悪辣な転生者に裁きを   作:フライング・招き猫

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第1話  求める者

 (僕、これからどうしよう。)

 

 大きな橋の下、土手との隙間で一夏は震えていた。

家を双子の兄である百春に追い出されて、途方に暮れていた所に激しく雨が降りだしたのであった。

 行き場の無い一夏はとりあえず雨風をしのぐ為に、この場所を選んだ。 ただ幸運にも、この場所にはホームレスがたまに来るのか木片の入った1斗缶とライターに新聞紙が置いてあり、焚き火が出来るようになっていた。 それで何とか火をつけた焚き火を始め暖を取ることは出来た。

 

 (姉さんは兄さんの事しか信じてくれないし、他の人もおんなじだし、誰も僕の話を聞いてくれないし)

 

 一夏の周囲の人達は千冬を始め、殆どの人が百春の話だけを信じて一夏の言葉は誰も信じてくれない。

 更に要領よく何でも器用にこなす百春が誉められて、同じ事をしても時間がかかる一夏は常に

 

 『出来損ない、いつまでかかっているんだ』

 

 『お兄ちゃんは出来ているのに、何で出来ていないの?』

 

 『何で同じ事が出来ない!』

 

 『何だ、そのできは? もっと上手く出来ないのか?』

 

 となじられるばかり。 そして今日

 

 『おい、出来損ない!お前は目障りなんだよ、姉さんのお荷物何だからさっさと出ていけ!!』

 

 そう言われて着の身着のまま家を追い出されたのである。 

 

 (このまま、ここで死んじゃうのかな・・・)

 

 ただ心残りといえば、自分に唯一優しくしてくれた姉の親友の存在だった。自分にだけ色々な事を教えてくれた女性、兄ではなく自分を選んでくれた女性、お茶目で並外れた知識と身体能力を持つ女性、自分にだけ弱音を吐いた女性、その女性ともう会えなくなるかもしれない。それだけが心残りだった。

 

 「ぼうや、こんな所で何をしているんだ?」

 

 突然、大人の声が上の方からした。一夏が声がした方に顔を向けると、土手から覗きこむように腰を屈めて此方を見ている厳つい顔をした中年男性がいた。 だが、その目は優しそうだった。 

 

 「家から追い出された・・・兄さんも姉さんも、僕がいらないって・・・・」

 

 そう告げると、男性は土手を下りて一夏に近づいていった。 そしてそっと抱き締める。

 

 「辛かっただろう、悲しかっただろう、寂しかっただろう。だが、もう安心していいぞ。これからはおじさんが一緒にいてあげるからな。」

 

 男性に抱き締められて頭を撫でられた一夏は、その暖かさに冷えきっていた心がほどけていく。

 

 「・・・う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー」

 

 堰をきったかのように大声で泣きはじめる。男性はそんな一夏の頭をなでながら、ただ優しく見つめていた。

 

 

 

 

 やがて泣き疲れて寝てしまった一夏。一夏をそっと抱き上げる男性。その男性の側に傘を持った女性と黒服を着た男が来る。

 

 「あなた、この子を?」

 

 「あぁ引き取ろうと思う。この子はこんなに小さいのにたくさんの傷を負っているようだ。しかも肉親から・・・・・八坂!」

 

 男性が、黒服の男・・・八坂に声をかけると

 

 「はい、楯無様!」

 

 「すぐにこの子の身元を調べろ!更にこの子の回りの環境とこの子に対する扱いもな!」

 

 「わかりました。すぐに!」

 

 「行こう静香。刀奈と簪の新しい家族を紹介しよう。」

 

 「はい、あなた。」

 

 女性・・・更識静香は男…更識楯無と、その腕の中で眠る一夏に優しい視線を送る。

 

 

 

 

 

 次の日、八坂から一夏に関する報告を受けた楯無と静香は千冬と百春、そして周囲の人物達に対して激しい怒りを表した。 特に普段滅多に怒る事の無い静香の怒りは半端なく、寧ろ普段は宥められる立場の楯無が宥める側に回ったのだから。

  

 報告を受けて楯無は更識家の関係者を集めた。そこで一夏の事を説明した。

 

