古き幻想の紅い雪   作:珀靈雪魄

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この辺から巻いていきます。


第5話:人妖大戦

あれから百年程の時間が経った今。

 

「うーん……」

 

私は、最近の人間達の事で頭を悩ませていた。

何故かと言うと、あれだ。科学技術の異常な発達の所為で、どいつもこいつも増長してきてるんだ。

というか百年保ったのが不思議だな。

 

ついさっき鋼楔に聞いた話だが、この山にも何度か攻め入ってきているとの事だ。

そして、最近では此方も被害を受ける程だという。

 

うーむ……こうなる事は判ってたんだけど、ちょっとねぇ……。

どうも、光学兵器を使ってきてるみたいだし。

レーザーとか……そりゃあこっちも害を被るわな。

 

……そういや、ちょっと前に街で何か光ってたのを見たけど、まさか、あれって兵器のテスト?

くっそ、しくじった。もっと注意していれば未然に防げたかもしれないのに。

……まあ、こうなったからには後悔している暇は無い。

一刻も早く状況を打開する策を牡丹と講じねば。

 

さて……どうするかな。

今のところ、こっちの勢力で当てになる戦力といえば、私と鋼楔と牡丹の三人だけだからなぁ。

 

あ、そうだった。牡丹が戦線に加わったよ。

役割としては参謀。頭を使ってもらうよ。

 

鋼楔達からすれば復帰したって表現になるんだろうけど。

あの鋼楔が認めていたんだから、実力に関しては安心出来る。

 

弓が使えるから自陣からでも敵を射抜けるからね。

弓程度で科学の粋を集めた鎧を貫けるのかって? 貫けるとも。実際にその威力を見た私が言うんだ。間違いない。

 

あの弓は何かカスタマイズされていて、やけに頑強で飛距離や射出時の速度も凄まじい。

鋼楔の並べた鋼の列を、一矢で全て貫いたのだ。

因みに、何個並んでいたかというと、五十程。

 

とまあ、遠距離攻撃手段の一つは牡丹が担っている。

それだけではなく、参謀というからには作戦を練る事がメインになってくる。

 

私は頭脳戦は好きじゃないんだから、仕方無い。

それでも、もし牡丹の策に穴があったらそれを埋める事くらいはする。

牡丹を貶している訳じゃないよ? 決して。

 

ただ、あの頃の知識が活かせるかもしれないから。そしてその策が我が軍の勝率を上げるかもしれないから。

……といっても、私の本領は直接戦闘なんだけど。

 

で、何でこんな事を考えているかというと。

 

「状況はどうなってる?」

 

配下の妖怪(私を慕ってくれている、言わば親衛隊の皆さん)にそう問い掛ける。

 

「好ましくありません! 前線がほぼ壊滅しています!」

「ふぅ……やれやれ」

 

携行型の光学兵器まで持ち出されたら、こうなるよね。

これは、私が出るしかないか?

 

「お嬢! まさかお嬢が出るんですか!?」

 

羽根を広げた私を見て、親衛隊の一人が声を上げる。

 

「そりゃ、行くしかないっしょ」

 

お前らが当てになんねぇんだから。

……嘘。よくやってくれてるよ。

ただ単に、お前らには荷が重すぎるってだけさ。

 

親衛隊員に軽くウィンクをしてから、最前線に向かう。

 

さあ、派手にいこうか。

 

 

 

「こりゃまた……」

 

空を飛んでいる間に、大体の状態を見ていたんだけど、一言で表すなら「酷い」ね。

 

まず、前線の中でも最も前にいる奴ら。

どいつもこいつも身体中に風穴空けられて蓮根みたいになってやがる。……勿論、死者も出てる。

……はぁ。

 

…………畜生が。無駄に力付けやがって。

力ぁ付けたら付け上がってこの様か! こっちが人間を驚かすだけに留めておけって指示出したらこうだ!

