My " revenge play" ~僕の『復讐劇』~ 作:血糊
「っ······!」
彼女はぎゅっと目を閉じる。
しかし、何も聞こえない。
恐る恐る目を開いて、後ろを向いた。
開けっ放しの障子。誰もいない。
「······あれ?」
ちらり、と上を見る。
緑色の光を放つ、機械を見た。
そう、コンビニなどで見かける自動ドアの上にある、アレだ。
理解した瞬間、彼女は思わず「はぁ!?」と声を上げてしまい、ばっと手で口を押さえた。
「(なにそれ驚かせないでよ!!)」
なんらかの影響によって開いたんだろう。つまりはそういうカラクリだったということだ。
それにしてもなぜこの日本家屋の雰囲気を思い切り無視したものが導入されているのだろうか。
もしもここにアレを付ける判断をした張本人がいたら、
『なんでこの和風をぶち壊すようなものを取り入れてんだよ取り入れた奴どういうセンスしてんだよ!?』
と吠えていたことだろう……
「はは……もうそういう時代へとなっていたのか……日本の伝統はもうここまで機械に侵食されていたんだね……」
今更な事に遠い目をしていた。でも彼女のおぼろげな記憶の中にある日本の伝統は、案外感慨深いものだったために、ちょっとだけ悲しかった。
「……これ位にしないと、ちょっと不味い。隠れないと」
彼女は思考を切り替える。
もうとっくに、少しずつ足音が近づいて来ていることには気が付いていた。
彼女はこの部屋に入った時から目を付けていた押入れへの襖を開ける。
中はいろんなものが入っていて(押入れだから当たり前)とても窮屈そうだ。だが一応隙間はあるのでその中に身を潜める。
と言っても、身体を限界まで縮こまってギリギリ入るくらいしかないのだが。
重い身体を強引に動かして、なんとかその隙間へと身を収めることができた。
「(丁度来たか)」
足音が、部屋のなかまで入ってきた。
歩く音の軽さからして大人ではない……やはり嫡男か。
……怖い。
久しぶりに、彼女は途轍もない恐怖に襲われていた。
「ッ!?親父!!」
先程男を寝かせた所へと足音は走って、止まった。
「死んでは……ないか。誰がやったんだ?」
「(お願い、来ないで……!!)」
息が漏れないように手で口をしっかりと塞ぎながら、昔から信じていない、むしろ大っ嫌いな神様に初めて彼女は祈る。
果たして、その願いは聞き届けられることは―――
「……誰か居るのか?」
無かった。
足音の主は、彼女の襖の方へと、声を掛ける。
「っ!」
声が、漏れる。
それが聞こえたのだろうか。足音の主は彼女の方へと近づいてくる。
規則的な足音が間近まで迫った時、襖の取っ手に手をかける音がした。
「(やめてッ!)」
目を閉じて、必死に懇願する。
それを開けないで、僕を見つけないでと。
ほんの少し、部屋の光が差した。
それだけだった。
それ以上は開かない。
足音の主にとっては数十秒、彼女にとって数時間位の時間がたち……
「……誰も居ないか」
足音の主がそこを離れる。
音でその部屋から出て行ったと知った途端に、彼女はとてつもなく安堵した。
「(助かった……!)」
そっと襖を開けて、押入れから這い出る。
「……うん。一応動けるようにはなったかな」
部屋の風景の変化は特に無い。弄られた痕跡はなさそうだ。
やっと落ち着きを取り戻せたからか、いつもの癖でパーカーのポケットに手を突っ込む。
「?何か入ってる」
中に入っていたものを取り出す。
「あ、スマホ」
ポケットに入っていたのは、携帯だった。電源を付けて電池残量を確認する。問題は無さそうだ。
「……ん?」
いや、問題はあった。日付が変わっている。
日付が最後に見たときの数字より、一つ多いのだ。
つまりそれが意味してるのは……!!
「やばい生存報告ッ!」
メールでナギに生存報告する。『ごめん、ちょっとアクシデントがあって遅くなった。もうちょっとしたらそっちに帰れる』という内容を送信する。
「よし。あとはバッグを探すだけ」
時間が無い。急いで見つけなければ、と彼女は部屋を飛び出す―――音を立てない程度に。
一階、二階を走り抜ける。幸い嫡男は部屋にいたようで、遭遇することはなかった。
しかしリビング、風呂場、などにしっかりと目を通すものの、いつも異様に黒い光沢を放っている合皮製のバッグは見つからない。けっこう目立つから視界の端っこに写ったらすぐに気づくはずなのだが。
「はぁ……はぁ……だめだ、見つかんない」
今更だがここ屋敷だったのかと彼女は気づく。めっちゃ広かった。止まらないようにしていたのでなんとか十分くらいで回りきった。
しかし見つからない。嫡男の居ない部屋にも入って探したもののいろいろ漁ったがダメだった。
漁っただなんてまさか何か盗んだりしてるんじゃ……とでも思った方。安心してください、やってませんよ?
彼女はヴィランだけど礼儀は弁えてる。やってはいけないことの区別は出来る。
それをすることが必要かどうか。それで彼女の行動は決まるのだから。
今回はバッグの捜索。盗みをする必要は無い。
彼女は玄関へと戻ってきた。
その靴箱の上。
そこに探していたものがあった。
「あーーーーっ!!あった!!!!」
思わず叫ぶ。ばっとそれを取ったとき、その横にあった紙切れが空中に舞う。
「?」
それを器用に空中で取る。
その長方形の紙切れには綺麗な字で何かが書かれている。
「……………………」
そこに書かれていた文章。
それを見た彼女は暫し呆然として、ふと―――口元を緩める。
「あーあ。一本取られた……世話になっちゃったね、焦凍君」
『かくれんぼは俺の勝ちだ』
その紙切れは、嫡男―――轟焦凍からのメッセージだった。
*思い出『轟焦凍』を取り戻した。
彼女は轟家を出る。
「お邪魔しましたっと」
そのうち恩は返さなければならないだろう。そんなことを思いながら帰路をゆっくりと辿る。
しかし、まだ先程の疲れは完全に抜けてはいない。
意味の無かった10分間持久走もしたために疲れもかなりピークだ。能力乱用のときよりはまだマシだが。
「うわっ!?」
「うおっ!?」
人にぶつかってしまった。
「ああ、すまない。怪我は無いか?」
「大丈夫です、僕がが前を見ていなかったせいで……すみません」
ぶつかった拍子に尻餅を付いた彼女はその相手を見上げる。
その相手は、青い(というか水色?)ツナギを着た男。
その人は体格が良かったために、少しふらつく程度で済んだようだ。
「立てるかい?」
ツナギを着た男は手を伸ばす。けっこう紳士的な人のようだ。
「いえ、自分で立て、うわっ」
自力で立とうとするが、疲れのせいで上手く立てない。
そんな様子を見た男は自ら彼女の手を掴んで引き上げてくれた。
「わっ、す、すみません……」
「困った時はお互い様、というだろう?一度俺の家で休んでいくか?」
「えっ?なにもそこまでしなくても」
「このまま歩いてたら事故に遭うかもしれないだろ。ほら、家はすぐ近くだから」
男は彼女の手を引き、家へと連れて行く。
……生憎、このとき人が周りにいなかったために、彼女はすんなりと連れて行かれてしまった。
青いツナギを着た男……このフレーズで誰のことかピンと来た読者方なら、彼女の今の状況がどれほど不味いのか、理解できるはずだ。
な ぜ そ れ を ク ロ ス し た ?
次はどうなるのかな?
今回はオマケなし。