3月になり、プロム当日になった。すべては順調だった。
公開告白も断られたり、成功したりその度に盛り上がった。
だがある時、3年男子の一人が告白相手にパートナーの女性ではなく
雪ノ下雪乃を指名したのだ。
パートナーの女性も了承してるらしく、応援にまわっている。
そうなると俺も俺もと他の3年男子や手伝いのはずの2年や1年男子まで
半分くらいは悪ノリだろうが、雪ノ下への告白に参加した。
その時葉山が俺をじっと見つめた後、葉山までもが告白に参加した。
会場は盛り上がってはいるが、運営側は困惑の表情をうかべている。
三浦にいたっては顔面蒼白で「隼人、なんで・・・・・・」と崩れ落ちそうになっている。
プロムは卒業生のためのイベントだ。
みんなの葉山隼人が悪ノリを上手く治めるならともかく、自ら参加するなんて誰も想定していない。
一人づつ男子が手を替え品を替え、様々な告白を行うも氷の女王の前に撃沈していく。
土下座を敢行したり、明らかに受け狙いに走るヤツも居て空気が少しづつ弛緩していった。
結局、余興の一つで終わりそうという安堵に満ちた空気になりつつも
最後に葉山が待っている事がいまだ緊張感を持続させている。
そうして最後、いよいよ葉山の告白の番になった。
「あえて『雪乃ちゃん』と昔の呼び方で呼ばせてくれ。
俺と雪乃ちゃんは幼馴染で、昔はいつも一緒に居た。
でも小学生の時、俺の行動が発端となって雪乃ちゃんはいじめられ
最終的に見捨てるような形になってしまった。
その後も俺は雪乃ちゃんじゃなく、陽乃さんを選んだ時もあった。
でも、ずっと後悔していたんだ。
その後悔から俺は・・・・・・誰も、何も選ばない日々を送ってきた。
でももう俺は、みんなの葉山隼人を辞める。
雪乃ちゃんの葉山隼人でありたい。
好きだ。俺と付き合ってほしい」
雪ノ下が目を見開き動揺する。
他の男子にどんな告白を受けても、揺るぎもしなかった表情が崩れかかっている。
そしてほんの一瞬、俺と由比ヶ浜の方を見て、1歩づつ葉山の元へ歩いていく。
ああそうだ。文化祭の時と同じように、俺は眩しいステージには立てない。
あの時のように飛び跳ねるアリーナに混じれず、振られた奴らのように賑やかしにもなれない。
光のある舞台に近づく事すらできない。
結局俺は、隅でただ眺めているだけの傍観者だ。
自分の今の感情がわからない。
「葉山くん・・・・・・あなたの告白を受け」
「待って!」
突然、由比ヶ浜が声をあげた。
「由比ヶ浜さん・・・・・・」
「・・・・・・結衣」
雪ノ下と葉山が少し驚いているが、周りもざわついている。
「嘘つき!・・・・・・ゆきのんは嘘つきだったんだね」
「・・・・・・」
「ゆきのんは自分の気持ちに嘘をついてまで、全部諦めてヒッキーをあたしに譲るの?
バカにしないでよ!
あたしはヒッキーが好き!初めて会った時からヒッキーはあたしのヒーローで
でも本当のヒーローみたいに強くないから、いつもヒッキーは傷ついて・・・・・・
だからもうヒーローじゃなくて良いから、ただ傍に居て欲しかった!
でも嘘が大嫌いな親友に、嘘をつかせてまで欲しくない!」
「私は比企谷くんのことなんて・・・・・・」
「何とも思ってない?」
「それは・・・・・・」
「あたし引越しの手伝いした時、見ちゃったんだ。
ディスティニーのスプライドマウンテンのヒッキーとゆきのんのツーショット写真
なんとも思ってない人の写真を、お金を出して買ったりしないよ・・・・・・」
「違うの!・・・・・・あれは、気の迷いよ」
「うん。あたしが聞いたら絶対否定すると思ってた」
「依存とか気にしてるの?誰にも何にも依存してない人なんているの?
