古き幻想の紅い雪   作:珀靈雪魄

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ま……間に合っ、た……(喀血)
私は頑張ったよ……もう、ゴールしてもいいよね?



冗談は置いておくとして。
こんなに遅いんじゃ読んで下さっている皆様に申し訳が立たないじゃないか……次回からはもっと頭から搾り出す感じで書かなければ。


第10話:尸解仙

───さてさて。〇〇……もう『初代』と呼ぶか。初代や誑子を残して私は自由気侭な旅暮らし。

料理は出来なくても神力で色々出せるから何一つ不自由は無い。それでも強いて挙げるとするならば、神力が勿体無い事かな。あれって自然回復しないから本当に節約しなきゃならないしね。初代が頑張ってくれても神力はほんの少ししか私に入らないし。

 

……え? 今まで好き勝手してたじゃないかって?

あ、あれは違うんだ。人里にちょっとだけ出向いて色々と手伝ったりしたから余裕があったんだ!

 

……え? 自分で食べ物出せるんだから誑子を式神にする必要はないじゃんって? んー……それは違うなぁ。ほら、何と言ったらいいのか……やっぱりさ、愛情の篭ったものを食べたいじゃん? いや、出来合いのものでも美味しけりゃいいんだけど、何か寂しいって言うかね?

 

こほん。少し脱線したけど、まあ気楽に何も考えずに物見遊山。

 

春になりては色んな花を楽しみ可愛い小動物達を愛で、夏になりては近くの水辺で水浴びをして近寄ってきた危ない男を蹴り飛ばし、秋になりては色付く紅葉や秋の味覚を楽しみ、冬になりては鎌倉や雪達磨を作ったりと雪で遊ぶ。

悠々自適の四季巡り。それを幾度も堪能しているうちに、とある噂を耳にした。

 

生前勉強なんて殆どしてなかったからその内の一つぐらいしか解んなかったけど、兎に角その一つで、確信した。

 

曰く、「十人の話を同時に聞く事が出来る」んだってさ。

 

あ、これ間違いなく聖徳太子だな。って、そう思いましたよ。ええ。

豊聡耳神子さんではないですか。でも、あれって確か元は男だってどっかで見たような……いや、この時もあのままの姿だって説もあるし……まあ、会ってみたら解るでしょ。

 

てな訳で、早速行くとしましょーか。

 

 

 

 

 

「ほー……色々あるじゃん」

 

取り敢えず観光の延長線みたいな感じに寺を巡っている。

法隆寺だけではなく法起寺、法輪寺、中宮寺などなど。まあすぐ近くなんだけど。

 

結構興味深いし全部見て回りたいんだけど、私が用があるのは聖徳太子ただ一人。後、青娥や布都や屠自古。

仙人にも興味があるから、ちょっと勉強していこうかな。

確か……あいつらは尸解仙(しかいせん)になるんだったっけか。

 

警戒している駐在兵らしきものに止められた時には、神力を纏って通り直せば快く通してくれた。

何か突っ込みどころ満載だったけど突っ込まないでおこう。お前ら仏教徒じゃないのかよ、とか、そんなザルな警備でいいのかよ、とか。深く考えないようにしよう。

きっと頭がおかしくなると思うから。

 

そして、聖徳太子が住むという屋敷の場所を聞いたら心優しい一般市民が教えてくれたので、その屋敷へと歩を進めた。

 

 

 

そういう訳で今は聖徳太子こと豊聡耳神子の御前にいる。

 

変な耳あてをしている変な髪型をした女の人。この時代からあの姿だったようだ。

 

「仏教を広めているとの事だけど、あんたは別に仏教徒って訳じゃないよね?」

 

此方を見ている太子様に、薄れてきた原作知識と実際に見て回って感じた事を照らし合わせての意見を述べる。

 

「……何故そう思うのですか?」

 

疑問は尤もだ。普通は見ただけで信仰しているかどうかなんて判らないだろう。だが私は違う。

これでも一応人の信仰を受けている神様だから、相手が何を信仰しているのかどうかは判らなくても、神子が仏教を信じていない事ぐらいは判る。

 

「さあ? 何となく?」

 

でも別に語る程の事ではない為、適当に(ぼか)しておく。

 

「貴女は、不思議な人ですね」

「そうかねぇ?」

 

