そんな訳で、このあたりからバンバン原作キャラが出てきます。積極的に関わっていきます。
はーい。皆さんお元気ですか?
ってな訳で、何年か前からゆかりんと旅をする事になった私は、少々浮かれ気分でそこら辺の集落や人里を観光している。
と言ってもシケたもんしか無いけどね。
まぁこの時代じゃ仕方無いか。やっぱしさっさと平安京の出来るであろう場所まで行こっと。
後何年くらいだったっけか。平城京が出来てるのは把握してるんだけど……あー、こんだけ長く生きてるとどうにもボケていかんね。今が何年とか後何年とか、すっげーアバウトになってやがる。
っと……そういや平城京と平安京は結構近くにあったっけ。奈良と京都ぐらいの位置関係か。んじゃ平城京にでも行ってみようかな?
しかしまぁ、この狂いに狂っている時間感覚だけはどうにもならない。
カレンダーでも作るか。
あー……でもなぁ。今が何年かはっきりと解らないってのに作れる訳ないじゃんか。やっぱボケてるわ。老人ホームはよ。寧ろ老人ホームが来い。
「ねー、ゆかりん」
「……何かしら? あと、ゆかりんと言うのは止めてもらえない?」
嫌だね。ゆかりんはゆかりんだもん。
と、自分でも訳のわからない事をほざいておいて。ふと気になった事を問うてみる。
「ゆかりんってさ、結局のところどんな妖怪なの?」
「貴女がそれを言うの……?」
呆れ返った、というより何か疲れたような眼差しで返すゆかりん。多分この呼び方とか私のテンションとか色んなものが綯い交ぜになった結果が今のゆかりんの反応だと思ってる。反省はしていない。
実を言うと、私も原作知識しかなくてゆかりんがどんな妖怪かなんて知らない。
わかっている事は、精々、物事の境界を操るとかいう抽象的でそこはかとなく厄介そうな能力を持っている一人一種族のスキマ妖怪って事だけ。
実際ゆかりんの能力は厄介どころの騒ぎじゃない。私の無効化する能力なんて目じゃないくらいのチート能力だ。
無効化すると言っても、何処ぞの上条さんみたいにどんな異能も打ち消すとかそんなチートじゃないし。
ただ、上条さんが片手だけしか効力を発揮しないのに対して、私のは身体全体で能力を行使出来る。勿論、自分で制御も出来る。
取り敢えず、妖術と霊撃はほぼ無効化出来る。神通力とか魔法とか法力とかは知らん。まだやってない。でもまあ多分無効化出来るっしょ。チートってほどじゃないにしろ、それでも十分に強い能力だし。
「……正直に答えるなら、私自身にもわからないのよ」
「あん? それは冗談? それとも本音?」
「さぁ? どうかしらね」
はぐらかされた。
うーん……別に教えてくれたっていいじゃんか。いや、そりゃ本当にゆかりんが自分自身の事を知らないって可能性もあるけどさぁ……。
「そういう貴女はいったい何なのかしら?」
「えー? 私ぃ?」
んなもん私にだってわからんわ! って……あ。
ああ。成程ね。確かに、自分の事が自分でわからないって事あるよね。うん。ごめんねゆかりん。私が悪かった。
完全にわからないって事はないんだけど……話せないこととかいっぱいあるよねぇ。
「……ただのしがない妖怪、かな?」
「随分とまぁ、胡散臭い妖怪ですこと」
「あんたに言われちゃお終いだ」
どちらともなく噴き出し、笑い合う。
ああ、何だろう。この空気。こんな距離感。今はもう朧気な記憶だけど、現実世界でもこんな友達みたいな関係でいられる人が欲しかったなぁ。などと柄にも無く感傷に浸ってみる。
何だろう。長く生きてる余裕かな? ガキの頃には感じなかった事や見る余裕のなかったものに色々と意識が向く。
こんな何気ない遣り取りにさえ、ちょっとした感慨を抱く。
「あら、どうしたのかしら」
ずっとニヤけてたらゆかりんに不審に思われたでござる。
そうかぁ……顔に出てたかぁ……。
「いや、ね。何か嬉しくてさ」
「何が、と訊くのは無粋かしらね」
「ん。聞いても噴き出すだけだって」
まさか、友達みたいな遣り取りに憧れている、なんて口が裂けても言えないよ。そんなの噴飯ものだ。
おかしくて堪らないだろう。ゆかりんも私も。笑い転げるんじゃないかな?
