東方不死剣   作:vangence

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CARD 壱

 ここはどこだろう

 

 今はいつだろう

 

 俺は誰だろう

 

 知っているはずなのに

 

 覚えているはずなのに

 

 思い出せない

 

 

 

 

 視界に映るのは地獄

 

 緑が死に絶えた草原

 

 海が枯れ果てた深海

 

 濁り切っている大空

 

 その中心に俺はいた

 

 

 

 

 ふと下を見ると何かが転がっていた

 

 横たわっている人の形をした3つの肉塊

 

 ああ忘れていた

 

 俺がこれをつくったんだった

 

 叩いて伸ばして捻って折って磨り潰したんだ

 

 理由は忘れた

 

 なんだかイライラしていた気はする

 

 思い出そうとすると頭の奥底が握られたような痛みがした

 

 

 

 

 よく見ると肉塊の周りに何か落ちている

 

 3個の四角い箱のようなもの

 

 頭が痛む

 

 俺はこれを知っているような気がした

 

 箱を拾い上げると中からスルリと何かが落ちた

 

 一枚のカードだった

 

 それも拾い上げる

 

 生き物の絵が書いてあり時々動いていることが分かった

 

 気が付けば同じようなカードが周りにたくさん散らばっていた

 

 頭痛が酷くなっていき視界がぐらつく

 

 なぜだろう

 

 こいつらを見ていると胸が締め付けられるような気がする

 

 そのうちの一枚のカードが目に付いた

 

 箱とカードを手から落としそのカードに駆け寄り拾い上げる

 

 そのカードだけ他のものとは違っているような気がする

 

 これだけは生き物ではなく緑の文様が描かれていた

 

 

 

 

 突然カードが手元を離れた

 

 周囲のカードも意思を持ったように宙に浮かびだす

 

 呆然とその光景を見ていると空から何かが降りて来るのが見えた

 

 鉄の板を捩じったような形をしたなに(・・)

 

 それは俺の目の前に舞い降り語りかけてきた

 

 

 

 

 ――――満足したか×××××

 

 

 

 

 気が付けば俺はそいつ(・・・)に思いきり拳を叩きつけていた

 

 しかしそいつ(・・・)には傷一つ与えられずそいつ(・・・)は語り続ける

 

 

 

 

 ――――段階は完了した

 

 

 

 

 傷がつかずとも構わずに俺はそいつ(・・・)に拳を叩き込み続ける

 

 よくわからない衝動に駆られて振るう拳に耐え切れず俺の拳が砕ける

 

 緑色の粘性を持った体液が滴り落ち足元の砂に貪られる様に吸い取られた

 

 

 

 

 ――――勝者はお前だ、×××××

 

 

 

 

 それだけを告げてそいつ(・・・)は再び空へ飛び立つ

 

 逃がすかと思い(はね)を広げてそいつ(・・・)を追う

 

 凄まじい速さで飛んでいくが負けじと追いかけ続け、そいつ(・・・)を掴もうと腕を伸ばす

 

 次の瞬間そいつ(・・・)は光に包まれ、消えた

 

 対象を失ってしまい翅を動かすのをやめた

 

 体はなすがままに重力と慣性に弄ばれ地面に叩きつけられた

 

 立ち上がって周囲を見回してみた

 

 

 

 

 世界にはもう、俺しかいなかった

 

 

 

 

 ♠×××

 

 

 

 

 深い竹林の中を私は駆けていた。後ろを見ると鬱蒼と茂る竹の間に奴の姿が見える。

 全くしつこいものだ、と内心呆れながらも足を止める事はない。歩みを止めたら私がどうのような末路を辿るか知っていたから。

 こんなことになるのなら、今日はもっと楽な服装をしてくるんだったわ。

 私自身に毒づいていると、光の弾丸が私の横を物凄い速度で飛び退っていき地面に突き刺さった。加えて奴のイラつく蔑みの声が私の思考を鈍らせる。

 

 「あらあら、いつもの威勢はどうしたのかしら!」

 「五月蠅い! あんたみたいな雑魚の相手なんてしてらんないのよ!」

 

 罵倒に罵倒で応じつつ反転、神経を研ぎ澄ませイメージする。

 私の意思を練り、固め、形を作り出す。

 『弾幕』、この世界の決闘方法の一つだ。弾幕は私の意思の通りに動きだし奴に襲い掛かっていく。

 しかし、奴も簡単にはやられてはくれない。私の弾幕の間を縫うようにして躱していく。あまりにも上手く避けるので、少しだけ感心してしまう。

 そう思うのもつかの間、奴も此方に弾幕の雨を降らせてきた。札を模した弾幕を目を凝らして避けていく。

 