 

こっちが人間を殺さないでいてやってんのに、テメェら人間は何の躊躇も無く殺しにきやがった。

技術力が無ければ食物連鎖の頂点である妖怪に喰われるしかない人間が。

 

……そっちがそのつもりなら、殺ってやろうじゃねぇか。

 

「下がれ」

 

だが、配下の妖怪共では悔しいかな。科学の兵器の前には手も足も出ない。このままでは無駄死にさせてしまう。

退却させる他無いだろう。

 

「何だと!? ふざけるな!」

 

最前線に到着するなり退却命令を出した私に、当然の如くブーイングの嵐が返ってくる。

 

まあ判ってた。

仲間を殺されて黙って退く事なんて、出来ないよね。

でも、彼我の実力差だけは見誤るな。

 

そんな想いなど伝わる筈もなく。

 

冷静な判断を下せない無能共に、そろそろ私も我慢が出来なくなってきた。

 

「下がれっつってんだろうが! テメェらは無駄に命を散らせたいのか!」

「…………っ」

 

ただならぬ鬼気に気圧されたか、あれだけ騒いでいた妖怪勢力は水を打ったように静まり返った。

 

「……いいから。こいつらは私が殲滅するから、今は退いて――」

 

言葉が途中で遮られた。顔が熱い。撃たれた?

 

「おい!? 副大将!」

 

目を剥いた妖怪達は、直後に竦み上がる事になった。

 

「ふふ、ふふふふふふ……」

 

何だろう。頭の中で何かが切れる音がした。

ああ、撃たれた所為かな?

 

「頼むから、下がってて。……ちょっと暴れるから」

「…………」

 

あれ? 何で怯えてるんだろう。

 

あれだけぶーたれていたのに、必死の形相で逃げていく仲間達。ちょっと傷付く。

まさか、トラウマってやつか?

 

あ、また撃たれた。熱いなぁもう。

 

「お前ら! こいつが首領だ! こいつを殺せば化け物共に大打撃を与えられるぞ!」

 

お前ら人間(バケモノ)が妖怪を化け物扱いするか。

それと残念。私は副大将だ。

 

―――そして、死ぬ事が無い。

 

「さぁぁぁて、パーティーの時間だ」

 

将来に向けて弾幕の練習もしなきゃいけないしね!

勿論、今は殺傷力を極限まで高めて殺す為だけの弾を撃つけど、スペルカードルールが制定されたら殺傷力は削るよ。

 

まずは、イメージする。

掌に妖力を集めて、球状になるように意識する。

うねうねと蠢いている不定形の霧状のものだったのが、次第に丸く密に形作られていく。

……これは、問題無い。

 

次に、その掌を相手に向けて、貫く事だけを考えて妖力弾を放つ。

 

「が……っ!?」

 

苦しげな声を上げた人間の胸には、大きな空洞が出来ていた。

よし、成功だ。

 

これで、弾幕の基礎は固められただろう。

今度は、これを無数に撃てるようにしなければ。

数を撃つ分、威力が分散してしまうのは仕方が無い事なので、威力を最大限に発揮させるなら……取り敢えずはこれを一人に向けてみようかな。

 

自分の周りに複数の妖力弾が浮かんでいる様を想像し、弾を創造する。

すると、妖力の塊が私の周囲を取り囲むようにしてふよふよと漂い始めた。ちゃんと数もある。

でもまだまだ改良の余地ありだね。

 

さて、後はこれを一斉に一人の元へ集中させて放つだけなのだが、めんどいな。

どうせなら、追尾弾を作ってみたい。

 

相手を認識し、妖力弾にその情報をインプットする。

そして、此方に向けてレーザー銃を構えている人間に向けて発射する。

 

「うわ──」

 

声を上げる暇すら与えられずに、その人間は蒸発した。

 

あ、やりすぎた。

この調子なら、一人あたり三発撃てばいいかな?

 

「ば、化け物だ! 撃て、もっと撃てぇ!」

 

はい。化け物ですが何か?

あぁ、それとそんな玩具じゃあ私は殺せないよ。

 

「せめて、鋼楔の拳くらいの力で来てくれなきゃ……ねっ!」

 

先程叫んでいた人間の首を、凶爪にて掻っ切る。

吸血鬼って確か爪も武器になったよなぁ、なんて思って使ってみたのだが、結構使い易いし威力も高い。

 

瞬く間に首が落ちた人間は、その事に気付いていないのか暫し呆然としていたが、軈て事切れた。

 

その凄惨な光景を目の当たりにした人間達が、恐れ戦いて足を縺れさせながらも逃げ出す。

それを皮切りに、戦闘意欲のあった者も私に背を向けて走り出した。

 

「……旗色が悪くなるとすぐこれか」

 

誰も居なくなった仲間と敵の死体が転がる戦場にて、人間が逃げ去っていった方向を眺めながら呟く。

 

……ひとまず帰ろうかな。

 

羽根を広げ飛び立つ。

今回の一件で私は決意した。人間達と戦争する。

 

