古き幻想の紅い雪   作:珀靈雪魄

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はい。お待たせしました。何かもう遅くなるのが予定調和みたいになっていて申し訳ないです。
今回は微妙なノリやバトル成分、ほんの少しのピンク要素が混じっております。微妙なのは今に始まったことではないので、それもこれも全部引っ括めてこの作品ということで、どうぞ宜しくお願い致します。


 


第13話:退屈凌ぎと髪事情

 ──今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。

 

 野山にまじりて竹を取りつつ、よろづのことに使ひけり。

 

 名をば、讃岐の造(さぬきのみやつこ)となむいひける──

 

 

 

そんな訳で、輝夜のお見合いに参加することになってしまった私とゆかりんです。凄く居心地が悪いです。もう帰りたいです。もう嫌です。

もうこれさぁ。合コンにしか見えないんだけど? 男の割合がおかしなことになってるけども。

 

何が嫌なのかって、輝夜から私に興味が移った奴が何人かいることが嫌なんだよこんちくしょう。

何なの? お前ら輝夜に求婚しにきたんじゃねぇの? あ、やめて。そのギラついた目で見ないで。気分が悪くなるから。

 

クソったれが。何でなんだよ。何でロリコンがこんな時代のこんなところにいるんだよ。お前ら頭おかしいよ。いやまぁ昔は少女を娶る人が多かったって聞くけどさぁ?

早く終わってくれないかなーと輝夜の方を見ると、してやったりとばかりのニヤけた顔でこっち見てきた。てめぇこの野郎これ狙ってやがったな!?

 

私とは輝夜を挟んで反対側にいるゆかりんの方にも目を向けてみる。私とは対照的に余裕の表情だった。多分いつもの胡散臭い笑みを貼り付けてるだけだろうけど。

 

「やはりかぐや姫は美しい……」

「いや、しかしそちらの白銀の髪をした童女もなかなか……」

「いいや、金色の髪の女子(おなご)だろう。この世のものとは思えぬ美しさがある」

 

わいのわいの。

うん。ぶっちゃけ気持ち悪いわ。どいつもこいつも値踏みするような目で人を見おってからに。容姿の整った貴公子ならばまだいいんだけど……こいつら醜悪すぎるもん。見た目も性根も。

 

やっぱりさ、ほら。私も一人の女の子としてさ。かっこいい男の人に口説かれたいみたいな気持ちもあってさ。こんな豚じゃなくてさ。別に顔がいい奴がいいって訳じゃなくて、何かこう頼りがいがあるっていうか? ね? これから陰陽師とかの時代に入る訳じゃん? 創作物みたいにイケメンがいるといいなぁなんて思っちゃったり?

……って、駄目だ。思考がピンク色になってやがる。しっかりしろ、私。

 

「……確かに、凄く鬱陶しいね」

 

貴族(という名の豚)共には聞こえない程度の声に絞って、少し前の輝夜の発言に同意する。

 

「でしょう? これが私一人に集中してたのよ?」

 

……うん。これは鬱陶しい。いくら温厚で寛大な私だとしても、助走をつけてぶん殴るレベルだわ。

さて。ざっと見てみた感想だけど、こいつら恋愛感情で私達を見ている訳ではないみたいだ。この値踏みするような嫌らしい目付き。物として私達を見ていやがる。多分、宝石とかそんな感じなんだろうね。

はっきり言って論外だ。見た目も性根も腐ってるって言ったけど、ちょっと訂正する。見た目以上に性格がひん曲がってるわこいつら。

 

……ところで。

 

「近い」

 

さっきからじりじりとこちらに近付いてきている貴族に、妖力をこの身に纏いて己が紅瞳に収束させた禍々しい眼差しをくれてやる。言うなれば、簡易邪眼だ。

 

「ひっ……!?」

 

途端、弾かれたように私から離れる一部の貴族。そりゃあ怖いだろう。人間が本能的に恐れる妖怪の瞳なんだからね。

 

「……ちょっ、抑えて抑えて……っ」

 

その貴族の異様な反応に、その場に居合わせた他の貴族達がどよめいた。それを見た輝夜が焦ったように窘めてくる。

 

「すまんね。こういうの見てると我慢ならなくなるのさ」

 

