アクセル・ワールド ――もうひとつの世界――   作:のみぞー

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第7話 親子喧嘩

 

 

「ここは、《焦土(しょうど)》ステージかな……」

 

 マサトが寝ていたベッドは金属部分を残した灰と化し、清潔な白で統一されていた病室は見る影も無く燃え尽きていた。壁も取り払われ、あたり一面燃えカスだらけだ。見渡す限りの大地が草木一本生えていない不毛の大地となっている。恐らくこの世界全てが燃え尽きているのだろう。

 

 この《焦土》ステージの特徴は色んなものが脆いことだ。

 床も、柱も、電信柱なども炭化していて、すこし力を込めて殴ると跡形も無くボロボロと崩れていってしまう。

 体の重いプラチナム・ドラゴニュートとしてはあまり建物内で動きたくないステージだった。

 

「へー、それがあなたのアバターなのね」

 

 ドラゴニュートがステージを確認していると後ろからカンナの声が聞こえてきた。

 しかし、思ったより遠い場所にいるようだ。どうやらBBプレイヤーがすぐ近くにいた場合一定の距離を置いてバトルが始まるらしい。

 

 マサトは聴こえてきた声の方向へと体を動かす。

 そこにはこの世界を《焦土》へと変えた炎の魔人がこちらの様子を伺っていた。

 

 体が燃えているのではない、“炎自体が人の形をとっているのだ”。

 顔のパーツは女性型アバター特有のアイレンズしかない、それもほかの人よりも細くつり上がっているのはご愛嬌か。他には風も無いのに揺らめく長い赤い髪、そして手にもつ炎で出来た細い槍、それしかそのアバターの特徴は無かった。

 体はスラリと、ほっそりとしたモノでしかなく、凹凸といえば女性特有の胸部の膨らみしかないではないか。

 

 しかし、マサトは色んなアバターを見てきたが、こんなアバターは初めてだった。

 どのアバターも確かな肉体と色を持っていたのに……

 彼女はただ立っているだけでユラユラと揺れている。彼女の体は不定形なのだ。そして炎の色なんて聞いたことが無い。

 赤、ではなく、オレンジ、でもない。じゃあ彼女の色は何なのか、ドラゴニュートはたまらず視線を上へやった。

 

 彼女の名前は――

 

 《FLAME(フレイム) GEIROLUL(ゲイレルル)

 

 それは槍を持ち、戦場を突き進む戦乙女の名前だった。

 

 

「…………それ、なんて読むの!?」

 

 しかし、やはりというか、ドラゴニュートは読めなかった。

 

「……ルルよ、そう呼んで。あなたのは……ドラゴニュート、ドラゴね」

 

 カンナ、いやルルは目の前の輝く竜を見ながらこの戦いが終わったら英語の勉強をさせることを決心した。

 

「うーん、なんか嫌な気配が……まあいいや。よし、やろう!」

 

 ルルとの対戦はあまり乗り気ではなかったドラゴニュートはしかしブレインバーストのステージに立ってからやる気が上がってきたいるのを感じた。

 

 やっぱりこの世界はいるだけでもワクワクする。相手と対峙すればより多く!

 今まではお預けをくらっていたのだ。久しぶりの対戦(ご飯)に興奮するのも仕方ない。

 

 ドラゴニュートはいつも通り半身の構えをとり、ルルの出方をまった。先輩らしく、初手は譲ろうと言うのだ。

 

 対するルルは特に構えといった構えは取らなかった。槍を振り上げただけ、そう……まるで手に持っているモノを投擲する前のように――

 

「じゃあ、いっくわよーー!」

 

 ルルの気合の声が焦土ステージに響き渡り、そのまま槍をドラゴニュートへ向かって思いっきり投げつけた!

 

「う、わっ!」

 

 ドラゴニュートは驚きつつもそれを回避。自分の武器を開始早々投げつけるなんて……でもこれでルルはもう武器を持っていない。今がチャンス! ドラゴニュートは避けた槍の注意もそこそこにルルへと視線を移し、突撃を仕掛けようとした。

 

「まっだ、まだ!」

 

 しかしルル見た瞬間、驚愕で足が止まってしまう。

 ルルは“二投目”を放とうとしていたのだ。そう、ルルの手には先ほどと寸分違わぬ槍があった。

 

 これはかわせない。ドラゴニュートはそう判断、両手を交差して全力で防御することを決意。

 ドラゴニュートは《メタルカラー》、しかも貫通攻撃にも炎熱攻撃にも耐性を持っているプラチナだ。たいしたダメージにはならないはず。

 ドラゴニュートの考えは当たっていた。ルルの投げつけた細い槍はドラゴニュートの腕に当たった後、貫通するどころか拡散してしまったのである。

 