 

 

 

 

☆○☆☆○☆☆○☆☆○☆

 

 

 

 

 

「ちょっと聞いて」

 

鋼楔以外の一同を集会所に集め、今回の件について話をした。

 

「人間を襲う事を許可する」

 

いきなりの発言に、しかし異を唱える者は存在しなかった。

むしろやる気に満ち溢れている者が多かった。

 

「しかしお嬢。大将は……」

「俺に異存は無い」

 

声と共に姿を現した我らが御大。

いつもよりも遥かに覇気があるその言葉に、一拍遅れて部下達が沸き立つ。

 

「私にもありません」

 

初代の大将である牡丹も、異論は無かった。

 

当然、人間を襲い殺し貪り喰う方が得られる妖力の質も高くなる。勿論、量も。

人間を驚かすだけでは妖力が足りなかったのだ。

 

だから、今の貧弱な軍勢が出来上がっていた訳で。

 

街で危機を忘れ安穏と暮らしている人間共に妖怪の恐怖を思い出させるとともに、此方側の戦力も大幅に増強出来る、まさに一石二鳥の策である。

 

では何故、今までこれをしなかったのか。

人間がここまで付け上がっていなかったからだ。

 

全員が同意をしてくれた事に嬉しさを感じながらも、なるべくしてなった事のような気もして。

それでも一言。

 

「……有り難う」

「そうと決まれば早速往くぞ」

 

鋼楔が街へ向かう。

それに続いて部下達が歩を進める。

最後に、私と牡丹が。

 

人間が恐れなくなって久しい、百鬼夜行の狂宴。

街を一つ潰す為に動く魑魅魍魎の行進。

 

 

 

結果は、当然の如く勝利に終わった。

 

あれだけ武装して群れている軍隊も、各個撃破すれば呆気ないものだ。

無謀にも向かってきた一般市民は部下が。武装してきた人間は私達三人が。

 

それだけで難なく制圧出来た。

戦果は上々。

一時は私に軽く捻り潰されるだけだった癖に、今ではそれぞれが歴戦の勇士さながらの風格と力を手にしている。頼もしい事この上無い。

 

そんな間違いなく大勝と言えるものなのに、余韻に浸る事もなく次に攻める街を探す。

 

傍から見れば何を必死になっているのやらと思えるかもしれないが、共通の意識を持って団結した人間ほど怖いものは無い。だから潰す。

それは人間だった頃に嫌と言う程経験して理解している。

 

そんな事を続ける事数日。

辺りの街はあらかた滅ぼした。

 

残るは一つ。

深香との思い出のある、あの大都市のみだ。

 

滅ぼしたくはないが、そうも言っていられない。

……深香、ごめん。

解ってくれなんて傲慢な事を言うつもりはないけど、もう後には引けないから。

 

 

 

「どう? 入れそう?」

 

後はこの都市を滅ぼせば脅威となるものは無くなるのだが、一つの問題が急浮上しやがった。

 

何か結界みたいなものがあって中に入れないというのだ。

報告を受けてから自分の目で確かめる為に赴いて調べてみたのだが、結界というよりバリアといった方が正しいかもしれない。

無駄な科学力しやがって。

 

「硬いな、これは」

 

鋼楔がさっきからバリアを殴っているが、びくともしていない。

不味いな、これは。

 

こんな所で時間を食っている間に準備を整えられてしまう。

というかその点ではもう手遅れかもしれない。

 

だって何か武装している大群がこっちに向かってきてるし。

しかも、今まで滅ぼしてきた街とは装備の質が違うような気がする。

本当に不味い。

 

「鋼楔! 部下集めて!」

「ああ!」

 

鋼楔を急かしてあちこちに散開していた兵を集めさせて、揃うと同時に矢継ぎ早に指示を出す。

一か八かだ!

 

「皆! タイミング合わせてバリアを殴って! せぇー……のッ!」

 

急な展開にも動じる事無く淀みない動作でほぼ同時にバリアに拳を直撃させる。

するとバリアは一瞬撓み、警報の音とともに硝子を砕いたように鳴り爆ぜる。

 

進軍していた人間達も一瞬怯んだが、すぐさま妖怪の軍の端に銃を向けて一斉に掃射してくる。

敵軍から迸る光線の雨は自軍に決して少なくない被害を齎す。

 

「怯むな! 突っ込め!」

 

だから不死である私が先導して部隊の士気を上げる。

万一にでも怯まれたりしたら困るからね。

 

科学の最先端の光条が私の頬を、身体を、髪をと突き抜けてゆくが、その端から一瞬にして再生していく。

 

そして敵の最前線に着くと同時に、掌を前方に翳す。

何の構えかも判っていない人間は、無闇やたらに私の身体に穴を空けていく。

 

お前らがレーザーで来るなら、こっちはマスパ……ビームだ!