もしも人の目がなかったのならば、少しばかり怖い目に合わせてやりたいくらいだったのだが……まぁこれで私には近付いてこないだろうし、これ以上はやめときますかね。

 

私が抑えたところから、かぐや姫の謁見は滞りなく進行していく。

ゆかりんは決して私みたいなことはしない。この薄汚れた豚相手にも、変わらず嫋やかな笑みを浮かべていた。勿論演技だろうけどね。

 

こういうところ見ると私じゃ到底及ばないなぁって思うよ。私はこの通り沸点低いしすぐに爆発するし。理性ってものをもう少し持った方がいいんじゃないかって何回も自問してたけど、まぁ見た目相応だしいいか、とかいう結論を出して妥協する始末だし。

 

こんなだからいつまで経っても餓鬼だって言われんだよ、まったく。

 

 

 

──さて。そんなこんなで無事にお見合いは終了した。

そして私は輝夜に叱られていた。

 

「あのさぁ……何でそうなったわけ?」

「言ったじゃん。我慢ならなくなるって」

 

呆れ顔で問い質してくる輝夜に、ぶっきらぼうな口調で返す。

 

「……はぁ。自分がそんな目で見られたからって、随分餓鬼っぽい事するじゃない」

「それは違う」

 

これに関しては私も黙っていられない。確かに、私もあんな目でジロジロ見られるのは御免被る。でも、私にだけ向けられていたのならそこまで怒ったりはしない。

 

「何が違うってのよ」

「私はいいんだよ、私は。どんな目で見られようと。私が気に入らないのは、あんたやゆかりんをそんな目で見たって事だよ」

「はぁ……?」

 

私の返事に、呆れに歪ませていた顔に更に強い呆れの色を滲ませる輝夜。

あと、さっき噴き出したゆかりんには後で然るべき制裁をしなきゃね。

 

「馬鹿じゃないの? あんた」

「余計だっつの。馬鹿な事は自覚してるさ」

 

思いっきり馬鹿にしてくる輝夜を半眼で睨む。まったく失礼な奴だねこいつといいゆかりんといい。私はこれでも至って真面目だってのに。

 

「はぁ、まったく失礼な奴らだね、ほんと」

 

……よくよく考えれば自分も相当失礼な事してるけどね。

こいつらがどういう解釈をしたのかは覚妖怪じゃあないんだからわからないけれども、私は原作キャラだから贔屓してるんだ。そりゃあ普通はそうだろうさ。好きなゲームの世界に転生してるんだから好きなゲームの世界のキャラとばっかり話したいさ。接していてたいさ。アンチヘイト思考でも持ってる奴は別だろうけど。

 

まぁ原作キャラじゃないのでも気に入ったのは贔屓してるけどさ。駄鬼とか誑子とか初代とか。

まぁそんな私の考えは置いといて。

 

「……まあいいわ。ところで、あんたって力隠してるわよね?」

「何をいきなり……まぁ、隠してるっちゃあ隠してるけどさ」

 

何だ。何だか物凄く嫌な予感がする。

 

「私は退屈してるのよ。わかるでしょ?」

「わかりません」

 

わかりたくありません。もうさ。何でこいつらどいつもこいつも挙って血の気が多い奴ばっかなの? あれなの? 挨拶代わりに戦闘でも嗾けるような戦闘民族なの? 私もこれで一応戦闘狂だとは自覚してるけどさ。ここまで酷くはないよ?

 

「はぁ……それに、何処でやるってのさ」

「あー……確かに、こんな狭い所じゃ思うように出来ないわね」

「でしょ? だからこの話は──」

「場所の事なら私に任せなさいな」

 

──出てくんなよババア! 折角輝夜の戦闘への意欲を削いでたのに台無しだよ! ほら輝夜の目がまた輝きを取り戻したじゃんかこの馬鹿!

何だ何ださっきの仕返しか? まだ根に持ってたってのか?