「よし! 思ったとおりダメージも少ない」

 

 確認すると青いHPバーは1割も減っていない。赤型アバターの射撃攻撃だったならまともに喰らえば1割なんてあっという間に持ってかれてしまうのに、このダメージ判定なら完全にこちらの有利だ。ドラゴニュートは久しぶりの対戦、その勝ちを確信した。

 

 しかし、槍の炎が全て消え去り正面を見るとそこに居たはずのルルの姿が影も形もなくなっていた。

 一体どこへ? ドラゴニュートは警戒しながら辺りを見渡す。

 

 右! ……いない、左? ……いない。

 

 一体どこへ? さすがに後ろには移動してない、そこまで早く移動したのなら必ず足音が響くはずだ。

 じゃあ、逃げたのかな? 建物内なら不利と判断して屋外へ一直線に向かったのだろうか、もう四方八方の壁は取り払われている、きっとそうしたのだ。

 ドラゴニュートが気を緩め、自分も外へ移動しようと考えたそのとき。

 

「もーらいっ!」

 

 ルルの楽しそうな声が“頭上から”聞こえてきた!

 

「ぐわっ!」

 

 頭上から降り注ぐ大量の炎。滝打ちのごとく圧倒的な重圧にドラゴニュートは思わず膝を付いてしまう。

 だが、それがいけなかった。重いドラゴニュートとルル“2人分”の体重が急激にかけられた病院の床は呆気なく崩れてしまったのだ。

 

「うわーーーっ!」

「きゃーーーっ!」

 

 制御の利かない自由落下による恐怖の悲鳴と、どこか楽しげな悲鳴がいっぺんに聞こえてくる。

 ドラゴニュートの落下はとどまることを知らず一気に5階分の床を付きぬけ、体勢を整えることが出来なかったドラゴニュートは思いっきり背中を打ち付けてしまった。

 そのダメージはかなり大きく、HPバーの約6割も削れてしまう。さっきのルルの攻撃もあわせて残り3割強、これはマズイ、ドラゴニュートはルルのHPバーも確認。

 するとそこにはまだ8割も残っているHPが表示されているではないか。ドラゴニュートと一緒に落ちたならこんなにHPが残っているわけが無い。

 

「なんで?」

「その答えは上を見なさい!」

 

 その声に導かれドラゴニュートが顔を上げるとそこにはふわりふわりとゆっくりこっちに落ちてくるルルの姿があった。

 そうルルはまだ落下途中だったのだ。

 

「この炎の体はとっても軽いの、ある程度調整は可能だけど、こうやって落下スピードを遅くするなんてちょちょいのチョイなのよ!」

 

 そういってフレイムは途中の階の床を掴み、ヒョイっと上ってしまった。

 そしてもう一度穴から顔を出し――

 

「そうそう、さっき上の階で槍を投げまくってこの病院の柱を全部壊したわ。もうそろそろこの病院は倒壊しちゃうかも。

 ……ところでぇ、わたしは足が速いんだけどあなたは遅そうね。フフ、それだけ……」

 

 その言葉だけ残してルルは再び穴から顔を引っ込めた。

 そして上の階から聞こえてくる“大きななにか”が動いている重低音。

 

「やばい!」

 

 ドラゴニュートは一生懸命足を動かすがその歩みはどん臭い。この建物から出るにはまだ最短でも50メートルはありそうだ。そこまでおおよそ10秒。しかし、この《加速世界》でそんな時間は瞬く間に過ぎ去ってしまうものだった。

 

 

 

 

「うわーー!!」

 

 最後の最後、外までのあと一歩をドラゴニュートはヘッドダイビングで敢行した。

 倒れたまま頭を腕で庇う体制に、そして後ろでは病院の倒壊音が聞こえてきた。

 

 ギリギリだった。ギリギリ、ドラゴニュートは病院から抜け出すことに成功したのだ。

 もう《焦土》ステージでは建物内でバトルしない。絶対にだ! そう硬く決意を固めるドラゴニュート。

 

 その姿を笑いながら見守る人影が……もちろんルルである。

 

「ハハハ! すごーい! よく間に合ったね!?」

 

 ドラゴニュートはその嘲笑を受け、ゆっくりと立ち上がる。

 しかし顔は下を向き、その表情はうかがい知れない。ゆっくりとした動作で一歩、また一歩と確実にルルに近づくだけ。

 

