悪辣な転生者に裁きを 作:フライング・招き猫
あけまして、おめでとうございます。
令和2年も何卒よろしくお願いいたします。
作戦開始前にもたらされた凶報に夏輝達は頭を悩ませるのだった。
「どうする夏輝?」
「とりあえず、全員で福音の相手をして倒した後に、所属不明機の対処している教員部隊の援護に向かうか、今すぐ教員部隊の方に増援を送るかの、どちらかになるけど・・・・・」
刀奈の問いに悩む夏輝。既に簪達も合流しており全員が揃っていた。
「・・・・・・・・よし、教員部隊の方に増援を送ろう。万が一にも此方に乱入されても面倒だし、何より織斑に下手に動かれても面倒だ。黒江がラウラと簪とシャルを連れて向かってくれ。」
「その人選の訳は?」
ラウラの問いに夏輝は
「黒江の役割は運搬係。アルテリオンなら迅速に3人を消耗させずに運ぶ事が出来る。簪とシャルが迎撃を、簪のザムジードとシャルのナハトは攻防一体の万能型、不測の事態にも対応出来ると思ったからだ。そしてラウラは迎撃もだけど織斑の拘束を頼みたい。一番のイレギュラーになりそうだからな。」
「なるほど、確かに適任と言えば適任か。」
『・・・・・・わかりました。私の権限で増援を許可します。織斑君の拘束には織斑先生が向かう予定で準備していますが、出撃にはあと少し時間がかかると思います。早い内に拘束するに越したことは無いのでお願いします。』
夏輝達の会話を通信で聞いていたスコールが許可を出す。
「それじゃあ頼む!」
「「「「了解!」」」」
「見えた!!」
所属不明機の迎撃に向かっている教員部隊よりも一足先に百春はたどり着くのだった。
敵の中に学園を襲ったゴーレムの姿があるのに百春は気付き
(あの時は何も出来なかったけど、今の俺なら!)
根拠の無い自信を満ち溢れさせ雪片参式白蓮を構えて瞬時加速を使い、一気に接近する。
「うぉぉぉぉーーーー!!」
百春は中央にいたゴーレム目掛けて零落白夜を発動させて斬りかかる。 雪片参式白蓮はゴーレムを真っ二つに切り裂く、そしてゴーレムはそのまま爆散する。
「よっしゃぁぁーー! 見たか、これが俺の力だ!」
ゴーレムを一撃で倒した事で自信を持った百春は嬉しそうに雪片参式白蓮を掲げる。 だが百春は漸く得た見せ場と手柄(自己満足)に浮かれて失念していた、未だに周囲には敵がいることを。
「もう、アイツなんグハッ?!」
側にいた2体のゴーレムが衝撃波を放ち、百春は避ける事も出来ずにまともに喰らうのだった。
衝撃により吹き飛ばされる百春。慌てて態勢を立て直す百春。正面にむけて左腕に装着したバリスティックシールドを構える。
だが、今度は背後からグラフドローンのパルスバルカンとミサイルが襲う。背後からの攻撃を想定していなかった百春はまともに喰らう。
「グハッ?! な!背後から? ひ、卑怯だぞ背後から攻撃してくるなんて!正々堂々と正面からかかってこいよ!」
無防備の背後から攻撃されて驚いた百春は、思わず敵に対して正々堂々と戦えと毒ずく。
そもそも敵に正々堂々正面から戦えと言うのも可笑しな話だと百春は気づいていない。
そもそも百春は今まで1対多の戦闘もその為の訓練も1度たりともしたことが無い。つまり百春には1対多の戦闘に対しての技術も無ければ知識もない。
そして何よりスレードゲルミルは元々1対1を想定しての装備しか無い。
百春は活躍の場に乗り込んだと思っているが、実際には自ら死地に飛び込んだのだと気づいていない。
「この! スプリットミサイル」
グラフドローン目掛けてスプリットミサイルを射つも簡単に回避されてしまい、逆にミサイルやパルスバルカンの掃射を受けてしまう。
それだけでなく、グラフドローンに気をとられた隙に背後からゴーレムに殴られてしまう。
「グハッ!! クソ、背後からまた! この!」
百春がゴーレムに意識を向ければ、今度はグラフドローンが、グラフドローンに意識を向ければゴーレムが、まるで百春を弄ぶように回りを取り囲み攻撃していく。
それをヤシガニのような姿をした機体・・・ベンディッドはただそれに加わらずにその場で動かなかった。
(クソ、なんだよ、なんなんだよ!何で上手くいかないんだよ! ここは俺がコイツらを一気にやっつけて活躍する場面なのに!)
