古き幻想の紅い雪   作:珀靈雪魄

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第9話:諏訪大戦

……諏訪大戦はまだかなぁ。マダカナー?

 

と、一人悶々とする事一年程。諏訪子と誑子以外に特に喋る相手もおらず、食う寝る喋る以外にやる事と言えば、参拝客を観察する事か、諏訪子に何か技教えてくれと頼まれて教えたりだとか、神社の外に人を誑かしに行った誑子を連れ戻したりだとか。そんな事しか無かった。駄鬼? 知らん。〇〇? それも知らん。

 

それに諏訪子は参拝客の応対に追われてるから基本的に夜しか喋れないし。実質話し相手は誑子だけ。だから判ったんだけど、誑子は悪女でも何でもない。寧ろ気立ての良いいい子だった。……これ、種族や能力関係無く惚れる奴いると思う。正直私には勿体無い程の娘だよ。

 

話は変わって。何でも諏訪子は参拝客にはあまり姿を見せないらしい。適当な人間を使って神託を下してるんだと。そうする理由は姿を見せると見た目の所為でナメられるから。やべぇ、すっげー判る。

 

そんなこんなで一年は過ぎていたのだ。

 

秋に紅葉を見ながら食い物を心行くまで貪り食って、冬になり眠そうにしている諏訪子を蹴飛ばし、春になり眠気が無くなった諏訪子に仕返しされたので仕返しして、夏になりやや暑くなってきたので三人で諏訪湖に涼みに行って、そうして一周回って再び秋となり、紅葉や食べ物が楽しめる頃になった。

 

しかし私の心は晴れない。

それどころかどんどん曇ってきた。

……いや、別にこの日常がつまらなかったって意味じゃなくてね?

 

そう。あれだよ、あれ。諏訪大戦だよ。

まだ起こらないのかなー、と。諏訪子に会う前は何年も待てた筈なのに……やっぱり原作キャラに会って気が緩んだのかな? たった一年程度だと言うのに、これ程待てないものとは。

 

諏訪子と誑子の好感度だけがどんどん上がって、このままじゃ諏訪子ルートか誑子ルートに直行だ。それだけは駄目だ。私にはお嬢様という心に決めた幼女が……誰がロリコンだって? 思った奴こっちに来い。ザトラツェニェで消し炭にしてやるから。ん? 違う? おい、誰か私の事を幼女と言ったな。言った奴こっちに来い。ザトラツェニェで無に帰してやる。というか、基本全員童顔で低身長だからどの道ロリコンか。

 

まあそれは置いといて。

暇だから、ここ最近に起こった事を適当に挙げていこうと思う。まず、鉄が伝来した。

これで鉄製の器具や武具が作れるよ! やったねケロちゃん!

 

はい、終わり。

 

……え? 少ないって? はっはっは、ご冗談を。そんなにぽこぽこ変化したら困るってーの。

まあ、いちいち語るまでもない微妙な変化なら結構な頻度で起きてるけどね。

 

……それでも言え? いいけど、後悔するなよ?

 

まずは、諏訪子の帽子を観察していた時の事だ。

私は、ある冬の夜に眠っている諏訪子の枕元に置いてあった眼の付いた帽子に近付いていったんだ。

そうしたら、帽子の目が……くわっ、て思い切り見開かれて、血走った目玉が私を凝視してきたんだ。あれはマジでホラーだった。ちょっと泣きそうになったのは秘密だ。

 

それでも我慢して持ち上げて運んでみたんだ。

そしたら……いきなり足みたいなものが生えてきて……思わず離したら、こっちを穴が空く程見つめながら諏訪子の隣まで走っていったんだ。叫び声を上げかけたね。うん。

その後、騒がしかったらしく起きた誑子が、起き抜けで寝惚けていたのか私の肩に手を置いたから……飛び上がったね。

そして起きた諏訪子に喧しいと言われて謝ったね。

 