 

心の中で某マスタースパークの事を考えながら、力を手に集束させる。

まるで何かのアニメのように丸く輝く光線の発射口と化した私の右腕を見て、漸く向こうも不味いと察したらしい。右腕に攻撃を集中させてくる。

 

───残念! お前らの冒険はここで終わってしまった!

 

そして、手を前に突き出すだけのただ単純な動作。

 

轟、という凄まじい音を立てて大気を切り裂いた一条の妖力の奔流。

紅く黒い極太の光線は、回避しようと逃げ惑う人間達を嘲笑うかのように呑み込み、蹂躙する。

そしてそれでも足りないのか地表を抉り、大穴を穿つ。

余波までもが人間や家屋を薙ぎ払っていった。

 

その餌食になる事を免れた人間も、仲間である妖怪も、突如として宙空に現れた光の柱を呆然と眺めているだけであった。

 

放った私でさえ吃驚した程だ。そうなるのも無理は無いように思えた。

 

だが、いつまでも呆けてはいられない。

 

「今のうちに潰せ!」

 

我に返ったすぐに、弾幕を張りながら全軍に指示を出す。

鋼楔……ちゃんと指揮してくんないかなぁ。

 

そんな無駄な事を考えている間にも、放った弾幕の雨は敵兵を蹴散らして……あ、追撃受けてら。

 

「ぐわっ!?」

 

そこで、戦局が少し変化した。

 

何処からか飛来した光の筋が、人間に追撃をしていた妖怪の身体を貫いたのだ。

 

飛んできた方向から想像するに、伏兵だろうか。

それとも、狙撃手か。

 

その答えは、すぐに出た。

 

先程の一発が合図になったかのように物陰から無数のレーザーが立て続けに迫ってきたのである。

それから、左右から躍り出る影。

 

「伏兵ねぇ」

 

どうしようか。

 

さっきの光線を撃ちゃあいいだけの話なのだが、温存しておきたいんだよねぇ。

見た目通りにかなり妖力使うんだよ、あれ。

 

どう表現したらいいのかなぁ……こう、何かがするするっと抜けていく感じで、虚脱感? それとはちょっと違うかな。兎に角、疲れるって事だけは言える。

 

それに、これだけの兵力を惜しみもなく投入してきたのだ。それもこんな序盤と言える状況で。

まだまだ戦力は有り余っていると考えるのが妥当だろう。

そんな時に私がぶっ倒れる訳にはいかない。

 

弾幕もちょっとは疲れるから、ここは白兵戦と洒落込みますか。

いやぁ、楽なんだよねぇ。鋼楔と闘ったりしない限りは。

 

と、色々な事を流すように考えながら、右側の部隊の中央に潜り込んで、片端から頭を擂り潰し四肢を引き千切り胴を分断していく。

 

瞬く間に朱へと染められた戦場に、奴さん達の戦意もだだ下がりだ。

……同時に、何の躊躇いも無く嘗ての同族を惨殺出来る自分にも嫌気が差して、冷静になってくればなってくる程に気分が悪くなるんだけど。

 

でも、憎悪を抱えているのは確かだ。

取り敢えず、この都市を壊滅させるまでは気分が晴れる事も無いだろうね。

 

もう片方の増援は、鋼楔率いる魑魅魍魎が鏖殺していた。

頼りになるねぇ、こういう時には。

 

「粗方片付きましたね。雪、頼みます」

「はいはい。んじゃ行ってきますよー」

 

参謀の指示を受け、危険が無いかを確かめに私一人が先行する。

不老不死だからって、酷い扱いだよ。まったく。

 

どれくらいか進んだ辺りで、向こうから敵意を持った何か──確認するまでもなく武装した人間である──が迫ってくる気配を感じた。

すぐに振り返り、牡丹に報せる。

 

先鋒の部隊を完膚無きまでに叩きのめした勢いで、先頭の鋼楔に追従して此方に進んでくる配下の妖怪達。親衛隊の皆さんもいる。

そしてその最後方に牡丹が位置取る。

 