 

ニヤニヤと人の悪い笑みを零したゆかりんに視線で抗議する。しかしそこはこの八雲紫だ。まったく意に介してない。それどころか私が嫌がってるのを知って余計に楽しんでやがる。ほんっとにこいつは……。

 

「ねぇねぇ。何かいい案あるの?」

「ええ。丁度よく何もないひらけた場所を知っていますわ」

「案内しなさいよ。何処?」

「焦らない。このスキマを通った先に繋げてあるから」

 

キャッキャウフフと姦しく、私の精神力を著しく低下させる話をしている二人をもうどうにでもなーれという気持ちで眺めていると、ゆかりんがスキマを開いた。まぁこいつならどんなに離れた場所でも一発だわな。私も何とか真似しようとしてるけどなかなか思うようにいかない。

 

何処で躓いているのかってのがイマイチ理解出来ないんだよなぁ……妖力だけじゃ限度があるか? ゆかりんは妖力だけでも出来るけど、それは能力があってこそだしそれを能力使わずにやろうってのがそもそも無茶なんだけどね。それでもいつかは実現してみせる。

 

「ほら、行くわよ」

 

興味に目を光らせる輝夜に引っ張られるがままに、ずーるずーるとスキマの中へと引き摺り込まれたのだった。

 

 

 

 

 

☆○☆☆○☆☆○☆☆○☆

 

 

 

 

 

スキマを抜けた先は、本当に何もない場所だった。

 

「はー……見渡す限りの岩場じゃんか。ここまで広い場所となると限られてくるけど──」

 

辺りをぐるりと見渡そうとした瞬間殺気を感じたので振り向いて、その殺気の主が放った剛拳を片手で受け止める。

 

「早いっつーの。もうちょっと待てないの?」

「っ……へぇ?」

 

まぁ誰が仕掛けてきたかなんて考えるまでもない。この退屈に殺されそうになっていた戦闘ジャンキーの蓬莱山輝夜だ。

つーか何だよこいつの馬鹿力は。鬼と比べても遜色ないぞ?

やばいね。何がやばいって片手じゃ到底受け止めきれないことがだよ。永琳を除いて私に近い歳をしているだけのことはある。何と言うか月で模擬戦とか結構やってそう。退屈凌ぎって理由で。

 

「……っく!」

 

取り敢えず、このままだと押し切られてしまうので、少しだけ力を抜いて輝夜の拳の勢いを流す。そのまま身体を反転させて地面に倒す。簡単に倒れるところを見ると、模擬戦といっても大したことはしてなさそうだな。

 

「遠慮はしないからねー? ──破ぁッ!」

 

一言だけ断ってから力を込めた拳骨を寝転がったままの輝夜の腹にぶち込む。遠慮しないとか言っといてなんだけど手加減は実はしてる。まぁ軽く岩にめり込んだけどね。

 

暫しの後、身体に付いた砕けた石の破片をぱらぱらと零しつつゆらりと緩慢な動きで起き上がった輝夜が、恨めしげにこちらを睨み付けてくる。

 

「ぐ……ぁっ、たく、手加減しなさいよね……!」

 

してます。してますとも。

というか手加減したとはいえかなりダメージ通った筈なんだけどなぁ……やっぱ死に慣れてる奴はタフだわ。私もそうかもしれん。こりゃ早々に終わらせた方がいいな。

 

「まだ動けるんだ? んー……なら、一回ちょっと思いっ切りぶん殴ってみなよ。私を」

「……は?」

 

何を言っているのかよくわからないようで、間の抜けた声を漏らす輝夜。別に被虐趣味があるわけじゃあない。ただ単純に輝夜の力の限界が気になっただけの話。しかしこれじゃそう聞こえても仕方が無い。

 

「んじゃこれを壊してみてー」

 

片手を前に突き出し、身体に纏う濃密な妖力を掌に集める。やがて濃縮された高密度の妖力塊を盾状に薄く伸ばして、超硬度の妖力の障壁を創り出す。

これは結構前から使えてたけど、あんまり使う機会がなかった為にどうしたものかと悩んでいた妖術。こうして出番が来てよかった。硬度に関しては、鬼でも貫けないんじゃないかなぁ、って程度。

まぁ鬼の一撃でも防げそうな程度の硬度ならば十分に実用レベルになり得るんだけど、見ての通り発動に時間がかかるんだよこれ。それさえ改善出来たら真面目な戦闘でも使える筈。

現時点ではこんなもん張ってるよりも動き回って回避した方がいくらかマシって程度になっちゃってるからね。

 

「何よこれ。こんなもので防げるの? 私の全力を」

 

