アクセル・ワールド ――もうひとつの世界――   作:のみぞー

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第9話 《レギオン》

 

 マサト達が初めて《無制限中立フィールド》へと降り立ち、そこに生息するモンスターに手荒い歓迎を受けてから早数ヶ月。あと一月もすれば《ブレイン・バースト》が始動してから1年が経つ、そんな時期……。

 

 数多くのBBプレイヤーたちが先人たちのあとを追い、《無制限中立フィールド》へと降り立っていた。

 そして、最初期の頃のようにBBプレイヤーたちによって発見されていくこのフィールドの仕組み。

 

 たとえどんなに弱そうな外見をしていても、レベル4が束にならないと倒せないフィールドモンスター《小獣(レッサー)級エネミー》。

 そんな彼らを餌としているより大型の《野獣(ワイルド)級エネミー》。

 遠目から見てもその姿を発見できる《巨獣(ビースト)級エネミー》などが発見された。

 

 他にも、ここのフィールドの属性は次々に変わることから《混沌》と名付けられたり、町の中に強化外装やその他アイテムが買える《ショップ》があることが見つかった。

 

 

 そして、いま最も話題を集めているのは《レギオン》の話だった。

 

 《レギオン》

 それはMMORPGのギルドと同じで、仲のいい者同士、同じ目的を持つ物同士、様々な理由で集まった者たちが集まった“軍団”だ。

 《無制限中立フィールド》内で発生するとあるクエストをクリアするとレギオンマスターになれる権利が発生する。

 そしてレギオンを率いてもう一つクエストをクリアすることができれば彼らは《領地》を手にすることができるのである。

 《領地》とはマッチングの区画分け分布と同様の数があり、レギオンが領地を持つとその場所での挑戦を拒否することができるのだ。

 

 そして多くのBBプレイヤーが熱中しているのが他のレギオンの《領地》を奪い合う同数対同数の《領土戦》だった。

 もとよりゲームの大好きな彼らは少数精鋭のチーム、数をそろえ状況に合わせるチーム、一点特化でその分野では他を寄せ付けないチームなどと多種多様の《レギオン》を作りあげ、その実力を遺憾なく発揮しながら《領地》を巡って争った。

 

 特に人気がある《レギオン》は《純枠色(ピュア・カラーズ)》率いるチームだった。

 もとより彼ら個人の知名度が高く、他者を寄せ付けず圧倒的な強さを見せる彼らが率いる《レギオン》は次々と《領地戦》勝ち抜き、テリトリーを広げ、そのメンバーを増やしていった。

 

 渋谷区を中心に領土を広げていく《グリーン・グランデ》率いるレギオン《グレート・ウォール》

 

 そのすぐ近く新宿区を支配するのは《ブルー・ナイト》率いる《レオニーズ》

 

 練馬区は《レッド・ライダー》の《プロミネンス》が陣地を張り、《ホワイト・コスモス》は港区の領土を庇護していた。

 

 そしてここ最近頭角を現し始めている《イエロー・レディオ》、その新たなる《純枠色(ピュア・カラーズ)》は足立区を順調に支配していった。

 

 

 はてさて、この東京23区を削り合う群雄割拠の戦国時代、いまだトッププレイヤーと肩を並べ、《無制限中立フィールド》に入り浸っている《プラチナム・ドラゴニュート》はというと……

 

 

 

 

 

「団長、コレが今週新しく入ってきたメンバーの一覧です。一応目を通しておいてくださいね」

「んん? おう、ありがとうなドラゴニュート(・・・・・)。いつも助かるぜ!」

「いや、コレでも副団長ですから」

 

 ドラゴニュートは自分と同じ《メタルカラー》を持つ《マグネシウム・ドレイク》がマスターを勤めるレギオン《スーパー・ヴォイド》に副団長として所属していた。

 

 当初、ドラゴニュートとその相方の《フレイム・ゲイレルル》の両名はレギオンに所属するつもりも、自分たちが作るつもりもなかった。レギオンマスターになるクエストには最低4人はいないと達成不可能なギミックがあったし、そもそも過疎地である《世田谷第三エリア》に領土を張っても誰も挑戦してこないからである。

