悪辣な転生者に裁きを   作:フライング・招き猫

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 おまちかねのセカンド襲来ですけど、出番ありません。


第9話  ファーストとセカンドと専用機

  

 

 いよいよ学年別クラス対抗戦が1週間後に迫った。

その日の朝は、2組に転校してくる生徒の話題で持ちきりとなっている。 夏輝達は既に前日に刀奈から転校生の情報を受け取って、それが中国の代表候補生であることを知っていたので驚く事はなかった。

 

 「それにしても、唯我独尊と言うか我が儘な候補生だね。中国政府からの入学要請を断っておきながら、織斑の入学を知った途端に入学すると駄々を捏ねて無理矢理転入してくるんだから。」

 

 夏輝の呟きに黒江が

 

 「ですが、それと引き換えにかなりのペナルティーを与えられたようです。」

 

 「黒江、何か分かったの?」

 

 「はい簪さま。中国代表候補生の凰鈴音はIS学園への転入と引き換えに専用機持ちの情報収集、男性操縦者に対しての情報収集と勧誘、自身の専用機のデータ収集、ウイング社の中国への移籍、以上がペナルティーとして与えられた任務のようです。」

 

 「それ、代表候補生なら与えられそうなもので、態々ペナルティーとして課すほどのものじゃ・・・・」

 

 「凰鈴音は、この手の任務が嫌いだそうです。だからこそ最初のIS学園への入学も断ったようです。」

 

 「なるほど、任務嫌いにはペナルティーとして十分ということか。」

 

  チャイムが鳴り、SHRが始まる。

 

 

 

 

 

 昼休み

 学生食堂の一角に夏輝達4人と神楽とセシリアが姿があった。 刀奈と虚は急な仕事が入ったので生徒会室にいる。 

 

 「その方なら今朝1組に来ましたわ、織斑さんに会いに。どうやら顔見知りらしくかなり騒がしかったですわ。」

 

 「顔見知り? 中国の代表候補生と?」

 

 「会話の内容から察するに日本で以前生活されていたようですわ。」

 

 簪の疑問にセシリアが答える。 鈴の代表候補生としての情報は得ているものの、私生活に関する情報は手元に届いていなかった。

 

 「後で調べておきましょう。」

 

 「頼むよ黒江。」

 

 夏輝達の座るテーブルから一番離れた場所のテーブルで何やら騒ぎが起き始めた。

 何事かと思い、そちらに目を向けると遠目に百春を挟んで箒と鈴が言い合いしているように見えた。

 

 「やれやれ、騒がしいものだ。」

 

 「そう言えば今朝織斑先生が篠ノ之さんに専用機が渡されると仰ってましたわ。何でも試作機のテストだとかで。」

 

 「「「「「えっ?!」」」」」

 

 セシリアの突然の発言に言葉を失う。

 

 「何故、代表候補生ですらない彼女に?」

 

 「・・・・・・・まさか?」

 

 「たぶん、兄さんの考えている通りだと思う。」

 

 神楽が疑問に思い口にする、だが夏輝と簪はある可能性に至った。

 

 「凰さんの事もあるし、食事が終わったら生徒会室に行こう。」

 

 

 

 

 食事を終えた夏輝達は生徒会室に来ていた。

 

 「刀奈姉さんに幾つか聞きたい事があるんだけど?」

 

 「たぶん、その1つは篠ノ之さんの専用機の事よね?」

 

 そう言って刀奈は報告書を夏輝に手渡した。それを受け取った夏輝は読む。 そこに書かれていたのは例の打鉄改式の事だった。

 

 「第3世代型IS打鉄改式第肆型改め第3世代型ISグルンガスト零式の開発推進におけるテストパイロット協力要請? 倉持はまだ諦めてなかったのか。」

 

 「往生際が悪い。虫酸が走る。」

 

 「でた、かんちゃんの倉持アレルギー。」

 

  夏輝が驚くのも無理はなかった。日本の代表候補生の殆どが、使えないと搭乗を断った曰く付きの機体を未だに開発し続けていたのだから。

 

 「倉持も必死ですからね。織斑君の専用機スレードゲルミルのおかげで一命はとりとめたものの、それとは別に機体をきちんと開発しなければなりませんからね!」

 

 「代表候補生の協力が得られないからIS学園と言うわけですか。」

 

 虚の言葉を受けて神楽がそう言う。夏輝はグルンガスト零式のコンセプトに目を向ける。

 