 「さて、見てもらった通り、織斑一夏の生活環境は最悪と言っても過言でも無いほど酷いものだ。この幼子をあのような環境に晒し続けていい筈は無い。そこで織斑一夏くんを更識家の養子として引き取る。よいな!」

 

 「「「「「はい、全ては楯無様の思いのままに」」」」」

 

 「この日より織斑一夏という少年は亡くなり、更識夏輝という少年が生まれたのだ。そのように手配せよ。」

 

 「「「「「「はい、かしこまりました」」」」」」

 

 こうして、一夏は更識家に引き取られる事になった。

更識家に引き取られ、名前を一夏から夏輝とかえ、今まで味わう事のなかった家族の温もり・・・厳しくも優しい父親の楯無、常に笑顔で温もりを与えてくれる母親の静香、いたずらっ子でありながら年長者として弟や妹を守る姉の刀奈、引っ込み思案ながらも甘えてくる妹の簪・・や更識家の周囲の人達の温かさは夏輝の傷付いた心を癒すだけでなく、押さえこまれていた才能を開花させる事になった。 

 

 それから時は流れ夏輝が12歳になった、ある日のこと

 

 楯無は仕事の合間に織斑家の監視状況の報告を受けていた。 一夏の死亡を偽造し、警察に織斑家に報告に行かせたのだが、千冬も百春も身元確認には行かず、任意提出した髪の毛での照合だけを行った。

 更に葬式はおろか遺体の引き取りにすら行かなかったのである。 ただ戸籍上の死亡手続きのみ、したのであった。

 

 「相も変わらずか・・・・本当に救いようが無いな。」

 

 織斑家の最近の様子が書かれた報告書を読み楯無は呟く。ふと、夏輝と初めて会った時の事を何故か思い出した。

 

 (確かあれは、予定されていた会議が急遽中止となり、いつも通る道がたまたま事故で通行止めになっていて、迂回した道が工事をしていて片側交互通行となっていて、車が橋の側で止められて、何気なしに外を見て橋の下で焚き火をしている子供を見つけて気になったのがはじまりだったな。)

 

 今にして思えば、幾つもの要因が偶発的に重なったことで起きた出会いだった。 そのような過去に思い馳せていた時、楯無は庭に人の気配を感じ取った。 屋敷には更識家に仕える精鋭が控えており常に周囲を警戒している。 だが、庭にいるのは屋敷の者の気配ではない。 となれば答えは自ずと侵入者となるのだが、他の者に気付かれる事なく庭にいる。

 

 「庭にいる御仁、更識家に何用かな?」

 

 楯無は立ち上がり、障子を開けて庭を見る。 そこにはエプロンドレス姿に頭にうさぎの耳のような飾りをつけた少女がいた。

 

 「やあやあ、初めまして私は天災、篠ノ之束さんだよ。」

 

 「篠ノ之束?もしかしてISの発明者の篠ノ之束博士ですか?」

 

 「束さん以外に束さんは存在しないよ。」

 

 「それで、ISコアを467個作った後行方を眩ませていた篠ノ之束博士が、何故この屋敷に?」

 

 「うん、この世界で私にとって唯一無二の存在であるいっくん・・・織斑一夏を保護しているよね。」

 

 「この屋敷には織斑一夏という少年はいないよ。それにこちらの入手した情報では織斑一夏くんは既に亡くなっているよ。」

 

 「そうだったね、今は更識夏輝くんだったね。」

 

 束にそう言われ楯無は黙る。手には汗をかき四肢に緊張が走り強ばる。

 

 「そんなに身構えなくていいよ。別にいっくん・・・じゃなくてなっくんに危害を加えるつもりもないし、そっちと敵対するつもりもないよ。」

 

 「それでは、いったい何の用事でここに?」

 

 楯無の脳裏に篠ノ之束の情報が浮かぶ。ごく一部の身内と束が認めた親しい人物のみに心を開き、それ以外の人間を全く認識しない・・・そういった人物のはず、だが今目の前にいる束はその情報とは何処か一致しない。

 

 「私の用件は、簡単だよ、私もここで保護して欲しいな。あっ、私だけじゃなくてもう一人、私の養子もね。」

 

 突然の発言に楯無は固まる。あまりにも予想外のみ提案に楯無の理解は追い付かなかった。 それでも何とか言葉を絞り出して

 