さっきから牡丹は命令しか飛ばしていないように思えるが、他にもちゃんと飛ばしている。

矢とか矢とか。後、矢。

狙いが正確な為、誤射の心配は無い。

 

程無くして互いを視認出来る距離で対峙する両勢力。

二回戦の始まりだ。

 

咆哮を上げながら突撃するは妖怪の軍勢。

ただ静かに各々の得物(光線銃)を構えるは人間の軍勢。

 

静かにしていた人間も、激突と同時に叫び声やレーザーを放ちながら突っ込んでくる。

 

私はというと、敵陣のど真ん中で千切っては投げ千切っては投げと大忙しだ。

文字通り千切って投げているものだから、辺りに鮮血や臓物が撒き散らされている訳だが。

 

そういや、何で着物と髪には血が付いてないの?

 

不思議な事もあるものだ。

衣服は、長い間着ていると付喪神化して破れたりしても勝手に再生するらしいが、そういう事なのかな?

 

「親父の敵!」

「うーん……」

「ぎゃあああああ!?」

 

あれ? 誰か何か言ってた?

……気の所為か。

服はいいとして、髪にまで血が付かないのは、どういう理屈なのだろうか。

 

「よくも弟を! 悪魔め、死ね!」

「……解らん」

「がぁぁぁあああっ!!」

 

ん? 何なんだろう、さっきから?

……私って、考え事をしてると周りが見えなくなるタイプなのかな?

 

ま、いいや。

 

「死ね、糞餓鬼!」

「誰に向かって口利いてんだ、あぁ?」

 

何かが私の中で思い切り切断された。

成る程。どいつもこいつも皆こう言っていたのか。

よし解った。今すぐ天に召されるがいい。

 

「雪の三分クッキングー」

 

まずは、材料を用意しまーす。

材料は……腕二十本と、脚十五本……頭六個ですねー。

 

「うわぁあああ!」

「はいはい。材料が口利いちゃ駄目ですよー」

 

ボキッ、と小気味よい(人間側はそうは感じない)音を立てて人間の腕が折れる。

続いて、脚も折る。

 

引き千切る際に皮膚が邪魔になったので、無理矢理引っこ抜いた。

何と言うか、グロい。……今更か。

 

脚と頭も無事(?)集め終えました。

次は、強火で蒸発させまーす。

 

例の紅いマスパ……技名でも考えようかな。

取り敢えず、厨二めいたものにしようと考えているのだが、今は『しねしねこうせん』とでも名付けるか。

 

「死ね!」

 

私の声と同時に、紅黒い巨大な破壊光線が再び放たれた。

人を、建造物を、地面を、材料を纏めて消し飛ばした後に残ったものは、呆れたような目を向ける牡丹と、よく解らない表情の鋼楔達と、大きな大きなクレーターだけだった。

 

「やり過ぎです」

「ごめんなさい」

 

牡丹に窘められてしまった。

私はブチ切れると、ついやっちゃうんだ。

 

 

 

 

 

☆○☆☆○☆☆○☆☆○☆

 

 

 

 

 

それからも快進撃は続く。

 

というか、殆どは制圧完了したから中央部に集まっている。

外堀から埋めていく……取り敢えず外周にいた全ての部隊はご臨終だ。

 

それよりも、気になる事が一つ。

 

「……何か、少なくない?」

「そうですね……」

 

そうなのだ。やけに人間の数が少ない気がするのだ。

私達に潰される前に逃げてきた人間も含めると、こんなに少ない筈が無い。

……凄く嫌な予感がするんだけど。

 

「気にしていても仕方が無いだろう。今はこいつらを根絶やしにするぞ」

「いや……それはそうなんだけどさぁ」

 

鋼楔が人間を拉げさせながら言う。

 

それも判るんだけど、何なんだろう、この感覚。

何かこのままじゃ良くない事が起こりそうな……。

でも、鋼楔の言う通り、気にしていても仕方が無い。

 

注意を払いながら、私も人間を殲滅していく。

 

 

 

そして、戦場に立っている人間が一人もいなくなった頃に、それは起きた。

 

「……ん?」

 

空を見上げる。

 

「……飛行機?」

「どうしました?」

「あれ。飛行機が……」

 

指差した。

駆動音を響かせながら此方に迫ってきた飛行機は……飛行機というか、戦闘機? いや、爆撃機……?

それは、一つの物体を落とした。

 

爆弾……だよね?

