悪辣な転生者に裁きを 作:フライング・招き猫
ご無沙汰しておりました。
以前よりスローペースになりますが更新を再開いたします。
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ドーム状に組まれた石造りの部屋。天井部分の中心に開けられた、小さな小さな円形状の穴から射し込むのは極わずかな光。それ以外に扉や窓らしきものも無く、その為に室内は薄暗かった。
天井の穴から射し込む僅かな光により、部屋の中央に組まれた祭壇らしきものが見える。
そして祭壇には薄紫色の天蓋に覆われた玉座らしき椅子。
更に、天蓋越しに誰かが座っているのがわかる。
部屋に突如として響く女性の声。
『御待たせして申し訳御座いません。唯今より御報告致します。』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
『はい、全ては計画通りに動いております。』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
『問題ありません。何者もこの事には気づいておりません。そう神ですら・・・・・・・』
玉座に座る人物は何も語らないが、どういう訳か会話が成り立っている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
『はい、丁度良い具合に歪みを抱えた器がありましたので因子を与えてあります。』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
『嫉妬、憤怒、欲情、高慢、強欲をかなり内に秘めて隠おります。』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
『贄ですか?』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
『儀式の為の贄も集めよと?』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
『畏まりました。』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
『七の月の滅門日、都より歳破の方位にて儀式を行うと?』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
『それでは万事抜かりなく手筈を整えます。』
女性の声が途絶えると、再び静寂が訪れる。
風も吹かない空間の中、天蓋だけが静かに揺れ動く。
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時間は少し遡り、臨海合宿の前日。
中国 ISトレーニングセンター
中国各地から集められた代表候補生や候補予備生、それらを目指す訓練生達が、日々トレーニングする施設で中国が資金に糸目をつけず、威信をかけて作らた、IS学園に優るとも劣らない施設だ。
「凰訓練生がいないだと!」
施設で教官を務める春麗に、一人の女性職員が報告してきた。
「凰訓練生以外にも、2人の予備候補生と3人の訓練生の所在がわかっていません。」
「どういう事だ?昨日の訓練終了後に寮に戻ったはずだが?」
「はい、寮に戻り夕食をとったところまでは目撃されておりますが、それ以降の所在がわかっておりません。今朝、点呼の際に部屋から出て来ないことで不在が発覚しました。」
女性職員の報告を聞き顔をしかめる春麗。 鈴は中国に戻って早々に問題を起こした。彼女は春麗の目を盗み、再び高官を脅してIS学園への再入学を求めたのだ。 だがこの暴挙は春麗が直ぐ知ることになり、結果として鈴は予備候補生から訓練生への降格処分となった。
そしてそれ以降、春麗は鈴を最重要監視対象として扱い、訓練も身体への基礎トレーニングと座学、そして精神修養を徹底的にした。 そんな最中に起きた出来事に春麗は頭を痛めた。
「今、警備室で監視カメラの映像を確認している最中です。」
そこに別の女性職員が入ってきた。
「失礼します。警備室の監視カメラの映像を確認したところ、物資搬入用ゲートの監視カメラに細工が施してあり、偽の映像が流されていました。分析した結果、昨日の20:00以降の映像が全てダミーでした。それから昨夜、警備室に宿直していた警備員の一人と、物資搬入用ゲートの警備をしていた警備員の一人と連絡が取れなくなっております。」