……私はドッキリ系とかそういうのマジで駄目なんだよ。悪いか。ってこれじゃただの怪談じゃん。

 

気を取り直して……次は、夏に諏訪湖に行った時の話だ。

諏訪子も何とか時間を取れたからよかったよ。まあ結構近くに諏訪湖はあるからそこまで時間は要らないんだけどね。

そんな訳で、私は折角だからと神力を使って水着を作ってみたんだ。

 

そして着た。

自分も諏訪子も大した差(胸囲)は無かったからよかったが、問題は誑子だ。

着替えたあいつを……主にあいつの胸を見た。

着痩せするタイプだったらしい。駄鬼までとはいかないが十分に立派な双丘が私達ひんぬー組の目に映った。

私達は嘆いた。何故神はこんな粗末なものを与え給うたのか、と。そして自身が神だった事に気付いて二人で泣いた。私達の何と無能な事か、と。

 

心配して駆け寄ってきた誑子の胸を二人して揉んでやった。余計に惨めな気持ちになった。

でも、気持ち良かったという事実だけは私と諏訪子の掌に……そして心に、嫌と言う程深く刻み込まれた。

 

……うぅ……折れそう(心が)。もうやだ。何も語りたくない何もしたくない。無気力万歳。

 

と、怠惰に何もする事なく暮らす訳にもいかなくなった。何故かって? そろそろ勃発しそうなんだよ、諏訪大戦が。昼時の洩矢神社境内にて。大和の神である神奈子が攻めてきて。

……人払いの結界擬きでも張っとこうかな……。

 

 

 

「洩矢諏訪子。お前の神社はこの八坂神奈子が貰い受ける」

 

いやぁ……ここ一年で諏訪子を観察してきたんだけど、諏訪子の威光は圧巻の一言だったね。

楯突けば祟られて、大人しく信仰していればしっかりと恵みを齎す。

その上、無茶な要求は一切しないものだから、反発しようにも反発出来ない。する理由が無い。

仮に反発したとしても、例外無く潰されるしね。

何が言いたいのかというと、神奈子もよく挑もうと思ったものだ、って事。

 

「へぇ? つまりは私から信仰を奪おうって?」

 

変な注連縄を背負った神奈子の宣戦布告に、濃密な神力を纏い凄みを利かせて応える諏訪子。

いつの間にかミシャグジ様が諏訪子の周りに集まってきている。何気に初めてミシャグジ様を見た。

 

「勝手な事を言うものだ。返り討ちにしてあげるよ」

 

やべぇ恰好いい。普段私と喋ってた時の姿とギャップあり過ぎて惚れる。結婚しよ。

……あ、成程。誑子が私に告白したのってこんな気持ちでだったんだ。納得した。

 

でもごめん。恰好いいのは恰好いいんだけど……迫力には欠けるね、幼女が凄んでも。私も幼児体型だから死ぬ程経験して……してないか。

しかし、神奈子にはこれが威厳のある神の姿に映ったのか若干怯んでいる。すぐに持ち直したけど。

 

「強く、そして多く恵みを齎す神の方が民に信仰される。そして民の為でもある」

 

まあ、そりゃそうだ。他国からの侵略を受けた際に強い方がそれを防げるし、多く恵みを齎す神の方が人間にしてみれば欲しいに決まってる。神奈子の言い分はもっともだ。

だけど、そうそう上手くいく程単純な事じゃないと私は思うんだけどねぇ……。

 

「私を社から追い出そうなんて、随分とまぁ図々しい神だね」

 

諏訪子の放つ殺気が一段階上がる。それに応じて神奈子も戦闘態勢に入った。

どうやらこの場で戦うつもりらしい。民に被害が出るかもしれないのにそれを考慮に入れずに戦うなんて、何か違うと思う。という訳でちょっとした人払いの結界を張っておいた。これも妖術の一つなんだけど、今回は神力で代用しているから神奈子にも怪しまれる事が無い。