「ふふっ……貴女、面白い人ね。気に入ったわ」
「そりゃどうも」
外ではおちゃらけたように振る舞う私でも、内面は。
やったー! ゆかりんに気に入られたー!
……内面、は。うん。
内面もはっちゃけてたね。私って基本ふざけてる印象しかないね。さて。
「んじゃまぁ、天平文化ってものを拝みに行きますかね」
「平城京ね。わかったわ」
特に行き先を指定した訳でもないのに、何処に行きたいのかを汲んでくれて、そこに向けてスキマを開くゆかりん。
ゆかりんマジ女神。そこまでの道中にも興味はあったけど、まぁね。早く平城京見てみたいしね。
メタな事を言うなら、今凄くサクサク進んでるよね。テンポいいね。
そんな訳でやってきました平城京。
やっぱりと言うか何と言うか、今まで見てきたものとは随分毛色の違う文化になってるね。この天平文化ってやつぁ。
それもこれも、遣唐使の影響によるものか。
何だっけ。聞いたところによると、周の武則天や唐の玄宗ってやつの文化を積極的に取り入れたらしい。
これは私の知識じゃない。風の噂に聞いたんだ。それに、私がこんな詳しい事知ってる訳ないじゃん。
あれだ。ここまで広まったのは大宰府と貴族達によるものなんだってさ。
大宰府の方はこの文化を移入するのに役割を果たしたとか。
んで国衙とかに任命された国司。後は官人や僧侶とかもやってたそうだ。こいつらは移入された文化を地方に広めたらしい。
そのままだったら皇族や貴族がこの文化を占有していただろう。そんなこんなでさっき挙げた奴らによってここまで広く天平文化が浸透していった訳だ。
食文化? お察しだよ。
まずはこの文化の影響が大きく出ている所を挙げていこうか。
まずは、京内が碁盤の目状になっているところ。これ何て言ったっけ。条坊制っつったっけな。んで、役所がいっぱい建てられてるんだ。他にも飛鳥に建てられた寺院が次々に移転されてきてる。
ざっと見ただけでもわかる通り、家とかもかなり変わってる。貴族も庶民もどちらの家も、瓦で葺いてあって柱には丹が塗られてる。
ふむふむ……これが、平城京か。
「青丹よし 奈良の都は 咲く花の 匂うがごとく 今盛りなり……だったかしら?」
「んえ? 何それ」
「何処かの官人が歌った歌よ。奈良の都は今、咲く花の匂うように真っ盛りである……という意味ね」
なるほど。流石はゆかりん。何処で知ったのかはわからないけど。どうせスキマで盗み聞きしたか覗き見したかだろうけど。ほんと便利な能力だよね。私も使えるようになりたいなぁ……。
にしても、つまらないなー。
いや、歴史に記された昔の文化とかには興味もあるし、決して嫌いな訳じゃないんだ。
そこまでして早く平安京に行きたい理由は、東方にある。
だってさ。ぬえとかひじりんとかそいつら全部平安時代からじゃん。それに安倍晴明とかも出てくるかもしれないじゃん。
と言っても、平安時代初期には殆ど出てこないんだけどね……確か、西暦で千年は超えてるし。
って、待てよ? 平城京?
「……あぁ!」
「何よ急に……?」
突如として奇声を上げた私に驚いたのか、目を丸くして呟くゆかりんを意識からシャットアウトする。
今何年だおい。まさか竹取物語終わってねぇだろうな!?
