「ちょっと、蛍原ぁ〜」
翌日の昼休み。
いつものように一人で愛妹弁当を食べてた俺は、既に聞き慣れた隣の席の女子生徒の声で顔を上げた。
「ん? どうした茨木」
「あのさ、蛍原の連絡先聞いてなかったと思ってさ」
「ああ。そういえばそうだったな」
俺は先日こいつが部長を務める日常部というのに所属したんだが、まだみんなの連絡先を聞いてなかったんだっけ。
色々と部活の連絡とかが必要になるかもしれないし、早いうちにみんなの連絡先を聞いておいた方がいいだろう。
「じゃあ、早速ラインを教えてくれ」
俺は隣の茨木の方を向いて、スマホを構えた。
しかし。
「えっと……ほ、蛍原……っ」
「な、なんだ……?」
茨木が、なんかもじもじしている。
ええっと、考えられるのは……。
「茨木、もしかしてさ……」
「う、うん?」
「おしっこ我慢してる?」
「…………は、はぁ!?」
「え、違ったのか?」
「ち、違うしっ! 連絡先の交換しながら、蛍原と一緒にお弁当食べたいなって思ってただけだしっ!」
「…………えっ」
「…………あっ」
絶対におしっこだと思ったけど、違ったようだ。
にしても、茨木が真っ赤であんなこと言うなんて……。
正直、かわいいと思ってしまった。
気まずくなった俺たちは、互いに目を逸らして、反対側を向く。
でも、お互いにひとりぼっちでのご飯は味気なかったんだろう。
どっちともなく先に机を動かし、ぴったりと合わせ。
俺たちは、一緒に弁当を食べ始めたのだった。
弁当箱を開けてみると、ほうれん草のサラダと、トマト、コロッケ、チャーハンが彩り豊かに並べられている。
……その中に、俺は珍しいものをひとつ発見してしまった。
「蛍原のお弁当、今日もほたるがつくったん?」
「ああ、そうだけど……」
「餃子、入ってるね」
「餃子、入ってるな」
……餃子が、入っていた。
いや、なんで餃子!
「あ、みてみて蛍原。今、日常部のグループに来たメッセージなんだけどさ……」
なにやら茨木が、俺にスマホの画面を見せてくる。
そこには……。
「お兄ちゃんにほかの女の子が寄ってこないように、にんにくたっぷりの餃子をお弁当に入れたんだ〜って……」
おい! お兄ちゃんの株をこれ以上落とすんじゃないよ!
「あはは、ほたるもよくやるよね〜」
「……笑い事じゃないぞ全く……」
でも、ほたるがつくったものはきちんと残さず食べる。
それが、兄の捨てられない性というやつなのであった。
「ってな感じで、こうやって雑談とかもグループでよくしてるから」
茨木が、その流れで日常部ラインの説明をする。
「えーっと、これで完了っと」
俺は、無事に日常部のグループに入ることが出来たようだ。
「んじゃ、蛍原も入ったことだし、今日の部活の連絡でも流そうかなー」
「おっ、何か連絡があるのか?」
茨木がスマホになにやら打ち込むのを待つ。
すると、俺のスマホがまもなく震えて。
「ええと、今日の部活はなし……なし! 何かあるのか?」
「ううん、大したことじゃないんだけどね、あたしに予定が入っちゃって……」
「そういえば、昨日も休んでたよな? 大丈夫か?」
「う、うん! ほんとに大したことないんよ」
何かを隠すかのように引きつった表情の茨木だったが、俺が踏み込むことでもないだろう。
俺はスマホに目を落とすと、先ほどのほたるのメッセージに抗議を始めるのだった。
続く