 「こんな攻撃じゃ私を殺すなんてできないわよ?」

 「だったら、これはどうかしら!」

 

 次の瞬間、奴の弾幕の種類が変わった。

 札を模していた弾幕は、赤い炎に代わり、小さいそれらに加えて巨大な炎の鳥が突っ込んでくる。

 しかし、巨大な炎の鳥は大きさ故か少しばかり遅く、難なく避けることができた。

 炎の鳥は目標にあたることなく竹の林に突っ込む。

 後ろ目で確認しつつ、楽勝ね、と思った次の瞬間、前を見る。

 大量の炎が空中で滞空していた。

 マズイと思った途端に、滞空していた炎が四方八方から一斉に襲い掛かってくる。

 とっさのことで焦りはしたが、着ていた着物の裾等を焦がしつつ、ギリギリで避け切った。

 さっきの鳥は囮だったということね、無駄に考えるじゃない。だけど、私も簡単にはやられないわよ。

 懐から一枚の札を取り出し、心の中で『宣言』をする。

 

 難題「仏の御石の鉢 -砕けぬ意思-」

 

 私の心の声に呼応して、鋭い針のような弾幕が幾本も奴の周囲に突き刺さっていく。多量に生み出されるそれは奴の行動範囲を狭め、逃げ道を無くしていった。

 そしてその上から本命の弾幕を降り注がせる。

 打ちこぼした弾幕が地面にぶつかり、枯れた大量の笹の葉とともに土埃を舞い上がらせる。

 

 「やったかしら……ってこれフラグじゃない」

 

 自分で言うのもなんだが、これ言ったら大体生きてるじゃないの。

 もしこれでやられてたら、晩御飯は鈴仙に石焼ビビンバでも作って貰おうかしら。

 土煙がもうもうと立ち込め、笹の葉がクルクルと回りながら小さな音を立てて地に落ちる。

 奴がどうなっているのかよく見えない。

 次の瞬間、それらはすべて吹き飛ばされ、その中から巨大な炎が薙ぎ払うように私に襲い掛かってきた。

 案の定無事だったみたいだけど、これ『弾幕ルール』の外の攻撃じゃない。本気出しすぎでしょ。

 私を飲み込まんと迫ってくる灼熱の炎、それに私が飲み込まれそうになった途端、世界が凍りついた。

 いや、その表現は正しくないわね。正確には時間が拡大されたというべきなのかしら。

 今、私以外の全ての物はほぼ停止している。止まっているわけではない。極々微小だが動いてはいる。私以外のものが停止しているように見える程遅く、私が早すぎるだけなのだ。

 炎を悠然と避け、いつの間にか炎を纏っている奴の後ろに立つ。

 ……いや待って。これだけじゃ格好よく無いわね。こいつも炎を纏ったり格好いい感じにしてるし、こういう場合は私ももっとらしい(・・・)登場の仕方をしなくちゃ。

 周囲を確認して、立ち位置を決める。奴の後ろから数メートル後ろのちょっとした丘のようになっている場所に立つ。

 ここからならば、ちょうど後ろにに満月が見えるから、格好はつくだろう。それに、実に私らしいじゃない。

 時が再び正常に流れ出す。目標物を失った炎は再び空振り、周囲に火の手だけを広がらせた。

 

 「どこを向いているのかしら。私はここよ」

 

 奴は苛立ちを含んだ目でこちらを睨みつける。きっとその眼には格好よく私が映っていることでしょうね。

 これまた苛立ちを含んだ声で奴は私に話しかける。

 

 「相変わらず厄介なだね、アンタはさ」

 「ふふふ、それはお互い様でしょうに」

 

 奴は体に纏っていた炎を消し、私は着物の袖を捲りあげ、胸元からタスキを取り出して固定。

 お互いに距離を確かめあい、体重を踏み込むための足に掛けておく。

 息をすぅっと吐き、短く吸い込む、夜の冷たい空気が肺に満ちて、体が引き締まるような錯覚を覚えた。

 お互いの視線が混じりあり、にやりと表情を歪ませあう。

 もう何度も繰り返し、終わりがないと分かっていながらも続けているこの戦いに終止符を打つつもりで、お互いに一言吐き捨てあう。

 

 「「それでこそ、殺し甲斐があるってもんね」」

 

 足を踏み込み全力で奴の懐向かって駆け出す。

 奴のほうも此方に向かって駆けてくる。だがそんなことは気にしない、私はか弱い細腕に力を籠め、拳を握る。

 そして腕の射程圏に入った瞬間、怒声を発しながら奴の顔面目掛けて拳を振りぬく。

 

 「さっさと死に晒しなさいよこの焼き鳥が!」

 「そのうざい髪の毛全部焼いてやる!」

 

 私の拳が奴の顔面にめり込み、私の顔には奴の拳が叩き込まれた。

 結局こうなっちゃうのよねぇ……。自分に呆れつつ、私は怯まず奴の鳩尾に蹴りを入れた。

 

 

 

 

 ♠×××

 

 

 

 

 ……ここは、どこだ?