ただ単に人間で妖怪で神様で蓬莱人なだけなんだけど。

 

「それよりもさ、十人の話を同時に聞くってどんな感じなの?」

 

私としてはこっちの方が気になる。朧気に憶えているものを引っ張り出してきても、この能力は相手の本質を見抜く事が出来る力としか出てこないんだよ。脳内辞書がどんどん役立たずになっていっている現状。

 

「感覚的なものなので、言葉にするとしたら……文字通り、ですね」

「むー……」

 

本当に十人の話を同時に聞けるとして、それをいちいち憶えておく記憶力とそれぞれに返す答えを決める処理能力とか……私には出来ん芸当だね。

 

「太子様」

 

そこで、一人の女が客間に入ってきた。

露草色の短めの髪。頭の天辺に変な(かんざし)をぶっ刺して髪で輪っかを二つ作っている。

白群色の服に半透明の衣を纏った姿は、どう見ても青娥娘々です。有り難う御座いました。

 

「何か用でしょうか、青娥?」

 

どうせ()でも持ってきたんだろうねぇ……。

道教ってーと不老不死だったか。蓬莱人には関係無いね。

 

「丹が入りました、太子様」

「……判りました。しかし今は客人がいます。後にする事にしましょう」

 

隠さなくても良いんだけど……まあ、仏教広めといて手前は道教寄りになってるってのは知られたくない事なんだろうねぇ……私は神道派だし、そもそも神だから(此処の)人間の考える事はあんまり解らないや。

 

「それで、そちらの子供は?」

「子供言うな。これでもあんた達よりは歳上だからね」

 

まったく。失礼するね。どうせならロリババアとでも言っておくれよ。

 

「……え?」

「太子様……まさか」

 

何その反応。普通なら面白い冗談だなとか何とか言って笑い飛ばす場面じゃないの?

それともこいつら幼女の戯言(でも本当の事)を真に受ける程に不老不死に執着してるの?

 

……うーん。正直に言っても面倒な事になりそうだけど、このまま放っといても碌な事にならなさそうだよねぇ……これは失言だったか。

 

どうしよう。もうバラすか、面倒くさい。

 

「はー……あんた達の予想通り、私は不老不死だよ」

 

言った瞬間に二人が固まったように見えた。

 

「ど、どう言う事ですか……? まさか、貴女も道教の……」

 

神子が、興味はあるけど何だか恐ろしいといった感じで問い掛けてくる。

 

「うんにゃ、道教とは関係ない」

「じゃあ、いったい何だと言うのかしら?」

 

今度は青娥が訊いてきた。

 

「んー……あんた達に理解出来るかどうか甚だ疑問なんだけどねぇ」

 

何億年昔、とか言っても絶対こいつら理解出来ないっしょ。まぁ、もっと時間が進んで永琳がこっちに戻ってきたらその時にこいつらに訊かせればいいだろうけどね。永琳だったら上手く説明してくれると思うし。

まぁそもそも、永琳が話してくれるかどうかも判らない訳だけど。だからと言って私が説明するにしても、ちゃんと説明しきれるかどうか……。

 

まあ言うだけ言ってみるかな。

 

「あんた達は、不老不死についてどう思ってる? いや、聞かなくても判るけどさ。これってそんなに良いものじゃないんだよ?」

 

私は哀しさ三割嬉しさ七割ってところだけどね。死にたくても死ねないってのは結構堪えるし、生き地獄をずっと味わう事になるから。

でも、いずれ出来る幻想郷の住人達と長い事一緒にいられるってのは絶望にも勝る喜びだったり。

そもそも好きなゲームの世界に転生出来た訳だし、好きなキャラ達と話をする事が出来るだけでも感無量だし。

 

でも、こいつらにはそんな楽しみは無い筈だ。ただ単に死にたくないだとか復讐の為だとか、そんな理由で不老不死になったら絶対に後悔する事になる。妹紅なんかいい例だよ。

 

「…………」

「…………」

 

黙って私の言葉に耳を傾けている二人。

 

「まあいいや。私の場合はとある薬を飲んで不老不死になったんだけど……」

「薬……丹ですか?」

「いや、違う。蓬莱の薬っていうものだけど……聞いた事無いでしょ?」

「無いわね」

 

蓬莱の薬……八意永琳が蓬莱山輝夜の能力を使って生み出した薬だったような……あれ?

