古き幻想の紅い雪   作:珀靈雪魄

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第7話:白嶺? いいえ博麗です

「むー……」

 

……眠い。十分に睡眠が取れてない。

それもこれも、駄鬼の所為だ。

 

傍らで眠っている黒百合を一瞥し、そして自分の身体に視線を戻す。

 

……見事に裸だね。うん。いったい何があったんだろうね。早く焼くべきかな。このクソ鬼。

 

実は、昨日駄鬼の住処に入ってご飯をよばれてから一切の記憶が無い。

 

酒を呑まされた事は判るのだが……嫌な予感がする。

どうしよ。酒呑んでから何をしでかしてしまったんだ私は。

 

元々私は一介の男子高校生だった身だ。

無論、そこらの恰好付けたいお馬鹿さんじゃなかったから(親父に無理矢理呑まされた事はある。クッソ不味かった)自主的にはだが、酒なぞ呑んだ事は無い。

だから、酒に強いかどうかなんて判らなかった為についつい勧められるがままに呑んでしまったが、どうやら私は酒に弱かったらしい。幻想郷では絶望的だ。

 

取り敢えず、下着を着け、脱がされた着物を纏い、呑気に寝ている馬鹿鬼の頭を蹴り飛ばした。

 

「痛……っ!? ……何をするか、俎板!」

「…………」

 

言うに事欠いて俎板ですか。そうですか。

そりゃあ馬鹿じゃないんですから私だって自らの体型なんてとうの昔から判りきってますよ。ええ。

今度は腹を踏み抜いた。寝起きだから妖力の制御が上手くいかないらしく、鬼の鋼のような身体だと言うのに穴が空いた。キモい。

 

そして瞬間的に治った腹を摩りながら、私の顔を見て……頬を染めた。キモい。怖い。つーか服着ろ。余計なものが見えてしまう所為でストレスがどんどん溜まるんだよ。

私が苛立ちながらドン引きしていると、頼んでもいないのに昨日の夜の事を語り始めた駄鬼。

 

「───でな。昨日のお主ときたら事ある毎に妾の名を呼んでな、抱き着いてくるのじゃよ。愛い奴よの」

「……っ!?」

 

駄鬼が己の身体を両腕で包み込むように抱き締めた瞬間、私の背筋が凍り付いた。キモい怖い変態。

 

つーか……そんな事してたのか。昨日の私。

もしも時間遡行が出来るのならば、昨日の私を全力で駄鬼から遠ざけたい。

それよりも、何で裸だったんだ。私の貞操はどうなったんだ。おいこら。

 

「むふふ。愛い奴よのぉ……」

 

終いにはくねくねと身悶えながら、此方を熱っぽく見つめてきやがる。

ぞくぞくぞくっと、寒いような恐ろしいような感覚が私の全身を通り抜け、そこら中に鳥肌が立った。

 

もはやあまりの怖さに涙目になっている(演技)私を見て更に興奮しだした。しまった、逆効果だ。

良心や良識なんぞ欠片も無い変態レズロリコンな鬼は、じりじりと、たわわに実った無駄肉を揺らしながら私に迫ってくる。

出るとこは出て、引っ込むとこは引っ込んでいる。そんな見事なプロポーションを自慢しているのか。私に対する当て付けなのか。

 

どうしよう。今の私じゃ相討ちが精々だ。

三十六計逃げるに如かず。それしかないか。戦いに於いて逃げる事は卑怯でも何でもない。

しかし……難しいか。

あの時私に使った能力。あれは恐らく……『引き寄せる程度の能力』だと思う。

 

よく考えろ。

引き寄せられる→抱き着かれる→膂力は鬼に軍配が挙がる→もうどうしようもない→ゲームオーバー。ほらこんなもん。

 

ならば。

 

……どうしよう?

というか、今能力使われただけでもゲームオーバーじゃん。どうあがいても絶望。

 

「あ。そうじゃ」

 

こんな時に。

 

「これを使えば良かったのぉ」

 

そんな事を、思い付くんじゃねーよこのド変態!

