二十分後、俺たち日常部プラス雪姫は、保育園のカーテンの奥にいた。
子供たちは、高校生のお兄さんお姉さんの登場を目をまん丸にして、キラキラした期待の表情で待っている。
そんな中、座ったままでいられない、落ち着きのない子供数人の面倒を見ていた鈴さんがアナウンスする。
……あ、鈴さんっていうのは飯森先生の妹さんのことだ。
フルネームを飯森鈴絵さんというらしい。
「みんなー! じゃあ、高校生のお兄さんお姉さんを、みんなで一緒に読んでみよ〜! せーの!」
おにいさん! おねえさん!
と、子供たちの不揃いな甲高い声が響き渡る。
ここで俺たちが笑顔で手を振りながら登場する段取りだったんだけど……。
「せんせー! このこ、あたらしいおともだちー?」
「せんせせんせ! このこいくつー?」
…………先頭で出て行った飯森先生が、保育園の転入生と間違えられてる!
「み、みんなで先生をいじめるのだなぁ……ぐぬぬ」
先生も涙目になってるけど、子供の悪意ない視線に文句も言えずに黙ってる!
子供たち、やめて差し上げて!
……と、所々先生が不憫な思いをしていたように思えるが、一応は無事に俺たちの出し物は終わった。
先生を除くと完全に俺たちは無事だったと言い切れるんだが。
まあ、予想外の事態はあったにはあった。
俺たちの出し物「どんな色がすき」は当初、俺たちが前で童謡を歌いながら演じることを想定していた。
しかしいざ本番になってみると、園児達はみんなこの童謡を一緒に歌い始めて。
少し、童謡で動揺してしまった俺たちなのだった。
でもその後は前に貼った野菜や果物のパネルの色も元気よく叫んでくれて、ちょっと難しいクイズなんかにも楽しそうに取り組んでくれて。
「これをやって理解できるのかな?」とか「集中力が切れちゃわないかな?」なんて園児達を見くびってた俺たちが恥ずかしいくらいだ。
……そう、その他にも俺たちは驚かされることばっかりだった。
出し物が終わって、子供たちは昼食の準備に取り掛かることになった。
その間、俺たちには内緒で出来ることを見せたい! ってことで高校生組はこれまでの園児達の取り組みを見せてもらうことに。
そして、昼食の時間になったんだけど……。
「こーこーせーのおにいさん、おねえさん、ぼくたちのつくったおにぎり、いっしょにたべてください!」
…………ああ、どうしよう、かわいい!
と、そこで先生が一目散におにぎりに飛びつく。
「お昼なのだ〜! お腹空いたのだ〜!」
「いっぱいたべてね!」
いや、どっちが子供かわかんねえな。
「……ん? このおにぎり、シールで具の名前が書いてあるのだ!」
「本当ですね。僕のは……明太子です」
「私のは昆布だったよー」
「あたしは鮭だった」
「私は大輔と一緒〜」
「私のは……梅干しだった……」
糸ちゃん、嬉しそうだな。
梅干しが好きなんだろうか。
「先生のは…………ぷっ、かかおって書いてあるのだ! おかかと間違えたのだな!」
先生のおにぎりには、他のおにぎりとは少し違う大人の殴り書きみたいな文字で「かかお」と書いてあった。
先生が、心底楽しそうに園児の間違いを笑う。
……こんな大人が保育実習の引率でいいんだろうか。
「いただきますなのだ〜!」
そして先生は大きな口でおにぎりにかぶりつくと……。
「ぶっふぁぁぁぁあ!」
盛大に頬張ったおにぎりを撒き散らしたのだった。
「ふご、ふごふご!」
「先生、食べながら喋らないでください」
「ふご……ごくん。このおにぎり、具がチョコレートなのだぁぁぁ!」
「……カカオって書いてあったじゃないですか」
なんて先生に突っ込んであげてると、視界の端で鈴さんが口の端を吊り上げた。
……あの人、ほんとお姉さん弄るの好きだな!
ちょっと先生が不憫に思えてきた!
続く
こんにちは、雨宮照です。
第13回HJ文庫大賞についてですが、二次落ちでした。
しかし、二作目で一次選考を突破できたことに加え、今回のHJ文庫大賞に三次審査が無く、各審査で例年のひとつ上の審査の分しか合格(?)を出していなかったことから私は前向きに考えています。
評価シートなども参考にして頑張っていくので、これからも応援よろしくお願いします。