 そんな彼らに声をかけてきたのが大田区に現れた新星BBプレイヤーの《マグネシウム・ドレイク》だ。

 

 ドレイクは快楽主義のきらいがあった。なぜならドラゴニュートたちをレギオンに誘った理由が「《火炎龍(フレイム&ドラゴン)》で知られるお宅らと俺の必殺技が被って(・・・)るのが気になってたから」である。

 確かにドレイクの顎の突き出たその顔は竜のよう凶悪で、その口から吹き出す必殺技《焔色吐息(フレイム・ブリーズ)》を使えばその姿はまさに焔を吹き出す火龍そのものであった。

 

 しかし、そんな理由だけで自分たちを無理やり仲間に引き入れるなんてと、ドラゴニュートは当初辟易(へきえき)したものだ。

 レギオンが作られてからも、ドレイクはドラゴニュートたちレギオンメンバーをあちらこちらへ引っ張り回していった。

 新しいダンジョンが開拓されれば西へ、新しいクエストが見つかれば東へ。

 行きゆく道の途中で珍しい《巨獣(ビースト)級エネミー》を発見すればひとりで突っ込み、あっさりと負け、ヘイト(憎悪)値だけが残ったエネミーが暴れまわり、彼に連れられていたメンバーは全滅……なんてこともよくあることだった。

 

 だが、ドレイクの奔放な性格と、何が起きても笑って済ませるその明るさに、彼らは憎めず。「ドレイクならばしかたない」と最終的に全員で笑って許したのだった。

 

 

 いまや《スーパー・ヴォイド》は《純枠色(ピュア・カラーズ)》率いるレギオンにも負けないくらいの大レギオンとなり、BBプレイヤーならば知らないものはいないほど有名なチームになっている。

 

「でもなー、ドラゴニュート……。なーんでこいつらは俺らのところ(レギオン)に入ってくるんだろうな?

 俺らって大したことはやってないよな?」

「確かに《グレート・ウォール》のようにポイントがピンチになったら一時貸し出す処置や、《プロミネンス》のようにリーダーが強化武装をくれるわけじゃないですね。……でも、何もしてないって事はないでしょう? この前の大規模戦闘、忘れたとは言わせませんよ」

 

「はは、ハハハ……この前のって、東京湾に出てきた《リヴァイアサン》と羽田空港にいる《ティアマト》、あとゴミ処理所から突然出てきたヘドロ怪人、《神獣(レジェンド)級エネミー》の三つ巴のことか?」

「我々も含めて4つ巴だったんですけどね……まるで相手にされませんでしたが。でも、全部(・・)あなたがあいつらにちょっかいを出したせいでそうなったんですよ! アレのせいで品川一帯は次の変遷が来るまでタダの荒野になってしまいました! あらゆるオブジェクトがとにかく硬くなる《鋼鉄》のステージだったのに!」

 

 下手したらレギオンメンバー全員が海の藻屑になっていたかもしれないこの騒ぎはたちまちBBプレイヤーの耳に入ることとなった。しかも《スーパー・ヴォイド》がこのような騒ぎを起こすのはコレが初めてではない。

 大抵のBBプレイヤーは《スーパーヴォイド》の名前を聞くと「面白そうだけどバカな奴らだよね」と笑うのだ。

 

 そして噂を聞きつけたバカ騒ぎが好きな奴らが《スーパー・ヴォイド》に入団し、また新しい騒ぎを作り出す。そんな彼らを纏め上げるのにドラゴニュートは大変苦労していた。

 

 

 

 

「ドラゴ! ドラゴ! 聞いて! 私も羽田空港にいる野獣(ワイルド)級の翼竜をソロで打ち取ったわ! これで私も一人前のドラゴンスレイヤーよね!」

 

 ドラゴニュートがドレイクの無茶を怒っている場所に飛び込んできたのはドラゴニュートの相方であり、レギオンのもうひとりの副団長《フレイム・ゲイレルル》だった。

 