 

為す術もなく引き寄せられてる可哀想な私。

そして、接触。胸の感触など気にならなくなるくらいに、私は身の危険を感じている。

 

「冗談……だよね? あ、あはははは」

 

乾いた笑いが薄暗い岩窟に虚しく響く。

 

「…………」

 

駄鬼は、実にいい笑顔で私を見ている。

 

「…………」

 

私は、自分の顔が引き攣っているのが判った。

 

 

 

 

 

☆○☆☆○☆☆○☆☆○☆

 

 

 

 

 

「……っ、うぅ……」

 

もうやだ。もうお嫁にいけない。身を固める気は微塵も無いけど。

 

「……ふぅ」

 

打ち拉がれている私とは対照的に、艶々とした顔で満足そうに息を吐く駄鬼。

もうやだこの鬼。早く、早く癒しが欲しい。原作キャラという癒しが。

まず会うのは……諏訪子かな? というか、諏訪大戦ってまだ起きてないよね? 起きてたら最悪だ。

まぁまぁ、焦っても仕方が無い。

今を生きていこう。不本意ながらも充実した生活だし。

 

まずは……。

 

「…………」

 

ここから退避しなきゃね。

 

幸い着物を脱がされずに済んだので、なるべく物音を立てないようにひっそりとこっそりと、抜き足差し足で駄鬼から離れる。

 

「……む?」

 

やべっ、見付かった!

 

計画は失敗。仕方無い、プランBだ。

 

ここいらの妖怪の中では間違いなく最速と言える、ブン屋も斯くや、の速度で一気に駄鬼の塒を後にする。

 

「ふぃー……何とか出られたけど……」

 

変態駄鬼から離れて一安心。

 

さて……これからどうしようかな。

 

まずは、村で情報収集だな。それに限る。

思い立ったが吉日。最速で麓まで飛んでいく。

 

 

 

そして、麓に辿り着くと羽根を仕舞って普通に歩く。

……この辺からは村の人間達に見付かる可能性が出てくるからね。

 

そしてふらふらと歩いていると背後より気配(と言うかよく判らない力の波動。間違いなく人間じゃない)を感じたので、振り向き様に蹴りを放つ。

 

「うわぁ!? ……こほん。こんばんは。随分と妖力の強い妖怪のようですが、貴女は?」

 

……こいつ、驚いたのを無かった事にしようとしてるよ。

 

「人にものを訊ねる前に、自分から名乗るのが礼儀ってもんじゃない?」

 

すると目の前の変な青年らしきものは、これは失敬、とばかりに恭しく頷いて、自己紹介を始めた。

何処と無く私を小馬鹿にしてるよな。この野郎。いったい何様だ?

 

「わたくしは天よりの遣いで、神様なんかをやっております」

「…………」

 

神様らしい。にわかには信じ難い話だが……この力、もしかして神力じゃないのか?

何となく神々しさは感じるんだよね。本人の人格は兎も角。

 

「して、貴女はいったい何者ですか? そこまでの妖力、見た事も聞いた事も無い」

 

んー……そう言われても。適当に年齢でも仄めかしとくか。

 

「そりゃ億は生きてるからねぇ」

「はい? ……億ですって!? それって、大戦の……?」

 

いきなり取り乱してきた神様。何をそこまで驚いてるんだろうね。

 

「人妖大戦の事? 戦ってたけど……」

「こ、これは一大事! わたくしは天上界に戻ります故、これにて失礼──」

「まあ、待ちなよ」

 

慌てふためいて今すぐにでも飛び立ちそうだった神様の肩を掴んで、よく判らないがビビってるっぽいので威圧する。

何よりも、人妖大戦の事を知っているらしいからねぇ。色々とオハナシしなきゃね?

 

「ひぃ!? ままま、待ちます!」

 

ありゃ。これはどうした事だ。

神様か何か知らないけど一妖怪でしかない私の何を怖がる必要があるんだろうね?

