古き幻想の紅い雪   作:珀靈雪魄

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……もう言い訳をしたところで醜さが増すだけだと思うので、謝罪の後に開き直ります。

誠に申し訳御座いません。
……それもこれもマイクラの所為なんだ。俺は悪くねぇぇぇえ!(言い訳)







番外編2:博麗の系譜・上

御主人様が黒百合さんという鬼神を連れてきた日。

あの日は〇〇と料理の腕を競ったり、寝室で黒百合さんのお話を聞いたり、と。とても楽しかった一日だ。

 

御主人様は、黒百合さんが語るにどうやら□□□□で●●●●らしい。この言葉の意味が初めは解らなかったのだが、黒百合さんが丁寧に教えてくれた。

御主人様……あのお姿だから、それが自然なのだろう。私も●●●●なのだけれど。

 

隣に座っていた〇〇が何を想像したのか悶え転がっていたが、決してそういう意味の話ではなかった。筈。

そういった類の語は並んでいたが。それにしても黒百合さんが羨ましい。と言うか妬ましい。

私も百年近く御主人様と一緒にいて、それでも一度たりとも目にした事の無い貴重な酔っ払った御主人様を見る事が出来ただけでも羨ましいのに、更にそれを……て、手籠めに……。

 

……………………あ。危ない危ない……少し意識が異世界に飛んでいたようだ。

黒百合さんが語った内容。適当に暈してあったが、それでもそう言ったシーンを連想させる語り方だった。

 

……しかし。黒百合さんは気付いていない様子だったけど、御主人様にとっては地獄だったに違いない。

大きい胸を持っていて羨ましいから、という理由で諏訪子さんと二人して私の胸を揉んできた程の御方だ。酔いが醒めた時、御主人様が何をお思いになったか。想像に難くない。

 

と、非常に充実した一日だったのだ。

朝起きて御主人様の寝室に向かい、書き置きを見るまでは。

 

 

 

「……これはいったいどうした事だ?」

 

机の上にぽつんと置かれていた封書を見て不審に思いながら引き返し、まだ眠っていた〇〇と黒百合さんを叩き起した。

〇〇の態度からは本当に知らなかったのだと推測出来るが、何かを知っているような含みのある返事をした黒百合さんの態度には、何だか違和感を覚えた。これは心の裡に留めておこうと思う。

 

御主人様の残した手紙を前に三人でああでもないこうでもないと言葉を交わした後、この書き置きについて三人で考えている。

 

何と言うか気が引けて、まだ書面に目を通してはいないのでなかなか話が進まない。

ここは、〇〇にでも読ませる事にしよう。

 

そう思って声を掛けようとしたのだが、丁度その時に〇〇が書き置きに手を伸ばしたので、言葉を呑み込む。

 

〇〇は丁寧に封筒に包まれていた書き置きを取り出すと、中に入っていた紙を開いて読み始めた。

 

そしてすぐに書き置きから目を離して、溜め息を一つ吐いた。

 

「……何が書いてあったんですか?」

 

問えば、〇〇は肩を竦めて書き置きを寄越した。

 

そこには、こう書かれていた。

 

 

『さて、これを見ているって事はもう私がいない事に気付いたってところだろうけど……幾つか言っとかないといけない事があるからちゃんと読んでね。

 

まず〇〇は、此処「白嶺神社」を「博麗神社」に改名する事。それから、あんたには「初代博麗の巫女」を名乗って後継者を見付け出してもらう。人選とかは完全にあんたの判断に任せるよ。

んで、里に襲撃してくる妖怪を退治する事。これは今もやってるだろうから問題無いよね? でも、それじゃ意味が無いんだ。そこで試練を与える。目標は、後継者となる人間が一人である程度の妖怪を退治出来るように育て上げる事。出来れば力技じゃなくて、霊力を宿した札だとか針だとかを使わせる事。どうしても技巧面での才能に欠ける場合は力技特化も已む無し。

それで、あんたが完璧だと思えるまでにその後継者が育ったら、「博麗の巫女」の座とこの教えを後継者に託してあんたは遁世する事。それで試練は終わり。後は繰り返させる。

不老不死が世に広く知れ渡ると碌な事にならないからねぇ……なるべく人目に付かない所に住んでね。

私も旅を終えたら会いにいくから。それまで頑張ってね。

 