……妖怪を神社に置いているなんて洒落にならないだろうからね。そこのところはしっかりとしておかないと。

 

「……いったいどうなるんでしょうか」

 

隣に座っている誑子が、空中で睨み合っている二柱を不安げに見ていた。勿論誑子にも妖力は隠しておくように言ってあるので興奮状態の神奈子には気付かれていない。

 

「さぁね。強い方が勝つんじゃない? あ、そうだ。お茶淹れてくれる?」

「あ、はい。只今」

 

襖を開けて慌ただしく中に入っていった誑子を見送ってから、二柱に視線を移す。

因みに私がいるのは本殿じゃないよ? 本殿にだけは入るなって諏訪子にきつく注意されていたし。

諏訪子が寝泊まりをする為の離れの小屋。その縁側に私は座っている。私達三人はこの小屋で寝ていたという訳だ。

本来は諏訪子一人の為に造られたものだから少しだけ窮屈だった。文句は言えないけど。

 

「紅雪! 手出しは無用だよ!」

「はいはい。気にせず存分に戦って」

 

つい最近に手に入った鉄の宝剣を構えた諏訪子が振り返って声を上げる。

 

手出し無用と言われても、初めから手出しをするつもりが無かった訳だが。寧ろ、手伝えと言われた方が困る。

何せ正史では神奈子が勝って諏訪子が負けたんだ。薄情なようだけど、私が手を出した事で罷り間違って諏訪子が勝ってしまったら原作に大きな違いが生まれてしまう。それだけは避けたいんだ。

原作知識があまり大きな意味を為さない世界だというのは理解しているが、だからと言って原作とは変わって欲しくない。

 

諏訪子に返事をしてから少しの間考えていると、初めて私に気付いたらしき神奈子が話し掛けてきた。

 

「……ん? そこのお前、何者だ?」

「最近、此処で世話になってるしがない新米の神だから、気にしないで続けて」

 

手を振るという動作を付けて返答してやると、神奈子は何となく腑に落ちないのか首を傾げて、諏訪子は軽く此方を一瞥してから肩を竦めた。何だその態度は。

 

そして、二柱は二言ぐらい言葉を交わす。

神奈子の上から目線の言葉に諏訪子が皮肉を混ぜた言葉を返す。そして諏訪子の言葉で決戦の火蓋は切られた。

 

……誑子を此処から離れさせておいて良かった。さっき神奈子がこっちに注意を向けていたから、誑子が横にいると気付かれていたかもしれない。あぶねぇ。

 

───何はともあれ、遂に諏訪大戦が勃発したのだ。

 

 

 

 

 

☆○☆☆○☆☆○☆☆○☆

 

 

 

 

 

「御主人様、お茶が入りました」

「ん。有り難う」

 

急須と二人分の湯呑みを盆に乗せた誑子が戻ってきた。

私の横に腰を下ろして、盆を置く。

勿論私は早速飲む。

 

「……ふぅ。美味い」

 

やっぱりお茶はいいよねぇ……心が落ち着くぜ。

そう。たとえ空中でガンキャノンとケロちゃんが罵り合っていても、御柱と鉄剣がぶつかる甲高い音が響いてきても、だ。

 

それにしても……一対一で大戦なんて大仰だなぁ、と私は思っていたんだけど、今目の前で繰り広げられている派手な戦闘を見ているとそうした思いもすぐに消え失せた。

 

二人共が色取り取りの弾幕を放ち、隙が出来れば諏訪子は鉄の輪を投げ飛ばしたり神奈子は御柱をぶん投げたり、と際限なく神力を消費し続けている。

こんな自然回復しない力を馬鹿みたいに使えるって……やっぱまともな神様ってのは凄いなぁ。

 