うーん……永く生きてるだけじゃん。

 

そして、その神様(笑)から話を聞き出す為に尋問……しようと思ったけどあまりに情けなくて可哀想だったから止めた。

 

まず、人妖大戦についてを訊いたのだが……。

遥か昔、実験という名目(面白半分)で世界を創造して人間と妖怪という種族を創ったらしい。傍迷惑な。

そして、干渉し過ぎると実験にならなくなるとの事で、一切の手出しをせずに傍観していた所、双方が勝手に戦争起こして勝手に滅びたから、これは不味いと思って、今度は色々と手出しをして実験しようという話になった。

そして世界を広くして、再び人間と妖怪を創り出し、今はバランスの調整中だという。

 

「はぁ……何か馬鹿馬鹿しくなってきた」

 

次に、どうして人妖大戦の生き残りがいたからといってそこまで大騒ぎするのか、という話をした。

 

……歴史書の内容が変わるらしい。

ただ、それだけ。

 

あまりにも馬鹿馬鹿しくて二の句も継げないでいると、神様(笑)が別れの言葉とともにバタバタと慌ただしく飛んでいったので、もういいやと思って当初の予定通りに村を目指す事にした。

 

 

 

「あー……色々と萎えたわー」

 

斯くして村に到着した私は、減気に情報収集をしようと人通りの真ん中を練り歩いていた。

 

やはり結構な人数だからか、聞き込みをするまでもなく、結構色んな情報が耳に入ってくる。

 

例えば、隣のお婆さんがボケてきただの……あれ、これ前にも聞いたな。遠くの村では土着信仰が根付いているとか……これだ!

よくは解らないけど、これだけ離れた村にまで届く程に有名な……しかも土着神と言えば、十中八九、諏訪子の事だろう。

 

いやぁー……諏訪大戦はまだだったのか。

よっしゃ、これはワンチャンあるぜ。

更に深く聞こうと耳を澄ませていると、追加の情報が。

どうやら、つい最近の出来事らしい。

それなら、諏訪大戦が起こるまでまだ余裕はある筈だから、のんびりしてようかな。

 

どうせなら、神力とか身に付けてみたいよねぇ。

んじゃ、適当にこの辺の人妖でも手伝ってこうかな。

 

……本当に、充実した日々だよ。まったく。

生きて、一緒に見て回りたかったよ……皆。

 

 

 

 

 

☆○☆☆○☆☆○☆☆○☆

 

 

 

 

 

あれから何十年か。

 

色々と、人間の為に行動してきた。

まずは、悪人を妖怪のいる森や山に放つ。これは妖怪にも人間にも喜ばれる事だ。

妖怪にとっては、餌が何も持たずに外を彷徨いているんだから簡単に手出しが出来ていい。ちょっとは足掻くだろうから、与えられるが儘に喰らうだけの飼い殺し状態には至らないだろうし。

人間にとっては、自分達の生活を脅かす悪人がいなくなる上に恐ろしい妖怪があまり村に来なくなるのだから、安心して暮らす事が出来る。

……別に妖怪の為にやっている訳では無いのだが、恨まれたりしたくはない。比較的友好的に接していきたいし。

 

悪人と言っても、そうしなければ生きていく事が出来ないという奴らではなく、心が腐っていると言うか人格が悪いと言うか、根っからの悪人だけを外に放り出している訳だけど。

前者には、後者から奪い取った金品を渡して、村の皆に謝りにいかせるよ。私はそうしてきた。

幸い、心優しい人間が揃っていたお蔭で村から追放とまではならなかった。これが狭量な人間の集まりだったらと思うと……。

 

他にも、森で鍛えている時に圧し折れた樹木を村に届けたり(木材)とか、村の青年達の指導を受け持ったりとか、駄鬼の襲撃から村を護ったりだとか。

 