んで次は誑子。

あんたは取り敢えず死なないで元気にいてほしい。それと、今でも十分なんだけど……出来たらもっと家事や雑務に特化してほしいなー、なんて。

ほら、私って戦闘以外何も出来ないからさ。ゆくゆくあんたを式神にした時には色々と私の補助をしてほしいんだよ。

どうだろう……千年くらいかな。それぐらい経ったら必ず戻ってきてあんたを式神に……いや、家族みたいなものかな? 家族として迎えるから。それまで待っていてほしい。

 

一応、黒百合。あんたにも。

あんたに関しては何にも心配してないよ。ただ、その山でずっと妖怪達を統治していてほしい。もしも命令を聞かずに里に向かう妖怪がいたとしても〇〇やその後継者に退治させるけどね。

それと。これから世は移り変わっていくから色んな人間が出てくると思う。例えば力では勝てないからと卑怯な手段に訴えたりする奴も出てくるだろうと思う。それで人間に幻滅したとしたら、同じく人間に幻滅した妖怪達と地底に移り住むように。

山にしろ地底にしろ誑子と同じく千年後くらいに会いにいくから。んじゃ、頑張ってね──駄鬼。

 

これで今言いたい事は全部。後はまた会った時にでもゆっくり話そうか』

 

 

読み終えて天井を仰ぎ見て、もう一度ざっと目を通した。

やっぱり内容は変わらない。

 

「…………」

 

どうやら、御主人様は旅に出られたようだ。

そう言えば、聞いた事がある。御主人様は私に会う以前にもこうして旅に出られていたそうだ。

 

その際は書き置きなどは残されていないのだろうか。〇〇の反応を見るに以前は残されていなかったと推測出来るが。

 

……さて、どうしようか。

 

正直な所〇〇とも打ち解けられたし黒百合さんもいるから、別段退屈にはならない。

しかし、いくら書き置きを残されていったとは言え黙って出て行かれると、何と言うか捨てられたような気分になって少しだけ寂しい気持ちになってしまう。

 

仕方が無い。書かれていった内容を読み、それをこなしていく事にしよう。

まずは、〇〇の後継者探しでも手伝おう。

……結局は選定するのは〇〇だから手伝いという手伝いにはならないのだけれど。

 

「後継者と言われても……」

 

〇〇が困ったという顔で腕を組み唸っている。

多分、強過ぎるからじゃなかろうか。

 

霊力を使った特殊な呼吸法により寿命を引き延ばし、その腕を振るえば固まった強力な霊力が相手を消し飛ばす。

肉体も鍛え抜かれて並の妖怪なら肉弾戦でも勝てる程だが、何よりも恐ろしいのがこの霊力操作。

 

御主人様が妖力や神力、霊力といった様々な力を操る事に長けているからか、その巫女である彼女も力の操作技術が群を抜いている。

尤も、それに関しては私も同じ事ではあるが。

 

それでも、御主人様や〇〇と私との決定的な違いがある。

それは前者二人が完全な戦闘型という事だ。基本的に私は荒事は苦手である。苦手なのと弱い事は別物だけれど。

 

「成程……不老不死のようなものだからか。確かに、人の身でこれは異常だな」

 

……そう落ち着いたか。いやまあ、それで納得したのならこちらとしても面倒が無くて助かる。

これで、紅雪様に見限られたー、だの何だの言ってややこしい事になっていたら私が〇〇を見限るところだったし。これでこそ〇〇だ。

というか恐らく、御主人様は不老不死よりもこの強さの方を危惧したんじゃないかなぁ……。

 

「取り敢えず、書かれている通りに探しましょう。貴女の後継者を」

 

 

 

 

 

☆○☆☆○☆☆○☆☆○☆

 

 

 

 

 

一応黒百合さんも連れて人里に来ているが、誰も黒百合さんの顔を知らないおかげで面倒事が起きなくて好ましい。

どうやら、〇〇が悉く妖怪が人里に入る前にその全てを潰して回っているからこんな状況が生まれているようだ。

 

さて、後継者を探す事になったのはいい。

問題は、〇〇と私と黒百合さん。三人の観点が分かれている所為で総合して眼鏡に適う人材が見付からないのだ。

 

〇〇は、忠実に霊力量の多い子供を探している。

何をするのにも妖怪ならば妖力、人間ならば霊力の絶対量が多い方が良いのは当然の事だ。

それはそのまま作業の範囲を広くして効率を良くする。

これをしたいが、力が足りない。こうならないだけでも十分だ。

 