というか、この時代から弾幕はあったのか。

いや、昔に私が使っていた弾幕を見た天上界の神々が地上の神々に教えたのかもしれない。それなら私は弾幕の先駆者という事になる訳か。

そんな私でも、今まで神力弾は使った事がなかった。確かに、一発一発の威力は妖力弾よりも遥かに高いし、そこまで神力も消費しないようだ。それなら貧弱な神様である私にも使えるかな? まあ、二柱みたいに盛大な弾幕は張れないだろうけど。精々意表を突くのに一発放つのを繰り返すぐらいだ。

 

私は神としてはつい最近生まれたばかりだし、そこまで大きくない村にある神社の祭神だから、神力の量は諏訪子達に比べれば本当に微々たるものだ。

ここまでバンバン使っていたらすぐに枯渇するってーの。妖力なら尽きる事を知らないんだけどね。

 

ぶっちゃけると妖力をフルに使ってならこの二柱にも負ける気はしない。何故なら精密な妖力操作による多様な妖術に関しては私の右に出るものはいないと自負しているし、諏訪子も神奈子も私の手の内を知らないのに私はどちらの手の内も大体知っているからだ。事前知識というものは攻撃にも防御にも使える万能のアイテムだね。

場合によっては神でさえも完封出来る妖術もあるにはあるから、完璧だ。神力を混ぜて強化する事も可能だし、妖力に変換して爆発的な力を生み出す事も出来る。

 

うーん……大概チートだね、私も。

 

……ひょっとしたら、神力だったら霊力に変換出来るんじゃね? 今度試してみよう。

 

「ご、御主人様、危ない!」

「ん? ああ……やっぱ飛んできたか」

 

さっきから二柱の放つ神力弾やら御柱やら鉄の輪やらが流れ弾となって次から次へと地面に突き刺さっていっているのだ。

神力弾は小さい穴を作るだけだから特に問題でもないが、御柱や鉄の輪は小規模とはいえクレーターを作っていく。しかし、二柱に気にした様子は無い。

神奈子は解るけど、諏訪子はもう少し気にしてもいいんじゃないの? いくら後から神力使って直せるとはいえ。

 

私目掛けて飛来する御柱を、取り敢えず湯呑みを盆に置いてから無効化の能力で御柱に宿った神力を消してそのまま片手で受け止める。

結構なスピードが出ていたからちょっとだけ腕が痺れる。まったく、危ないもん撃ちやがって。

 

 

 

さて。先程から地面にも攻撃の余波が届いていると言った。それはつまり、地上にて諏訪子の援護をしているミシャグジ様にもぶち当たっているという事だ。

神力弾や御柱をその白い身体に思い切り受けて一柱、また一柱と伸びていく。……えらく貧弱だなぁ。

仕方が無いので簡単な防護結界を張ってそこに気絶したミシャグジ様を収納しておく。

それと一応、公平を期す為に一度結界の中に入ったミシャグジ様は戦線復帰する事を禁じる。

 

「……御主人様。そろそろお腹が空きませんか?」

「え? もうそんな時間? ……ほんとだ。もう暮れてやがる……」

 

えぇと、諏訪子達が戦闘を開始したのが昼過ぎ辺りだから、暮六つ時……かれこれ五時間は戦ってるのか。……うわぁすげぇ。よくもまぁ飽きずにやってられるよ。私だったら降参するね、多分。

 

こんな時間になったのを知覚した途端、腹の虫が鳴った。どうやら誑子も腹が減っているらしく腹部を手で押さえている。……そういや、私ってば空腹は感じるけど餓えは感じないんだよね。何でだろ?