そんな事を続けていると、数十年経っても姿が全く変わらない事もあってか、神様みたいに思われたのだ。

それからは、村の皆から崇め奉られたりして居心地が悪かったから集会で普通に接してくれと頼んでみたり。

 

そうしたらそうしたで、村の老人に孫娘のように扱われたり。何となく擽ったいが、まあ嫌ではなかった。

駄鬼? あいつの塒にはあれから行ってないよ。

 

そして、神格化したと同時に私の身体から未知の力――あの時の神様っぽい人と同質の力だ――が発せられるようになった。神力である。キタコレ。

 

しっかし、凄まじい力だねぇ、これ。

体感で……妖力を一とすると、神力は十程度かな。

尤も、私の場合は妖力が絶大だから神力の方が弱いけど。まあ仕方無いか。神になってすぐだし。

これから信仰でも集めていこう。

 

諏訪大戦まで、まだある。

 

 

 

そして、数日後。

 

「子供が産まれた?」

「はい。紅雪様」

 

村に来てすぐに私が関わったあの霊力が凄い娘である。

結婚して子供作ったんだってさ。因みに女の子。

んで、今見せてもらってる訳なんだけど……。

 

「……何だこの霊力」

 

すげぇ。親よりすげぇ。

神様! 早くバランス調整してくれよ! 色々インフレしてるよ! あ、私も神様だった。

 

「そうなんです……そこで、この子を鍛えてやって欲しいのですが……」

「はぁ……私が?」

 

まぁ言わんとしてる事は判る。

ここまでの霊力を持つ人間だ。鍛えて霊力を上げ、ゆくゆくは神である私に仕えさせる事によって霊力を更に増幅させたいんだろう。

確かにそうすれば誰も敵わなくなる程に成長する。

だが、娘にそうさせる意図が解らない。

 

それを問うと、「紅雪様のお手を煩わせたくない」らしく、そう言ってきた。まあこの娘っぽいっちゃこの娘っぽいんだけどね。

堅苦しい態度を取るのはやめてくれと言っているのに変わらず敬意を払って接してくるのだ。

もう言っても無駄っぽいから諦めてるけど。

 

何でも、男と交わって純潔ではなくなった自分では私には仕えられないらしく、娘にその代わりをさせたいと。

……でも、それは。

 

「……あんた。自分の言ってる事は解ってる?」

 

自分の娘に、結婚するなと、人として暮らすなと、妖怪であり神である得体の知れぬ存在に仕えろと、そんな身勝手で残酷な事を言っているのだ。この娘は。

 

「……はい。解っております」

 

滲ませた怒気に敏感に反応して、戦々恐々とだが、しっかりと私の目を見て頷いた。

私に嫌われる事も子供の人生を狂わせる事も全て承知の上だと、その眼は語っていた。

 

「……そこまで言うなら請けるよ。ある程度の年齢になったら私の前に連れてきて」

「……有り難う御座います。……申し訳御座いません」

「謝るなら子供にね」

 

それだけ告げるとさっさとこの里から離れた。

何と言うか……居た堪れない空気だったからだ。

 

 

 

そしてその時はやってきた。

 

あれから九年経ち、あの子供は九歳となった。

 

その頃には、特に訓練も何もしていないのに、その霊力は倍増していた。

……うん。もうね。天上界に殴り込みに行こうかと。

 

「───で? 本っ当にいいんだね?」

「はい」

 

心変わりして欲しかったよ。まったく。

 

その子供、〇〇を引き取った私は、この村を後にした。

神様と言えば巫女。巫女と言えば神社。

実は、神社代わりになりそうな建物なら、木材調達をしていた時に見付けていたのだ。

誰も住んでいない上に、霊的要素も無い。

つまり、この建物に憑いている霊や神はいないという事。

 

まあ絶好の物件である。

そこを少し改築して、神社として使おうという腹だ。

不法侵入? 知らんな。

 