「かぐや姫って聞いた事ある!?」
突然豹変した私を不審に思いながらも、人差し指を口許に当てて考える素振りを見せるゆかりん。
「そう言えば……藤原京の方にこの世のものとは思えない程の美人がいる、とか聞いたことがあるわ。かぐや姫と呼ばれていた筈よ」
「藤原京ね! よし行くぞ!」
「ちょっ……ちょっと──」
狼狽するゆかりんの腕を引っ掴んで全速力で飛ぶ。
そう。私の出せる最大の速度でだ。場所は一度聞いたことがあるから知ってる。着くまで楽しい楽しいジェットコースターでも味わってもらおう。
☆○☆☆○☆☆○☆☆○☆
「もうちょいで着くよー!」
ゆかりんが何やら喚いているが、まったく聞こえない。多分、音のこっちに向かってくる速度が私の出している速度に負けてる。
これって音速ってやつだっけ。ソニ〇クになった気分だ。ん? いや、音速超えてるのか? ま、いっか。
藤原京って言ったら、確か平城京よりも前に天平文化を取り入れた都を作っていた場所だ。条坊制を初めて導入したのがこの藤原京なんだと。なるほど確かに。
平城京の方角へ歩いていく人や、逆にそちらから歩いてくる人を眼下に見、ざっと藤原京を見渡す。碁盤の目だね。うん。
「着いたよー」
着地すると同時に乱れた呼吸を元に戻し、掴まれていない方の手で髪を整えているゆかりんを解放してやる。
「……貴女、私に何の恨みがあるの?」
「ごめん、急いでた。てへぺろ」
片手を額に当て舌を出し、ウィンクをした。
すごく冷めた目で見られた。そんなに痛かったかな……見た目だけはまだまだピチピチの幼女なんだけど。
「はぁ……何をそんなに急いでいるのよ」
「え゛」
呆れを通り越したように一つ大きく息を吐いたゆかりんが、至極真っ当な疑問を投げかけてくる。
さてこれが問題だ。急ぎ過ぎて先のことを全く考えていなかったさっきの私は斬首だね。
いきなり知る筈もないかぐや姫について叫び、強制的にゆかりんを引っ張ってきた。更にその理由が前世の、しかもこの世界についての知識に基づくものだったと。
転生云々はいいんだけど、原作知識だけはおいそれと明かす訳にはいかない。どうするか。
私は百合百合な趣味はないから、そっち系の話は駄目。あっても駄目。じゃあ、日本一美しいと言われたかぐや姫の容姿がどれ程のものか気になっている人を装うのは……駄目か。不自然極まりないな。叫んだ時点でアウト。はい詰んだ。
「えーと……それはー……」
「……それは?」
ひゃー。すっげージト目で見られてる。やめて、そんなに見ないで。恥ずかしくて死んじゃう……じゃなくて、何か考えろほら今すぐ思い付くだろお前何年生きてきてるんだよほら何でもいいんだよもうゆかりんなら深くは追及してこないだろうしさああでもひょっとしたら何かのツボに入って執拗に突っ込んでくるかもしれないしもしそうなったら私じゃ隠しきれないからいざとなれば実力行使しかないじゃんもうこれ完璧詰んでるよねぇ!?
「あの……ほんとごめんなさい。今までやってきたこと全部詫びるから訊かないで、お願い」
「…………」
じー。
「いやマジで何でもするから」
「…………」
じぃー。
「あの……」
「…………」
じいぃ〜っ。
「…………」
「…………」
口答えを許さないゆかりんのしつこい眼差し攻撃。まったく口答え出来ない。この沈黙が何か怖い。やべ、変な汗出てきた。
あれ、何だろう。そこまで重大な事でも無い筈なのに身体が縫い付けられたかのように動かない。それどころか喉が渇いてくる。視線が動かせない。
くっ……いつの間に邪眼を使えるようになったんだ。やはり侮れないな、八雲紫……!
「……まぁいいわ。訊かないでおいてあげる」
「……っ、はぁ」
詰まった息を漸く吐き出すことが出来た。ほっと胸を撫で下ろす。いやぁ、凄まじい圧力だった。視線だけで人殺せるんじゃないのこの人。
「貴女の焦る顔を見ることが出来たし、仕返しも出来たから赦してあげるわ」
「はっ、恐縮であります。女王陛下!」
「誰が女王陛下よ……」
とまぁ茶化しておいて。
「……さて。んじゃあまずは浮き足立っている貴族でも探しますかねぇ」
「ああ、なるほど。求婚に向かう貴族達を辿っていけば確かにそこに着くわね」
「そーゆーこと」
まぁ求婚した奴は沢山いるだろうね。その中でも特に熱心だったのが後の竹取物語に語られる五人の貴公子だったって訳か。五人も注目してられないし藤原不比等にだけ焦点当てていきますか。もこたん出てくるしね。
そんなこんなである種の行列みたいになっている貴族の一本道を見てげんなりしつつも先に進んでいく。
あのチート姫に会うのは何か躊躇われるけど、やっぱ原作キャラには会いたいじゃん?