 「スレードゲルミルのデータをフィードバックし、完全装甲型に変更。更に第3世代兵装を2つ搭載し、1つは暮桜の単一使用能力を擬似再現した近接戦闘用大型剣【斬艦刀・雪片零式】、もう1つが胸部に装着された特殊加工された放熱板から放たれる熱線兵器【ハイパーブラスター】。ちなみに武装はそれ以外に脚部に内蔵されたミサイルのみ。」

 

 「聞く限りはブレオンの打鉄改式よりマシ。でも根本的な問題が解決されていなければ、結局は同じ。」

 

 夏輝の説明を聞いて簪が言う。それを聞きセシリアが

 

 「根本的な問題ですか?もし差し支えなければ教えていただいても?」

 

 「まずは機動性、加速ばかりに重きを置いて制動に問題あり。もしマトモに動かしたければスラスターの出力を最低でも100くらいに分割して操作する必要がある。 それからエネルギーの消耗が激しい。零落白夜を連続発動させたら5分もエネルギーが持たない。」

 

 「随分とピーキーな機体ですわね。」

 

 「流石にその辺りの事は書かれていないね。学園に仕様書が提出されればわかるとはおもうけど。それにしても何故、織斑先生は篠ノ之さんを・・・・と、もうすぐ昼休みが終わるね。」

 

 簪の説明を聞いて呆れるセシリア。箒が操縦者に選ばれた事を疑問に思う夏輝だったが昼休みが終わる事に気づいて、この場は解散することにした。だが刀奈が

 

 「あ、夏輝君と簪ちゃんと本音と黒江は残ってくれるかしら生徒会の仕事があるの。担任には連絡してあるから。」

 

 ISの生徒会はその特質性から一般学科に限り授業を受けずに生徒会の仕事をしてもいいことになっている。

 無論、制限もあり1年生なら週に2時限、受けなかった授業の代わりに課題が出される。

 

 「わかったよ刀奈姉さん。 それじゃあ二人共、また後で。」

 

 夏輝がそう告げるとセシリアと神楽は一礼して生徒会室を後にした。 

 

 「さて、刀奈姉さん。生徒会の仕事という建前で俺達を残したのはやっぱり更識の仕事?」

 

 「そうよ、神楽ちゃんには悪いけど今はまだ話す事の出来ない案件も含まれているから。」

 

 「それで、どんな仕事なの?」

 

 「今、世界中である噂が流れているの。その噂を巡って世界中のあらゆる諜報機関に裏組織、そして企業が動いているわ。」

 

 「その噂って?」

 

 「篠ノ之束の遺産」

 

 「「「「えっ?!」」」」

 

 刀奈の言葉に夏輝達は驚く。

 

 「事の真偽を美兎様に確認いたしましたが、更識に来る際に間違いなく全ての秘密研究所は破壊し、コアは勿論の事、設計図や資料・部品、ネジ1本残らず処分したとの事でした。」

 

 「私も協力しましたから間違いありません。」

 

 虚の報告と黒江の話を聞き本音が

 

 「でも~、何で今頃になって遺産の話が持ち上がったのかな~?」

 

 「それもそうね、あの事故が起きた直後に全ての国や企業が世界中を隈無く探して見つからなかったのを、今頃になって・・・・」

 

 簪も本音の意見に同意する。

 

 「まあ、幾つか原因というか発端の予測はつくけど殆どは決め手には欠けるな。ただ、1つだけ最も可能性が高いのがある。ここまで拡がって動いているということは、噂の出所に信憑性があったという事だね。」

 

 「「「「「噂の出所?」」」」」

 

 「そう、その噂・・・というか話をした最初の人物が、その話をしても可笑しく無い人だった。信憑性を持たせるに十分な人物だった。」

 

 「それってもしかして・・・・」

 

 「そう織斑千冬と篠ノ之箒のどちらか、もしくは両方の可能性がある。美兎姉さんに二人に何か渡したり、その手の話をしたことが無いか確認した方がいいかも。」

 

 まるでタイミングを計ったかのように生徒会室に設置してある更識とのホットラインが鳴る。

 

 「もしもし。」

 

 『はいはーい!みんなのお姉さん美兎さんだよ~!』

 

 モニターに美兎の姿が映し出される。

 

 「さて、美兎姉さん。連絡してきたという事は何か思い出したの?」

 

 『流石はなーくん。鋭いね~! 愚妹と織斑千冬もそれに準ずる物を持っている可能性があるね。』

 

 「それで何を?」

 

 『まずは織斑千冬の方だけど、彼女は白騎士の設計図を持っているかも。白騎士に使われている技術の7割から8割は今の段階で実用化もしくは実験段階に入っているけど、残りはまだそれすらいっていないからお宝といえばお宝だね。最も私には既に無用の長物だし、それほど重要な物じゃないからいいんだけど、問題は愚妹の方だね。』