さて。霊力を強くする方法は色々とあるのだが、最も手っ取り早いのが神に仕える事である。

妖力は歳を取れば増える──人間を喰らえば加速度的に増えるけど──し、神力は信仰を得れば増える。

魔力に関しては、触れた事が無いからあんまし解んない。

 

「───あの、紅雪さま」

「んー?」

 

〇〇が声を掛けてきたので、思考を中断して返事をする。

 

「よろしくお願いいたします」

「……お、おう」

 

何か九歳とは思えない落ち着きっぷりだ。あの親よりも落ち着き払ってるし。

濃密な霊力と相まって、どこか静謐な雰囲気を湛えている。

 

……やべぇ。私よりも大人っぽい。

 

 

 

 

 

☆○☆☆○☆☆○☆☆○☆

 

 

 

 

 

「着いたよ」

 

着いたのは、ちょっとボロいだけの普通の建物。

夕日に照らされて余計に寂れた感じが……いや、でもこれ、上手く改築すれば化けるよ〜?

 

……実は、すぐ終わるんだけどね。

神力は便利だよ。ほらこんな風に。

 

「……すごい」

 

指を弾いた瞬間、がちゃがちゃと騒がしい音を立ててボロ屋が魔改造される。

そして完成したのは、二人程度ならちゃんと住めるぐらいの広さの、立派な神社だった。

 

〇〇も驚いてるよ。やったね。

 

さてさて。まずは内装でも整えましょうか。

 

〇〇よりも先に神社に入ると、また神力を使って魔改造する。

最初に撤去。次に家具作成と配置。最後に簡素な結界を張る。結界といっても、念じただけの本当に簡単なものなんだけど、そこそこ使えるっしょ。

 

上がってきた〇〇が目を丸くしていた。よしよし。

 

 

 

そして、何か夕食を作ってくれる事になった。食材や調味料までばっちり創ったので無問題。

……まあ、私が作る事にならなくて良かったよ。以前(大戦前)牡丹に料理を習ってから実際に作ってみた時に、とんでもない毒物が出来上がった事は、朧気ながらも憶えている。

 

ぽけーっと座布団に座って卓袱台を眺めていると、料理が運ばれてきた。白米、味噌汁、焼き魚などなど……まあ典型的な和食だ。

 

「「いただきます」」

 

合掌。

 

取り敢えず、適当に目に付いたもの(焼き魚)をぱくり。

……あ、美味いわ。グルメリポーターとかそんなんじゃないから碌なコメント出来ないけど、ただ一つだけ言える事。

また一口。うん美味い。

 

「……お口に合いましたでしょうか?」

 

おずおずと訊いてくるので、率直に答える。

 

「ん。美味しいよ」

「……よかった」

 

胸に手を当てて安堵したように息を漏らす〇〇。表情には嬉しいという気持ちが表れている。……何か、可愛いじゃねぇか、ちくせう。

 

僅かに覚えた気恥ずかしさを紛らわす為にも、一気に飯を掻っ込む。うめぇ。

 

「ご馳走様でした」

「お粗末様でした」

 

そして、完食。

 

「ふぅ……」

 

淹れてくれたお茶を啜って一息吐く。やっぱり茶は最高だよねぇ……生前も永琳の研究所でもよく飲んだものだ。

 

……それにしても。

 

「本当に良かったの? 勝手に人生決められてさ」

「はい。私にとっては紅雪さまに仕える事こそが至上の喜びですから」

「…………」

 

うーん、困った。

私はそこまで立派な神じゃないんだけど……そもそも、神力という力が欲しいからという欲望丸出しの考えの下に神格化した妖怪だからねぇ。

んな崇められる程の器じゃねぇっての。

 

……まあ、取り敢えずは言われた通りに〇〇を鍛えようかな。でもその前に。

私は眠いのだよ。だから寝る。

 

「紅雪さま?」

「あー、私は先に寝るよ。特訓は明日からね」

「はい。お休みなさいませ、紅雪さま」

 