 ルルはレギオンに入って数ヶ月間、やることなすことすっかり団長色に染まってしまっていた。

 いくらルルもトッププレイヤーの印であるレベル6だといっても野獣(ワイルド)級をソロで挑むなんて無謀でしかない。普通は10人単位の討伐隊を組んで挑むものなのだ。

 ドラゴニュートはその報告を聞いて天を仰ぐが、自分も同じようなことをしていまったせいでルルも負けじと挑戦しだしたのだから怒るに怒れない(本当はドレイクが挑むのに付いていっただけなのだが、例のごとくドレイクが負けてしまったため成り行きでドラゴニュートが戦った)。

 

「おおゲイル! お前も立派なドラゴンスレイヤーだぞ!」

「その呼び方やめてっていったでしょドレイク! あなたのこともマドレームって呼ぶわよ!」

「おお~い! そんなお菓子みたいな甘ったるい名前はやめてくれ、悪かったよルル。しかしよくその体で翼竜の羽ばたきに耐えられたな。お前、《暴風》ステージとかだと風に吹かれてピューっとどっか飛ばされてるじゃん」

「ふふん、その風を利用して逆に翼竜の上を取ってあげたわよ。あとはいつも通り“空中爆撃”ね」

 

 ルルはレベルアップボーナスの殆んどを機動力強化と必殺技強化につぎ込んでいる。特に必殺技の《フレイム・ランス》は長く、太く、強くなっている。さらに貫通属性まで付いているのだからルルに遠距離で勝てるBBプレイヤーは数えるほどしかいなくなってしまった。

 だが、相変わらず防御力は“紙レベル”であるし、《物理一定(セイム・ダメージ)》による攻撃を受けられる回数も変わっていない。相手に接近される前にどうやって倒すかがルルのバトルスタイルなのだった。

 

 

「よーし、ならいっちょ俺ら3人で羽田にいる竜全部を狩りつくすか! 誰が一番強いドラゴンか思い知らせてやる!」

「オッケー! わたしたちが最後まで残った場合は誰が一番ドラゴンを倒したかで序列が決まるからね、覚悟しときなさいよ!」

「ちょ、ちょっと、2人とも……ボクはやるなんて一言も…………。

 ……ああちょっと! もう! 仕方ない。やりますよ、やってやろうじゃないですか! 変わりにボクが一番になったら2人ともボクの言うこと聞いてもらいますからね!」

 

 レギオンのたまり場から駆け出すルルとドレイク、それを追いかけるドラゴニュート。その様子を見てまた面白いことが始まるのだと感づいたそこに居たレギオンメンバーたち全員が彼らの後に続いていく。

 

 こうして《スーパー・ヴォイド》の楽しい歴史がまたひとつ増えるのだった。

 

 

 

 

 

 

「だから無理だって言ったんだよ!」

「いやいや、マサト最後のほうじゃノリノリだったじゃない。最後まで残ったボクが一番だーなんてさ……」

「そのあとすぐ巨獣(ビースト)級のドラゴンに真っ二つにされちゃったんだけどね」

 

 結局、レギオン(軍団)VSドラゴン郡となった戦いは、相手を半分減らす前にレギオンが全滅してしまった。

 

 いまマサトは病院でカンナの剥いてくれた果物を頬張(ほおば)りながら今回の団長の無茶を愚痴っているところだった。

 

「でもヴォイドも大きくなったわよね……」

「そうだね、最初はドレイクとカンナ、ボクとあと2人の5人しかいなかったのに」

「ドレイクの最初の無茶はなんだったっけ? 私達の話を聞いてハリネズミにリベンジしに行ったとき?」

「いや、その前に当時から難攻不落で知られてた《帝城》にたった5人で挑んだことだと思うよ」

「ああ、あの皇居があるところに立っているダンジョンね。《帝城》に挑んだというより、その手前で門前払いをくらっちゃったけど……」

 

 《無制限中立フィールド》はその姿の基準を『現実世界』から持ってきていて、特に有名な建築物ならば《無制限中立フィールド》にも大きな影響を与えている。

 東京ドーム、新宿都庁、東京駅地下などがある場所に大きなダンジョンが確認されており、同じように皇居にも同程度のダンジョン……いやもしかしたらそれらを越えるほど大きく難解で強いエネミーが蔓延るダンジョンがあると言われていた(・・・・・)

 

