そして迎えた木曜日。
その日は、あっという間にやってきた。
……あ、いや別に学校がある日に保育実習に来てるわけじゃないからな。
サボってるわけじゃないから安心してくれ。
今日は五月二日でゴールデンウィークの祝日だから、全員学校は休みだ。
そんな今日という素晴らしい日に、俺は妹の隣を最寄りの駅に向かって俯きがちに歩いているわけなんだけど。
……え? なんで前をきちんと向かないかって?
そ、それはだな……。
「もうー、兄さん元気だしてよー。短い髪もかっこいいよー?」
「そんなことないやい……似合ってないやい……」
昨日美容院で髪を自分で思ってた以上に切られたからだ!
俺さ、まず美容院っていう施設自体が苦手なんだよ。
なんで切ってから「これで大丈夫ですか?」って聞いてくるのかな!
もう切ってあるんだから「あ……もうちょっと長くして下さい」とか言ってもしょうがないじゃん!
それでいいですとしか言えないじゃん!
それにだよ、シャンプーは気持ちよくてよかったんだけどさ。
なんで髪乾かしたあとにもう一回ハサミ入れるの!?
最初で短かったのにもっと短くなっちゃったよ!
……結果こんなちんちくりんな髪型に……。
「だ〜か〜ら〜。兄さんかっこいいよ?」
「むぐぅ……」
かといって褒められて嬉しくないかって言われたら別問題なんだよな……。
「ふふ、兄さん顔赤いよ? ほんと、兄さんは面白いね〜」
「ぐぬぬ……」
かといってからかわれるのはどうも違う気がするんだけどな。
「ほら、そんな顔で子供たちのところにいったら怖がられちゃうよ?」
「……そ、それはそうだな……」
結局、俺はほたるに諭されて渋々表情をいつも通りに戻す。
駅に着くと数分後には電車が来て、俺たちを保育園へと誘った。
保育園の最寄りの駅には、既に日常部のメンバーが集合していた。
「おっ、みんな来たね〜! あれ! 大輔さっぱりしたね!」
「蛍原、似合ってるじゃん」
「高校生らしくていいのだ!」
と、みんなが口々に感想を言う。
みんな本人である俺とは違って、この髪型に好感を抱いているようだ。
「ほらね兄さん! みんないいって言ってくれてるじゃーん」
「……お、おう」
お世辞かもしれないけど、やっぱり褒められると嬉しい。
唯一感想をくれなかった糸ちゃんは、昨日から既に俺の髪型を知っていたことを自慢するかのように胸を張っている。
……いい膨らみだ。
「それじゃ、出発するのだー!」
先生を先頭に、約束の時間に間に合うように進行する。
「なんかあれだな、先生が先頭だと……」
「うん。家族で出かけたときにはしゃいで先頭歩いてる子供みたいだよね〜」
「……後ろ! 聞こえてるのだ! 先生は子供じゃないのだー!」
そんなやり取りがあったり。
「……先生、ここはどこですか?」
「えーっと……。ここが保育園って書いてあるのだ」
「いやいや! ここ警察署ですよ! どんな地図の見方してるんですか!」
なんてやり取りがあったりして。
なんとか無事、目的の保育園にたどり着くことが出来た。
その保育園は住宅街の一角で、決してお世辞にも広いとはいえない敷地を誇っていた。
だが、まだ顔は見えずとも窓から漏れる子供たちの楽しそうな声に、これからの活動が楽しみになってくる。
「子供たち、楽しんでくれるかなぁ」
「仲良く……してくれるかな……」
みんなもそんな呟きを漏らしている限り、同じような気持ちを抱いているんだろう。
みんな、今日のために準備してきたんだ。
絶対に、成功させなきゃな。
「みなさん、今日は来てくれてありがとうございます〜」
と、門をくぐると待っていたのはスタイルのいいお姉さんだった。
なんていうか「保母さん!」って感じの、母性溢れる見た目をしている。
薄手のカーディガンを盛り上げる双丘はもうはち切れんばかりだ。
「おっす鈴ちゃん! 元気してた〜?」
「お姉ちゃん、お久しぶりです〜」
……ん? 今、飯森先生にお姉ちゃんって……。
「ど、どうしたのだ? みんなキョトンとして!」
飯森先生が左右に頭をふりふりして、みんなを心配する。
そこに妹さんがひとこと。
「うふふ。お姉ちゃんがチビだからみんな私のボディをみて驚いちゃったんだよね〜」
……おい、酷いな妹さん。
ほら、先生怒っちゃったよ。
「な、なんなのだお前! わたしはそんな風に妹を育てた覚えはないぞ!」
「そう言われても……私もお姉ちゃんに育てられた覚えはありませんし……」
二人の間にバチバチと火花が散る。
腹黒い感じに姉を挑発する保母さんと、まんまとその挑発に乗るわかりやすい先生。
なんだか、コントを見てるみたいだ。
と、そこで。
「なーんてね。お姉ちゃん、今日は来てくれてありがとね。はいこれ」
と、妹さんが先生に飴を渡した。
……いや、本物のロリじゃないんだからさすがにそんなのじゃ機嫌直さないでしょ!
なんてみんなツッコミの表情になってたんだけど。
「……ありがとうなのだ。わたしはいい妹を持ったなぁ!」
と、アホなのかなんなのか。
すぐに機嫌を直す単純な先生なのであった。
続く。