 

取り敢えず、誑子に何か作らせるか。茶葉は勝手に使ってしまったが、流石に食材まで使うのには家主である諏訪子の許可を得た方がいいかもしれない。

 

「諏訪子ー! 食材使うけどいいー?」

「いーよー」

 

まだまだ余裕たっぷりに撃ち合っている諏訪子に声を掛けると、軽い調子で了承の返事が。

……あんだけ戦ってるのにまだ余裕あるのかよ。理解出来ないね。私は速攻型だから持久戦が得意な奴の気が知れない。

 

まあ、許可は貰った事だし。

 

「だってさ。何か作ってきて」

「はい、畏まりましたっ」

 

……何つーか。今更だけど丁寧な言葉で……というか敬意を持って接されると微妙に(非常に)擽ったいんだよねぇ。

何とか出来ないものかねぇ……いや、メイドとか従者とかそういう存在になったのならその方がいいんだけど……巫女は、何処ぞの平等に接し過ぎる巫女のイメージが拭い去れないから敬語は駄目。勿論謙譲語も駄目。

 

そして、誑子も当然のように料理が出来る。しかも凄く美味いという。

……私の作るものはいつもいつも毒物なんだけど、いったい私はどうすればいいんだろ。……どうやら私は料理をまともに作る能力が零に等しい……いや、マイナスかもしれない。ちょっとはマシになるように今から猛練習だね。

 

「ちっ……小賢しいね……!」

 

ん? 何か舌打ち混じりの声が聞こえたけど……この声は諏訪子か。

 

思考を断ち切って空へと視線を移す。

先程までは拮抗していた二柱だが、神奈子の神力弾が諏訪子の神力弾を撃ち抜いたり、鉄の輪が御柱に弾かれたり、と諏訪子が劣勢に立たされていた。

ふと地上にも目を向けると、戦闘前は十数柱もいたミシャグジ様が今では片手で数えても指が余る程しかいなくなっていた。

勿論、ミシャグジ様が忽然と消えた訳ではなく、ただ単に私の結界の中にいるってだけなんだけどね。

 

つまり、諏訪子が押されている理由は簡単。ミシャグジ様の支援が無くなってきたからって事のみだ。

……まぁ、ミシャグジ様を含めての諏訪子なんだけど……やっぱり単体では神奈子には勝てないのかな? 単純な神力の量なら神奈子の方が上だけど……。

 

それに、さっきから諏訪子も神奈子を祟っているけど、神奈子の……恐らく背中にあるあの変な注連縄の放つ奇妙な力に弾かれているっぽく全く効いていない。得意技を封じられてるのも痛いな。

 

「どうした? もう終わりか?」

 

諏訪子を追い詰めた神奈子が何となく悪役っぽい台詞を吐いた。……そういや悪役か。悪役なのか?

まあそんな瑣末な事はどうでもいいので置いておこう。

 

問題は私が料理と呼べるものを作れるようになるかどうかだ──あ。諏訪子が被弾しそう……おお、避けた!

ふらふらと覚束無い足取り(空中だけど)で浮いている諏訪子に大きな御柱が衝突するかに思えたが、意地を見せて回避してみせた。よくやるよ。

 

さて。そろそろ面白くなってきたし注視しておこう。

 

 

 

「うーん……もう六時間になるけど……」

 

二柱の戦いの時間を、始まってから今まで一応測っていたのだが、大体六時間経っている。

流石は神様、まだ神力が尽きていないらしい。それどころかまだ余裕があるっぽい。どんだけ信仰を受けてたのさ。

 

「御主人様ぁ、出来ましたよー」

「んー」

 

鼻腔を擽る美味しそうな香りがして、それからすぐに誑子の声が聞こえたので振り返る。襖の先──卓袱台の上に乗っているのは……鍋? おお、鍋か。いいねぇ。

 

「今夜は牡丹鍋に挑戦してみました!」

 

楽しそうに生き生きとした顔で語ってきた誑子。……料理が好きなんだろうねぇ。作るのも食べるのも食べさせるのも。料理の話をしている時の誑子はいつものおっかなびっくりな調子は無く、凄く自然で可愛らしい。……多分、これが本来の誑子なんだろう。いつか私にもこんな感じで接して欲しいもんだ。……はっ!? いつの間にか私の中に誑子の存在が食い込んでるし──ったく。こうなったからには寿命以外では死なないようにちゃんと守らないとなぁ……。

 