そしてテンポよくかぐや姫の住まう屋敷に到着した私達は、早速裏から入った。
まだ顔合わせにまで発展していないらしく、輝夜は裏の方でボケっとしていた。まぁ仕方無いよね。あのぶくぶくと肥え太った豚じゃ会いたくもないよね。
と言うことは、五人の貴公子はそこそこイケメンだったり?
「これが噂に名高いなよ竹のかぐや姫ね。……確かに、人間共が夢中になりそうな顔はしているわね」
「どんな顔だよそれ……」
暫く茂みに隠れて小声でコントをしていると、輝夜の放つ気配が穏やかなものから警戒が混じったものに変わるのを感じた。
「ありゃ。気付かれたね」
「貴女が大きい声を出すからよ」
まぁまぁ。結局は接触する事になるんだからこれでもよしとしよう。怪しさ満点の二人組が輝夜の許に向かう。
片や胡散臭い笑みを浮かべ、扇子で口許を隠して、掴みどころのない所作で輝夜に迫る。
片や天真爛漫な瞳……ともすれば狂気すら感じる輝きを放ち、軽い足取りで輝夜に迫る。
輝夜は大きく後退った。そりゃそうだ。
「そんなに警戒しないでー」
「……誰よ、あんた達。見たところ、人間じゃないようだけれど?」
やっぱり力がある奴にはすぐに見抜かれるね。私の場合は妖力も神力も隠して霊力だけを出すことによって人間を演じる事が出来るけど、ゆかりんはそうはいかないしね。
「それに……あんたからは私と同じ匂いを感じるわ」
同じ匂いとな?
取り敢えず、輝夜に近付いて匂いを嗅いでみる。
ふむふむなるほど。んー……言う程同じ匂いしてるかなぁ。
「そっちの匂いじゃないわよ!」
唸る鉄拳が私の顎を正確に捉えた。鬼も斯くやとばかりの怪力から放たれるアッパーカットは、私の陳腐な語彙では言葉にする事すら出来ない程のダメージを私に与えた。
あ。言葉に出来ないのは脳が思いっ切りシェイクされてるからか。
「いてて……いきなり殴るなんて酷いなぁ」
「酷いのはあんたよ」
冗談はさて置いて、真面目に考えることにしよう。同じ匂い……多分、同族って意味合いの言い方だよなぁ。
となると、妖怪? いや、月人は妖怪じみてるけど一応は人間の部類だ。ならば人間? いいや。人間の部類とは言え完全に人間と一致する訳ではない。
ならば当て嵌るのは……不老不死。
「蓬莱人……か」
「……ええ、そうよ」
実のところ考えるまでもなかったことだけどね。輝夜が「私と同じ匂いがする」なんて言ったのなら、そりゃ十中八九不老不死についてだろうし。
でもそれに関してどうにも腑に落ちない事があるんだよねぇ……だって、蓬莱の薬ってこの蓬莱山輝夜の「永遠と須臾を操る程度の能力」が大きく関わってくる訳でしょ? あ、いや……うっすらと思い出してきたぞ?
あれだ。永琳が飲んだ蓬莱の薬は輝夜の力を借りたものなんだ。んでもって、輝夜の飲んだ蓬莱の薬の製作者はわからないとされてる。
同じく永琳が作ったのかもしれないけど、原作では製作者不明だった。んで今回のケース。私に薬を作ったのは間違いなく永琳その人だ。
って事は、私の飲んだ蓬莱の薬にはまた別の不老不死化の方法が使われていたのか? 有り得ない話ではない。永琳の能力はどんな薬も作る力。
でも万能ではない。材料がないと作れないんだ。じゃああの時の蓬莱の薬の材料はいったい何なんだ?