薄い紅色に輝く半透明の妖力障壁を見た輝夜が、釈然としない風に言い捨てた。

 

「嘗めてもらっちゃ困るよ? これでも硬度に関しては自信があるんだ」

「へぇ……面白いじゃない」

 

ニタリ、といったような擬音が似合う雰囲気で、口角を歪めて愉悦の笑みを作る輝夜。こういう顔を見てると、あぁ……こいつも戦闘狂なんだなぁって感じる。

ゆかりん? ゆかりんならさっきから興味深そうに私達の試合を見てるよ。

 

「じゃあいくわよー……」

「いつでもどーぞー」

 

まるでやる気の無さそうな声を掛け合う。しかし心の中では愉しみに躍っている。力を込める、といった様子が似合う構えを取った輝夜が、腰を落としていつでも最高の一撃を放てる姿勢になる。

 

「……っせぇぇぇいッ!」

 

気合の篭った力強い声、有り難う。

全力──その言葉以外に無い程のインパクト。轟と唸り声を上げた凶悪無比な鉄拳は、私の展開した障壁に吸い込まれるように入って──

 

──乾いた破砕音とともに、輝夜の拳が障壁を突き抜けてにゅっと出てきた。

 

「──は?」

 

この障壁の強度には自信があった。駄鬼の馬鹿力は流石に受け止めきれないまでも、萃香ぐらいまでなら貫く事すら能わない程度には硬かった筈だ。

ただ硬いだけでもない。硬いだけならば容易く砕け散るだろう。少し湾曲させて衝撃の吸収に於いても配慮した造りにしたのだ。更に上から妖力でコーティングして補強してる。

 

もう一度、妖力障壁を貫いたままの姿勢の輝夜の拳を見ると、まるで骨でも砕けて無くなったかのようにだらりと力なく垂れ下がっていた。いや、まるでというかこれ本当に砕け散ってそう。

 

「本当にかったいわね……手が砕けたじゃないの」

 

自分の手が砕けて使い物にならなくなっているというのに、まったく意に介していないかの如くけろりとした表情で障壁を殴った感想を漏らす輝夜。どうせすぐに修復されるし、私も似たようなことになるだろうけどね。

 

「いやいやこれ貫いた上でその感想なんて十分化け物だよおめでとう」

「化け物に化け物認定されたわーきゃーうれしー」

 

喜んでくれているようで何よりだよ!

 

「んーむ、まだまだ改良の余地があるなぁこれ」

 

破れてもう盾としての機能は果たせなくなってしまった妖力障壁を軽く叩きながら、どう改良するかに思考を巡らせる。これ発動してから自分の意思で消す事は出来ないから砕いとくしかないのよね。力技で。これも改善しなきゃ。

 

障壁を地面に叩き落として踏み砕きながら考えていると、何やら呆れきって言葉も出ないような様子の輝夜がこちらを見ていたので、声をかけた。

 

「何さ」

「……何かもう開いた口が塞がらないわ……」

 

視線を辿ると、今まさに私が障壁をスクラップにしているところ。これを見て何となく輝夜が言いたいことがわかった気がした。

そりゃあ遣る瀬無くなる気持ちはわかるよ。本人が手が砕ける程に力を込めた一撃を放っても一箇所を貫く程度にしかならなかったのに、私がこうやって特に力を込めた様子もなく硝子でも踏んで割るように軽く砕いていたらね。まぁこれに関しては妖怪としての地力という結論で。

 

「あんた、さっき私を殴った時どれくらいの力だったのよ

?」

「半分もない……かな?」

 

これには輝夜だけでなくゆかりんも呆れ顔。

いやさ、これでも私妖怪で億単位で生きてるんだよ? 伊達に長生きしてないよ? 輝夜に関しては月人で蓬莱人とはいえ元は人間なんだからさ、仕方ないって。んでゆかりんも多分まだ生まれて時間経ってないでしょ。紅魔郷あたりでは力だけでなく奸智にも長けて私を凌ぐとまではいかなくても強くなるからさ。恐らく。きっと。

 

「っつーわけで、悔しいなら努力して追い越すこった」

「なーんか腹立つわね……」

 

まだまだチート如きには負けないよ、はっはっは。

って、あ。そういえば。

 