もし居るならその人はとても強いけど、ひとりぼっちの寂しい人だよ。
ヒッキー・・・・・・あたしからの依頼だよ、ゆきのんに告白して本当の気持ちを聞いてきて」
「・・・・・・由比ヶ浜、ごめん。あと、ありがとうな」
「そっか・・・・・・うん」
「おかげで目が覚めたわ。行ってくる」
「うん。いってらっしゃい」
歩き出す直前に、うつむいた由比ヶ浜の「やっぱ格好良いなぁ」
というかすれるようなつぶやきは聞こえないことにして歩き出す。
雪ノ下の前に立つ。足が震える。でも、もう逃げられない。
「雪ノ下、俺は最初お前に俺と近いものを見出していたんだ。
その完璧な超人性は俺が目指して会得せんとしたものだった。
孤高を貫き、己が正義を貫き、理解されないことを嘆かず、理解することを諦める。
常に美しく、誠実で、嘘を吐かず、依る辺がなくともその足で立ち続ける。
その凍てつく青い炎のような、綺麗で悲しいまでに儚い立ち姿に俺は憧れていたんだ。
そしてそんなお前を守りたいと思っていた。
でも、失望した。幻だったんだそんな姿は。
『憧れは理解から最も遠い感情だよ』とは良く言ったもので
勝手に理想を押し付けて、勝手に理解した気になって、勝手に失望した。
事故のことを隠し通していた雪ノ下雪乃を許容できない、自分自身に失望した。
雪ノ下は完璧な超人じゃなかった。
ただ必死で、姉の影を追ってそう在ろうと、取り繕っていただけだった。
届かない理想を追い求めて、無様に足掻き続ける、負けず嫌いで挑発に乗りやすい
体力の無いパンさんが大好きな、ただの女の子だった。
でもやっぱりそんな姿も綺麗で、守りたいと思った。
俺達の関係は共依存だとお前の姉に言われた。
お前は俺に頼り甘え、もたれかかかり
俺は頼られる事で気持ち良くなり、自分の存在意義を確かめていたと。
ある面では正しい分析なのかもしれない。
こじつければ悪し様になんとでも説明できる。
でも共依存は仕組みだ、気持ちじゃない。
感情はロジックじゃないんだ。
俺達の間には依存心以外、何もなかったのか?
依存を取り払った時に何も残らないのか?
あの時、スプライドマウンテンでお前が「いつか、私を助けてね」
そう言った時、俺は雪ノ下雪乃に恋をした。正確には恋を自覚した。
歪かもしれないが、歪なら正せば良い。
その恋が歪だとしても、間違いだったとしても
間違っているなら、何度でも直せば良い。
俺はたぶん、本物が欲しかったんじゃない。
本物を一緒に見つけに行ってくれる人を求めていたんだ。
俺は雪ノ下雪乃をもっと知りたいんだ。理解したい。
この大切な女の子を守りたい。
他の誰に任せることなく、俺が守ってあげたい。
それが好きという感情なら、俺は雪ノ下の事が好きなんだ。
雪ノ下、俺と付き合ってほしい」
夢中で言葉を紡いでいた。支離滅裂だったかもしれない。
伝わらなかったかもしれない。でも言いきった。
真っ直ぐに俺の目を見て、雪ノ下が答える
「たぶん、比企谷くんに甘えてしまうわ」
「由比ヶ浜が言った通り依存自体が悪いんじゃないと思う。
それを自覚せず、向き合わない事が駄目なんだ」
「私は面倒くさい女よ?」
「面倒くささなら、俺だって負けてねえよ」
「比企谷くん。私もあなたや由比ヶ浜さんに憧れていたわ。
憧れは理解から最も遠い感情・・・・・・確かにそうね。
理解したつもりで、自分で勝手に決め付けて・・・・・。
私の出来ないことをあっさり出来てしまう
あなたに嫉妬したり、尊敬したり。
私を守ろうとしてくれるのは嬉しかったけど
その度にあなたが傷つくのが本当につらくて
でもその姿がとても愛おしくて。
好きよ。比企谷くん、たぶんずっと前から。
私と付き合って下さい」
「ああ。よろしく頼むわ」
気の利いた事も言えず、雪ノ下を抱きしめる。
そして会場は爆発したような大盛り上がりに。
「その、葉山くんごめんなさい」
「いや、勝算の低い賭けなのはわかっていたんだ」
「比企谷、やっぱり俺は君のことが嫌いだ」
「気が合うな。俺もだ」
「ゆきのん! ヒッキー! おめでとう!」
「由比ヶ浜さん・・・・・・ありがとう」
「ほらカップル成立したら記念写真でしょ?」
「そうだったわね」
「いや、いいだろそれは」
「またヒッキーそんな事言って、本当ひねくれてるなぁ」
◇◇◇◇◇◇
プロムで撮った写真を眺め、懐かしく思いながらタバコの煙を吐き出す。
プロムから程なくして、雪ノ下雪乃は転校した。
原作を見ているとガハマさんが全力で動かないと
八幡と雪乃は付き合えない気がします。
葛藤がありつつも親友の背中を押すガハマさんを見れば
2人も気持ちを吐き出すでしょう。
ここまでしても大団円にならなそうなのが俺ガイル。
渡航先生はここからでも1つか2つは波乱を入れてきそう。
3話で終わる予定が4話くらいまで続くかもしれません。