私は、表では普通の態度を取っていても裏では綿密な計算をしている打算的な子供を探している。そんなものはまず居ないから困っているのだが。

損得勘定で動けるというのは大切な事だ。それを表に出さないのならば尚良し。

……御主人様や〇〇は私の表の顔を見てそれを全面的に信じているようだが、私はそこまでお人好しでもトロくもない。多分だけど、今まで会った誰よりも打算で動いてるのだろう。私は。

 

黒百合さんは別に何でもいいらしいが、強いて言うなら心の強い子供がいいのだと。

曰く、しっかりと育てれば幾らでも質の上がりようはある、との事だ。

潜在能力というものがあるのだが……まあ、確かに努力次第でもあるだろう。

〇〇など、人並み外れた努力によって化け物じみた力を手にした例もあるのだから。

 

ここで整理してみよう。

霊力の強い、打算的な、心の強い子供。

……居る筈が無い。ここまで限定された子供など、何処を探してもまず見付からないだろう。

となれば、ある程度を妥協する必要がある。

 

霊力はそこそこで、少しは打算的な、やや心の強い子供。

……微妙過ぎる。全員が妥協してしまってはこんな結果になってしまう。それだけは避けなければ。

 

では、優先度別に並べてみよう。

 

私の探している打算的な子供。これは子供である限りはまず居ない。それに、少しずつ打算的になるように教育していけばいいだけの話だ。故に、これが一番優先度が低い。

 

黒百合さんの探している心や意志の強い子供。これも子供の内にというのはなかなか居ない。だから水準以上の子供を見繕って更に少しずつ変えていけばいい。という訳で私のもの程ではないが優先度はやや低い。

 

最後に、〇〇の探している霊力の強い子供。これは絶対条件だ。

どういう原理なのかは知らないが、生まれつきの霊力が高い人間程、鍛えて成長した時の霊力の伸びが凄いのだと言う。御主人様から聞いた事があった。

〇〇も、生まれつき霊力が強かったらしい。その上に人並みを外れた鍛錬……こうなるのも道理だったのだろう。

 

と、その条件で探し回ってはいるものの。

そんなに簡単に都合のいい子供が見付かる筈もなく。

 

「やっぱり見付かりませんね……」

「そうそう見付かるものでもないだろうな」

 

人里をあっちへこっちへとうろうろした後、あまりの収穫の無さに足取り重く帰路に着いていた。

これだけ探してもいないというのならば、もうこの里を探しても見付かる可能性は薄い。

探索の範囲を広げる必要が出てくる。やはり、遠出して遠くの里や村で探すしかないか。

 

いや、しかしだ。

この辺りは御主人様の息が掛かった地域なので、子供を巫女にする際に親の同意を得やすい。

だが、それが遠くの、御主人様の存在を知らない人間の住んでいる場所だと、その同意が兎に角得にくくなってしまうだろう。

 

それでも、往々にして例外というものは存在するのだけれど。

 

……ああ、こんな時に御主人様がいればなぁ。

どれだけ計算をしようとも、どれだけ計画を練ろうとも、寧ろ万全を期した時にこそ番狂わせが起きる。

それは今まで生きてきて十分に体験している。なのに、何故か御主人様の行動はほぼ全てが上手く進んでいる。

 

───まるで、初めから答えが解っているかのように。

 

……それは考え過ぎだろうか。いや、考え過ぎだろう。

いくら御主人様が色んな事を知っていても、未来の事まで知っている道理が無い。たまによく判らない絡繰を生み出したりしているが。

だとしても、御主人様がいるのといないのとでは安定性が違う。私達では精々この人里内の霊力の感知ぐらいしか出来ないというのに、御主人様はこの何倍も広い範囲を感知出来る。それは、神であるが故の事なのだろう。

諏訪子さんや神奈子さんも同じような事が出来るようだから。

 

……まあ、いないものを愚痴っていても仕方が無い。取り敢えずは博麗神社に戻って次回の事を考えるべきだろう。日も落ちてきたことだし。

 

 

 

 

 

そして博麗神社。

小高い山の上に建っているからか、手前の階段を昇っていると、丁度階段に沿って斜陽が差しており、赤みがかった木洩れ陽を浴びた道や神社が何とも神秘的に映る。

これを見に境内にまで来る子供もいる程だ。

 