「全力っつったらあんたも出してないじゃんか」

「……何の話?」

 

そう。こいつの二つ名そのものである永遠と須臾を操る程度の能力。これがなきゃ輝夜なんてただ力が強いだけの蓬莱人なんだよ。

自分の疾さを限りなく須臾まで近付け、相手の速度を限りなく永遠に近付ける。そうすることによってその攻撃はもはや察知云々の次元を超えた境地に至る。

まぁ多分私の速度を遅くする事は出来ないかもしれないけど。私のこのよくわからない能力に阻まれて。いい加減何が無効化出来て何が無効化出来ないのかを知りたい。

 

「カマトトぶってんじゃねぇよ、あぁん? 永遠と須臾の罪人さんよ」

「へーぇ」

 

意外そうにというか認識を改めたというか、少し眉を持ち上げて私を見る輝夜。

 

「──っ!」

 

次の一瞬。間隙などそこには存在しなかった。その類稀なる能力によって限りなく迅く鋭く研ぎ澄まされた輝夜のか細い手が、私の同じく細い首を絞める形で添えられた。激しい動きをしているのにひんやりとした肌の感触。

 

「……ふぅん。私より白い肌、細い首。嫉妬しちゃうわね」

「……くそっ、わかっちゃいたけど視る事すら出来ないか」

 

羨望と妬心の篭った視線を寄越した輝夜の次の行動も、これまた疾かった。

 

「艶やかでいてさらりとした感触……絹のような白銀の髪」

 

私の髪を小さな束にして持ち上げ、品定めするように撫でたり観察したりしている。ちょっとこれ悪ふざけが過ぎるんじゃないの? ってかこれ遊ばれてる?

 

「やめんか」

 

割と本気で振り抜いたつもりの肘打ちも、予想通りに空振りに終わる。そして次に輝夜の手が私の胸に伸びてきた。

一連の動作に一切の無駄が無い。故に反応が遅れる。

 

「ん〜……完全に無いわけじゃない、触ればやっとわかる程度の膨らみ」

「ちょっ……!」

 

何こいつ。何なの。何がしたいの。あんまりふざけてると私も怒るよ?

今度は完全に本気で回し蹴りを放つ。ブォンッ、と脚の周りの空気を引き裂く音がした。手応えはない。知ってた。

 

「……で、下の方は〜っと」

「──流石にそこまではさせないってーの!」

 

輝夜の声がするという事はまだ行動に移していないという事。即座に振り上げた脚を元に戻し、両手で着物と下着を押さえる。

 

「あ、ごめん。もう見ちゃった」

「んなっ……!?」

 

こいつ、見てからさっきの台詞を吐いたな!?

 

怒りと羞恥によって頭に血が上るのが手に取るようにわかった。顔が熱い。長生きすればこんな事には動じなくなるなんてことは、私にはなかった。どうしても恥ずかしいものは恥ずかしい。

 

「こんの──」

「というのは嘘。流石にそこまでするわけないじゃないの、バーカ。それとも何? 見て欲しかったの?」

 

あからさまに馬鹿にしきった顔をして、口元を手で覆って笑いを噛み殺そうとしている輝夜。そこで思いっ切り笑わないのが寧ろ苛立つ。

 

「いい加減に……っ」

「赤くなってるー。かーわいー」

「…………っ!」

 

そこで私の脳内での処理能力では今の情報を捌き切れなくなった。臨界点を越えてしまったのだ。翻弄された事への怒りと、玩ばれた事への恥ずかしさと恨み。ブチ切れそうになったが、その前に制されてしまった。

 

「……ゆかりぃ〜」

 

溜まった感情をぶつけることすら出来ず、頼るべきものがない私は、そのまま後ろで傍観していたゆかりんに縋り付いた。こうやって誰かに甘えるのも餓鬼っぽさに拍車を掛けてるような気がしてならない。

 

「はいはい、よしよし。……やり過ぎよ、貴女」

「いやぁ……嘗められてたからちょっと揶揄ってやろうかなってさ。まぁ確かに度が過ぎたわね……」

 

膝枕をして私の頭を優しく撫でてくれるゆかりん。マジ聖母やでぇ……。

あと輝夜。てめぇは今のことをよーく憶えてろよ。いつか絶対に仕返ししてやるかんな。

 