袋叩きの状態の中で毒ずく百春。スレードゲルミルは完全装甲型故に見た目はそこまでダメージを受けているようには見えないがSEは既に半分以下にまで減少していた。
反撃しようにも周囲を囲まれての集中砲火に手が出ないのてあった。
やがてその状況に飽きたかのようにベンディッドが移動を始めようとした瞬間だった。
『織斑百春、その場から動くな!!』
そして次の瞬間、何処からか飛来してきた幾状ものミサイルとビームがグラフドローンを破壊していく。
突然の出来事に驚く百春はミサイルとビームが放たれてきた方向に視線を向ける。
そこには黒江のアステリオンに掴まり此方に向かってくるザムジードの簪とナハトのシャルとゲシュテルベンのラウラの姿があった。
百春の計画(浅はかな)では、夏輝達は福音の対処が終わるまでは此方には来ず、教員部隊も封鎖をなるべく維持するためにギリギリのラインで待機して待ち構えていると予測し、それまでに一人で侵入者達を倒し夏輝達を上回る手柄をたて自分が高評価を受ける、という風になっていた。
しかし、それも黒江達が来たことで脆くも崩れさっていく。 それでも諦めきれない百春は
(このまま見せ場の無いままじゃ終れない! せめてあと1機くらいは!)
残り2機のゴーレムと2機のベンディッドは百春よりも簪達の方が危険度が高いと認識し、攻撃対象の変更を行い動きだした。
「此方を敵と認識したみたいだ。予定通りに簪とシャルが迎撃をあいつは私が拘束する。姉様は上空で待機しながら周囲の警戒をお願いします。」
ラウラがそう言って指示を出し行動しようとしたが、それより先に百春が飛び出してベンディッドに向かった。 ラウラはAICを使って拘束しようとしたが、位置的に下手に動きを止めると敵の攻撃をまともに受けてしまう可能性があるために使用することが出来なかった。
「勝手な事をするな織斑!お前には無断出撃による拘束命令が出されている。」
だが百春としてはラウラにそう言われたからと言って動かない訳にはいかなかった。 手柄をたてなければ無断出撃した意味も無くなってしまう、せめてあと1機くらいは倒しておきたかった。
(ウマイ具合にラウラが動きを封じてくれた!)
瞬時加速を使い一気にベンディッドに肉薄する百春。雪片参式白蓮を水平に構えて零落白夜を発動させて一気にベンディッド目掛けて突く。
「うぉりゃぁぁぁーーー!」
身動きの取れないベンディッドは百春の雪片参式白蓮を避ける事が出来ずにボディに深々と突き刺さる。だが、その手応えに違和感を感じる百春。
(ん? 何だこの手応えは? ゴーレムを倒した時と違う感じが・・・)
「£¥%#&%£∀¥!?!!?!」
「へっ?!」
突如ベンディッドからあがる叫び声に驚く百春。
おもわず雪片参式白蓮をベンディッドから引き抜く。するとそこから間欠泉のように噴き出す真っ赤な液体。それを間近で浴びる百春。 百春はそれが何か理解出来なかった、だが他の四人は気づいた。そして黒江がオープンチャンネルで呼び掛ける。
「その機体から生体反応が、有人機です! もう一機からも生体反応が確認されました。」
黒江がアステリオンのセンサーで調べた事を告げる。それを聞いて百春は右手に握る雪片参式白蓮と自身が纏うスレードゲルミルを染めた液体を改めて見る。
やや粘りのある真紅の液体・・・・黒江の生体反応・・・その2つが教えてくれた、それが血であることを。そして先程ベンディッドを突いた時に感じた違和感、それらが結び付き、ある事実を百春に気づかせた。
「も、もしかして俺・・・人を刺した・・・・こ、殺した・・・・・・・・」
雪片参式白蓮の刺し傷から血を撒き散らしながら海に落下していくベンディッドを呆然と眺める百春。
「姉様は百春の捕獲を! 私があれの相手をする。」
百春にAICをかけて動きを封じたラウラはもう一機のベンディッドに向かっていく。
黒江は百春に向かってワイヤーを射出し拘束する。呆然自失としていた百春は何の抵抗もせずに拘束されてアステリオンに牽引されていく。 ただ
「人を・・・・俺が・・・・刺した・・・殺した・・・・人殺しに・・」
掠れるような声で呟くが、誰の耳にも届くことはなかった。
一方、簪とシャルはゴーレムに向かっていく。
「速効で落とす! 天翔るサトゥルヌスの大鎌よ。立ちはだかるもの、悉く薙ぎ払え!」