 

「何だ? あれは」

「爆弾、の筈だけど……」

 

そして、少しずつはっきりと見えるようになってきた爆弾の表面を見て、表面に書かれているマークを見て、私は、凍り付いた。

 

「……冗談でしょ?」

 

あんなマーク、他に見た事が無い。

だから、間違えようが無い。しかし間違いだと思いたい。独特の形。

どう見ても、ハザードシンボルだ。

 

核兵器。

 

「……原子、爆弾……っ!?」

 

目の前が真っ暗になった。

次いで、頭に血が昇ってきた。

 

あぁぁぁぁあ! ここでそんな最悪の兵器を持ってくるか!? この畜生が!

 

「どうしたんですか? あんなもので──」

「死ねるんだよ、あれは! ここら一帯が消し飛ぶの!」

 

あぁクソ! どうすれば!? どうすればいいんだ、こんなもの!

私は死なないけど、こいつら全員吹き飛んじまう!

これが報いとでも言うつもりか!?

 

慌てている間にも、原子爆弾はどんどん地表に接近してくる。

着弾まで数秒と無いだろう。

 

はっ!? そうだ、あれなら!

でも、上手くいかないかもしれない。

せめて、鋼楔と牡丹だけでも何とか!

 

「牡丹、鋼楔! 私の後ろに!」

「何を──」

「何をするつもりだ、なんてそんな悠長に答えてられないんだよ!」

 

後ろに避難したかを確認する間も惜しんで両手を突き出す。

 

全身の妖力を出来る限り掌に注ぎ込む。

集めて、集めて、集めて。

そして、全身全霊の一撃を放つ。

 

「ぐっ……い、けぇぇぇぇぇえッ!!」

 

迸る。

眼前の脅威を消し去る為だけに、全ての意識を注ぐ。

黒き雷を撒き散らしながら、紅の破光が爆進する。

 

衝突。

しかし、表面を削ぎ落としこそすれ光線の大部分は逸らされてしまう。

 

……くそ!? 何かのコーティングでもされてんのかよ!

まだまだ、やってやる!

 

出力を更に上げる。

弊害か、意識がはっきりとしなくなってきた。

それでもいい。だけど、失神だけはするな。

 

不明瞭な視界で、削れていく爆弾を見据える。

 

───頼む! 終わってくれ……!

 

しかし落ちてきたそれは、地表に───

 

 

接触した。

 

 

「ん……な……」

 

一瞬。凄まじい光を放ったかと思えば、もう言葉で表現しきれない程の――敢えて表現するならば、地獄――悍ましい、身の毛も弥立つ暴力的な力の波動が広がっていく。

 

地面が捲れ上がり、同胞を蒸発させながら迫ってくるそれは、酷くゆったりとした緩慢な動きに見えた。

 

走馬灯ってやつかな……などと、何処か諦めにも似たような考えが私の頭を掠める。

 

…………諦めてたまるかってんだ。

 

考えろ! この逼迫した状況を打開出来る策を!

牡丹や鋼楔までも失っていいのか、この馬鹿野郎!

……もう深香の時みたいな思いをするのは嫌なんだよ。

 

ほら、もう目の前に来てるじゃねーか。

これを無効化する……無効化……無に帰す。

無効化、無効化……。

 

───そうか、無効化すればいいのか。

 

手を、もう力の抜けた手を差し出す。

あぁ、もう自分でも何をやってるか判んねーや。

本当に無効化出来るなら、こんな苦労───

 

 

掻き消えた。

 

 

私の手を頂点に、真後ろ。放射型の範囲だけは爆発による被害を受けなかった。

 

「消え……た?」

 

牡丹の声を聞いて、良かった、なんて事を考えながら、力を失った身体は立つ事すら儘ならずに、意識も───

 

 

 

 

 

★●★★●★★●★★●★

 

 

 

 

 

「…………」

 

その場に頽れる雪の姿を見た。

それと同時に、地面の一部が開き、人間が溢れ出てきた。

 

数は、先程の比ではない。

人間の能力持ちも、何人かいた。

それに比べて、此方の手勢は百にも満たない。

 

ここが、死に場所か。

 

鋼楔に目を向ける。

死んでしまうかもしれないというのに、その顔は笑っていた。

寧ろ、それを喜んでいるようにも見えた。

 

「そうですね」

 

弓に矢を番えながら、微笑みかける。

鋼楔も何も言わずに雪を背負い、拳を打ち鳴らした。

 