よく考えると、永琳が私に蓬莱の薬を渡した時に蓬莱山輝夜は生まれていたのか? 原作知識ではあの頃は生まれていない筈……まさか、いや、どういう事だろうか。

 

いくら永琳とは言え、全く知らない薬や材料の無い薬の調合は出来ないだろう。だとしたらあの頃から輝夜はいたのか? まさかあの都市に輝夜もいたのか?

 

……今度会ったら訊いとかないとね。

 

「……どうかしました?」

「え? ああいや、何でもないよ。んで、不老不死になってから一億二億……それぐらいは生きてきたよ」

 

冷静に考えてみると、よく精神が崩壊しなかったな……私って。やっぱり無心で鍛錬を積んでいた事が幸いしたのだろうか。何にも考えずにいたから精神が摩耗する事も無かったのかな。

 

「想像も出来ないでしょ?」

 

特に反応も無いのはあまりにもぶっ飛んでいて全く理解出来ないからだろう。

私も牡丹達が死んでからまだ子供だった初代の親に会うまでくらいの記憶が殆ど無いからねぇ……。

 

「んでまぁ色々あった訳よ。大事に思っていた奴が死んだり、一人だけ見た目が変わらなかったり」

 

今でも完全に割り切れた訳ではない。もしもあいつらを生き返らせる事が出来る術があるのならば、私は何をしてでもそれを実行するだろう。

 

───例え、誰を殺してでも。幻想郷を滅ぼしてでも。

 

……まぁ、何億年も昔の魂を呼び戻す術なんて何処を探しても存在しないだろうけどね。

 

見た目についてはもうちょっとだけ成長して欲しかった。主に身長とか胸とか。

今でもロリコンだからちっぱいを愛でるのは好きだけど、自分が貧乳なのはまた別なんだよねぇ……。

 

まぁ、青娥もある程度は経験しているんだろうけど。

 

「神子。もしも……あんたにこんな出来事を乗り越える、乗り越えられる。そう言った気概があるのなら止めないけどね」

 

まあ、神子はそう簡単にはへこたれないだろうけど。私みたいな豆腐メンタルとは違って。

それに、不老不死になる為に尸解仙になってもらわないと原作に思いっきり関わってくるし。

 

「どうぞ、御一考を」

 

まぁ、太子様ならば私の言葉如きで揺れ動かされずに、きっちりと自分の意見を押し通してくれるだろう。そう私は信じてる。

 

そして今日の所は此処から離れようと出口に向かったところ。

 

「お待ち下さい。折角ですので泊まっていかれませんか?」

「私としては貴女に興味があるわ。どうかしら?」

 

やだ、私に興味があるなんて……娘々ったら。

まあ冗談は置いといて。

 

どうしたものか。

神子も言葉には出さないけど青娥と似たような事を思ってるだろうからね。こいつらにとって道教以外での不老不死ってのは十分に興味の対象だろう。

 

私としても一所に留まれて且つゆっくり出来る場所にいられるのだから、断る理由は無いか?

それに屠自古や布都にも会わなきゃならんし。

 

うん、決めた。

 

「んじゃ、お言葉に甘えて」

 

折角の厚意を無下には出来ないしね。

泊まっていく事に致しましょうか。

 

「私は豊聡耳神子(とよさとみみのみこ)。聖徳王とも呼ばれています」

「私は(かく)青娥(せいが)。仙人よ」

 

んー……自己紹介か。

最近は苗字がある奴が多いし、私も仮に付けてみようかねぇ。

やっぱり、元白嶺神社から取って『白嶺』になるかな?

 

「……私は白嶺(はくれい)紅雪(くれゆき)。紅雪でいいよ」

 

 

 

 

 

☆○☆☆○☆☆○☆☆○☆

 

 

 

 

 

「んー……眠い」

 

あいつらの朝は結構早いらしく、その時間に私も叩き起されてしまった。なので眠気が酷い。

 

「ああ、紅雪。おはようございます」

「はいはい、おはようさんっと」

 

それから神子と布都と屠自古と私の四人で朝食を摂る。

青娥はいない。どうやらそこら辺をふらふらと徘徊しているようだ。何かの調査でもしているのだろう。

 

 

 

飯が終わったら私は特にする事がない。

布都も屠自古もあんまり仕事は無いし、神子一人が民衆の意見を聞いたりとか色んな仕事(?)をしている。

 

