悪辣な転生者に裁きを 作:フライング・招き猫
旅館の一室に設けられた臨時指令室。そこには夏輝達が集められていた。
「諸君注目!今から重大事項を伝える。今から3時間前にハワイ沖で実験中だったアメリカとイスラエルが協同開発していた軍用IS[銀の福音]が突如暴走し原子力空母エンタープライズより逃走。現在日本に向かって移動中との事だ。そしてこの事態を受けて国際IS委員会を通じてIS学園に事件解決の協力要請が届いた。」
軍用ISの暴走、あまりの事に全員が言葉を失う。
「国際IS委員会は銀の福音・・・これより福音と呼称するが、IS学園に在席している専用機持ちによる迎撃指令を出してきた。そしてその任務は福音の進行方向に1番近い我々が実行することになった。」
千冬の言葉に刀奈が抗議する。
「ちょっと待ってください。いくら専用機を持つ代表候補生とはいえ、未成年者の実戦行動並びにそれに準ずる行動はアラスカ条約により禁止されてます。何故、教員部隊や自衛隊の出撃がされないのですか?」
「残念だが、今回は例外的に適用外とされた。そして教員部隊には機体の関係から周辺海域の封鎖が任命された。そして自衛隊だが、出撃準備に今少し時間がかかる為に間に合わないそうだ。」
千冬の答えに全員が言葉を失った。
国際IS委員会と加盟国に寄って定められた条約が、特例で適用外とされたという事。 百春と箒には解らなかっただろうが、それ以外のメンバーは直ぐに、それが国際IS委員会と加盟国の総意ではなく、一部の国・・・・アメリカの意思によるものだと気づいた。
「それでは、これより此方に届いた現段階での福音のスペックを公開する。ただし、これを外部に漏らす事は厳禁だ。そうなった場合は拘束された上に最低でも3年間の監視がつくと思え。」
そう言って千冬は大型モニターに福音のスペックを表示していく。 それを見ながら夏輝達は話し合う。
「広域殲滅兵器を内蔵した射撃主体の高機動型のISか。」
「1対多を前提としている機体ね。下手に囲むと一網打尽にされるわね。」
夏輝と刀奈がスペックを見て話す。その時ティナがある一点に気づいた。一瞬だけ躊躇ったものの
「織斑先生、ここに福音が無人機と表示されてますが、これは間違ってます。」
ティナの言葉に全員が驚く。アメリカが提出してきたスペックのところは遠隔操作型無人機と記載されているからだ。
「どういう事だハミルトン!何故、そんな事が言える。」
「福音のパイロットは私の従姉妹にあたるナターシャ・ファイルスだからです。」
ナターシャの名前を聞きスコールも驚く。
「何ですって、ナターシャが?!」
千冬はスコールに訊ねた。
「ご存知のパイロットなのですか?」
「えぇ、私が国家代表の頃に何度か指導した事がある女性です。」
「ところでハミルトン、その女性がパイロットなのは間違い無いのか?」
「はい、2ヶ月前に会った時にそう話をしてました。」
「2ヶ月前か・・・・・その間に仕様が変わり無人になったとは考えられないか?」
「織斑先生、いくらなんでも第3世代型を使って無人機実験をするとは・・・・」
「ですが、可能性が無いとは言い切れません。山田先生、もう一度アメリカに確認を取ってください。」
「わかりました。」
「兎も角、不確定情報に惑わされる訳にはいかないので、無人機という前提の元で作戦を考える。」
千冬はそう言うと
「私が提案する作戦としては、織斑と篠ノ之の持つ雪片参式の零落白夜による一撃必殺が有効と考えるが?」
だが刀奈が直ぐに千冬の作戦案に否定的な意見を述べた。
「織斑先生、その作戦はどう考えても失敗する可能性が極めて高いと思います。」
それに箒が噛みつく。
「私と百春がするんだ失敗等しない!」
「では失敗する可能性となる根拠を示します。まず、第1に、二人は専用機持ちとしてあまりにも未熟だからです。タッグマッチトーナメントでも露呈した通り、直情的で搦め手やフェイントといった手段が殆どとれません。第2に、二人の機体そのものに問題があります。二人の機体は零落白夜を決め手にしてますが、福音にエンゲージするまでにエネルギーを消耗すれば、折角の零落白夜も殆ど使えなくなるでしょう。第3に、二人はイレギュラーが起きた時の対処が出来ないからです。」
「そんな事ない、私と百春ならどうにでもなる!」
根拠の無い自信で刀奈に反論する箒。しかし千冬にも反論するだけの根拠が無い為に下手に刀奈の意見に文句をつける事が出来ない。 暫し思案した千冬は
「・・・・ならば、メインは織斑と篠ノ之とした上でエネルギー節約の為に二人を作戦ポイントまで輸送及びサポートするメンバーとしてオルコットとハミルトンを任命する。」
「織斑先生、不測の事態に対応する為に第2陣の配備を進言します。」
千冬の作戦を聞いてスコールが進言する。
「・・・・・わかった。それでは、第2陣としてボーデウィッヒ、更識刀奈、陸奥紫夜琉、の以上3名を任命する。他の者は万が一の事態に備えて旅館の警護を命ずる。」
刀奈としてはまだ異論があったものの、作戦指揮官である千冬が百春と箒を中心とした作戦を変更する気がない事、スコールの擁護により第2陣の配備が認められた事、そしてこれ以上は時間を浪費するだけと考え、ここで引き下がる事にした。
だがひとつだけ納得出来ないのは、夏輝を何故作戦に・・・第2陣に加えないのかだ。
