悪辣な転生者に裁きを 作:フライング・招き猫
その日、楯無によって大広間に更識の関係者が集められた。 その中には夏輝は勿論の事、刀奈と簪の姿もあった。
「さて、本日急遽集まって貰ったのには訳がある。先ずは紹介したい人物がいる。入って来なさい。」
そう楯無が告げると、右の襖が開き二人のスーツ姿の女性が姿を現す。その一人を見て夏輝は驚く。幼き頃、まだ一夏と呼ばれていた時に、唯一味方となってくれた束に他ならなかった。
「片方の女性に関しては見覚えのある者もおろう。だが、あらためて自己紹介をしてもらう。」
楯無がそう言うと束は正座をし、深々と頭を下げて
「篠ノ之束と申します。隣にいますのは、故あって私が引き取り育てている少女クロエ・クロニクルと言います。」
束の言葉に従うように隣にいる少女・・・クロエは同じように正座をして頭を下げる。
「さて、何故ここに世界中に指名手配を受けている篠ノ之博士がいるか説明せねばなるまい。」
そう言って楯無は束から聞いた白騎士事件の隠された真実を打ち明けた。
「ここまで聞いて、この場にいる殆どの者がある事を思い出したであろう。6年前に起きた影森家の滅亡を。」
影森家、それは更識家、四十院家と共に日本政府に仕えていた一族だった。しかし、6年前に影森本家で起きたガス爆発事故で一族全ての者が巻き込まれて命を落とし、滅亡したのだ。 楯無は当初から単なる事故ではないと思っており、四十院家の当主とも色々と話し合っていた。楯無達は影森家がしてはならない不始末を犯してしまい自責から集団自決をおこなったのか、敵対勢力による報復、あるいは知ってはならない情報を知った事若しくは探った事による制裁、の何れかの可能性を考えていた。
だが、楯無達はそれ以上の事を詮索することは出来なかった。自身の命だけならまだしも、妻子・配下・一族全ての命と引き換えになる可能性を理解していたからだ。 だからこそ四十院家の当主と共に詮索することを辞めた。かわりに日本政府に対してより一層用心することにした。一族の命を護る為に。
しかし束から知らされた白騎士事件の真実により、影森家滅亡の理由も判ってしまった。影森家は白騎士事件の被害者達の事実を闇に葬り無かった事にしたのだ。そのためにあらゆる手段を用いて。 そして最後には影森家そのものも闇に葬り去られてしまったと。
確かに影森家も更識家、四十院家と共に日本政府に仕える一族だ。影森家のやったことは日本政府の命によるものだとしても許せるものではない。だが、それと同じく命じたうえに影森家を滅亡させた日本政府の所業は許せるものではなかった。
自分達は影の存在、だけれども軽んじられる存在ではない。同じ命を持つ人間なのだ。
それ故に楯無は日本政府の所業を許せなかった。 無論、これらは一部の人間達の独断先攻で行われたのは明白だ。だからこそ楯無は心ある者達に何れはこの事を知らせるつもりでいた。変革を促す為に。
「我々は今岐路に立っている。決して影森家と同じ轍を踏んではならない。そこで私は篠ノ之博士を我が一族として迎えようと思う。」
楯無の発言にその場にいる者達はどよめく。
「今、世界は女尊男卑に向かっている。そしてISの力が世界を席巻している。我々もそれに対応しなければならない。それには篠ノ之博士の協力は必要不可欠だ。そこで篠ノ之博士には更識美兎と名乗ってもらい、更識家が新たに創業するISメーカー【ウイング】の開発主任として働いてもらう。」
楯無がそう言うと束が、
「篠ノ之束は半年後に宇宙に向けて出発。だけど、それを快く想わない第3国の攻撃衛星のミサイルによってロケットごと破壊されて死亡。というシナリオは既に出来てます。」
束の話に鎮まりかえる室内。
「そしてこれは何より夏輝を護る為でもあるのだ。」
そう楯無が言った瞬間、夏輝に全ての視線が集まる。
「篠ノ之博士によると夏輝にはISの適正があるそうだ。いや、夏輝だけでなく織斑百春にも。」
楯無がそう言うと、全員が漸く納得がいったという顔をする。
「そういう理由だ。全員何卒よろしく頼む。」
「「「「畏まりました。楯無様。」」」」
全員が楯無に頭を下げる。 殆どの者が大広間を出ていき、残ったのは夏輝・刀奈・簪に、布仏当主の布仏誠と妻の雪、そして娘の虚と本音だ。
「え~と、束姉ちゃん?」
恐る恐る夏輝がそう言うと
