お昼を食べて、お昼寝の時間になって、それから。
午後の時間は、高校生と子供たちが一緒に遊ぶ時間になった。
「たけうまできるんだよ! みて!」
「みて! たけうまのれた!」
「たけうまできたよ! ほら!」
と、子供たちが積極的に俺たちの所に遊んでもらいに来る。
っていうかお前ら竹馬好き過ぎないか?
「いまね、せんせーにたけうまおそわってるの!」
「そうだったんだな、すごいな、お兄ちゃん乗れないや」
何気なく子供たちの遊びに付き合っているわけだが、これが改めて大人の目で見てみると本当にすごい。
身長の半分程もある高さの竹馬を、難なく子供たちは扱えているのだ。
……自分も、小さい頃はこんなことが出来ていたんだろうか。
成長してふと振り返ると、出来るようになったことと同じくらいに、出来なくなったこともあるように思える。
性別や年齢に関係なく、誰にでも話しかけられる子供。
何事にも本気で取り組んで、努力できる子供。
笑ったり泣いたり怒ったり、感情をひた隠しにせずにさらけ出せる、子供。
竹馬に乗った子供たちに囲まれて、何か大切なものを思い出させてもらったような気がする。
なんだか、俺が感傷的な気分にひたっていると。
「たーーーっち!!」
一人の女児が、小さな手で俺の脚を触ってダッシュで逃げた!
「おにいさんがおにね!」
なるほど、突然鬼ごっこが始まったらしい。
周りで竹馬に乗っていた子供たちも「おに」というワードに反応して、竹馬を投げ捨てて逃げ惑う。
わー! きゃー! と、全力で笑顔を表現する子供たち。
その蜘蛛の子を散らすような逃げっぷりに、俺は童心に帰って追いかけ回す。
適度に俺に鬼が回ってくるように遊んでいると、俺も子供のときこうやって遊んでもらったことを思い出して感慨深い。
最近、なんだか自分が大人になったことを実感させられることが多い気がする。
こうやって幼い子供たちと接する時や、周りの同級生たちがバイクの免許を取り出した時。
自分では子供の頃から成長してる気なんて全くしないんだけど、どうも俺は大人になっていっているらしい。
制服を脱いだら大人になれる、スーツを着たら大人になれるなんて思ってたけど、そんなのは世間が作り出した幻想で、大人と子供の明確な違いなんて存在しないのかもしれない。
制服を脱いだら、制服を脱いだ子供が。
スーツを着たら、スーツを着た子供がそこにいるだけなのかもしれない。
だから、俺は少しでもこの、取り返せない高校生という短い時間を。
短くも尊い時間を、大切にしたいと思った。
蛍原くんが、そんなふうに思春期後半の独特な感情に心を苛まれていた頃。
私、樫宮糸は軽いパニックに陥っていた。
「おねーちゃん、もういっかい!」
原因は、目の前にいるこの男の子。
最初は、竹馬に乗る手伝いをして欲しいって頼まれたから、軽い気持ちで竹馬を支える役を買って出た。
だが、それが地獄の始まりだった。
子供だと思って侮っていたが、子供の体重を支えるだけでここまで辛くしんどい思いをするものなのか。
それにこの子、全然飽きてくれない!
他の子がみんな竹馬をやめて蛍原くんや雪姫ちゃんと鬼ごっこをして遊んでる中、この子だけはどうしても竹馬をやめない!
……その向上心だけは見上げたものだけど、正直、かなりしんどい……。
横を見ると、砂場で泥団子を作って遊んでいる男の子たちに、泥の爆弾や泥の鉄砲で攻撃を受けているほたるちゃん。
…………私だけじゃない、みんな大変なんだ。
でも、ほたるちゃんは汚されても攻撃を受けても、嫌な顔なんて一つもしてなくて。
私なんか……。
「おねーちゃん、もう、たけうま、やだ?」
子供に辛さが伝わって、気を遣われてしまった。
……はぁ、何やってんだろう、私。
「……ううん。好きなだけやろうね」
せめてもの償いに、精一杯の笑顔で答える。
すると、目の前の子は、まだやる気に満ち溢れた目でこちらを見据えてくる。
「ぼく……がんばる! おねえちゃんもおうえんしてくれてるから!」
私の腕の筋肉は悲鳴をあげていて、肩も爆発しそうである。
……でも、自然と今の瞬間、心が軽くなった気がした。
やっぱり、私は子供が好きだ。
……そうだった。
実を言うと、私の将来の夢は保育士だ。
そして、保育士になった理由は……。
と、そこで誰かが私に近寄ってくるのに気付いた。
「……糸ちゃん! 竹馬支えるの、大変でしょ? 俺、続きやるよ」
私を気遣った蛍原くんが、来てくれたらしい。
……きちんと、私を見ていてくれたんだろうか。
蛍原くんのそういった気遣いは、すごく嬉しい。
こんな影の薄い私も、一人の人として気にかけてくれて……。
でも。
「蛍原くん……今は、大丈夫。私、この子の夢……応援したくなったの」
私は、目標に向けて努力する姿を、子供に学んでいる。
保育士という夢に向かって努力するために、子供にその姿勢を学ぶ。
「そっか、わかった。無理はしないでね!」
そういうと、背中を向けて駆けていく蛍原くん。
私は……そんな子供に学びながら一緒に成長する人を、知っている。
私が、憧れた人。
なんだか、この瞬間私は、あの人と同じステージに立てた気がした。
これから、こうやってパニックになるような壁にぶつかることが何度もあるだろう。
そんなとき、今日のことを思い出してみようと思う。
昔の私には、なかったものが今、ここにある。
蛍原くんを初めとする、私に目を向けてくれる人達が。
だから、私は夢を諦めないで追いかけてみようと思った。
昔の私のような、友達のいない子供に、夢を見せてあげられるような。
そんな、保育士になってみたいと、本気で思った。
そうすれば、近くで苦しんでいるあの子も…………。
続く。
こんにちは、雨宮照です。
今回から、この作品のキャラクターの名前の由来でも書いていこうかなぁと思います!
今回紹介するのは、こちらのキャラクター!
「樫宮糸」!
名前の由来は、山羊から採れる毛です!
カシミヤと、糸。
我ながら天才かと思いました。