「ハハハ、ハハ、は……。ドラゴ? 怒ってる?」

 

 さすがに笑いすぎたかな、と心配するルルだったがドラゴニュートは返事を返さない。ただ一歩彼我の距離を詰めるだけである。

 

「ちょ、ちょっと、なんとかいってよ!」

「…………い」

「へ?」

「ゆるさなーーーーーい!」

 

 ドラゴニュートの心からの叫びだった。

 ドラゴニュートの戦いを見に来ている《ギャラリー》たちも納得したようにウンウンと頷いている。今まで2人が建物内で戦っていたため姿は見えなかったが、今の現状を省みるに何が起きたか想像するのは容易かった。そしてドラゴニュートの心内を察することも……。

 

「ドラゴ!」

「もう、ゆるさないよルル! 残りのHPは少ないけどまだまだ諦める場面じゃない!

 今から始まるのは怒りの大・逆・転だぁ!」

 

 

 

 

 普段の姿からは信じられないくらい大きな雄たけびを上げるドラゴニュートにルルはドキリとしてしまった。

 このゲームにおいてドラゴニュートはたくさんの戦いを経験しているのだ。それも10や20じゃきかないくらい位である。

 今日始めてプレイした自分では勝てないかもしれない。……でもここまで来てタダでやられてあげるほど安い女でもない! ルルは気を持ち直し、ドラゴニュートの雄たけびを正面から受け止めた。

 

「ふん、レベルがすこし高いからってこの差はひっくり返らないわよ!」

「やってみなくちゃっ、わからない!」

 

 ドラゴニュートが突っ込んできてその体重を生かしたパンチを繰り出してくる。でもそんなの素直にくらってやる必要は無い。ルルはドラゴニュートを中心に半円を描いて回避。

 

 

 《フレイム・ゲイレルル》のアバターは落下速度を自由に操れるアビリティ《自由落下(フリー・フォール)》を持つだけでなく、移動時に自身の体を地面から少し浮かせて移動することも出来る半浮遊型アバターでもあるのだ。軽く、足音も無く飛ぶことができ、長時間空中に浮かんでいられる。さきほど気付かないうちにドラゴニュートの上を取れたのはこれらの特徴を最大限発揮したためである。

 

 ふわふわと相手の攻撃を避ける様はまるで陽炎(かげろう)、その目に映るは幻、広範囲攻撃でもない限りその身には届かないのだ。

 

 

 しかし、ドラゴニュートは回避特化型のアバターとも戦った経験があった。

 ドラゴニュートは背後に回るルルに対して腰から生える尻尾を振り回し攻撃、普通の人では出来ない攻撃にルルは虚を突かれ、無防備にその攻撃を喰らってしまう。

 

 ドラゴニュートの太く逞しい尾の攻撃に通常アバターなら数メートル吹っ飛んでしまうはず。まともに喰らったのならなおさらだ。しかし、ルルはいまだドラゴニュートの傍にいた。

 攻撃を間一髪回避したわけではない。ドラゴニュートの尻尾がルルの体を貫通してしまったためである。しかしルルのHPが全損したわけじゃあない。ルルのHPバーを見てもさっきより1割少なくなっただけである。

 これが不定形アバターの最大の特徴。《部分欠損ダメージ》が無いのだ。尻尾によって削られたルルの体は残っている炎が補填し、すぐさま復活、次の動作をよしとした。

 

「喰らいなさい!」

 

 この至近距離でルルは槍の攻撃を選択。手のひらから生える様に現れた細い槍をぶん回しドラゴニュートに振りかぶった。

 

「うおっと!」

 

 しかしドラゴニュートは慌てない。最初のやり取りでその槍はたいした脅威では無いと知っていたから。ただ左の手をかざすだけで受け止める。辺りに舞い散る炎の欠片。降りそそぐ炎の雪景色はとても綺麗だった。しかし見とれている場合ではない。

 ドラゴニュートは残った右腕を腰に当て普通より威力のある攻撃を繰り出した。

 

「《パンチ》!!」

 

 ドラゴニュートの渾身の攻撃はルルの振りかぶっていた腕を貫通、土手っ腹に風穴を開けた。

 これは決まった! ドラゴニュートはそう思い、ルルのHPバーの変動を確認。

 

 だが――

 

「え、なんだって!?」

 

 ルルのHPバーはさっき確認した時と殆んど変わらず残り6割となっていた。

 つまりさっきの通常技《パンチ》でたったの1割しか削れなかったのである。

 