うーむ……もっと強くなる他無いか。いったいどうした事なんだろう、皆の死を切っ掛けに凄く努力するようになったなぁ……私。

 

……今度こそは、大好きになった奴らを私の手で絶対に守り抜いてみせる。こんなものは贖罪でも何でもないけど、頑張るから見ててよ……牡丹、鋼楔。それに、深香も。

 

「……御主人様? どうかしましたか?」

「……え? あ、いや。何でもないよ……食べようか」

「はい! では此方へどうぞ」

 

過去に想いを馳せていたら心配されたでござる。……さて、諏訪大戦でも眺めながら鍋食うか。

 

立ち上がり、縁側、畳と歩いていって座布団に座る。移動したからか争いの喧騒がやや遠ざかった。

 

 

 

 

 

☆○☆☆○☆☆○☆☆○☆

 

 

 

 

 

「ふぅ……美味かったよ」

「……有り難う御座いますっ」

 

いやぁ、マジで美味かったわ。

何回か焼いて食った事があるから判るけど、猪肉っつーと獣臭い上に筋張ってるんだよねぇ……それが、今食った猪肉は全然獣臭くないし柔らかくて……こう、兎に角美味しかったんだよ。勿論、野菜も汁もね。秋になると若干肌寒くなってくるから、今回の鍋は温まって良かった。

 

暖も取れて腹も膨れた事だし、依然として殺り合っている二柱のいる空へと二人して視線を移す。

夜の帳も下りて真っ暗になった空は、星や月の光よりも明るい色取り取りの弾幕の花火に彩られてそこはかとない風情があった。

 

実を言うと、弾幕に色を付けるのは結構簡単な事だったりする。人妖大戦の時に私が放っていた弾幕は紅色だったけど……何にも意識しないで撃つと本人の気質によって色が変わるらしい。私は紅か。

 

で、本題だけど、この色がいいなぁ……とか意識をして放つと、ちゃんとその色になるんだよ。

例えば、紅の中に交互に紫を混ぜたいなーと思って放つと、一発目が紅色。二発目が紫色。三発目が紅色……紅紫紅紫、と意識した通りの色になる訳だ。

 

……輝夜とかフランってどうなってるんだろ。特にフランに関してはどうなっているのか知りたい。

あれって本体が分身の弾幕もイメージしているのか個々が別々の意思を持っていてそれぞれが意識しているのか……どっちなんだろうか。早く見てみたいものだ。

 

と、そこで、諏訪子の悲鳴が聞こえた。……ああ、やっと決着したか。

 

捨て鉢になっていたのかどうか判らないけど、鉄剣を手に突貫した諏訪子。それを神奈子は、御柱を振り抜いて見事に打ち返した。ナイスショット。これはホームランですわ。

 

放物線を描いて此方に吹っ飛んできた諏訪子を、結界を解除してから受け止める。

息も荒くて汗も酷い。かなり消耗しているようだ。

 

「……はぁ、はぁ。お前まで攻撃してこないだろうね……?」

 

同じくかなり消耗している神奈子が、諏訪子を抱えた私にふらふらと近寄ってきた。

どうやら疲れているらしく、誑子の正体にも気付いていない。……何と言うラッキー。

 

「だって手を出すなって言われたからねぇ」

 

一番の理由は原作通りに進んで欲しいからだけど。

 

「……それなら、良いが」

「ちょっと休んだら? 鍋の残りもあるし」

 

実は食べたには食べたんだけど、結構大きい鍋だった所為でまだまだ残っているという事態になっている件。

だから、出来れば食べていってくれると有り難い。皆で囲む鍋は美味しいとも言うし。

 

すると、「そうさせてもらう」と言ってからふらふらと歩き、誑子が用意した座布団に腰を下ろした。……よし。後は諏訪子を起こすか。

 

 

 

「うぅ〜……紅雪〜」

「はいはい。負けたね」

 

