日常部へ、ようこそっ!   作:雨宮照

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糸ちゃん無双

「んっ……ぁっ……やめてぇっ……」

保育園内に、糸ちゃんの艶やかな嬌声が響き渡る。

その声は、保育園のような子供を育てる場にはこれ以上ないくらいミスマッチなものであったが、いや、これはそういったアダルティな内容を孕んだ行為ではない。

「それそれ大輔! 子供たち〜! もっとやっちゃえ〜!」

「おねえちゃん! かくごしろー!」

「かくごしろー!」

ただ今この保育園のお昼寝部屋では、先ほどのドッヂボール大会の罰ゲームとして、くすぐりの刑が執行されていた。

「ぐぇっへへ〜! 妹ちゃん、ここがええのんか? ここが!」

「あはっ……やめてぇ……笹目さん……っ!」

入口奥には容赦なくほたるを攻める雪姫。

そして、入口付近では。

「糸ちゃん……ごめん!」

「んぁっ……だめぇ……っ……蛍原くん……っ」

……と、アウトに見えてセーフ……いや、やっぱりギリギリアウトな気がする、蛍原大輔による糸ちゃんのくすぐりが繰り広げられている。

……なんだか、いけないことをしている気になってくるな。

いや、でも待てよ……よく見ると。

「……糸ちゃん、ちょっと楽しんでない?」

「……えっ……そ、そんなことないよ……」

あ! なんか目を逸らしながら否定したけど、そう言っといて絶対楽しんでるやつだ!

そういえば最初の部活の日に自らMだって明かしてたわこの子!

「……今楽しんでることを絶対後悔させてやるからな!」

「……ぁぁんっ!」

そう言うと、俺は糸ちゃんのハリのあるむちむちの脚に這わせていた指を脇腹へと移動させ、より一層いらやしく蠢かす。

そうすると、糸ちゃんは涙目で身体をくねらせて、悶え、真っ赤になってしまった。

ほたるの方も、雪姫が色々と弄るからぐったりだ。あー、エロいエロい。

「……ぁっ、兄さん助けてぇ……。恥ずかしくて……赤ちゃんできちゃう!」

……こいつ、わざとやってるだろ。

「はいっ! じゃあその辺にして、お兄さんお姉さんとお別れ会をしようね〜」

と、鈴さんが止めに入ってくれてなかったら、女子たちが子供たちの前で醜態を晒してしまうところだったかもしれない。残念だ。

 

午後三時半。

俺たちと保育園児たちのお別れ会が執り行われた。

子供たちが秘密裏に描いてくれていた似顔絵師を受け取って、集合写真を撮って。

元気のいい子供たちと元気のいい鈴さんに振り回された俺たちはへとへとになっていた。

最後に高校生からひとことってことで選ばれたのは糸ちゃんだったが、保育士になる夢と、そこに対する不安や今日ここで学んだことを赤裸々に語ってくれた。

その堂々たる態度は、将来保育士になって子供たちに寄り添う糸ちゃんを想像させるには充分すぎる立派なもので、真剣な態度で聴かない子供など、一人としていなかった。

 

「気をつけて帰ってね〜。あと、お姉ちゃんもまた遊びに来てね〜」

鈴さんが、独特の緩さで見送ってくれて。

俺たちは、フラフラとおぼつかない足取りで電車に乗り込んだ。

時間帯としては四時くらいだったため混む時間ではあったが、なんとか全員座ることができ。

満身創痍の状態で、車両という名のゆりかごで俺以外、全員がぐっすりと眠った。

……俺は、先生に最寄り駅でみんなを起こす係に任命されていた。

あのロリっ子、自分がやれよ。

 

そして、しばらく揺られたあとだった。

俺もさすがに今日のことを思い出しながらうとうとし始めていると、隣に座る影がひょこりと顔を上げたのである。

その影ーー糸ちゃんは自身のリュックをごそごそと漁ると、目標物を見つけて両手で構えた。

その手に持ったそれはーー携帯ゲーム機だった。

「い、糸ちゃん?」

「……ぁ。おはよう蛍原くん」

「携帯ゲーム機、持ち歩いてるんだな」

「ぅ、……うん。ゲーム……趣味で」

「今、スマホゲームとか面白そうなのみんなやってるけど、そういうのはやらないの?」

「……うん。やっぱりスマホゲームは携帯ゲーム機には勝てないよ!」

「そ、そういうもんなのか?」

「うん! このゲームもスマホ版が出てるんだけど、そっちだと盤のマスが制限されててね、キャラの動ける範囲が格段に狭まってて、だからーー」

……急に饒舌になる糸ちゃん。

これ、ずっと終わらなそうな気がする!

でも……。

めっちゃかわいいなこの糸ちゃんも!

ゲームの話で盛り上がれるオタク系の女子とか、めちゃくちゃ好みなんだけど!

それもスマホゲームでちょっと嗜んでる程度でゲームについて語らず、ガチでやってる故の盛り上がり!

そして今……俺は、この会話における切り札を所持している!!

「それでね、この伝説の勇者がクラウスって言って、すっごくかっこいいの! でね……」

「なあ、糸ちゃん」

「焔の十傑っていう技があって、手から炎を……ぅん?」

「俺、そのゲーム……今持ってる」

「……ええ!」

ああ! なんて俺は恵まれているんだ!

神様ありがとう! 俺は……世界一の幸せものだ!

「糸ちゃん……俺と、一緒にプレイしてくれる……?」

「……う、うんっ!」

……俺たちはそれからというもの、それはそれはゲームに没頭した。

二人だけの世界に入り込んで、現実の、周囲の変化なんて目には映らなかった。

「蛍原くん、前々から思ってたんだけど、名前で呼んでいい……?」

「えっ……うん、いいけど……」

「ほたるちゃんも同じ苗字だから、なんとなくややこしくなっちゃうかな? って」

「う、うん! ありがとうほたる!」

「ええっ! なんでそこにほたるちゃんにお礼を言うの!?」

なんて、こんな俺の恋路にも関わる大きな進歩もあって。

気がついた時には、栃木にいた。

……栃木にいた。

 

「ほ、蛍原! なんで起こしてくれなかったの!」

「兄さん、起きてたのに……」

「大輔! ここ栃木だよ! 猿の栃木だよ!?」

……ああ、みんなに責められている。

糸ちゃんと楽しかったから内心全然気にしてないけど、結構嫌な空気だな!

と、俺が気まずさに目を逸らすと。

「大輔くんは悪くないの……。私も、起きてたのに気づかなかったから……っ」

なんて、糸ちゃんが庇ってくれた。

「い、糸ちゃん……」

これで、少しは場が収まるだろうか。

ホッとした俺だったが、その安堵も束の間。

「……ねぇ、糸今なんて言った?」

「糸ちゃ〜ん、今、大輔を下の名前で呼んだよねぇ……」

「兄さん、どういうこと!?」

……なんか、余計責められることになった!

 

続く




こんにちは、雨宮照です。
今回紹介するキャラの名前は、笹目雪姫!
これは、「細雪」から来ています!
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