最悪の報告に顔をしかめる春麗。直ぐ様
「公安当局に至急連絡して、空港・港・駅並びに主要幹線道路に非常警戒線を張るように要請を! そして脱走した訓練生と候補予備生並びに2人の警備員の確保を依頼。抵抗した場合は関係各所への手配と顔写真の配布を急げ!」
春麗の矢継ぎ早の命令に今報告してきた職員が直ぐに手配に走る。 そして、春麗の命令に最初に報告してきた職員が
「少し大げさ過ぎやしませんか?」
「今回の脱走劇、あまりにも計画的で手際がよすぎる。おそらく、裏で糸を引いている人物もしくは組織があるわ。 既に私達は後手に回っている、迅速に動かなければ最悪の事態を招くような気がしてならないの。」
春麗はそう言って暫く思案した後、ポケットからスマホを取り出す。
「春麗主席管理官?」
「私の古い友人に電話するだけだ。」
この時、春麗は知るよしもなかった。中国のみならず幾つかの国・・・フランス・スペイン・ロシア・オーストラリア・カナダ・メキシコ・インドで同じ事が起きていたことを。
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時間は戻り
日本 花月荘
浜辺には既に夏輝達が整列していた。
『福音の現在地は、先程と変わっていません。』
真耶からの通信を受けて刀奈が
「そろそろ氷が溶ける頃、上手くいけば先手が取れると思うわ。」
機動力の優れたサイバスター、ヴァルシオーネR、アステリオン、トムキャットが先行し、それを追うようにガッデス、グランヴェール、ノルス・レイ、ゲシュテルベンが続く。そして最後尾がザムジード、ナハト。
攻撃は刀奈達が到着してからの予定にはなっているが、福音が動き出したら予定を変更して夏輝達だけで行う事になっている。
「よし、いこう!」
夏輝の合図で全員がISを装着し、飛び立つ。
先行した夏輝達は福音が氷浸けになっている場所に到達した。
「どうやら、まだ氷が溶けきっていないんで動けないみたいだな。」
「それなら今のうちにフォーメーションを!」
夏輝の言葉に円華がそう提案する。
「もし、刀奈姉さん達が到着する前に活動再開したら俺と円華が前衛で抑えるからハミルトンさんと黒江が後方支援で!」
「「「了解」」」
花月荘 臨時指令室
「更識君達が、目標地点に到達。どうやら福音は未だに動いていない模様です。」
真耶がスコールにそう告げるのだった。
「この様子だと更識さん達の合流も間に合いそうね。」
ビー、ビー、ビー、ビー
突然、臨時指令室に鳴り響くアラート。
「簡易レーダーに反応あり、所属不明の機影を探知! 数は10、場所はここより北北東に10Kの地点。 福音のいる地点に向かって移動中!」
真耶の報告にスコールは近くの教員に指示を出す。
「直ぐに更識君達に連絡を! ターナ先生聞こえる!」
『聞こえてるよ、状況も把握した。私を含めて四人が迎撃に当たるから、抜けた穴を頼む。』
「わかったわ、此方で調整するわ。山田先生、所属不明機の解析をお願い! そこの貴女は抜けた人員のエリアをカバーするように配置の移動を!」
海上封鎖の指揮をとるレベッカに連絡を入れるとスコールは真耶に所属不明機の解析とを命じる。
「ミューゼル先生! 防衛省の許可のもと、観測衛星とリンクして画像を解析した結果、所属不明機の内3機はクラス対抗戦の時に侵入してきた無人機【ゴーレム】です。そして5機は暴動鎮圧用ドローン【グラフドローン】のカスタム機と思われます。残りの2機はデータに無い機体です。」
小型モニターに地球観測衛星から送られ画像が映し出され、真耶の目の前のパソコンのモニターに解析した画像が映し出された。 そこには3機のゴーレムと5機のグラフドローン、そして海上を疾走する2機の四脚のヤシガニのような機体。
「ターナ先生、今から所属不明機のデータを送ります。」
『了解! だけど泣き言は言いたく無いが、少しばかり戦力不足だな。かといって、福音の組を此方に回す訳にもいかないしな。最悪の場合は封鎖組を全機回す事だけは考えておいてくれよ!』
「わかりました。海上保安庁や海上自衛隊に海上封鎖の人員増加お願いしてみます。」
突然の出来事に臨時指令室の中は一気に慌ただしくなった。 そして、それは室外への警戒を薄めてしまっていた。
(・・・・・まさか、こんな事になっているなんて。どうする、福音に向かうか・・・いや、ここは所属不明機の方に向かうか、向こうの方が活躍の場がありそうだしな・・・・汚名返上の為にもここで成果を出さないとな!)
