日常部へ、ようこそっ!   作:雨宮照

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部室にロリがやってくる!

なんだかんだで国際科初の授業が無事に終わって、昼。

二年次のうちは午後の授業で必修科目を履修しなければいけないため、ここからは教室で授業を受ける。

「……おっ。今日はオムライスだ」

思わず、声に出してしまった。

弁当箱を開けると、時間が経っているのにふわふわの、魔法みたいなオムレツが、色彩豊かなチキンライスに被さっている。

それを見るやいなや、俺の食欲が爆発したように加速する。

「いただきま……あれ?」

よく見ると、オムレツの上に小さくケチャップで文字が書いてある。

なぜかケチャップで書かれた文字なのにシャー芯大の太さで、ここでもほたるの天才っぷりが発揮されている。

いや、天才すぎるだろ。

芸術家目指せ芸術家。

読んでみると、「裸エプロンで作りました。興奮してね」って書いてあるな……ふむ。

「おっ、蛍原、オムライスじゃーん」

「うわぁぁぁぁぁあっ!」

……茨木が隣にいるのを忘れてた。

「え! どうしたのそんな化け物でも出たかのように!」

「いや、今のお前は化け物なんか比じゃない怖さだった」

「なんでそんなさらっと酷いこと言うん!」

若干涙目の茨木。

周りに、一緒に弁当を食べてる友達はいない。

茨木が学校に馴染めないがために日常部がつくられたって言ってたけど、やっぱり日常部以外とはあまり仲良くなれていないらしい。

……俺は、視線を落として悩む。

(結局、俺もぼっちなわけだしな……)

考えた結果、結論はすぐに出た。

弁当を持って、机を移動させる。

そして、隣の茨木と向かい合うかたちにして、席に着いた。

「……一緒に食おうぜ、ぼっち同士さ」

「…………っ。か、勝手にしろ……」

かくして、俺たちは二人同時にクラス内でぼっちを免れたわけだが……。

「……ねぇ、蛍原」

「む? なんだ?」

「このケチャップの文字ってまさか……蛍原が書かせて」

「ねぇっ!!」

 

……結果、またも俺がほたるに恥ずかしいことを強要しているという、あらぬ噂が立つことになってしまったのだった。

 

 

そして、放課後。

俺が部室に行くと、糸ちゃんだけが先に来ていた。

……パソコンを開いて、なにやらカタカタやっている。

確か糸ちゃんは家庭系を選んだはずだから、あんまりパソコンをやる機会はないと思うんだけど……。

「よ、よぉ……」

「ぁ……。どうも……」

……気まずい!

俺が一方的に糸ちゃん大好きだから、これまでいろんな行事のときも一緒にいたと錯覚してたけど、実質絡みは珍しかったじゃないか。

脳内ではあんなにも糸ちゃんと話したいと思ってたのに、実際二人きりになってみると、こうも話せないものなのか……。

対面の席に座って、読んでいた小説を取り出し、読み始める。

対面では、カタカタと何かをする糸ちゃん。

俺はちらちらと、小説を読みながらも視線を糸ちゃんへと向けてしまっていた。

……くそう、小説がまったく頭に入ってこない!

マスクやカーディガンで露出は少ないのに、それでも分かる圧倒的な肌の白さ、透明感。

それに、最高級のシルクなんかじゃ到底及ばないほどのきめ細やかな、柔らかそうな長い黒髪。

そして、近くで見るとまつ毛の長さなんかが尊すぎて、目が蕩けそうになる。

見つめていると、脳が沸騰しそうだ。

ちょうど、既に噴火する寸前の火山みたいになっている自覚がある。

……もうちょっと見つめていると、噴火してしまいそうである。

自然と、満面の笑みを浮かべているのが、自分でわかる。

表情筋はついたばかりの餅みたいに緩み切って、目尻は下がり、口の端はこれでもかというほどに上を向いている。

なんかこう……俺、気持ち悪っ。

そして、そんな状況だったからこそ。

 

「……かわいい〜……」

「…………ふぇぇ?」

 

……思ってたことが、そのまんま口から出てきてしまっていた。

六波羅蜜寺空也上人立像になったような気分である。

いや、イメージな。

そして、しばしの沈黙が訪れ……。

糸ちゃんは目を横に逸らして、マスクをした口元に萌え袖の手を当て、頬をみるみるうちに真っ赤にさせていった。

……涙目で、非常に恥ずかしそうである。かわいい。

「え、えと……」

糸ちゃんが、目だけこっちを向いて、問いかける。

「……や、やっぱり噂通り、蛍原くんって変態……なの?」

「…………はっ!?」

どうやら、昼間の噂はここまで広まっていたらしい。

俺は糸ちゃんに事の経緯を懇切丁寧に説明したあと、噂を流したあの二人をこっぴどく叱ってやろうと心に決めた。

でも、糸ちゃんが袖の奥でちょっぴり口元を弛めていたような気がして、結局のところニヤニヤと緩み切った笑みを浮かべてしまう俺なのだった。

 

 

それから永遠にも感じられる、それなりに気まずい時間が過ぎて。

まあ、俺としては糸ちゃんを眺めてられるから永遠でもいいんだけど。

そんなことを考えながら二人、個人の作業に取り組んでいると、突然部室のドアが勢いよく開いた!