「久し振りだね、いっくん。今はなーくんか・・・・・・ごめんね、なーくん。助けてあげることが出来なくて・・・何も出来なくて・・・・」
「気にしないで束姉ちゃん、俺は今幸せだよ。父さんと母さん、姉さんに簪がいるし、まわりのみんなも優しいし、何よりもう逢えないと思っていた束姉ちゃんに
また逢えたし。」
「・・・・・・・・・なーくん、なーくん、なぁぁぁぁぁぁくぅぅぅぅんーーー!!」
束が泣きながら夏輝に抱きつく。
やがて、泣き止んだ束。
「そうだ、今日から束さんは束さんじゃなくて美兎さんになるんだ。」
「お父様、た、じゃなくて美兎さんは私達の姉になるのですか?」
「正確には従姉になる。去年亡くなったわしの妹の忘れ形見という形でな。既に美兎が戸籍の方を改竄しておる。」
「陽葵おばさまの? でも陽葵おばさまは結婚なされてなかったのでは?」
「そうだ、だからこそ密かに産み育てていた事にしたのだ。」
束… いや美兎は亡くなった楯無の妹の子供というかなり乱暴な設定をつくったようだ。それに多少呆れる刀奈と簪。
「ところで楯無様、クロエさんは、どうされるのですか?」
「その事だが、クロエは布仏家の娘にし、夏輝の従者にしようと思う。」
虚は刀奈の、本音は、簪の従者になることは既に決まっていたが、夏輝の従者は決まっていなかった。しかし布仏家にもう子供がいなかったこともあり、どうするか思案している最中だったのだ。
「クロエさんは今日から布仏黒江と名乗ってもらい夏輝の従者になってもらう。」
楯無の言葉に誠と雪、虚と本音が頭を下げる。
「さて、話は代わるが刀奈と簪。二人には日本の代表候補生の試験を受けてもらう。刀奈は今年、簪は来年になるがな。」
「どういう事ですかお父様?」
夏輝が聞き返す。
「実はな来年行われるモンド・グロッソのドイツ大会を最後に織斑千冬の引退が既に内定している。本人は知らぬがな。そこで新たな国家代表を決める事になるのだが、今の段階ではそこまでの実力者がおらん。」
そこで楯無は美兎を見て
「そこで美兎の力を借りて今の内から二人には・・・いや夏輝、虚、本音、黒江の6人にはISの訓練を積んでもらう。特に刀奈と簪には代表候補生、ひいては国家代表になってもらいたい。夏輝を護る為にもな。」
夏輝を護る為、と言われれば刀奈も簪もやる気を出す。いや、二人だけでなく虚も本音もやる気を出した。無論、黒江は言われる事なく既に夏輝の為なら何でもするという心構えだ。
「既に屋敷の倉にIS用のシミュレーターを用意してあるよ。それからみんなの専用機を順次作っていくね。とりあえず第3世代機だけど。 」
美兎の言葉に全員が絶句する。何故なら世界は漸く第2世代機が作り始められたばかりで第3世代機なんて研究すら始まっていないのだから。
「とりあえず、来年のモンド・グロッソ終了後に第3世代機を発表。さらに2年後に量産型第3世代機を発表、さらに第4世代機を発表するの。そうすることで更識がIS技術で世界をリードしていることを知らしめるの。」
既に美兎によって計画が立てられているようで、撤回は無理のようだ。
「さあさあ、それじゃあ始めようか!」
そう言って美兎は6人を連れて倉に向かう。
大広間に残ったのは、楯無、静子、誠、雪の四人。
「さて、誠よ。八坂、九重、十束の3家の方で警護体制をより強固なものにしてほしい。このまま、上手くいけばよいのだが、万が一の事態も想定しなければならないしな。」
「もしや楯無様、次期楯無の座を夏輝君に?」
誠の言葉に頷く楯無。
「あの子の才能は素晴らしい物がある。何より人の痛みを理解出来る。刀奈には悪いが、あの子は調子にムラがありすぎる。簪は人見知りがあるから、人の上に立つのは難しい。何より、刀奈と簪の為にも夏輝が楯無になるのが良いと思うのだが。」
「そう言う事ですか、ならば何も申しません。」
刀奈と簪が夏輝に肉親以上の愛情を持っているのを知っているのだ。
「それなら、うちの虚と本音、それに黒江も入れてもらおうかしら?」
「なっ?!」
雪の言葉に狼狽える誠。
「あら、あなた知らなかったの?」
半年後
その日、世界中の全てのテレビ・ネット配信が一斉にジャックされた。画面には金属性の兎の耳にエプロンドレス姿の束が何処かの草原らしき場所にいるのが映っていた。
『やあやあ、初めましての方も久し振りの方も、こんにちは!世紀の大天災・篠ノ之束だよ。今日は重大発表があって、こうしてみんなの前に出てきたよ!』
