日常部へ、ようこそっ!   作:雨宮照

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眼鏡坊主と、物語の始まり。

そして迎えた昼休み。

俺は、新しく担任になった飯森先生にお使いを頼まれて、外にあるゴミ捨て場へとゴミを運んでいた。

隣には、あの生徒会の眼鏡坊主もいる。

なぜ飯森先生が俺たち二人にお使いを頼んだのかは分からないが、きっと俺たちみたいな真面目そうな陰キャはなにか頼まれてもそうそう断らないと判断したんだろう。

ーーいや、違うか。

見た目ロリで勝気な飯森先生には既に初日からファンクラブみたいなものがクラス内で立ち上がってたから、そういったやばい奴らにお使いを頼んで喜ばれたくなかったのかもしれない。

まあ、どちらにせよ俺がごみ捨てを頼まれたことには変わりないんだから、その職務をまっとうするだけだ。

それにしてもーー 。

(き、気まずい……)

そう! 今のこの状況、めちゃくちゃ気まずいんだけど!

なんで新しくクラスメイトになったばっかりの話したことない生徒と二人きりにさせるの!

完全な陰キャ同士ならお互いに何も話さずに坦々とごみを捨てて帰ってくるだけなんだけど、こういう生徒会にいるやつとかって正義感が働いてーー

「い、いい天気でござるな!」

こうやって話しかけてくるんだよ!

え! なんなの! 嫌なんですけど!

しかも第一声がそれって!

天気の話とか気象予報士と話すときくらいしか掘り下げて話せないだろ!

なんか他になかったのか眼鏡坊主!

「そ、そうだな」

一応、反応はしてやることにする。

すると、眼鏡坊主は続けて話し始めた。

「いやぁ〜、こうして一緒に仕事をするのもなにかの縁。自己紹介をするでござるよ」

この坊主、自己紹介を始めるつもりらしい。

「拙者は、生徒会本部役員会計の田端順之助でござる。趣味は漢検の勉強で、今一級取得に向けて猛勉強中でござるよ!」

ほほう、さすが真面目そうな坊主。

趣味まで勉強とは徹底しているな。

「まあ、拙者にかかれば読めないものなんて、空気くらいのものでござるよ! ははっ!」

さらにこいつ、冗談まで交えてきやがった!

坊主なのに!

しかもさっきの自己紹介の授業で同じ掴み聞いたわ! こいつ恥ずかし!

「して、蛍原氏。蛍原氏のことも聞かせて欲しいでござる」

そして、当然のごとく田端は俺に自己紹介を振ってきたんだけど……。

「拒否する」

俺は自己紹介を拒否した。

だって、俺がこいつと仲良くする義理はないじゃん。

それに、なんか「拙者」とか「ござる」とかみんな普通にスルーしてるっぽいけどどこからどう見てもやばいやつじゃんか。

しかし。

「あっはっは。蛍原氏はおもしろい冗談を言いますな〜。ほれ、自己紹介してくださいな」

次の瞬間、笑って誤魔化された。

おい、誤魔化すな。

「拒否すると言っているだろう」

これにはなんと返すだろうか。

生徒会本部役員の力量が試される場面である。

さて、気になる田端の回答は……?

「あっはっは。蛍原氏はおもしろい冗談を言いますな〜。ほれ、自己紹介してくださいな」

さっきと同じセリフだった。

RPGのモブか!

また同じ選択肢を選んで同じセリフが返ってきても気味が悪いので、観念して今度こそきちんと自己紹介することにする。

「蛍原大輔だ。……えーっと、生徒会に蛍原ほたるっていう女子生徒がいるだろ? そいつの兄貴だ」

「ええっ! ほたる氏の兄上でござったか!」

ぱぁっと表情を明るくしてリアクションする田端。

ってことは、ほたるは生徒会の中の評判も大したものなのだろう。

さすが俺の妹である。

「…………ん?」

しかし、その明るい表情も一変。

田端は表情を曇らせて小首を傾げ、訝しげにこちらを伺ったかと思うと……。

「えーっと、田端氏?」

「なんだ?」

「田端氏は、拙者と同じ二年生でござるな?」

「ああ、間違っていない」

「で、ほたる氏も拙者たちと同じ二年生でござるな?」

「ああ、その通りだ」

「……ってことは……!」

何を思ったのか、田端は俺に少し距離を詰め、小声で耳元に囁いてくる。

「田端氏は、留年していたでござるか!」

「ちげえよ!」

田端の見当違いな推測に、きちんと俺達が双子の兄妹であることを説明する。

しかし、ここで俺の方が留年していると無意識に断定されるほどにはほたるの評判がいいことがわかって、兄として誇らしい。

実際、ほたるはそんな評価を受けるくらいに面倒みが良くて、とってもいいやつなんだ。

肉親の俺がいくら口説いたところで妹の本当の良さは伝わらないかもしれないが、それだけはわかってやって欲しい。

照れくさいから絶対本人には言わないけどな!

 

そんな風に俺たちが一応は打ち解け始め、駄べりながら昇降口の下駄箱に差しかかったときに、事件は起こった。

国立斜文織高校の生徒用下駄箱は一人一つずつ扉のついた下駄箱の一角が割り振られるシステムになっているのだが、俺の下駄箱を開けたときに、俺は自分の下駄箱の上履き用スペースのところに、それを見つけてしまったんだ。

淡いパステルピンクの封筒が、淡い紫色をしたユニコーンのシールでとめられている、それ。

下駄箱には全く似合わないかわいらしいそれに、俺は一瞬で様々な思いを巡らせる。

そして、一瞬の思考で導き出された俺の回答はといえばーー。

「いや! ラブレターじゃねえかっ!」

どう考えてもラブレターだった!

いやだってさ、下駄箱に手紙が入ってたんだよ?

しかも明らかに女子っぽいデザインのかわいらしい封筒でさ!

今どきイタズラでこんな手の込んだことするやつがいるとも思えないし、そんな仲のいいやつもいねえし!

淡いパステルピンクに淡い紫ってなんだよ!

淡すぎるだろ! 淡路島か! たまねぎか!

 

…………。

少し興奮しすぎた頭を冷やすかのように、壁に頭を押し付ける。

しかし、いくら落ち着こうと思ったところで初めてラブレターを目にした俺の緊張がほぐれることも無く。

……灼熱の陽光で焼いたかのような頬の熱さは、そう簡単に収まってくれるようなものではなかった。

 

続く

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