 目を開けてぐるりと周囲を見渡すと、視界に入るのは緑の茂った一面の竹林だった。

 先程まで眠っていただけだったのだが、いつのまに俺はこんなところにいるのだろう。俺は眠る前まで砂漠の中心にいたはずだ。

 それが、目が覚めた途端自然の溢れる土地にいた。こんなことあるはずがないと分かっているはずなのに。

 夢でも見ているのだろうか、そう思い自分で自分の顔面を思いっきり殴りつけてみた。

 ……ただの痛みだけしか感じられない。が、これでここが夢ではないということの証明にはなった。

 体を起こし、竹の一本にそっと触れる。

 竹の冷たさが手から伝わって来る。とても懐かしく、悲しい感触だった。

 空を見ると、綺麗な円を描いている月が浮かび、幻想的な光景を作り出していた。

 すると、竹林の一部から赤い光が灯っているのが目に入った。あれは炎だろうか。

 特に理由もなく、足が光のほうに向かって動き始める。もしかしたら、生き物がいるかもしれないと思ったからだ。そんなわがままな理由。

 どうしてこのような場所にいるのかという疑問を意図的に忘れ去り、俺は竹林の中を駆けていく。

 

 

 

 

 ♠×××

 

 

 

 

 「……あ゙あ゙、口の中血まみれになっちゃったじゃない。晩御飯が血の味だなんて最悪よ」 

 「こっちなんて片目潰れたわ。目に突き入れるなんて外道の所業ね」

 

 あれから約半時ほど殴る蹴るなどの激闘の末、結果は引き分け。なんともしまりの悪い結果ね。

 お互いに体力が尽きるまで続けたので立とうとすると足腰がプルプル震えるために今は横になって休んでいる。

 口に溜まった血を吐きだして、回復までの暇つぶしに話を続ける。

 

 「そういえば、もこたん、最近どうしたのよ」

 「なによいきなり……あともこたん言うな。私は妹紅(もこう)だニート姫」

 「そういうなら私は輝夜(てるよ)よ藤原妹紅」

 「ああ、そうだったな蓬莱山輝夜」

 

 何言ってんだろと言いながら妹紅は笑い、それに連れて私も顔に笑みが浮かぶ。

 一しきり笑い終えた後、話を戻す。

 

 「最近、なんだか楽しそうじゃない。ここに来てからいろいろと起きてるみたいじゃない」

 「そういう輝夜だって、最近人里に行く回数が増えてるみたいじゃない。里じゃ話題になってるよ」

 「……そうね。最近やっと生きることにハリが出てきたってところかしら」

 「そんだけ歳食っておいて今更?」

 「蓬莱人はいつだって乙女なの。野暮なこと言うものじゃないわ」

 

 確かに妹紅の言う通りね。しかし、私にとってはそれくらいが良いのかもしれない。私たちは永遠を生きる罪がある。その罪は形式上は許されてはいるが、償いである罰も永遠について来るもの。

 償いの長さを考えれば、むしろ今更というよりはもうと言ったほうが正しいのではないだろうか。

 最近は趣味を増やすことが趣味といったところだし、今度は趣味に没頭することを趣味にすることにしましょう。

 これからのことを考えていると、小さく草を踏みしめるような音が聞こえた。

 目線をやると、妹紅のほうもどうやら聞こえていたようで怪訝そうな顔をした。

 ここは迷いの竹林、異常なほどに成長が早い竹が周囲の景色を数刻の間に豹変させ、侵入してきた者の感覚を惑わせる場所。下手をすれば、抜け出すこともできずに死を迎えることもあるような場所だ。

 そのような場所であるが故に、まず人の子の類は近づくことはない。

 いるとすれば人でない妖怪の類。迷った人を食らうために住み着いた妖怪がいるのだ。

 いつもの体調であればなんてことのない有象無象の輩ではあるが、いまは激戦を終えたばかりで傷が癒えていない。

 少しばかり難儀することになるかもしれないわね。

 近づいてる者に気づかれないように、小さな声で妹紅に話かける。

 