束は、そう言うと自分の後ろを指差した。カメラが引くと束の背後には人参の形をした物がそびえ立っていた。
『これは束さんが設計し、作り上げた外宇宙探査用の宇宙船【スーパーアリス・キャロット号】だよ。これで束さんは外宇宙探査に今から出掛ける事にするよ。』
そう言うと束はエプロンドレスを脱ぐ。その下にはウェットスーツのような物を着ていた。
『束さんはね、ずっと待っていた。いつか誰かが、きっとISを宇宙に向けた物にしてくれる事を。でも誰もしてくれなかった。だから束さんはもう諦めた。誰も束さんを理解してくれないと。だから束さんは一人で宇宙に行くことにしたの。ちなみに戻ってくる予定はないよ!』
束はそう言うと見たこともないISを纏う。
『これはね束さんが作り上げた最新のIS【ドリーム】宇宙用に開発した第4世代機だよ。そしてあのスーパーアリス・キャロット号は特別でね。あれはありとあらゆる物質を大気中の元素を取り込んで作る事が出来るの。つまり食べ物や飲み物に困る事は無いの、勿論酸素もね。』
そう言うと束はスキップしながらスーパーアリス・キャロット号に向かっていく。そしてその船の中に乗り込んでいくと。外部スピーカーから
『それじゃあ、バイバーーーイ!!!』
その言葉取り込んで共に宇宙船は空高く飛び上がっていく。 それをカメラが映していたが、急に画面が代わり
『ハロハロー、束さんだよ。最後に地球にいる凡人達に贈り物だよ。ほら、宇宙から見た地球だよ。この美しさを目に焼き付けといてね』
船から撮影しているであろう地球の姿、蒼く輝く星が映し出されている。 だが、その画面の端に光る物が突然映り混む。それは衛星のようだった、その機体にはある国の国旗が描かれていた、赤と白の横縞にその四隅の一角に青地に白抜きの星が無数。
その衛星から突然、何かが幾つも発射される。束の船に向かって。 どう見てもミサイルのようだ。束はそれに気づいていないように見える。
『さあ、これでお仕舞い。それじゃあ束さんは旅立つねバイバ£%§ⅸ&Åヰ・・・・・』
突然、映像が乱れ音声が途絶える。画面は激しい砂嵐が起きている。
この時、空を見上げた人達の目に多くの流星を見た。
「上手くいったね。」
更識家の広間でテレビを見ていた美兎がそう言う。広間には美兎以外にも夏輝・刀奈・簪・虚・本音・黒江がいた。ちなみに今の美兎は髪が水色に代わっており短くボブカットにしていた。さらに薄く色のついた眼鏡をかけており、一目見ただけでは束とはわからない姿となっていた。
「でも良くできているね美兎姉ちゃん、あれってロボットなんでしょう?」
思わず口から出た夏輝の質問に、
「そうだよ、もっとも念のために培養して作った人工皮膚で覆い、さらに私の切った髪で作ったウィッグを被せていたから、多少はあそこに痕跡が残るよ。」
そう美兎は答えた。 つまり、船の爆発位置を特定されれば、そこに残った僅かな皮膚片や髪から束が本当に乗り込んだという事実を証明することになるのだ。これで束が宇宙船に乗り込んで宇宙に飛び立ち撃墜されたという一連の流れが実証される事になる。そしてミサイルを撃った衛星の所有国が窮地に立たされるが、夏輝達には関係無いことなのだ。
「ところでなーくん、体は大丈夫?違和感はない?」
「今のところは何にもないよ。」
そう言うと夏輝は自分の髪を触る。黒かった髪は弱冠色素が抜けて青みがかってきた。
これは美兎が夏輝に投与したナノマシンの影響なのだ。 夏輝から織斑家の要因をなるべく薄くするための処置である。ちなみに美兎も篠ノ之家の要因を薄くするために同じようなナノマシンを投与している。
美兎が投与したのは短期的で変化するものなのだが、夏輝に使ったのは長期的に変化するものなのだ。既に学校等に行っている夏輝の外見が急激に変化したら流石に不信に思われてしまう。だが、長期的に徐々に変化していけば成長して変化したと言えるからだ。
ちなみに最終的には髪は刀奈達と同じく水色に、瞳の色も赤にかわり、肌もやや白くなる予定だ。
「さて、これからが大変だ。そろそろウイング社も動くからね。刀奈ちゃんは来週が代表候補生の最終試験だよね。」
「はい、面接と筆記も合格してるんで、あとは模擬戦だけです。」
既に刀奈の搭乗時間は500時間を越えており、美兎曰く並の代表候補生相手なら楽勝との事。
そして美兎の言うとおり、刀奈は最終試験を無傷で勝利して合格した。