ただ、此処から人里までは少し離れており危ないので、暗くなる前に帰るように毎回毎回注意しているが。

それでも来る子供がいたりする。

 

今回、神社の前で神社を見たままの姿勢で微動だにしない一人の子供を見て、ああ、今日も誰か見に来たかと思ったのは、自然な事だろう。

 

「君、どうしたんだ?」

 

〇〇が子供の目の前まで歩いていき、目線を合わせて問い掛ける。

……それにしても、この辺りに妙な霊気が漂っているような……いったい何なのだろうか。

 

「…………」

 

子供は答えない。身体も動かさない。視線も眼前の〇〇よりも遠く、神社を見据えたままだ。

子供らしくない子供だ。というか不気味だ。

普通、話しかけられたり目線を遮られたりしたのなら、何らかの反応を示すものだろう。

〇〇の横まで歩いていき、その子供の目を見る。その焦点は合っていない。対象が神社ならば焦点は合っていると言えるが。

 

いったい何がこの神社にあると言うのだろうか。

あるものと言えば、ちょっとした霊力の宿った道具や御主人様の神気ぐらいのものだけれど……。

 

いや、待て。

霊力や神気? 見ているものはこれしか考えられない。まさか、視ているのか? 霊気や神気を?

普通の人間にそんな能力は無い筈だ。その道の専門の人間ぐらいしかこういった気配は感じられないだろう。

極稀に、霊感の強い人間などは霊を見たりするが。

だが、それはあくまで霊体を見るだけであって、霊力の塊そのものを見る事までは出来ないと記憶している。

 

だと言うのにこの子供の目は、この神社に宿る特殊な気配を視ている。

そして、解った。この神社を取り巻くような密度の濃い霊力の正体が。

この子供だ。この子を中心として霊力が溢れ出ている。

凄まじい量だ。御主人様から聞いていた幼少期の〇〇程ではないようだが。

 

尚も反応を示さない子供を相手に、どう行動すればいいものか、と処置に困じている〇〇に呼び掛けてみる。

 

「この子はどうでしょうか?」

「何がだ?」

 

ああもう察しの悪い。

 

「次代博麗の巫女ですよ。貴女も感じているでしょう? この子供から発せられている強烈な霊気を」

「……何? この子が……」

 

言われてやっと気付いたのだろう、児童を見る大人の目から博麗の巫女としての目に、子供を見る目が変わった。

 

「芯の強そうな眸をしておる。こやつで決まりじゃな」

 

その一連の流れを見て終わるのを待っていたかのような、時宜を得た意見を漏らした黒百合さん。

貴女絶対に最初から気付いていたでしょう。色々と。

 

さて、お誂え向きに跡継ぎを見付けられたのはいいが。

 

「どうしましょう……これ」

 

先程からずっと本殿を凝視している子供に、三人して閉口し思惟に耽る。

それから色々と試してみたのだが、その悉くが全く意味を成さず、再び一同の沈黙に回帰した。

 

お菓子で釣る作戦は、まるで興味を示さないこの子供の前に敢えなく失敗。どうも物には関心が無いらしい。

身体中を擽ってみる作戦……無反応。何故全く反応しないのか理解に苦しむ。

今度は身体を揺さぶってみる作戦。身体は動いたものの、目線だけは相も変わらず神社を取り巻く神気を視ている。何がここまで彼女を縛り付けるのだろうか?

他にも様々な策を用意した。

 

「…………」

 

その結果がこれだ。

何も出来ず、何の収穫もなく、何の意味も成さない。

清々しいまでの時間の無駄遣いをしてしまう羽目になった。

 

「……本当に、どうしましょう……」

「……ここまで無反応だといっそ清々するな」

「酒が切れた。妾は帰るとしよう」

「…………」

 

全員の表情に疲弊の陰が差す。一名を除いて。

碌に何もしていない癖に酒ばかり呑んで、挙げ句に酒が切れたから帰るという。何とも役に立たない鬼であった。

しかし唯一、その観察眼だけは評価出来た。

芯の強い……確かに意志の強い子供だ。私達の手には負えない程に。

 

「どれ、少し帰る前に」

 

かと思ったら、帰ろうとしていた足の向きを変え、そのまま少女の前まで歩いていく。

〇〇がその場から退くと、少女の対面にしゃがみ込んで、その赤が混じった黒色の眸を覗き込んだ。

 