後ろに控える部下達も、やる気に満ちた顔をしている。

人間共に向けて矢を放つ。

それを合図にするつもりで。

 

何万もの軍勢に、百の小勢。

だが、歴戦の士が揃っているのだ。

 

───さあ、死合おうか。

 

「突っ込め!」

 

鋼楔の声に押され鬨の声を上げながら、各々が死ぬ気で人間を殺しに向かう。

 

私も、弓を足許に投げ捨てて、刀を鞘から抜く。

 

「逝きましょう、大将」

「逝こうか、先代」

 

頷き合い、吶喊する。

 

その時だ、空から白い雪が降ってきたのは。

 

あの爆弾の影響だろうか。

凍える程の寒さだ。

 

だが、関係無い。

この心に宿る熱を以て、寒さなど吹き飛ばしてやろう。

 

死に花咲かせに、いざ参らん。

 

 

 

 

 

「もう、終わりましたかね……?」

「……さあ、な」

 

もはや満身創痍といった体で、真っ赤に染まった積雪の戦場を見渡す。

 

もう生きている者は私達しかいなかった。

それでも、もう長くはないだろう。

 

不意に、前に躍り出た三つの影。

 

人間、それも能力持ちだった。

この期に及んで、まだ残っていた。それも能力をその身に宿した者が。

 

死にかけの身体に鞭を入れて、一切口を開かず何も考えずに……いや、これで終わればいいな、と考えながら最後の戦いに身を投じる。

 

能力をフル稼働させ、能力持ちの内一人を自殺に追い込む。

自分の喉笛を掻っ切る一人を見て目を見開く二人だったが、片方がすぐに此方を睨み付けて手を伸ばしてくる。

 

───来るか!?

 

思うと同時に横に跳ぶ。

その判断は正解だった。

 

真空刃か何か、鋭い風が先程まで立っていた場所を切り裂いていった。

反応が遅れていれば真っ二つにされていただろう。

 

素早く接近し、袈裟懸けに斬り掛かる。

だがそれは髪を斬るだけに留まったが、返す刀で斬り上げる。

その太刀筋は過たずその首を刎ねた。

 

しかしそこで油断が入ったのだろう。

首を飛ばされながらも伸ばしてきた手が腹に当たり、強烈な衝撃が襲ってきた。

 

「……か、は……ッ」

 

為す術もなく吹き飛ばされてしまう。

降り積もる白雪の上に倒れ、起き上がりざまに腹部に目を向ける。

 

───大きな穴が空いていた。

 

……ああ、ここまでか。

思えば、呆気ないものだったなぁ。

そんな考えの下、自然と笑いが込み上げてきた。

 

「終わったぞ」

 

鋼楔の声が耳に入った。

そちらを向けば、鋼楔も片方の腕を失っていて。

 

傍に腰を下ろした鋼楔と共に、眠っている雪の姿を眺めていた。

 

「……出来れば、この子の目の届かない所で果てたかったんですけどね……」

「……そうだな」

 

神妙に首を縦に振る鋼楔を見て、噴き出してしまう。

 

「……失礼な奴だな」

「ふふ……いえ、貴方がそんな態度を取るとは思わなかったので」

 

身を切る寒さに震えながら、雪の頭を撫でる。

 

「……いざ死ぬとなると、怖いものですね」

 

目を閉じて呟いた。

すると頭に温もりを感じたので目を開く。

何と、鋼楔が私の頭を撫でていた。

 

「……どうかしたんですか? 貴方らしくないですよ」

「俺らしく、か……」

「きゃ……っ」

 

抱き寄せられた。

 

「俺はこんな奴だ」

 

その厚い胸板に顔を押し付けながら、鋼楔の言葉に耳を傾ける。

 

「そう言えば、そんな人でしたね……」

 

昔から頭が悪くて色魔で変な所で気が回って。

今こうしているのも、そういう事なのだろう。まったく、不器用な人だ。

だが、それが身に染みる。

 

……遠慮無く泣くわよ? 鋼楔。

 

大きな背中に手を回して抱き締め、声を押し殺して泣いた。

真っ白な降雪と真っ赤な積雪に彩られた墓場で。

 

 

 

 

 

★●★★●★★●★★●★

 

 

 

 

 

「う……ん……」

 

目が覚めた。

という割には気絶する前と同じく不明瞭なままの意識だが。

 

「……目が覚めたようですね」

 

頭上から声が降ってきた。

牡丹の声だった。しかし弱々しい声だ。

 

何があったのだろうかと思い、疲れ果てた身体を起こす。

……というか寒い。

 

雪が降ってるし。そりゃ寒い筈だわ。

それにしても紅いな。血か?