黙って鍋だけ食っておいてから私に泣き付いてきた諏訪子を、背中を摩ってあやしてやる。

起きてからの流れはこうだ。起きたと思ったら神奈子を睨み付け、それから泣き出し、飯の時だけ泣き止んで黙々と猪肉や野菜を頬張り、食い終わったら食い終わったでまた神奈子を一睨みしてから私の無い胸に顔を埋めて泣き出した、とこんな感じ。……何なんだろう。私も泣けてきた。諏訪子を包んでやれる胸が無くて、包容力に欠けて……うぅ……惨めだ。

 

それを面白そうに眺めている胸の大きな神奈子。……邪教徒め。その豊満なバストで相手を惑わす異端者め。我ら『巨乳撲滅委員会』の手により罰を与えてやる。……しかし、諏訪子はもはや戦力にならない。対して相手は神奈子と誑子。……どうするか。誑子は簡単に無力化出来るが、神奈子となると──

 

「……御主人様」

「……はっ!?」

 

いけないいけない。どうやら別世界にトリップしていたようだ。

 

「……あ、あっても良い事無いですよ? 肩が凝りますし……」

「そうだね。私もそう思う」

「……………………」

「……………………」

 

あれアレ? オカシイなァ? ドウヤラ思っていたコトが口から漏れてイタようだネ。アハハハは。

 

「……諏訪子。やろうか」

「そうだね。久々にキレちまったよ……」

 

先程の誑子と神奈子の言葉を聞いて泣き止んだ諏訪子。涙の代わりに殺気が溢れている。さっきもキレてただろ。

 

そして、獲物を視界に捉えた肉食獣の如き眼光で以て誑子を射竦める。それから二人で一気に組み伏せて立派なモノを揉みしだいてやる。さあ、せめて良い声で啼け!

 

「やっ……やめ、ひゃうっ……!」

「……おのれ」

「……畜生が」

 

諏訪子と二人、血涙を流しながら柔らかい駄肉を揉む。……気持ちいい、気持ちいいから惨めになる。畜生め……こんな事をしても諏訪湖での一件と同じ轍を踏む羽目になると判っていた筈なのに……!

 

神奈子には手を出さない。だって反撃されそうだから。それに、ヤツの方が立派な胸を持っている。そんなものを揉んでみろ。もう私達は二度と立ち直れなくなるだろう。

 

「それはそうと、此処に根付いた信仰は深いんだけど……流石に取って代わるのは難しいんじゃない?」

 

誑子の胸を揉みながら、神奈子に私の懸念を伝える。

しかし神奈子は、それを鼻で笑って言葉を返してきた。

 

「民も強い神の方につくだろうさ」

 

自身に満ち溢れているのは結構だけど……私が言っているのはそう言う事じゃないっての。どういう性質の神かを調べた上で侵攻しなよ、まったく。

 

「ご、ごしゅ……ひゃめ……て……」

「……あ。ごめん」

 

耳まで真っ赤になり過呼吸になっている誑子の胸から手を離す。肩を使った荒い吐息も細められた潤む瞳も熱を帯びており、口の端からは唾液の線が一本垂れていた。少しだけ着崩れた服も相まって、はっきり言って凄まじくエロい。……どうしよ、理性とか吹っ飛びそう。マジで危ないよこれは。もし諏訪子も神奈子もいなかったら絶対襲ってた。

 

「……何をやっているんだ、お前らは」

 

これは神奈子の呟き。ごもっともだ。諏訪子もバツが悪そうに頬を掻いていた。

 

 

 

そして翌日。この荒れ果てた神社の本殿にやって来た参拝客の皆さんに、神奈子が神の交代を宣言した。

皆さんの顔に緊張と動揺が走る。まあ当然の事だ。……後は、それをすんなりと受け容れられるかどうかなんだけど、やっぱり難しいだろうねぇ……ミシャグジ信仰は根深いし。諏訪子が生きている以上、違う神を祀ったりなんかしてもしも祟られたら……と考えるのが普通だ。

