休憩なしで走り回った自由時間が終わると、せっかくだからってことで、全員参加のドッヂボール大会が行われた。
組み分けは、男子チームと女子チーム。
保育園の子供たちには、まだ男子と女子の力量差がないため、それでも平等に試合が運ぶ。
高校生は男女比の関係で同じ基準で分ける訳にはいかず、ほたる、糸ちゃんが同じチーム。残りの俺、雪姫、茨木が同じチームといったように分かれた。
次に、鈴さんが子供たちに地面に足でコートを描かせる。やはり、コートの大きさは子供用に狭くしてあるようだ。
続いて、最初から外野になるメンバーを決めたのだが、そこでも子供用になっている部分があった。
なるほど、特定の子供が多く動くことにならないように、外野の数が多いのだ。
そうすればなるべく多くの人にボールも回り、楽しめるという魂胆だろう。
そして、残りのルールとしては……。
「じゃあ、頑張って勝って、相手チームのお兄さんお姉さんをくすぐっちゃお〜!」
と、負けたチームの高校生が勝ったチーム全員からくすぐられるという、なんとも酷な罰ゲームが存在した。
……やっぱり鈴さんを野放しにしちゃダメだ!
「蛍原くん……絶対勝つからね!」
「ひっひっひ、妹ちゃんをくすぐりの海に引きずり込んであげるよ!」
「そっちこそ泣きながらやめてって叫んでもずっとくすぐってやりますから!」
「よっしゃあ、やるぞ!」
というわけで、とりあえずホイッスルとともに元気よくドッヂボール大会が始まった。
まずボールを持ったのは、雪姫や俺のチームの男子児童だった。
「おりゃー!」
保育園でも一番の元気さを誇る彼は、その元気さに恥じないフルスイングで敵陣を攻める。
その標的になったのはーー糸ちゃんだった。
「あっ…………」
動きがゆっくりしている糸ちゃんは、小さくて当てにくい保育園児と違って、容易な的だったのだろう。
「うぅ……」と微妙な顔をしながら糸ちゃんは外野へと移動する。
高校生たちはそんな糸ちゃんを見ていたたまれない気持ちになったのだが、子供たちにそんなことは関係ない。
すぐさまこぼれ球を拾って、ゲームを再開させた。
……そして試合は月日のようにどんどんと進行し。
ゲームが終わる頃にはーー茨木とさっき糸ちゃんをくだした男子児童の一騎打ちになっていた。
……いや、ドッヂボールでこんな白熱した闘い見たことないぞ!
ひょっとして、ドッヂボールってスポ根漫画にしたら大ヒットするくらい面白い競技なんじゃないだろうか。
緊迫した空気の中、ボールを持っているのは茨木。
軽く振りかぶると、下からのスローで勢いよく投げる。
しかし、体力の限界を知らない男子児童は脅威の跳躍力でそれを躱す。
そろそろ超次元ドッヂボールとかが始まってもおかしくないくらい一球ごとに見応えがあって、見ていて楽しい。
そんなことを考えながら次の一球、次の一球と盛り上がっていたときだった。
男子児童のチームの外野が投げたボールが、勢いよく茨木の胸にヒットした! ……のだが次の瞬間。
「うっ……ぐあぁぁぁぁぁああっ!」
と、茨木が断末魔のような悲鳴を上げたのである。様子がおかしい。
「ちょっと……おい、大丈夫か?」
俺を含めて全員が茨木の元へ駆け寄る。
「だ、大丈夫……なんでもないから」
……茨木はそう言いながらも、胸を押さえて蹲っていた。
そして少しの間が空いて。
「少年……君、強かったよ」
「……! 姉ちゃんこそ!」
立ち上がった茨木と、激戦を繰り広げた男子児童が固い握手をして、俺たちの保育実習は終わっ……てなかった。
「ひっひっひ〜! 妹ちゃん、くすぐりの覚悟は出来たかなぁ〜?」
「蛍原! 糸をくすぐっちゃって!」
……あー、そうだった。
このドッヂボール、罰ゲームが設定してあったんだっけ……。
続く。