ううむ……考えてもわからん。考える為の素材がまったく足りない。
「ええと……何の話をしているのか解りかねますわ。宜しければ、お教えくださいませんこと?」
「んぁ? ゆかりんって蓬莱人知らなかったっけ」
初対面だからなのか、口調が丁寧になって胡散臭さが何倍か増したゆかりんが私と輝夜両名に問うてくる。
どうでもいいけど何で私と会った時にこの口調で話しかけてこなかったんだろう……。
「んー……どう説明したものか。不老不死とは言っても、本体は肉体ではなく魂で……」
「要するに魂が肉体という衣服を纏っているのが蓬莱人よ。魂まで消し飛ばされない限りは死なないわ」
私がどう答えるべきか決めあぐねていると、輝夜からのフォローが入った。あんたこんなに簡単に蓬莱人についてばらしてもいいのかよ。
「……成程。理解出来ましたわ」
まぁ身も蓋もない解り易い説明だったしねぇ……。
「恐らく、貴女達蓬莱人にとっての不老不死とは死が無くなるというものじゃありませんわ」
目付きを鋭くしたゆかりんが扇子を広げたまま続ける。
「生と死の境界が無くなって、生きても死んでもいない状態になるだけ……私でも境界を操る事が出来なかったわ」
真剣になったからか、先程までの捉えどころの無い丁寧な口調はやめて、素に戻ったゆかりんが言った。
というかあんた無断で何てことしてんだよ。
しかし、ゆかりんという境界のエキスパートでも境界を弄くる事が出来ない……ああそうか。
生と死が存在している。生と死の境界がなくなる。そうするとそれは存在しないものになる。存在しないものには。
「無いもの……存在しないものに境界は出来ないからか」
「ええ……敵に回すと厄介そうね。蓬莱人というものは」
せやで。因みに厄介さの順番で並べるなら……妹紅、輝夜、永琳の順かな? 永琳が一番厄介。
自惚れではないけど私もかなり厄介だと思うよ? 戦況大きく傾かせるよ? 味方につけておいたほうがいいよーゆかりーん。
と、じわりじわり念を送ってみたり。
にしても蓬莱人ってただ死なないだけだと思ってたよ。
「蓬莱人ってそんな存在だったのか……知らんかった」
「私も知らなかったわ」
「いや、あんたは知っててよ」
目を丸くしている輝夜に突っ込みを入れる。
「ところで……自己紹介がまだだったわね。私は蓬莱山輝夜。元月の民よ」
「私は白嶺紅雪。神様兼人間兼蓬莱人の妖怪ってところかな? まぁ気軽に紅雪って呼んで」
「……私は八雲紫よ。しがない一人一種族の境界の妖怪ですわ」
さっと自己紹介を済ました後、輝夜が半眼で睨んできた。疑わしいものでも見たかのように訝しげに呟く。
「何よその神様兼人間兼蓬莱人の妖怪って……出鱈目もいいところじゃないの」
「でも事実ですしおすし」
「残念ながらね……」
ゆかりんがやれやれと肩を竦める。
それどういう意味だおい。
「妖怪だった頃から始まり、人間助けてるうちに神力が身に着いて神様にもなり、何か神力を色んな力に変換出来る事に気付いて、霊力にして人間にもなったり。蓬莱人は、妖怪の頃に飲んだ薬が原因」
後は法力と仙力と魔力があるけど……多分、仏教関係の力は扱えないと思う。神道と仏教じゃ別物だしね。
魔力は身に着けられると思うから、機会があったら全力で解明したいね。力の質がわからない事には変換のしようがないから、一度魔力というものに触れてみる必要がある。
その機会は……一番早くてひじりんかな? でも封印されるまでに魔力があったかどうかが微妙なんだよなぁ……。
「まぁ話は変わるけど、あんなしけた顔してどしたよ」
「何の話よ」
「あんたが私達に気付く前」
そこまで言って漸く輝夜は、あぁ、と納得した顔をしたが、すぐに渋面を作って唸り始める。
「うーん……好かれてるというのは悪い気はしないんだけど、何かもう鬱陶しいのよ」
一度見初められたのなら、その噂はまるでネットのように瞬く間に伝播していく。
それが、美しい女子の話となれば尚更だ。聞くところによると、女ですらも目を奪われる程の別嬪さんと言うではないか。
まぁその噂が広まるのは明白だぁね。
で。噂が広がったのなら数多の貴族達が押し掛けてくる。それこそ、何ヶ月も何年も。
明くる日も明くる日も同じような事しかしない。求婚の言葉も雁首揃えて陳腐なものばかりしか言わない。挙句の果てにはどいつもこいつも貴族ってのが肥え太った豚だときたもんだ。そりゃ辟易するわ。
というか何であんな肥えるの? 食生活に関しては貴族でさえもかなり質素なものだったのに。まあ農民に比べたら豪華だけどさ。となると……運動不足か?