警察の突入部隊みたいである。

「日常に彩りを! 天地に潤いを! 部はここであってるか!」

そして大声が静かな部室にこだまする!

すると……。

びっくうううううううううううぅっ!

糸ちゃんがビックリして音もなく飛び上がっちゃったじゃないか。

そして恐る恐る、侵入者と目を合わせる糸ちゃん。

そして、こっちに怯えた目でアイコンタクトをとったあと……。

「……小学生?」

と、呟いたのだった。

「お、おお、お前もいじめるのだなぁ!」

糸ちゃんそれ、罪のない失言!

ほら、先生涙目になっちゃったじゃん! 糸ちゃんも涙目になっちゃったじゃん!

「えーっと、糸ちゃん……? この人は俺のクラスの担任の先生で……」

と、場を落ち着けようと俺が説明をし始めると……。

「やっほー兄さん……あれ?」

明るい様子のほたるが入室してきた。

そして、部室を見回して……。

まず目に入るのは、涙目の糸ちゃん。

それから、涙目の先生(ロリ)。

そして、今絶賛悪い噂流され中の俺氏。

…………あ、完全に詰みましたわ。

 

「……で、先生はなんの用で?」

とりあえず、全員にこの見た目小学生の人物が先生であることを説明してその場を落ち着けて。

糸ちゃんが淹れたお茶を全員ですすりながらテーブルに着く。

そして、俺は目下の「先生が部室にやってきた」という問題について、先生に問いかけたのだった。

すると先生は答えて曰く。

「えーっとな、茨木には言ったんだが、私がここの顧問をすることになった」

と、そういうことらしい。

「そうだったんですか。……でも、なんでこんな変な部活の顧問を?」

普通に誰もが思う質問をなげかける。

すると、糸ちゃんが視線で俺に訴えてきた。

(変な部活って言わないでよー)

(いや、変な部活ではあるだろ)

(う、うぅ……)

(こら兄さん。糸をいじめちゃだめだよ)

(……ごめんなさい!)

「おいお前ら。先生が分からないところでアイコンタクトを取るんじゃない。寂しいだろ」

寂しかったらしい。

素直な幼女である。

「ま、ここの顧問を任された理由なんだけどな。押し付けられたからだ」

「え、ここってそんな人気ないんですか」

「ああ。みんなで押し付け合った結果、新人の私が受け持つことになったんだ」

日常部が先生たちから煙たがられてた件。

……まあ、何も生産性がないからな!

「で、私はミッションを預かってきたのだよ」

「……ミッション……?」

「ふふふ……それはだな! この日常部で、意味のある活動をさせることなのだ!」

 

 

「ってわけで、まず最初のミッションを授けるのだ」

「えー」

「めんどくさーい」

「……やりたく、ない」

「露骨に嫌がるんじゃないのだ! そんなにきつい物じゃないのだ!」

先生が、バタバタと必死で訴えかけてくる。

仕方ないので、みんなで聞いてあげることにした。

先生が、話し始める。

「実はな、先生の妹が……」

「先生の妹っていうと……未就学児ですか?」

「違うのだ! 先生は小学校低学年じゃないのだ!」

すぐに話の腰を折る悪い生徒たちであった。

……いやまあ、百パー俺なんだけどさ。

「で、先生の妹さんがどうしたんですか?」

「おう、先生の妹なんだが……保育士をしていてな」

「!」

……? なんか糸ちゃんが反応した気がしたけど、気のせいかな?

「それでな、ちょっと人の足りない日があるらしくて、お前らに手伝いを頼みたいんだ」

……子供たちの世話か。

元々俺は子供が好きだし、昔からよくほたるの世話を焼くこともあって、慣れていることではある。

それに、他の二人も子供が好きだったようで、すぐに活動することが決まった。

「じゃあ、日付はこのプリントの通りだから。ふぁ〜あ……さてと、先生は職員室に帰ってゲームをやるのだー」

と、新人教師とは思えないのんびりした感じで、先生はが帰っていく。

というわけなので、結局一日来なかった茨木に連絡を入れて、今日の活動は解散となった。

 

続く。




初めましての人は初めまして!
活動報告とかコメントとか、前作から読んでくださってる方は、お久しぶりです! 雨宮照です!

ありがたいことに11月の頭には大学の方に合格をいただき、文章創作系の学部に進学することになりましたことを報告させていただきます。
と、いうことなのでここからは言い訳が出来なくなってしまいました!
投稿頻度を増やせるように頑張ります!

以上、雨宮照でした!

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