 「私が弾幕で目くらましをするから、もこたんが一気に焼き尽くして頂戴」

 「ええ……ていうか、もこたん言うなって」

 

 妹紅のジト目を無視して、音のするほうに目線をやる。すると運悪く月が雲に隠れてしまい、月明かりが届かず周囲に暗闇が広がった。

 暗闇にも構わず、目を凝らし、竹林の奥の暗闇の中にいる者を見極める。

 一瞬、暗闇の中に吸い込まれてしまうのではないかという錯覚に襲われた。

 ぞっとしないわね、そんなことを思いながら再び闇に眼を光らせる。

 暗闇の中に丸い形をした、青い光のようなものが見えた。ゆらゆらと不規則に動くそれは、次第にこっちへ向かってきている。

 近づいてくるうちに、それが何かに(ふち)どられていることが分かった。ぼんやりとだが、青い光に照らされる甲殻のようなものが見える。

 次の瞬間、月を隠していた雲が場所を空け、月の光が周囲の暗闇を払い光をもたらした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その姿を見た瞬間、私は不思議な感覚に囚われた。

 月明かりに浮かぶ光の正体。それは、一見して明らかに異形の姿。見たこともないような姿をした化け物だった。

 全身を黒光りする殻に覆われ、体の至る所に鋭い刃の様な鋭利さを持った棘が生えている。

 頭や体の所々には大きく透明な殻がついており、胸元のそれの奥には青い発光体があった。

 ほかにも2本の長い触覚など特筆すべき点は多い。だが、もう一つの特徴はその化け物が持っている謎の威圧感であった。

 私たちとはまるで別の存在、いや別の世界の生き物であるかのような気さえする。

 だが、そのような異形で歪な存在であるにも関わらず、無条件に反射的に私はこの生物のことを見て「ああ、きっと優しいのだろう」などと思ってしまったのだ。

 理由は分からない。確証なんてあるはずもない完全な推論。

 けれども、私はそんな気がしてならなかった。

 

 「輝夜、どんな奴なの。 どっかの土蜘蛛か、それとも命知らずな付喪神かしら?」

 「わからないわ。 とにかく言えるのは……相当変な奴ってことだけね」

 「説明になってないんだけど……ともかくどうするの」

 

 妹紅の質問に私は考えを巡らせる。

 奴も次第にこちらへの距離を縮めてきている。危険な生き物だったら不味いが、私の感があいつは心配ないと言っていた。

 一応私も妹紅も蓬莱人――――死ぬことがない存在だし。ここは一回賭けに出てみるかな。

 正直自分の感がどれほどのものなのか、そんなどうでもいい遊び心もあり、私は反撃せず別の手段に出ることにした。

 

 「ちょっとお話してみるわ。 もこたん、もし私がダメだったらあとよろしくね」

 「はぁ! おい輝夜ちょっと待て!」

 

 妹紅の警告を無視して、私はゆっくりと立ち上がり化け物と向かい合う。距離は大体……8間ぐらいかしら。

 奴の鋭い目つきをした目が私のことをギラリと射抜く。一瞬だけ恐怖を感じたが、柄にもないと心の中で恐怖心を一蹴して毅然と目線を合わせる。

 声が震えないように気を付けながら、私は奴に向かって声をかける。

 

 「あなた、ここで何をしているのかしら。 もしかして、私たちのことを食らいに来たのかしら?」

 「…………」

 

 私の質問に反応なし、か。これはもしかしたら言葉が通じない類の妖怪かもしれないわね。

 だとしたら、話し合いもなにもあったものではないし、退治するしかないかしら。

 

 「……お前たちは、人間か?」

 「―――――! あなた話せたのね。 だったら質問に答えて頂戴。 いったい何しに来たのかしら?」

 

 つうっと頬を汗が流れた。

 ただ言葉を交わすだけでここまで恐怖を感じたのは、この前永琳がてゐと一緒に仕掛けた罠に引っかかったときに受けたお説教の時以来ね。

 気づくと妹紅は私の後ろで警戒の視線で奴を睨みつけていた。

 

 「理由は、特にはない。 ただ光に連れられてきただけだ」

 「光? ああ、もこたんの炎か弾幕のことね。 じゃあもう一つ質問……あなたは何者かしら?」

 

 少しばかりの、沈黙。

 はたして奴は今、何を考えているのかしら。

 こちらを殺す算段を立てているのか、あるいは……。

 すると、奴は考えが終わったような素振りをみせ、その鋭い牙を持つ口を開けて答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……JOKER(ジョーカー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが私と彼の初めて出会いだった。

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