「隙ありよ!」

 

 今度は両手に持った2本の槍をドラゴに突き刺してくるルル。たいしたダメージではないが飛び散る炎の量が多く視界がふさがれてしまう。

 これはまずいとドラゴニュートは一旦後ろにジャンプしてルルとの距離を置くことにした。

 そのとき悪あがきとして地面に転がっていた病院の瓦礫を蹴り飛ばし、ルルの足を貫通させた。

 

 こんなものでたいしたダメージは与えられないが、今はこっちが不利、少しでもダメージを与えないと。ドラゴニュートはそう考え、再び自分たちのHPの差を確認した。

 

「あれ? どうして……」

 

 ドラゴニュートは不思議な現象を見た。ルルのHPバーが残り5割まで減っていたのだ。さっきまではまだ6割残ってた、見間違いではない。ではなぜ……

 

「そういうことか! ルル! キミはどんな攻撃をくらってもHPが1割減ってしまうんだね!?」

「うぐぅ……」

 

 ルルの痛いところを突かれたという素直なリアクション。

 そう、《フレイム・ゲイレルル》にはもうひとつアビリティを持っていたのだ。

 その名前は《物理一定(セイム・ダメージ)》、物理ダメージならカスリ判定以外――ルルの炎の装甲を突き抜ける攻撃をくらうとHPが1割減ってしまうというピーキーなアビリティである。

 どんなに強力な攻撃を受けても1割しか減らない、しかし弱い攻撃でも10発もらったら負けてしまう、そして――

 

「その高熱の体を使った突進も可能だけどその反動のダメージもまた一割だったんだね!?」

 

 最初病院でドラゴニュートの上から体ごと突撃、槍とは比べ物にならないくらい圧倒的な炎の質量でドラゴニュートを押しつぶすことが出来たが、高い炎熱体性のあるドラゴニュートでは逆にルル自身がが分散してしまいダメージを食らってしまった。そして床が崩れ、そのとき破片の瓦礫が体のどこかに当たってしまったのだろう。

 それがドラゴニュートと外で対峙した時のこりHPが8割りだった理由だ。

 

「ふん、それがわかったからってどうするっていうの? あなたはあと5回あたしに攻撃を当てなきゃならない。でもあなたのHPはもう1割程度しかないわ。さっき確認したけど、それはこの槍を2発まともに当てられればそれでなくなってしまうHPよ。さあ、どうするの!?」

 

 ルルはあと5回ダメージを耐える余裕がある。いかにドラゴニュートが素早い攻撃を繰り出そうとルルが1回分を犠牲にしながら両手で槍をドラゴニュートに叩きつければそれで終わってしまうのだ。

 もうルルの勝ちは決まってしまったのか。ルル自身を含め《ギャラリー》達でさえそう思っているときだ。

 

「ふふふ、甘いよルル、こんな状況はいつだって乗り越えてきた。一発だけ先制攻撃を行いあとは逃げ続ける《当て逃げマリー》、自分の攻撃範囲ギリギリからちまちま攻撃を繰り返してきた《スナイパー・バーミリオン》、ボクは彼らにだって勝ってきたんだ。だからここにレベル3としてここに立っている!

 そう、ブレインバーストで勝てるのはアバターの性能をフルに発揮することだけじゃない! ここも必要なんだ!」

 

 そういって《プラチナム・ドラゴニュート》は自分の胸を指す。

 ドラゴニュートの言葉に《ギャラリー》の古参やたまたまルルの試合をみて登録していた新人たちはみんな胸を打たれていた。

 

「なら、そのハートで! ここから勝って見なさいよ!」

 

 ルルは手に持っていた炎の槍を2本、ドラゴニュートに向かって投げつけた。どんなにいいこと叫んだってあと2発当たればHPは全損する。それじゃなくてもかすりダメージで削っていけばそれだけで勝てるんだ。ルルは槍を次々に投げ飛ばした。

 

 ドラゴニュートはその槍の雨を目の前に微動だにしなかった。避けるそぶりは無い。

 どうやってこの攻撃をふぜぐのか、《ギャラリー》は皆固唾を呑んで見守った――

 

「必殺《テール・アタック》!!」

 

 ドラゴニュートのその言葉に、彼の白金の尻尾は光り輝き円の軌道を作り出した。

 しかし、その位置がいつもより低い、地面すれすれ、いや地面に当たっているではないか。

 そう、ドラゴニュートの狙いはそこにあった。ドラゴニュートたちが戦っていたのは病院が崩れた跡地、その地面には瓦礫の山が散乱している。

 ドラゴニュートはその瓦礫を自分の尾によってひっくり返したのだ!