 しかし誰もその真実を知るものはいない。なぜなら《帝城》と呼ばれる建物の周りは底が見えないほど深い崖に囲まれていてダメージ判定の付く強烈な下向きの風も吹いている。《帝城》に入るためには東西南北に設置された橋を通る道しかなかった。

 だが、その橋には守護神とも呼べる巨獣級、神獣級をも越える最強の《超級》エネミー、《四神》がいるのだ。

 

 恐らくではあるが、《帝城》はこの《ブレイン・バースト》というゲームにおけるラスとダンジョン。そこに《無制限中立フィールド》に入ったばかりの初心者(ペーペー)達が挑んでも手も足も出ないのが当たり前だったのだ。

 しかし、やってみなくちゃ分からない、とドレイクは組んだばかりのレギオンメンバーを連れ《帝城》に突貫、見事に玉砕したのであった。

 

 

「そうそう、《帝城》といえばこの前レギオンメンバーが噂してたんだけど、その《帝城》に進入して凄い強化外装を手に入れてきたっていうプレイヤーがいるんだって」

「へぇ、あの四神をどうやって倒したのかな?」

「うーん、多分いま《ブレイン・バースト》をインストールしてる全BBプレイヤーで挑んでも四神のひとりも倒せないと思う、きっと他の、なにか抜け道を使ったんのよ」

「じゃあ、もうその方法じゃ《帝城》に潜り込むのは無理か……このゲーム、不正とかイカサマとか“システムの穴”を直すの早いもんね」

「まあ、それは残念だけど、今の話は強化外装の話よ。なんでも殆んどの攻撃に耐性、または無効化されて青系の必殺技を直撃してもHPが少ししか減らないくらい防御力が高いらいいわよ」

 

 なんてバランスブレイカー(圧倒的)な装備なんだ。カンナの話を聞いてマサトはそう思った。

 そこまでの防御力を得ようとするならば、ドラゴニュートの今までのレベルアップボーナスを全て防御力アップに費やさなければ……いやそれでも届かないかもしれない。とくにプラチナを初めとする貴金属の《メタルカラー》は火や酸などの特殊攻撃や、切断、貫通などの物理攻撃に耐性を持っているが、電撃や打撃に弱く、ボーナスをもらっても伸び代は殆んど無いのだから。

 それを装備ひとつで簡単に上回ってしまうなんて、さすがラストダンジョンといわれる《帝城》にあった強化外装である。

 

「それで、そのプレイヤーがどうかしたの? …………いや、待った。その話を聞いた時カンナの傍に団長は?」

「もちろん、いたわよ?」

「ということはもしかして……」

「たぶんマサトが考えているとおり。明日みんなでそのプレイヤーを見に行くんですって。マサトはどうする?」

「うーん、そのプレイヤーの対戦は“上”でするの? それとも通常の対戦フィールド?」

「あっ……、ごめんなさい。そのプレイヤーは通常対戦でやってるはずよ。《自動観戦モード》にするには一度マッチングリストにプレイヤーの名前を出さないといけないから……」

 

 つまり、この《世田谷第三エリア(病院)》から出ることのできないマサトはそのプレイヤーの観戦にはいけなかった。

 

「いや、ボクのことは気にしないで行ってきなよ。それに誰かが団長を止める役がいないとまた暴走するからね、それをカンナに頼みたい……」

「そう、ね。任せなさい、ドレイクは私がしっかりと手綱を握っておくわ。そのプレイヤーってどうやら《メタルカラー》と組んでるらしくて、多分私達に行ったように強引な勧誘もしだすでしょうからね」

「でもあの時誘いに乗ってよかった。そうは思わない?」

「…………ふん、全部が全部よかったとは言わないけどね!」

 

 そっぽを向きながら腕組みするカンナを見てマサトは最近このポーズが照れ隠しのために行なうクセなのだと気付いていた。

 それがわかってからはカンナの強がりを見るたびになんだか可笑しくなってしまうマサトであった。

 

「なに笑ってるの!」

「ははは、なんでもない」

 

 2人の笑い声は病院の面会時間が終わるまで絶えることなく、星座(北斗七星)が輝く夜空へと吸い込まれていくのであった――

 

 

 

 


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