 「どうしてですか?」

 

 「ひとつはなっくんを守る為に。なっくんに振りかかる有りとあらゆる悪意からなっくんを守りたいから。」

 

 「貴女は知っているのですね。」

 

 楯無は何とは尋ねない。

 

 「なっくんが、家を出て・・・いやあいつに追い出されて初めて知った。そして後悔した、あの子を守れなかった事を・・・気づかなかった事を・・・助ける事が出来なかった事を!」

 

 束の固く握りしめた拳から血が滴り落ちる。

 

 「何より許せなかった、親友と信じていた女の本性と裏切りに気づかなかった事に、溺愛していた妹の非道な行動を、裏で悪意を振り撒いていた悪童を!」

 

 束の目から涙が流れる。そんな束を背後から、いつのまにか現れた静香が抱き締める。

 

 「えっ?!」

 

 「苦しかったのね。一人で苦しんでいたのね。貴女も寂しかったのね。」

 

 束は恐る恐る背後から自分を抱き締めている静香の顔を見る。優しく母性に満ちた顔を見た束は

 

 「?!!!!!!!!!!」

 

 声にならない声をあげて静香の胸に顔を埋めて泣きはじめる。まるで初めて母親の愛を受けた幼子のように。

 

 

 

 ひとしきり泣いて落ち着いた束、それを優しく見守る静香。妻の底知れぬ包容力にただひたすら感嘆する楯無。

 

 「さて篠ノ之博士、夏輝の事が理由のひとつとおっしゃっていましたが、他の理由は。」

 

 「私自身の罪滅ぼし。」

 

 「罪滅ぼし?」

 

 「いま、世界に蔓延している歪んだ女尊男卑の思想。元はと言えば私が不完全な形でISを世に出してしまった事。そしてもう1つ、白騎士事件の隠された真実。」

 

 「白騎士事件は篠ノ之博士の自演自作という噂がまことしやかに囁かれているが、違うのか?」

 

 「違う。私はミサイルの発射なんかしていない。あれは某国のミサイル発射システムのプログラムのバグが原因。でもその国はそれを公表出来なかった、自国の恥を晒すようなものだから。だから裏で噂をながした、私の自作自演と。」

 

 「では何なのだ、白騎士事件の真実とは?」

 

 「被害者が一人もいないという事。」

 

 「「?!」」

 

 束の言葉に驚く楯無と静香。日本の公式発表では白騎士事件で死傷者は誰一人いなく、物的損害が多少あるだけだと。 だが、束の言葉によればそれは嘘ということになる。

 

 「白騎士が全てのミサイルを落とした。でも、その破片は地表に落ちた、そして落ちた先には幾つかの民家や走行中の車両があった。」

 

 「まさか、そこにいた人達が?! 海上で全て落としたと聞いていたぞ!」

 

 「予測では海上で全て落とせるはずだった、でも出来なかった。白騎士のパイロットがより自分の存在を世に知らしめる為に海岸線までミサイルを引き付けて落としたの。私の指示を無視して・・・・・」

 

 衝撃の事実に言葉を失う二人。だが、それだけではなかった。

 

 「だけど、それだけで終わらなかった。白騎士のパイロットは接近してきた自衛隊の戦闘機やヘリを私の撤退の指示を無視して迎撃に向かった。そして機体をパイロット諸共撃墜した・・・・・私は止めたのに・・・・止めてとお願いしたのに聞いてくれなかった。」

 

 「まさか、そのパイロット達も・・・・」

 

 楯無の言葉に束は静かに頷く。 驚愕の真実、日本政府の暗部を司る楯無すら知らなかった、いや知ることを許されなかった事。 恐らく、ISの力に目をつけた一部の政治家達による情報の封鎖と誘導。 その事は楯無を驚かせるのに十分だった。 そして楯無は束の話から白騎士のパイロットの正体の予測がついた。

 

 「もしかして白騎士のパイロットというのはもしかして、君の・・・・・」

 

 再び頷く束。それで楯無は察した。

 

 (しかし、それだけ被害が出ていながら情報が封じられている。しかも更識にすら知らされていないとなると・・・)

 

 楯無は幾つか思いあたる事があった。

 

   

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