だから布都や屠自古相手に昔話をしてみたり。

 

「何から話そうか……」

「我はお主の生い立ちを聞いてみたいぞ」

「生い立ち? ……思いっきり初めからかい。まぁいいや」

 

別に隠す事も無いし、色々喋っちまうか。

 

「あれは今から──」

 

話をしよう。あれは今から三十六万……いや、一万四千年だったか、まぁいい。私にとってはつい昨日の出来事だが、君達にとっては多分、明日の出来事だ。

彼には七十二通りの名前があるから──っと、何か脱線したぞ? ……まぁいい。

いずれは実際に口に出してみたいねぇ、エル〇ャダイネタも。

 

さて、ここでざっとおさらいでもしようか。

 

まず、私は死んでこの世界に転生した。流石にこの部分は言う訳にもいかないから隠さなきゃね。

そして気が付いたら草原で寝転がっていた。そこで自分の身体が幼女になっていたのに気付く。

 

「それ以前の記憶は無いのか?」

「無いね。何故か野晒しだった」

 

もう気の遠くなる程昔の話だけど……どういう因果で転生したんだろうね? しかもこの世界に。

 

それから、初めて人肉を食してリバースした事。

 

「人肉……いったいどんな味なのだ?」

「私は美味しく感じたけど……もう二度と食いたくないね」

 

某フリーゲームみたいに人肉の虜にはなんないんだよ!

ゲームでは何回かグ〇ェンちゃんもぐもぐしてたけどさ。

え? 何のフリゲかって? エ〇ナっていうフリゲだよ。

 

……また話が逸れた。

 

そして、立ち寄った村でこの着物を貰った(強奪した)事。

 

「ほれ、もう身体の一部みたいになってるんだよ、これ」

 

試しに爪を伸ばして着物を引き裂いてみる。

すると、(たちま)ちの内に破れた箇所が修復されていき、数瞬の後に元通りになった。

 

「おぉ……凄いな」

「我の服もそうなるのか?」

「まぁ不老不死になればその内にね」

 

筍ニートとかヒキニートとか天才薬師とかの蓬莱人三人も、復活する時に服も生成されているみたいだし。

 

着物を強奪した村を出て、それから大して年月が経ってもいないのに大都市が目の前に広がっていた事。

 

「大都市とは何なのだ?」

「んー……でっかくて凄い都って覚えとけば大丈夫だと思う」

 

そこで天才や一人の少女に会って、しかしすぐにその少女が死んでしまった事。

 

「病か……不憫だな」

「うーん……もうちょっと早かったらねぇ」

 

もう少し早ければ、蓬莱の薬を飲ませて不老不死にする事も出来たのに。

まあ、これは深香の意志を蔑ろにする事に繋がるから出来ないんだけどね。蓬莱の薬を持っていったあの時の私をぶん殴ってやりたいくらいだよ。

 

更に、その大都市から少し離れた場所で己を鍛えていた事。及びバカや鋼楔や牡丹との出会い。

そういやバカもあの時に死んだんだよな……南無。

 

それから起きた人妖大戦。その苛烈さや悲惨さたるや……。

その時に鋼楔も牡丹も皆、私の力が足りずに戦死した事。

 

「……無理して話さなくてもいいんだぞ?」

「え? 何が?」

「ほら、手を見てみろ」

 

言われて手を見る。

爪が掌に食い込んで穴が空いており、そこから紅い液体が流れていた。

 

「あれ……」

 

あはは……まったくお笑い草だなぁ。どれだけ永い時を過ごしても風化する事なく残り続けている嫌な場面。

どんだけ未練タラタラなんだろうね、私って奴は。

あの話をするだけで無意識に力が入って、あまつさえ自分の身体が傷付いても気付きもしないなんてさ。

 

「まぁ気にせんでいいよ」

「いや……気になるんだが」

 

最後に。そんなこんなで力を付ける為に二億年近くの間、ずっと妖力操作に時間を割いていた事。

最早、妖力操作に関しては私の右に出る者はいないと自負している。

 

「例えば……こんな事とか」

 

指の先に小さな火の玉を出現させ、そこからくるくると回したり捏ねて形を変えたり、色を変えたり温度を下げたり。一部だけ見せたけど、まだまだ様々な変化を起こせる。

 