ザムジードの両肩の振動機が激しく稼働し、空間に渦を作りやがて2つのリングを形作る。 そのリングを掴みゴーレム目掛けて投げつける。 リングは輪投げのようにゴーレムの頭上から胴体にはまる。
「カッシーニの間隙!!」
ザムジードは開かれた右手を握るとリングは一気にゴーレムを締め上げ、そしてゴーレムは爆発四散する。
「いくよナハト!」
シャルはゴーレムに向かって瞬時加速を使い接近していく。
ゴーレムはナハトに向かって口から衝撃波を放つ、だがその衝撃波をまともに受けてもナハトの勢いは止まらない。何より衝撃波を受けたナハトはほぼ無傷に等しかった。
「この装甲の厚さは伊達じゃない!」
シャルはそのままの勢いでゴーレムに向かっていき、右腕に装着されているリボルビングステークをゴーレムの胴体めがけて撃ち込む。
「どんな装甲でも、撃ち貫くだけ!」
シャルがトリガーを引くとゴーレムの胴体にリボルビングステークが撃ち込まれ爆発し、胴体に風穴をあけるのだった。
ゴーレムは、そのまま海への落下していく。
ベンディッドと対するラウラ。
「カイリー・クレーバー、スラッシュ・リッパー!」
ラウラはカイリー・クレーバーとスラッシュ・リッパーをベンディッドに向かって射出する。
スラッシュ・リッパーはベンディッドの4本の脚部を切り落とし、更に両肩の砲門を破壊する。そしてカイリー・クレーバーは背面のスラスターを切り裂きラウラの元に戻り2本の短剣に分かれて両手に握られた。
そのまま瞬時加速を使いベンディッドの懐に飛び込みカイリー・クレーバーで切りつけていく。
その攻撃はベンディッドの装甲を削りとり切り裂いていく。
「これで終わりだ!」
カイリー・クレーバーの交差させた一撃はベンディッドの胸部装甲を破壊する。 胸部装甲を失ったベンディッド、そこには様々に機器を取り付けられた椅子に手足を拘束された少女がいた。
少女の表情はうつろで自我を感じさせなかった。
「まさか生体部品に?!」
ラウラは少女の手足の拘束している器具を壊し、取り付けられている機器やコードを剥がしベンディッドのコックピットから少女を出した。
少女は全く反応せずされるがままだった。
「ラウラ?」
ゴーレムを撃墜した簪とシャルがラウラの側にきた。
「簪、シャル、これを見てくれ。」
ラウラが少女とベンディッドのコックピットを見せる。
「これって、なんなの?」
「たぶん、この娘を生体部品にして動くように作られた兵器。」
シャルの疑問に答える簪。
「人間の脳の演算能力はスーパーコンピューターを遥かに上回り、神経の伝達速度は機械の電気パルス以上と言われているわ。つまり人間を生体部品にすることで通常では考えられない位の性能持つ兵器が誕生する。」
淡々と答える簪。
「兎も角、この少女の治療と機体を解析をしてもらわないとな。私がこの少女と機体を持っていく。すまないがシャルは沈んだ機体の回収を頼む。」
「わかった。」
ラウラにそう答えて海に向かうシャル。
「予定変更ねラウラ、私は一足先に自力で向こうに戻るから、黒江やシャルと一緒に引き渡しとかを頼むわ。」
「いや、姉様が拘束している百春も私が引き受けよう。運ぶだけだから大丈夫だ。姉様、百春を渡してください。そして簪と一緒に戻ってください。」
「わかったわ。」
黒江はワイヤーで拘束している百春をラウラに引き渡すと簪を牽引して戻っていくのだった。
シャルが沈んでいたベンディッドを引き揚げて来たのを確認するとラウラは百春と少女を、自分が持っていたベンディッドをシャルに引き渡して、旅館を目指して移動するのだった。
御無沙汰して申し訳ありません。
昨年は前半期は兎も角、後半期に怪我をして入院したり身内の不幸が続いて、かなり落ち込んでしまい立ち直りに時間を要したりして中々投稿出来ずに申し訳ありませんでした。
本来なら申し少し早く投稿出来ると思っていたのですが、前話を投稿した直後に色々とお世話になっている会社の上司が急に入院されたと思ったら、突然逝去されてショックを受けてしまいました。
尊敬している人物だっただけに受けたショックが大きく、再び落ち込んでしまいました。1年でこれだけ不幸が重なるというのは本当にこたえました。
でも、年の瀬になり仕事の忙しさが色々と気の紛らわすのになったのか、とりあえず続きを書く事ができました。
これからも稚拙ではありますが完結に向けて頑張っていきますので、よろしくお願いいたします。