「それだけが原因のようには見えなかったけれど?」
輝夜のあの表情に何を見たのか、ゆかりんが訊ねる。
それに輝夜は、人差し指を顎に当てながら訥々と話し始める。
「んー……月に人が住んでるってのはもう知ってるわよね?」
「ええ」
「私は知ってた。永琳がまだ地上にいた頃の大戦。あの時に宇宙に逃げた人間が月人の始まりだしね」
私の話した内容に興味を惹かれたのか問い質そうとするが、今自分が話している事もかなり重要なのか、話に戻る輝夜。
「……こほん。それで、月人は八意永琳の知識とその他の研究者の技術により、地上の遥か先を行く文明を創り出したわ」
あいつらが月に逃げて、そこで何をするつもりなのかは原作の設定を通じて知っていたけど、やっぱ凄いよなぁ……永琳は。
あ? その他の月人? 死に絶えろ。一部を残して。
「月人は皆、不老に近い寿命を持っているわ。その起源についてはわからないけれど。だけどそんな寿命を持っていても、不老に近いというだけで老いは来るわ。そして命があるから殺す事も出来る」
「その頃に蓬莱の薬ってあったよね?」
「ええ。でも、それを飲むことは月では禁忌とされていたの」
不老不死になれる薬なんて多分どこでも禁忌とされると思うけど、地上の感覚ならば兎も角、月人の感覚での理由なんてわからんね。
「そして、月人が穢れの多い地上に追い出される事情と言えば……もうわかるわよね?」
「蓬莱の薬を飲んで、罪人となった、というところかしらね?」
「そう。本来は、処刑される筈だったんだけどね……」
殺せない奴を処刑もクソもないだろうとは思ったけど、その後の輝夜の説明を聞いて何とか理解出来た。
何と、月には蓬莱の薬を飲んで不老不死になった者を殺す術があるというのだ。いったい何をどうすればそんな事が可能になるか見当も付かない。輝夜もよくは知らないらしく、その存在は謎に包まれたまま。
まあこの話は今は置いといて、と。
それで、その「ぼくのかんがえたさいきょうのどうぐ」で輝夜は一度、殺されたのだという。しかし何の因果か、死してなおその永遠の力が身に宿ったままだった。だから殺されても忽ちのうちに再生したんだってさ。
殺せない者を処刑などしようもないので、こうして死刑の次に重い、地上への流刑となったんだそうだ。
永遠と須臾の罪人、誕生の瞬間って訳だ。
嫦娥ってのも蓬莱人になってた気がするけど、確かあいつ出られてねーんだっけ。だから嫦娥の代わりに玉兎が贖罪をしているとか。
「……とてもよく解りましたわ」
輝夜の長い話を聞き終えて、深刻なものを受け取るように一つ重い息を吐いたゆかりん。
でも本人はまったく気にしてないようだし、そこまで深刻なものでもないと思うんだけどね……例の凄い道具を除いて。
「──おぉい、輝夜よ」
何か聞こえてきた。爺っぽい声だから、これがその竹取の翁かな?
でもおかしい。確か実在しない筈じゃ……うん。常識でものを考えちゃいけないね。私の元いた世界の常識なんて通用しないんだから。
「──わかったわ。今行くー」
後ろを向き少し声を大きくして返事をする輝夜。これ以上は邪魔になるかな? 後は物陰からこっそり見ることにするか。丁度よくゆかりんもいるし。
と、思いきや。輝夜が私達の方に振り返って悪戯っぽく笑った。
「折角だし貴女達も同席しなさいよ」
「──はぁ?」
いきなり予定が崩れたし。何てことを言い出すんだこの姫は。
やっぱり、都合のいいように事が運ばないように、世界ってもんは成ってるんだろうね。はぁ。
そんな訳で、同席することになった。
蓬莱の薬に関しての設定がどうもなぁ……。
次は竹取物語に入っていきます。期待するほどのものでもないけれど、乞うご期待。