「火なのに……冷たい」

「夏時にはひんやりして気持ちいいよ」

 

水色の冷たい火の玉を触って興味深そうにしている屠自古と布都。氷を熱くする事も出来るには出来るけど、炎の方が扱い易いから火の玉だけにした。

 

「おや、それは何ですか?」

「神子も触る? 冷たいよ」

「あ……本当ですね」

 

一区切り付いたのか、三人の輪の中に入ってきた神子。

何か書状のようなものを手に持っている。

 

「それは何?」

「ああ、少し書を(したた)めてまして」

「書? 何々……?」

 

日出處天子致書日沒處天子無恙云云……確かこれを読み易く直すとこんな感じになったかな?

日出ずる処の天子、書を日没する処の天子に致す。恙無しや、云々……成程。あの有名な国書か。(ずい)にいる煬帝(ようだい)さんがブチ切れてくるアレか。

 

私が思うにこの文面って相手に対する敬意が不足してるんだよねぇ……普通の手紙とかなら兎も角、国書みたいに大事な物を送るなら、いくら相手が同格だろうとしっかり敬語を入れなきゃね。

まぁ……もし私が煬帝の立場だとして、こんなものが送られてきたら多分キレる。つまりはそう言う事。

 

別にこれに関しては特に注意する事も無いだろうし、一回怒られて勉強するといい。

 

 

 

 

 

☆○☆☆○☆☆○☆☆○☆

 

 

 

 

 

「ん? それは……お面?」

 

ある日の昼頃。机に向かって何かを製作している神子を見付けたので近付いてみると、作っていたものがお面だと判明した。恐らくこれが、後の秦こころだろう。

 

「はい。これは能面と言って能楽の……」

「それは知ってるけど……秦河勝だっけ?」

 

渡来人であり富裕な商人であり能楽の始祖であり生没年不詳……かなり正体不明な人物。聖徳太子の右腕としてその手腕を発揮して、その聖徳太子から仰せられて散楽戸を司ったんだったっけ。散楽ってのが何かまでは解らんけどね。

 

「んで、それはその河勝さんに贈るものと」

「そうですよ。彼はよくやってくれていますからね」

 

確か、聖徳太子は他にも弥勒菩薩半跏思惟像(みろくぼさつはんかしいぞう)を下賜したらしいけど、これはもう少し後の話なのかな?

 

っと、河勝さんの事はどうでもいいけど、早くこころちゃんに会いたいねぇ。

神綺楼まで後少し。もう暫くの辛抱だ。

 

 

 

 

 

散歩がてら屋敷の近くをうろついていると、見知った顔が現れた。

 

「あら。紅雪じゃない。散歩?」

「まあ、そんなとこ。あんたとも話をしておきたかったしね」

「話?」

 

首を傾げる青娥。

話ってのも、ちょっと確認したい事があったからで。長話をする気はない。

 

「一つ気になる事があってね……丹は持ってる?」

「ええ……丁度仕入れたばかりだから、太子様に渡す分を引いても少し余っているわね」

 

言葉を切って、懐から丹を取り出した。

……確か、丹砂とか言ったっけ? そうだとしたら、やっぱり神子が危険な状態になるかもしれない。

 

「でも、どうしてこれを?」

「神子の生死に関わってくるから、いいから黙って渡して」

「太子様の……!? いったいそれはどういう──」

「話は後だっての……いいから、貰うよ」

 

半ばひったくるようにして丹を手にする。

そして、少しだけ砕いて掌に乗せる。その掌に妖力の炎を点して、更に温度を思い切り上げる。

掌の上の丹砂は、忽ち蒸発した。一瞬で炎を消して鼻の真下に掌を持っていく。その煙を吸い込んで確信した。

 

───ああ。こりゃ毒だわ。しかも、場合によっては質の悪い。

 

「はぁ……青娥、落ち着いて聞いてね。……これ、毒」

「……は?」

 

この様子だとこれが毒だって知らなかったようだ。まあ今の時代では知られてなかっただろうしね。仕方無い。

 

「だから、毒。硫化水銀って名前で、そのままでは害は無いけど、蒸発させたり特殊な環境に置くと毒が発生する」

 