 

 

 

 

☆○☆☆○☆☆○☆☆○☆

 

 

 

 

 

──そんなこんなでちょっとしたゴタゴタがあった後、ある程度は精神が落ち着いてきた私は、ずっと輝夜を睨んでいた。凄く根に持つタイプだから私。

 

「……だから悪かったって言ってるじゃない!」

「態度が悪いから駄目」

 

取り付く島もなく拒絶された輝夜が、一瞬だけ視線を宙に逸らしてから頭を掻いた。深く溜め息を吐いて面倒そうにぼやく。

 

「あーもうめんどくさい。そろそろ赦してくれてもいいでしょうに」

「…………」

「だから無言だけはやめてよ! 何か気不味くなるじゃないの!」

 

どうやら思ったよりも輝夜を追い詰めることは出来ているようだ。さっきからずっとこれやってるしそろそろ溜飲も少しは下がってきたので口を開いてやることにする。

 

「……はぁぁぁぁ。大っ体さぁ? 何であの流れからああなんの?」

 

ほんとこいつわけがわからないよ。あそこは順当にそのまま闘いが延長するべきじゃん? 私もそういう心積もりでいたんだよ。何であんな事になるかなぁ。

 

「んー……いやね。これでも私この辺では人気者じゃない? だから、私よりも綺麗な子がいると妬ましく感じるのよねぇ」

「何それ」

 

意味わからんわ。

 

「だってほら。あんた私よりも白いじゃない」

 

近付いて、袖を捲って白磁のような腕を見せ付けてくる。もう片方の手は、私の袖を捲り上げてきた。

見比べてみる。確かに、私の方が細いし白い。でもあんまり白すぎるよりも多少は血色がいい方が可愛いと思うのは私だけだろうか?

 

「それに髪だって私よりも艶があって肌触りもいい」

 

ん、と自分の髪を束にして、それをこちらに突き出してくる輝夜。それを受け取って自分の髪と比較してみる。別にあんまり変わらないような気がするんだけどなぁ……。

 

「隣の芝生は何とやら、じゃないの?」

「違うわよ。ほら、あんたも比べてみてよ」

 

そう言って私の髪の束と自分の髪の束をゆかりんに手渡す輝夜。あんまり滅茶苦茶に扱わないでほしい。髪が曲がるとか傷むとかそんなことはないから別にいいんだけど。

 

「……ふむ。確かにこの子の方が手触りがいいわね。艶より何より柔らかいわ」

「でしょう?」

 

え、ちょっとゆかりんまで何なのさ。こんな何の手入れもしていない髪がそんなに綺麗かなぁ?

それを言ってみたら、闘いの時に全然本気じゃなかったことを言った時以上にドン引きされた。何なんですかねこいつらは。

 

「ないわー。何の手入れもしてないなんてないわー」

「それでこんなに綺麗な髪をしている……有り得ないわ」

 

二人して何か信じられないものでも目の当たりにしたかのように、目を見開いてキャラ崩壊しかかっている。こいつらそんなに色んな手入れをしてんの? こんな昔の時代に外の世界の女みたいなことしないでよ。まぁこっちは美人揃いだから何をやっても様になるし似合うしいいんだけどさぁ。

 

「そう言うゆかりんだって艶々な髪してるじゃん」

 

座った姿勢のままずりずりとゆかりんに接近し、そのふわふわとした金髪を触ってみる。

うん。枝毛とか傷みはない。張りがあって、それでも柔らかさが損なわれていない綺麗な髪だ。キューティクルもすげぇ。私のよりもいい髪だと思うんだけど。

 

「……うん。わかった。やっぱり隣の芝生は青く見えるってのが結論だって。他人のものは良いものに見えるもんさ。たとえ同じものでも」

 

何かまだ納得していない様子の二人だったが、やがてわかってくれたのか渋々ながらもこの話を終えてくれた。

そうそう。こうやってちょこっと話す程度なら特に問題はないんだけど、近いうちに五つの難題と呼ばれるアレがあるんだからさ。早く見たい。

 

さぁ、いつ頃になるのかな。

 

 

 

 

 




果たして次はいつになることか……(遠い目)

知っての通り、紅雪はつるっつるです。何処がとは言いませんが
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