そこで初めて少女に変化が起こった。

 

「………………?」

 

目の前にいる黒百合さんにぐらいしか聞き取れないであろう、小さく囁くように声を発した。

口の動きから推察するに「妖怪」と言っていた。

そうか、そう言う事か。今までの作戦は下手に警戒させないように全て人間である〇〇にさせていたのだ。

それで、目の前にいきなり妖怪が現れたように感じた訳か。

 

などと呑気に考え込んでいると、少女から何処か剣呑な気配が漂ってきた事に気付いた。

 

「…………妖怪は、殺します……皆の仇……っ」

 

懐から取り出した血染めの短剣を握り締め、真正面にいる黒百合さんを睨め付ける黒髪黒目の少女。

どうして血で真っ赤に染まった短剣を持っているのか、とか、過去に妖怪に何かをされたのか、とか。色々と聞きたい事はあったけれど、今は一つだけ言いたい事がある。

 

「…………!」

 

殺意を隠しもせず、しかし冷静に。鬼神のその喉元を目掛けて素早く短剣を突き出す少女。

 

一つだけ言いたい事がある。

 

ここにいる三人は、そこいらの妖怪なぞ遥かに凌ぐ程の力を持つ、正真正銘の化け物だ。〇〇も人間だけど化け物だ。

 

「…………あれ……?」

 

パキィ、と、乾いた音を立てて刃が折れて落ちた。

黒百合さんが人差し指のみで刃の根本を叩き折ったのだ。

 

「微温いのぉ」

 

そのままの勢いで柄を握る手を叩いて武装解除させてしまった。

 

確かに、微温い。この程度なら私でも指一本で十分だ。

逆に、この程度の腕の、しかも子供に殺されたであろう小妖怪達はいったい何なのだ。

───少し、この辺りの妖怪を鍛えてやらねばなるまいか。

ああでもそれをすると人里が危険に曝される……あ、〇〇がいた。しかし、その〇〇ももう暫くしたら遁世するのだ。これはどうすれば良いものか……ああ。

 

この少女と同胞(あんな小妖怪共をそう呼びたくはないが)を、少女の方を重点的に鍛えるしか無いか。

御主人様も、大昔には色んな妖怪を鍛えていたようだけれど、こんな風に悩んでいたのだろうか……。

人間と同時に教えた経験は無いらしいから、案外楽だったのだろうか。

 

何はともあれ、そろそろ本題に入るとしましょう。

 

「力が、欲しいでしょう?」

 

じりじりと後退りに黒百合さんから離れていく少女を、後ろから捕まえて耳元で囁きかける。

 

「…………くっ……!?」

 

即座に振り向いた少女に笑みを向ける。

私の纏う妖力でも視たのだろう。表面上は平静を装っているが、その額には薄らと脂汗が浮かんでいる。

いくら意志を固めたところで、所詮はまだまだ年端も行かぬ少女。本能的な恐怖には抗えまい。

 

普通の、霊力も妖力も解せぬ何も知らぬ子供だったのならば、こんな思いをせずとも良かったのだろうに。

これ程までに高い力を持って生まれてしまったが故にこんな苦痛を味わう羽目になった。

 

要らぬ力を持ち(恐らく)肉親を殺められ、死と直結した現状……里の子供達と比べて、あまりにも悲惨な運命。

推測するに、私はこの子に情が移ったのだろう。

 

「……憎き怨敵を討ち滅ぼしたいのならば、相応の力が必要ですよ」

 

ここは、ただ恐怖と怒りに打ち震えて徒に時を過ごすよりも、その仇に育てられて力を身に付けた方が余程、賢明というものだ。

 

「……………………」

 

言外に込めた思考が伝わったのか、利口な少女は思い切り不満を顕にしながらだが、渋々と頷く。

 

「では、妾は帰るとするかのう」

 

訂正。少しは役に立つ鬼であった。

去っていく黒百合さんの姿を見送り、呆けている〇〇と押し黙ってしまった少女を促して社に入った。

何だか別れるみたいな雰囲気だけれど、どうせ明日にでも様子を見に来るだろう。

 

……泊まればいいのに。

 

 

 

 

 




このまま一気に書ききろうかと思ったのですが、前後編に分ける事にしました。

次回は少し短くなりそうな……。
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