 

 高速で回転する尾に当たった瓦礫たちは四方八方に飛び散った。そのいくつかはルルの元へと飛んでいく。

 

「これを狙ったの!? でも無駄よ!」

 

 いくら大量の瓦礫を弾き飛ばしてもルルの元へと届くのはほんの一握り、運動性能が高いルルからすれば回避するのは容易いことだった。

 危うげも無く最後の瓦礫を回避したルル。これで万策尽きただろうと瓦礫の確認もそこそこにドラゴニュートへと顔を――

 

「しまった!」

 

 これは最初の攻防の焼き回しではないか、しかし役が逆転している。ならこのあとのドラゴニュートの行動は!?

 

「あの瓦礫はルルを攻撃するためじゃなく、炎の槍を消すために使ったんだ。そして、本命は……これだよ!」

 

 ドラゴニュートが両手に持つのはさっき巻き上げた瓦礫の一部。

 その大きさはそれほど大きなものじゃないが、力のある彼が投げつければルルの装甲の許容量は簡単に超えてしまうだろう。

 

「もしかして、それを……」

「そう……もしかして、だよっ!」

 

 ドラゴニュートが思いっきり瓦礫を分投げる。その速さはさっき飛んできた瓦礫の比ではなくルルは辛うじで回避することができた。

 

「ほーら、次々いくよー!」

 

 言葉の通り掘り起こした瓦礫の山を次々と掴み、投げていくドラゴニュート。

 格闘ゲームらしからぬその攻撃にルルはカンカンだ。

 

「ちょっと! さっきの勝つのはハートがどうのこうのはどうしたのよ!?」

「アレはどんなブーイングにも負けないくらい強いハートを持てって事だよ。彼らは途中でそれに負けてしまったからボクに負けたんだ……」

 

 悲しそうな声を出すドラゴニュートだったが決して手は緩めていない。ルルの槍の雨を上回る瓦礫の雨あられをドラゴニュートは繰り出していく。

 

「卑怯よ! わたしこのゲーム初めてなんだから手加減してくれてもいいじゃない!」

「ハハハ! ボクは言ったよ、絶対許さないって!」

 

 逃げるルル、瓦礫を持って追いかけるドラゴニュート。彼らの追いかけっこは当たり一面の瓦礫が無くなるまで続きましたとさ。

 

 

 

 

 

 

「最低よ! あんなのってないわ!」

「まあまあ、結局はカンナちゃんが勝ったんだから落ち着きなよ」

「落ち着けですって!? よくもそんなこと言えるわね!」

 

 あのあと、瓦礫が無くなるまで奇跡的な回避を続けた《フレイム・ゲイレルル》ことカンナはその後タイムアップのお蔭で判定勝ちを拾うことが出来たのであった。

 しかし、地獄のような時間に長時間さらされたカンナは試合が終わったあともまだ憤っていた。

 

「それにレベル差のお蔭でカンナちゃんいっぱいポイント貰えたんだからよかったじゃない」

「あの戦いでもたった30ポイントしかもらえないなんてこのゲームやっぱりおかしいわね。

 そ、れ、に! あなたがトッププレイヤーの1人だと言うことにも納得がいかない! たったのレベル3じゃない!?」

 

 このたったレベルを3上げるためにマサトは数多くの戦いを潜り抜け、その裏では多くの全損者が出ていることをカンナはわかっていた。戦いのあとたくさんの《ギャラリー》から話しかけられ、みんなに尊敬されていることも。

 だが、今まで情けない姿しか見ていなかったマサトがゲームの世界ではみんなの憧れの存在だなんてどうにも納得が行かないことだったのだ。

 

「でも、このままじゃずっとボクはレベル3のままなんだ。だからカンナちゃん、ボクに協力してくれないかな?」

「ふーん……」

 

 やっぱりマサトはマサトか、いつもの情けない顔で自分に頼みごとをしてくるマサトにカンナはそう思いなおした。

 そうなると気分も持ち直すことが出来る。カンナはマサトの願いを受け入れることに下。

 

「いいわよ。協力してあげる。それで、わたしは何をすればいいの?」

「ありがとうカンナちゃん! それじゃあボクとタッグを組んでよ!」

 

 

 

 

 これがのちの全BBタッグプレイヤーが恐れることになる《ブレイズ&ドラゴン(火炎龍)》の始まりだとは当人たちでさえ知らなかった。

 

 

 

 

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