 

皆さんは、ふんぞり返っている神奈子と不貞腐れている諏訪子を見比べながら相談をし始めた。そして、自分達の一存では決められないと帰っていった。

 

「さて……どうなるかな?」

「……か、神奈子さんを受け容れるのではないでしょうか?」

「そうそう上手くはいかないだろうね。まぁ静観してようよ」

 

 

 

更に数日の後、何やら豪華な衣装を身に纏ったお爺さんや、それ程ではないが村民と比べるとやはり豪華な服を着ているおっさん達を引き連れた皆さんが戻ってきた。

 

お爺さんは見た事がある。近くの村の長だ。……となると、他の偉そうなおっさんは権力者とかかな?

 

「……神奈子様は、受け容れられませぬ」

 

代表として村長が神奈子に告げた台詞は、私の予想通りのものだった。そしてその理由も私の思った通りの事が皆さんの顔に書いてあった。……そりゃやっぱり怖いよねぇ。

 

対する神奈子は不満げな顔をしていたが、何も悪い事はしていない神を殺す事はどうしても憚られるようだ。

 

 

 

少しゴタゴタした後。私の提案を受けた村長達により、国内での『洩矢』は『守矢』に変えて外では別に呼び分けるようになった。……成程、考えたねぇ。

 

複雑な事は私には解らないけど、解った範囲で簡潔に纏めるとこうなる。

 

この名前の変更によって、表向きは祭神が変わったように映るが、その実変わってはいない。

つまり、国外では守矢神と言うと神奈子の事を指すが、此処にいる民は諏訪子と認識する。まあ面倒な事になった。……新しい神(神奈子)を信仰するが実は諏訪子を信仰しており、結果信仰が分かれる……と。傀儡政権ってやつかな? まったく。ややこしいってーの。

 

 

 

 

 

☆○☆☆○☆☆○☆☆○☆

 

 

 

 

 

「んじゃあ、私達は離れるけど……二人になっても喧嘩はしないようにね」

「判ってるよ。寂しくなるねぇ……」

「……そうですね」

 

つい百年程住み着いてしまい、馴染んでしまった洩矢神社……諏訪大社に、とうとう別れを告げる時が来た。

 

「ちゃんと自分の社にも帰るんだぞ」

「うぐ……判ったよ」

 

私の神社、かなりほっぽらかしていたからなぁ……もう〇〇も死んでるんだろうし……って、やべぇ! もし白嶺神社が博麗神社になるのなら、次の巫女を捜さなきゃなんないじゃん! いや……もう〇〇が自分で見付けてるのかな? 博麗の巫女って確かそういう性質があったし。

 

まぁ、何にせよさっさと神社に戻ろう。

 

「道中気を付けなよ……って、あんた達なら大丈夫だよね」

「誰に言ってんのさ」

「あはは、そりゃそうか。……じゃあね」

 

諏訪子にも神奈子にも私の力は一通り見せてあるからねぇ……それに、こいつらの喧嘩を実力行使で止めるのは私の役目だったし。結構骨だったけど。

 

「では、さようなら」

「じゃあ、また」

 

神奈子と誑子も挨拶を交わして、二人で諏訪大社を後にした。……これだけ繁栄している神社の二柱も忘れ去られて幻想入りするんだよね……まったく度し難い。

 

「んじゃ、私の神社に案内するよ」

「はいっ、宜しくお願いしますっ」

 

次に諏訪子達と会うのは、二千年後くらいか。今の私にはあっという間……という訳にもいかないんだろうなぁ。何せこれから原作キャラが目白押しだし。

 

───さて。帰りますか、っと。

 

 

 




誑子とのイチャラブと苛烈な諏訪大戦が程良く混ざっているですって!? やったー!
ゑ!? 程良くないですって!? ……これではタイトル詐欺になってしまうじゃないですかーやだー!



最近、他のキャラ視点の描写をしていない……そろそろやってみようかなぁ……。
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