襖越しに室内の様子を伺っていた百春。百春は夏輝達が出撃した直後に理由はわからないが、突然目覚めた。
突然目覚めた目覚めた百春に驚いたテュッティが検査するというのを遮り、トイレと偽って現状を知るために部屋を出たのだった。 そして臨時指令室の前で中の様子を密かに伺っていたのだ。
(幸いな事にISは手元にあるし、このままエネルギーを補給して出撃するか・・・まてよ、ついでにアレも持っていくか何かの役にたつかも知れないしな)
百春は踵をかえして旅館の外に設置された仮設の整備室に向かうのだった。
「何、百春が意識を取り戻した? そしてトイレから戻ってこないだと?」
「はい織斑先生。織斑先生が病院への搬送の手配をするために部屋を出て暫くして意識を取り戻しました。そして検査をしようとしましたら、しかし本人がトイレに行きたいという事で許可をだしました。しかし、部屋を出て10分以上立ちます。念の為に近くの男子トイレの様子を従業員の方にみてもらったらいないという事で、今館内の他のトイレの様子を見てもらっています。」
近くの病院に百春達を搬送するための手配をおえて戻ってきた千冬にテュッティが告げるのだった。
(意識を取り戻した・・・・確かに体の方は軽傷だし最初の検査で何の問題もなかったから意識を取り戻しても不思議ではない。だが、なんだこの違和感は・・・・)
百春の目覚めに違和感を懐く千冬。すると突然、室内に置いてある通信機が鳴る。
「織斑だ、どうした?」
通信機の向こうから真耶の焦った声で
『織斑先生、大変です。今この旅館からISが飛び立ったのですが、それが織斑君のISなんです!』
「なんだと!!」
真耶の報告に言葉を失う千冬。
「すぐに追跡隊を出して拘束しろ!」
『手配しようにも、人員が足りません。』
「・・・・・私が臨時指令室に戻りますので、山田先生かミューゼル先生が拘束に向かってください。ノールバック先生、すいませんが間もなくここに救急車が到着しますので玄関で出迎えて、篠ノ之とオルコットの搬送の付き添いをお願いします。」
「わかりました。お気をつけて。」
テュッティにそう告げると千冬は部屋を出るのだった。 そしてテュッティも救急車を出迎える為に部屋を出るのだった。
だが、このあと部屋に救急隊員を連れて戻ったテュッティは、部屋で寝ていた筈の箒の姿が無いことに驚くのだった。
花月荘から離れた岩場に、箒の姿があった。
もし、この時の箒の姿を目にしている者がいれば箒の異常に気づいたかも・・・いや、そもそもその場にいるのが箒だとわからなかっただろう。
自慢の艶やかな黒髪は艶の無い白髪に、ISスーツから見える肌は血色を失い白く、そして奇妙な紅いラインの模様が刻まれていた。そしてその顔には無表情で虚空を見つめている、何よりその瞳は異質・・・白目の部分が黒く、黒目の部分が真紅に変質していた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
聞き取れない程の声で何かを呟く箒。
次の瞬間、箒の姿は少しずつ薄れていき消えたのだった。
旅館を飛び出した百春のスレードゲルミルは、北北東に向かって飛んでいた。 その左手には仮設整備室に保管されていたとバリスティクシールドがあった。
(くそ、何で鍵が掛けられているんだよ。銃火器が何にも持ち出せなかったじゃねえかよ!)
百春は本当なら銃火器を持ち出したかったのだが、保管してあるコンテナには電子ロックが掛けられており、百春では解錠することが出来なかった。そこでコンテナの外側に掛けられていたバリスティクシールドを無いよりはマシと、持ち出したのだ。
だが百春は失念していた、装備品の無許可での持ち出しは重罪だということを。
大変御待たせして本当に申し訳ありませんでした。
言い訳になりますが
足の骨折の完治に思いの外時間がかかった上に、身内の不幸も重なり、色々と精神的に参ってしまい落ち込んでしまい、書き上げる事が出来ませんでした。
漸く心に少しゆとりができはじめたので、書き上げました。
ただ以前と同じペースで更新出来るかはまだ未定ですが、それでも完結に向けて頑張っていきます
今後もよろしくお願いいたします。