 

……おかしい。

あの時、原爆を防ぎきった時には仲間の殆どは蒸発していて、人間もいなかったのに。

 

雪が降ってきたのは絶対に私が意識を失ってからだ。

それでこんな真っ赤になる程に血が散らされているのなら……増援!?

 

そこでやっと牡丹に目を向ける。

 

「は……?」

 

在るべきものが無かった。

牡丹の腹にはでかい空洞が出来ていた。

 

「何が……」

「増援だ」

「……鋼楔も」

 

鋼楔は、片手が無かった。

牡丹も鋼楔も身体中から血を噴出させていて。

もう長くは無いと一瞬で判ってしまった。

 

そして、やはり増援だった。

大方、シェルターか何かに隠れていたのだろう。迂闊だった。

もっと考えて撃っていれば、こんな事にはならなかったのではないか?

 

───私の所為で、二人が?

 

「あ……あぁ……」

「……貴女の所為じゃ、ありませんよ」

 

考えていた事をあっさりと見抜いた牡丹が、優しげな顔で宥めるように私の頭に手を置いた。

 

「でも……私が気絶してなかったら!」

「そんな事は無い」

 

鋼楔が強い語調で否定する。

 

「……貴女の、責任じゃ……決して」

「牡丹……?」

 

頭に乗せられていた手が滑り落ちた。

そして、その震える手で私の頬を撫でた。

周りの雪よりも一層冷たい、死者の冷たさだった。

 

「あぁ……もう、時間……ですか」

 

力無く微笑むと、寄り掛かるようにずり落ちてきた。

その身体は、蒼白な肌は、手と同じ死の冷たさを放っていた。

 

「……さよ、なら……どうか、自分を、恨まず……」

 

それが最期の言葉だった。

 

「嫌だ……そんな……」

 

鋼楔を見る。

 

「……あんたは、死なないよね……?」

 

無駄だと解っていても、認めたくはない。

鋼楔なら、すぐに回復して、また、笑ってくれるよね?

 

しかし、鋼楔は無言で首を振るばかりで。

 

「……何でさ、何で……」

 

もう精神は壊れかけていた。

それが自分でも嫌という程判った。

 

自責と後悔と怨嗟と悲嘆で、心が狂気に晒されていくのが判る。

それでも仲間の、好きな人の死に対しては何も感じられない事が、何よりも私の心を滅茶苦茶に破壊していった。

 

あれだけの人間を殺しておいて、自分勝手にも、自分の仲間が殺されたから泣く。

そんな、普段なら何とも思わなかった事も壊れかけた精神には響いた。

 

「…………」

 

どう、という音とともに鋼楔も地に倒れ臥した。

何も言わずに。

責める事も慰める事もせずに。

 

「ぁ……あ……」

 

耐えられなかった。耐えられる筈がなかった。

 

 

「ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 

狂った。

 

喉から絞り出すような悲鳴を上げて、血を吐かん勢いで叫び、喉が嗄れてもなお泣き叫び続けていた。

 

狂狂(くるくる)と意識が廻った。

頭が掻き混ぜられた。

 

 

 

「……………………」

 

いつまでそうしていただろうか。

喉が潰れ、声が出なくなって涙も枯れ果てた。

 

ただ一つ。目の前の光景を頭に、心に、刻み込んだ。

 

この光景を、焼き付けた。

 

紅く紅く染まった雪を。

 

この景色だけは、忘れてはならない。

 

だから、名付けた。

 

自分の名前とした。

 

少女から貰った名前に、一つ。

 

 

 

───『紅雪』と。

紅に染まった雪。紅い雪、と───

 

 

 




これにて第一部は完結となります。

第二部からは、少し原作キャラが増えてくる予定です。



・キャラの特徴・

・名前:紅雪
・性別:女
・種族:吸血鬼(?)
・性格:子供っぽいが、見た目よりは大人な性格。

白無地に紅い帯の着物を着た、超ロングヘアの幼女。
血のように紅い瞳と蝙蝠のような翼から、吸血鬼だと思われるが、まだはっきりとはしていない。
人妖大戦の時に『無効化する程度の能力』が発現した。
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