 

 「と言うと?」

 

 『もしかすると愚妹の奴は昔私が構想していた無人型ロボ【ゴーレム】のデータというか設計図を持っているかもしれない。』

 

 「「「「「「えっ?! 無人ロボ!!」」」」」

 

 『そうなんだ、ISを作る前に構想を練っていた探査用の無人ロボの設計図。AIによる自律行動と電波による遠隔操作を両立した奴何だけど・・・・ISコアさえ搭載すれば無人型ISとしてもつかえるの。』

 

 「何でそんな物を篠ノ之が?」

 

 『実はさ、昔あの愚妹がそれを書いていたノートに落書きしてさ、そのままあげちゃったんだよね。』

 

 「そのノートをまだ持っている可能性があると?」

 

 『それがわかんないんだよね? もしかすると実家にあるかもしれない。』

 

 「・・・・・・刀奈姉さん、誰か人をやって調べた方がいいかも。」

 

 「それなら礼子さんに行ってもらいましょう。」

 

 「確かに礼子さんなら大丈夫かな。」

 

 『それじゃあ、そっちの調査はれいちゃんにまかせようかな。 それから朗報だよ、みんなのISのアップグレードの準備が整ったよ。GWにでも作業するからよろしくね。そしてもう1つ、マドちゃんの治療も無事に終わったよ。』

 

 美兎がもたらした2つの朗報は夏輝達を喜ばせた。 特にマドちゃん=織斑真十夏(マドカ)・・・・違法研究所で生み出された千冬のクローン・・・の治療が終わった事は夏輝達にとって喜ばしいことだった。

 

 今から半年前、更識家は人身売買や人体実験、違法薬物製造の情報を掴み、日本の外れの離島にあった女性権利団体の違法研究施設を襲撃したのだ。 

 

 その研究施設で保護されたのがマドカだった。マドカは研究施設で生み出された千冬のクローンの最初の成功体だったようで、第2第3の個体を作る為のデータをとる為に様々な実験や投薬を行われており、保護した時には衰弱しきっていた。 保護した後は美兎がナノマシン等を使い治療をしていた。 

 

 マドカの体内には監視用のナノマシンに、反抗を防ぐ為の処罰用ナノマシン、そして処分用のナノマシン等、数種類のナノマシンが投与されている上に様々な薬物が投与されていた為に美兎と言えども治療に時間を要したのだ。

 

 『とりあえず、後1週間もすれば普通に過ごせるようになるよ。で、マドちゃんの今後の事何だけど、マドちゃんは此方が提示した方針に従うそうだよ。』

 

 マドカに提示した方針、それは勿論マドカを更識家の一員にすることだった。 千冬のクローンとして生まれマドカは、これから先も狙われる可能性がある。そこで夏輝や美兎のように更識に戸籍を作り、更に美兎のナノマシンで遺伝情報や外見を変化させることにしたのだ。

 

 マドカは夏輝の双子の妹=更識円華として、生きることになる。 そして6月にIS学園にウイング社の企業代表操縦者という肩書きを持って編入することになった。 

 

 『マドちゃんの専用機も作らないといけないし美兎さん頑張るぞ! それじゃあ、GW楽しみにしといてね!』

 

 そう言って美兎との通信が終わった。

 

 「それにしても刀奈姉さん、例の研究施設だけど女性権利団体以外にもスポンサーがいた形跡があったよね?その後の追跡調査で何か分かったの?」

 

 「えぇ、とりあえず幾つかのペーパーカンパニーを経由して資金が流れているのは判明したんだけど、そのペーパーカンパニーを作ったのもペーパーカンパニーで、かなり複雑な経路を作っていたわ。その中で2つ程気になる企業があったわ。1つはネストリアス貿易商事、もう1つがヴォルクルス物産、この2つの企業の筆頭株主の一人にフォーラン・テイクゼンという女性の名前が上がっていたんだけど、この人だけが実在しない人物だとわかったの。」

 

 「つまり態々架空の人物をでっち上げて隠れ蓑にした本命がいると?」

 

 刀奈の報告を聞き簪が言うと

 

 「今、追跡調査をしてもらっているわ。本命に繋がる手掛かりを見つける為に。」

  

 ちなみに夏輝達の頭の中から鈴の事はすっかり消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 という事で名前だけでセリフも出番のなかったセカンドの鈴でした。
 
 次話では主人公との絡みがあります

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