機体の性能上、シャルやラウラの機体より機動性がある夏輝や円華、黒江を入れた方が得策なのに意図的に外した事が。 千冬の意図は読めている、今回の作戦で百春を活躍させる事で百春の評価を上げる事。
その為に第2陣に夏輝は元より、機動性のある機体を排除したのだろう。
あまりにも底の浅い考えに夏輝達は呆れている。
だからこそ、夏輝達はこの作戦の成功率が低い事はわかっており次の手の準備を考えるのだった。
セシリアの高機動パッケージ[ストライクガンナー]のインストールとティナのトムキャットの一次移行がギリギリで終わっていた事もあり、直ぐに出撃となった。
その間に夏輝は美兎経由で、今回の指令の不審点を調べてもらうように手配したのである。
そして出撃時間となり、百春はブルーティアーズに箒はトムキャットに掴まる。
「ブルーティアーズ、テイクオフ!」
「トムキャット、テイクオフ!」
こうして第1陣の4機が出撃した。そして続いて
「更識刀奈、ガッデス。出撃します。」
「ラウラ・ボーデウィッヒ、ゲシュテルベン。出撃します。」
「陸奥紫夜琉、ナハト。出撃します。」
3機のISがそれを追うように出撃した。
それを見送り夏輝達は一定間隔で広がり万が一の事態に備えるのだった。
そして夏輝達が危惧した通り、作戦は失敗に終わるのだった。しかも最悪の結果で。
エンタープライズ甲板
福音が逃走し、2時間が経過した。漸く甲板上の残骸の撤去作業も、カタパルトの点検も終わり、福音の追跡体制が整った時だった。
「どういう事だ!何故、追跡をさせてくれないのだ!」
リカルドの怒号が艦橋に響く。いや、リカルドのみならず同じ戦闘機のパイロット、そして万が一の事態に待機していたISパイロットも、同じ思いだった。
「何度も説明した通り、本国より追跡無用と連絡があったのだ!」
「俺が聞いているのは、そこじゃねぇ!何で本国は追跡させないのかだ!」
リカルドの怒りの矛先にいるエンタープライズの艦長は、溜め息をつき
「今から私は独り言を言う。私の周りには誰もいない、いいな!」
艦長が妙な前置きをした事にリカルド達は不思議な顔をする。だが一部の士官達は気がついた、艦長の本音に。
「本国は先程、国際IS委員会を通じてIS学園に銀の福音の迎撃任務を依頼した。本国の一部の政治家や軍人は福音の性能テストを兼ねるつもりらしい。各国の最新専用機や男性操縦者がいる、IS学園はうってつけと考えたのだ。」
「おいおい、確か未成年者はその手の任務は従事させられないという規約がアラスカ条約にあったよな?」
リカルドの疑問に近くにいたIS操縦者が答える
「はい、間違いなくあります。」
「それを特例として国際IS委員会は認めてIS学園に通達したらしい。」
艦長の話に全員が言葉を失う。彼等はアメリカに従う軍人だ。命じられれば火の中、水の中に飛び込む覚悟がある。 それでも、今回の自分達の国がしたことには納得がいかなかった。
「それだけじゃない、アメリカは国際IS委員会に銀の福音ですら無人機であると虚偽報告をしている。」
この一言はリカルドの怒りに火をつけた。
「じゃあ何か!アメリカはナターシャを見捨てたということか!!! これが・・・・これが、アメリカのやり方かよ・・・・」
ポタッ ポタッ ポタッ
リカルドの硬く握った右の拳から血が床に落ちていく。暫くして顔を上げたリカルドは艦橋から出ようとする。
「何処に行くリカルド、待機任務が言い渡された筈だぞ。」
「そんなの知るか! アメリカ軍人として、今回の一件は納得がいかねえ。未成年者を戦わせるなんて許せねえ!!」
そこでリカルドは一回言葉をきり
「そして何より、惚れた女の一大事に駆け付けなきゃ男が廃るぜ!!」
リカルドの叫びに艦長は再び溜め息をつき、周囲を見渡す。 その場にいる戦闘機パイロット、ISパイロット、士官、兵士にいたるまで同じ目をしていた。
そう覚悟を決めた目。 処罰等を恐れず、自らの信念・・・自分達の正義を貫く覚悟を
艦長は3度溜め息をつき、帽子を目深く被り
「ところで、確かISパイロットが一人海に落ちて行方不明になったよな。」
突然の事に誰も何も言えなかった。何の事か理解出来なかったからだ。
「ん?聞こえなかったのかな、確かISパイロットが一人・・・
艦長の言葉にリカルドを含め全員の顔に力が甦る。
「その捜索の為に人員を派遣することは禁止されていない。そして見つからないあまりに捜索範囲が日本近海まで及んでも何ら問題無い筈だ。人命救助が目的なのだから。その最中に謎のISと戦闘になっても人命救助の最中の不幸なエンカウントということになる。」
艦長の言葉にその場にいる、全員が次の一言を待つのだった。
「それでは総員、これより海に落ちて行方不明となったISパイロットのナターシャ・ファイルスの捜索に掛かる。総員配置につけ!」
「イエッサー!!!」
全員の声が艦橋のみならず、甲板にまで響くのだった。
艦橋から飛び出そうとしたリカルドに艦長が声をかける。
「そうだ!リカルド、さっきのセリフは中々くさかったぞ。そのセリフはちゃんと本人に言ってやれよ。」
その瞬間、リカルドの顔は真っ赤になるのだった。
リカルドはそのまま出て行く。
「さて諸君。リカルドがナターシャにプロポーズできるか賭ける奴はいないか?私は勿論、出来ない方に賭けるぞ。掛け金は任務完了後のステーキ+飲み代だ。」
艦長の掛け声と共に艦橋では賭けが始まるのだった。