それから、俺と糸ちゃんが中心となってパネルシアターに使うPペーパーの準備を、来る日も来る日も続け。
一回目の台本読み合わせとリハーサルも滞りなく終わった。
今日は茨木もバイトが休みで、参加してくれている。
そこで、次回のリハーサルをいつ出来るか話し合うことになった。
「今日だけでもとりあえず一通り出来たよな」
「そうだね! あと一回も練習すれば完璧だよ!」
「うん! 子どもに優しく接する兄さんもかっこよかったよ〜」
「ほら! また妹ちゃんはそうやって隙あらばブラコンっぷりをアピールする!」
「ち、違いますよっ! 兄妹で仲良くしてなにが悪いんですか〜」
「むむむ! とにかくいけないの!」
「じゃあ喧嘩でもしてた方がいいんですか〜?」
「ぐぬぬぬぬぬぬ!」
おっ、今日はほたるが口論に勝ったようだ。
負けて悔しそうにしてるほたるもかわいいけど、やっぱり妹を応援してしまうのが兄の性質である。
特に二人とも本当に憎みあっているわけでもないから、二人の口論は見てて楽しい。
「ねぇ糸。あの二人っていつもあんななん?」
「うん……蛍原くんが関わると、いつも……」
「……そ、そう」
若干、茨木が引いている。
でもなんだろう、一瞬悔しそうな表情をしたのは気の所為だろうか。
「……えーっと、二人とも。次の練習の話に戻すけど、みんないつなら大丈夫だ?」
脱線しかけた話を元のレールに戻すため、俺が切り込む。
「私はいつでも大丈夫だよー」
と、明るくほたる。
「あたしも、バイトの期間が明日までだからいつでも!」
と、茨木。
「……私も……いつでも平気……」
と、ちょっと嬉しそうに糸ちゃん。
そして、残る一人の雪姫は。
「あ、日曜日は友達とスイーツランドに行くから空いてな〜い」
一人だけ、平然と裏切りやがった。
「ってかなに、日常部ってぼっちの集まりなの? 花の女子高生たちが休日何もないって……」
「それ以上言うな雪姫……。こいつらだってたまたま予定がないだけだって」
俺がみんなのフォローを入れると。
「兄さん、私いつも休日は予定ないよ〜。兄さんがいつゲームとかお買い物に誘ってくれるか分かんないから待機してなきゃだもん!」
「あたしも……いつも予定ない」
「……私……も」
全員フォローした甲斐がない!
ほたるは論外として、ギャルとしてクラスで浮いている茨木と、マイペースでコミュニケーションが苦手な糸ちゃん。
日常部ってもしかして……。
「……ほ、本当にぼっちの集団……!」
「う、うるさいわ蛍原! そういう蛍原はどうなん?」
「ふっふっふ……俺か?」
聞かれたものは仕方がない。
この俺の優雅な私生活をこの愚民どもに自慢してやるとしよう。
「俺は休日……!」
「休日……?」
「……よく一人で温泉に出没する!」
ふっ、決まったぜ。
かっこよく大見得を切ってやった。
……それなのに。
「兄さんもぼっち〜」
「蛍原もぼっちじゃん!」
「大輔くんも……仲間……」
ば、馬鹿にされただと!
……糸ちゃんはなんだか日常部としての絆が強まったとばかりに嬉しそうでかわいいからいいけど!
「う、うるせっ! 俺はぼっちじゃない! 栄光ある孤立だ!」
「なんでイギリスみたいに言うん! かっこつけても無駄だから!」
「やーいやーいぼっち部〜」
どうしても仲間に引き込もうとする茨木と、一人だけ友達のいる勝ち組の雪姫が煽ってくる。
「日常部メンバー、集合っ!」
そこで俺はとある名案が浮かんだため、日常部に集合をかける。
「な、なにコソコソと話してんのさ!」
なんだか、仲間はずれにされて焦った感じの雪姫。
その声を合図に、俺たちは演技に入る。
「よし、決めた。日曜日にリハーサルすっか」
と、わざとらしく俺。
「そうだね〜。日曜日なら私、確実に来られるよ〜」
「……うん……私、も」
「あたしも日曜日なら何も予定入らないかな〜」
ちらっ、ちらっ。
……わざとらしく口に出して、雪姫の表情を伺う。
すると、雪姫は涙目になって。
「も、もうっ! みんなの意地悪!…………今度スイーツランドみんなと行くから許してください」
と、涙目になって許しを乞うてきた。
「ふふ、あははは、冗談だよ雪姫」
「雪姫ちゃんって面白いんだねぇ……ぷっ」
「…………くすっ」
と、俺、茨木、糸ちゃんが口々に笑う。
「……私は本当に日曜日にやってもよかったのに〜」
……あれ、俺の妹だけ目が笑ってないけど。
そうして、日曜日にリハーサルをすることが決まり。
……俺たちは、ついに先生の妹さんが働く保育園にて、初めての本格的な日常部としての活動を行うこととなったのだった。
続く。