寝室への襖を開けると、そこには布団が二組敷かれていた。……自分でやっといて何だけど、凄く便利だよねぇ神力……。

 

まずは着物を脱いで、衣紋掛けに掛ける。

あの失態から下着の類は着けている(何回も駄鬼に脱がされている)ので、このまま寝る事が出来る。

 

はいお休み。

 

 

 

───〇〇の朝は早い。

日が昇る前に起きて、私が惰眠を貪っている間に家と庭(?)の掃除をして、朝食を作り、それから私を起こしに来るのだ。

 

「紅雪さま、朝ですよ」

 

声が掛かり、身体が揺さぶられる。

誰だ? 私の安眠を阻害する輩は? ……〇〇だった。

 

「うぅーん……後五分…………はっ!? そうだ。特訓しなきゃいけないんだった」

「あ。お早う御座います、紅雪さま」

「お早う。今は……」

「明六つ時で御座います」

 

……明六つ時って、何時?

えーと、えーっと……明けは午前って意味だよね? んで、六つだから……朝の六時か!

 

「朝餉の支度は出来ておりますので」

「うーぃ……眠い」

 

遠ざかっていく〇〇の背中を見送った後、のっそりと起き上がり、着物を身に纏って帯を締める。

 

そして、朝食を摂りに居間へと向かった。

 

 

 

「───んで……まずは霊力を扱えるようにしなきゃならない訳だけど……」

 

食後、〇〇を連れて庭(荒地)に突っ立って霊力について教えようとしているのだが、何分にも霊力を扱った事が無いのであまり解らないのである。

 

定義というか、原理みたいなものなら解るんだけど……基本的には修行をしたら上がる。

修行……と言っても、瞑想したり滝に打たれたり、死者に関わったりとかでも上がる等、多岐に亘る。勿論妖怪退治でも上がる。その中でも最も伸び率が高いものが、神職に就く事なのだが……。

 

……ごめん。正直何をしたらいいか全然判んない。

差し当っては、霊力とはどういうものなのかを〇〇に話そうか。

 

「えーと……まずは霊力とは何か、って話なんだけど……」

「はい。……私達人間が持っている特異な力の事で、修行をしたり神様に仕えたりすると上昇するものです……よね?」

 

おお。霊力の事は知ってたのか。

これなら話は早い。早速特別トレーニングを実施したいところだけど、何がいいんだろ。

 

「ん。おおよそ合ってるよ。で、どう鍛えようか悩んでるんだけど……体力に自信はある?」

「はい。村の同年代の方の中で一番と言われています」

「女子?」

「いえ。殿方も併せて、です」

 

マジかよ。何つー女子だ。化け物じみてやがる。

 

「んじゃ、取り敢えず───」

 

 

 

 

 

〇〇の特訓の内容、それは。

 

腕立て百回、腹筋百回、スクワット百回……これを5セット。……嘘みたいだろ? これ、こいつが希望した事なんだぜ?

 

それから、私相手に殴り合い。

とは言っても、これは流石に私が攻撃する訳にはいかないから兎に角躱しまくるだけ。躱すサンドバッグ。

まぁ、あの特訓メニューを聞いて吃驚したけど、やっぱり地力は人間のもの。どれだけ殴り掛かろうが蹴り放とうが当たりはしない。当然の事だ。当然の事だからこそ……当たったら泣くよ? 私は。多分、恐らく。

 

「はぁっ!」

「……っ!?」

 

頭で色々考えていて動きが若干鈍った瞬間、気合いの入った一撃が私の頬を掠めた。

……何か、どんどん動きが早くなってきてない? あれ? ちょっとこれ本気でヤバくね?

