニーが愚痴をこぼす。

実紅に教えられた場所まで、もう少しかかる。

 

「けどさ、一応見ておくだけでもいいんじゃない?

ひょっとしたら、()()()の可能性もあるし……」

想護が自転車をこぎながらコートニーに話す。

 

『アンタね、まさか例の賭けデュエマプレイヤーが魂を持つカードの所有者だって言うの?』

 

「可能性はあるだろ?

第一、急に賭けだなんて……

カードに憑りつかれた可能性は十分ある!

それにデュエルってのはみんなでワイワイ楽しんでやるモンだ!」

想護がコートニーに言い放った。

 

『何それ、結局カードのせいにしたいだけじゃない!

この世にはどうしようもないクズだっているんだから!!

もうちょっと現実見なさいよね』

あきれたようにコートニーがため息をつく。

 

「ん……んん……」

そこまで言って、想護は反論したくなったが目の前に他の歩きの人間とすれ違ったため、口をつぐんだ。

一人で言い争いなどしていては、危険な人物認定されてしまう。

 

『ついたみたいね』

 

「あ、ああ……確かにここ、だな」

言い返そうとした時、丁度実紅が昨日被害に遭った店に到着した。

そして想護が扉を開けて、店の奥。デュエルスペースへ足を踏み入れる。

10人から16人程度が入るやや小さめのデュエルスペース。

学校帰りか、家に戻ってから来たのか、ちらほらと人が居る。

 

「コートニー、どうだ?何か、感じるか?」

想護が小さく耳打ちした。

魂を持つカードであるコートニーは凡そだが、他の魂を感じ取れる。

 

()()わね。ソイツが犯人かどうかは別として……』

 

「そうか……」

想護が息を飲んだ。

居る。この中に、魂を持つカードに憑りつかれた人間が居る。

その真実に、想護が思わず唾を飲み込んだ。

 

「えっと……」

ちらりと想護がプレイヤーたちの手に持っているモノを見ていく。

皆、一様にデュエマのカードだ。

奥に座る大学生らしき男が2人、壁際でショーケースのカードを見る大人が一人、手前のテーブルで小学生くらいの男子生徒二人がワイワイとカードを広げて、デッキの相談をしている。

そして、デュエルスペースの一番奥に大柄な男がこちらに背中を向けて、何か作業をしている。

 

「7にんか……」

 

『バカ想護、違うわ良く見なさいよ。

一番奥の席よ』

 

「え?」

コートニーの言葉に、想護が小さく声を上げた。

その瞬間、一番奥の大柄な男がゆっくりと立ち上がり、こっちを見た。

 

「ありえない……そんな、俺の、俺のデッキが!!

は、反則だ!!!!あんなの反則だ!!殿堂のカードがそんな都合よく来るわけがない!!この勝負は無効だ!!」

男が傍らに在ったカバンを手にして去ろうとする時。

 

「おい、勝負に負けたんだろ?」

 

「払う物は、払ってもらうぞ?」

大学生2人組が男を捕まえる。

 

「はっ、離せ!!お前には関係ないだろ!?」

暴れる大学生に気が付いたのか、ショーケースを見ていた大人がそこへ近づいてくる。

 

「いいや、ルールはルールだ。

負債はきっちり払ってもらうからな」

ショーケースを見ていた大人まで、その大学生を押さえつけ始めた。

その時、男の持っていたデッキが手からこぼれカードが地面に散らばる。

 

「えーと、あ!龍仙ロマネスクとリュウセイ・ジ・アースだ!!」

 

「なんだよ~、ヴィルとか二コボとかあると思ったのに、コイツも外れかよ~」

小学生二人ばらけたデッキを見ながら、めぼしいカードを奪っていく。

 

「か、かえせ俺の、だぞ……!」

尚も押さえつけられながら、カードに手を伸ばす。

そして、小学生二人が奪ったカードを持っていくのは、今押さえつけられている男の居た席。

その席の向う、想護は大柄な男の影に隠れてもう一人の客、8人目のデュエリストがいた事に気が付いた。

 

「よしよし、これでまた俺のデッキが強化できるぞ」

小学生からカードを受け取ったのは中学生の少年だった。

そして、手にした戦利品を嬉しそうに眺める。

 

「な、あんな、子供が?!」

賭けデュエマプレイヤーと聞いて、想護は大学生や社会人を想像していた。

だが、今しがたカードを奪ったのは制服を着た中学生だった。

 

「やぁ、いらっしゃい。僕がこの店のボスだよ」

中学生の少年は想護を見据えて話し出した。

 

「ボスって……」

 

「そのままの意味さ。この店は僕の縄張り(テリトリー)だ」

少年の声を聴いて、想護はちらりと店員の方を向く。

店員と目が合ったが、肝心の店員は見て見ぬふりだ。

いや、この少年の言葉通り、ここが彼の縄張りならば……

 

『ここの店にいる奴ら、店員含む全員があのガキの手下って事ね……』

コートニーの言葉に想護はぞっとした。

ここは、すでに少年の仕掛けた罠。

賭けデュエマプレイヤーの噂自体、この少年が犠牲者をおびき寄せる為の手段だったのだろう。

想護はその罠に、見事にはまってしまったのだった。

 

 

 

「さぁ、オニイチャン。僕とデュエマしようよ?

お互いのデッキの大切なカードを賭けてさ……」

うすら寒い笑みを浮かべ少年が歩いてくる。

 

「くそっ!だけど、勝てば良いだけ――」

 

「貴方は本当に計画性が無いんですね?」

想護の言葉を、後ろから来た声が遮った。

この声は聴いたことが有る。

 

「ここは貴方の縄張りじゃありません。

私の領域です」

そう言って、想護のDシーカーとしての先輩である、倉科 雪菜が姿を見せた。

 

「倉科さん!?」

 

『生意気なメスガキ!!』

 

「貴方のクリーチャーはほんっとうに口が悪いですね。

躾けをしっかりしておいてください」

不快そうに雪菜が舌打ちをした。

 

「なんだよ?今日は獲物が二人か?

良いぜ、二人とも俺のデッキの強化パーツにしてやる!」

少年が改造が終わったと思われるデッキを構えた。

 

「チッ、もう勝った気ですか………………ここは私がやります」

少年の態度を見て、再度舌打ち。

 

「あ、えっと……雪菜さん?」

雪菜のあまりの、気迫に想護が狼狽える。

 

「どいつもこいつも頼りない人ばかりですからね!

だから、コイツは私が()()()()()

大丈夫です、偶然手にしたカードでイキってる奴に負けるハズはありませんから」

 

「へぇ?俺と俺の団長の力、見てまだそんな事言えるかな?」

二人が同時にデッキを取り出す。

そして――

 

「「決闘(デュエル)スタート!!」」

戦いの幕が切って落とされた。

 




最後のセリフで、少年の使うデッキがほぼ分かりますね。
まぁ、ありとあらゆるものを取り込む我儘な暴君と言えば、アレですからね。

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