前々から怪しいと思ってたけど、その段階で確認するべきだった。それに、最近になって神子の体調が悪くなってきたのにそれを軽視していた。

恐らく、体内で何かの反応を起こして毒を撒いているのだろう。それが服用している内に溜まってきたという事か。

 

後悔先に立たずとは、よく言ったものだよ。本当に。

 

どうしたものか驚き戸惑っている青娥とこれからの事を考える私の元に、血相を変えて駆け寄ってきた布都。

 

ああもう、思ったよりも早かった……っ。

 

「太子様が……倒れて……っ!」

 

息も絶え絶えに、断片的ながらも言葉を紡ぐ布都。その様子が余計にこの状況に現実味を持たせた。

 

 

 

急いで駆け付けると、見るからに死にかけている神子が布団に臥せっていた。

それを見るや顔から血の気が失くなった青娥。慌てて神子の許に向かって謝罪の言葉を述べた。

 

「太子様、申し訳御座いません……! 私がもっと調べておけば……っ」

「……いえ。ただ私が不老不死に目が眩んだ為に、碌に調べもせずに摂り続けてしまった。それだけの事です」

 

それは違う。この時代にこれが毒物だと確かめる術は存在しない。どれだけ調べようとも全く解らなかった筈だ。

やっぱり私がもっと早く確認しておけばよかった……。

 

「紅雪も……自分を責めるのはやめて下さい。私が望んでこうなったのですから」

「…………」

 

そう言えば、青娥って仙人だったよね? それなのに何で尸解仙にしないのだろうか。……ああ。死後に死体を尸解するんだったか。

でも、私の知識だけじゃ粗がある。やっぱり本業の青娥にも話を訊くべきだろう。

 

「……青娥。ちょっと」

「……何かしら」

「あんたも仙人なら、これを何とかする事も出来るんじゃないの?」

「そんな手段があったらとっくに使って……あ」

 

よし、どうやら思い当たったようだ。

 

「皆……方法が一つだけあるわ」

「あるのか!? だったら早く太子様を……」

「準備があるの。少し時間を頂戴」

 

そう答えた青娥の目は、元通りになっていた。

布都や屠自古も目の前の希望に縋るかのように青娥を見つめていた。

 

 

 

 

 

☆○☆☆○☆☆○☆☆○☆

 

 

 

 

 

───尸解仙。

 

死後、自分の屍を尸解する事で肉体を消滅させて仙人になる事を言う。またそれによって仙人になった者。

生がある時に仙人に到れず、修行を積まねばその内に死ぬからか、尸解仙は仙人としては最低クラスに当たる。

 

まあ確かに、仙人として修行をし続けなければ死んでしまうってのはねぇ……。

 

その特徴としては、仙人に至る為に何らかの依代を用意する必要がある。有名なものでは剣が挙げられるだろう。それに、剣は依代としても最高級の代物だ。

 

「では、布都……お願いします」

「はい」

 

その方法が確実なものか、布都を実験台にする事になった。最初は神子も渋っていたが、布都自らが言い出した事でこの形に収まったのだ。

 

そして布都は、微睡みの中に意識を投じてその瞼をゆっくりと下ろして死んだように眠った。いや、仮死状態ってーか死んでるんだっけ?

 

それを確認すると、屠自古も続いて眠りに落ちた。

神子は、眠る前に私達の方を向いて一言呟いた。

 

「二人共……有り難う」

 

礼を言われるような事してねーっつーの。

 

「目覚められたその時に、必ずや迎えに参ります」

「まぁその内にまた会う事になるさ」

 

それだけを聞き届けた神子は薄く微笑んで、布都と屠自古に倣って意識を手放した。

 

ではまた。神霊廟の頃に。

 

 

 

「……寂しいものね」

「そうかねぇ? どうせまた会えるんだしさ」

「そうね……ところで、貴女はこれからどうするのかしら?」

 

これからか。

どうしようか……当面の目的としては八雲紫に接触する事と平安時代の出来事に巻き込まれにいく事ぐらいだけど……うーん。

 

「ま、取り敢えずは暫く旅をするかな」

「そう」

「あんたは?」

「私も似たようなものよ」

 

そういやまだあのキョンシーはいないのか。って事はこれから出会うのかな?

 

「じゃ、ここでお別れだね。また神子が復活した時に」

「ええ。さようなら」

 

───さぁーてと、そろそろ予定が詰まってくるから気張らないとね。

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