 

右からのフック。躱す。左からの打ち下ろしは半歩ずらして躱す。下げた足に向けての足払いも身体を半回転させて避ける。右の肘打ちは身体を捻って躱す。真上からのチョップは……避けきれない、大きく移動して何とか躱す。

 

「……本当に人間?」

「……せいっ!」

「ぅわっ!?」

 

身体を起こして体勢を整えるつもりが、そこに被せられた攻撃の前に更にバランスを崩してしまう。

……本気じゃないとは言え、これだ。〇〇……空恐ろしい。

 

「……はい。ここまで!」

「ふぅ……有り難う御座いました!」

 

汗を拭う仕草が妙に様になっている。

……見た目からは想像も付かない程の武闘派の少女だった。あの細腕の何処にそんな力があるんだよ。風切り音が凄まじかったぞ。

 

……本当に、末恐ろしいよ。とんでもない娘がいたもんだ。体術だけなら、本気を出してないとはいえ私と互角程度なのだから。

こりゃ体術鍛えないとな。うかうかしてたら追い越される。巫女に勝てない神様とかそれ駄目でしょ。

 

……はぁ。何か憂鬱だ。

 

 

 

 

 

☆○☆☆○☆☆○☆☆○☆

 

 

 

 

 

───六年後。

 

「紅雪さま。どうですか?」

「似合ってるよ」

「本当ですか? ……有り難う御座います!」

 

親から届いたという箱の中には、綺麗に畳まれている綺麗な緋袴と白衣があった。所謂巫女装束だ。

それを着た〇〇の姿は、私の陳腐な表現力では到底表せない程に美しく、淑やかであり、それでいて凛とした……やめよう。言葉は無粋だ。

 

何で六年も経ってから贈られてきたのか解らない? いやいや、本当はこれは巫女になってからすぐ届いたらしいんだよ。それでも〇〇は、まだ巫女に相応しい実力が無いからとか何とか、そんな理由からずっと着なかったのだ。

 

そして今。巫女服に身を包んでいるという事は。

そう。自他共に認める巫女と相成ったのだ!

 

……霊力の練り方から扱い方、霊撃の原理。勿論巫女としての仕事も完璧だ。六年という短期間でそこまで辿り着いた。それだけでも十分に凄い事だ。誇ってもいい。

それなのに、鍛錬の過酷さは更に増していった。

六年前の最初の鍛錬の、およそ十倍。人間に出来るものじゃない。それでもそこは吃驚する程度のものだ。

最も恐ろしいのが、霊力を自在に操れるが故の不可視の一撃。

どういう原理なのかは聞いてもよく解らないから忘れ去ったけど、霊力を集めて研ぎ澄まして放つと同時に極限まで霊気を消して相手に当たる直前に最大限に開放する。確かこんな感じだったと思う。

 

威力は圧巻の一言。

生身の人間なら一発で原型が判らないくらいに拉げると思う。私でも内臓が破裂した上で昏倒するかもしれん。

いや、来ると判っていたら無効化出来るんだけど、体術の中にそれとなく組み合わせているから、やり辛い事この上ない(体験談)のだ。

百メートルは届く強烈な『霊撃』だけど、近距離でもその猛威を振るうから恐ろしい。

 

そして、その化け物具合で村の人々から畏れられつつも頼りにされている〇〇は、実際に妖怪退治も経験しているから私がいなくても何とかやっていけそうだ。

 

……そろそろ諏訪大戦が起こるだろうから、諏訪湖目指して飛んでいかなきゃならないし。

 

 

 

出立前に村で聞いた話だが、私の神社が白嶺(はくれい)神社とか呼ばれているらしい。

……うそーん。これってもしかしなくても博麗になるよね? だって駄鬼の住んでる山が妖怪がうじゃうじゃ集まっていて妖怪の山っぽいし。位置関係からもその可能性が高い。そしてこの村が人里になると。

 

此処が幻想郷予定地なのか。それなら尚の事、私が干渉し過ぎる訳にはいかない。

さっさと洩矢神社(そう呼ばれている)に行こうか。

 

 

 




〇〇というのは、意図して名前を隠しています。
明かすとしたら、多分物凄く後になるかもしれませんね。

そして博麗神社の基礎が出てきました。
着実に幻想郷確立への道を歩んでいっていますねぇ。
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