栃木から埼玉の国立斜文織高校最寄り駅までは、電車で二時間を要した。
途中二回の乗り換えを行ない、肉体的にも精神的にも疲弊し切った俺たちは、今日は駅で解散することにした。
ほたると並んで歩く道中、二人の携帯が同時に震えた。
立ち止まって確認してみると、案の定日常部のグループへのメッセージだった。
差出人は、茨木薫となっている。
その内容は、明後日のみどりの日に「蛍原大輔歓迎会」を執り行うという内容だった。
全員参加強制と書いてあるが、誰も文句を言うものはいなかった。
……いや、全員予定とかないボッチだし!
ってことで、日付変わってみどりの日。
日常部プラス雪姫の四人は、「蛍原大輔歓迎会」会場に集結していた!
……いや、まあうちに全員集まっただけなんだけどね。
「じゃあ早速、お菓子とかジュースとか買いに行こー!」
と、一人元気いっぱいの雪姫。
しかし、そこにいた全員がその呼びかけに答えてーー。
「「「「ちょっと……休ませて……」」」」
……さすが普段運動しない系高校生の日常部員。
一昨日の実習で体育会系部活の仮入部期間くらい運動させられて、すっかり筋肉痛になってしまっていた。
「十二時半になったら行こ……これ、部費三万円あるから……」
主宰者である茨木もこんな疲弊した状態。
とりあえず十二時半まで三十分、お昼寝の時間をとることにしたのだった……。
いやぁ、それにしてもこの光景、なんとも絶景だな!
前から思ってたことではあるけど、日常部の女子メンバーは全員かわいい。
身内びいきとかでは全然なく、十人に聞いたら十人が答えるだろう、完璧なかわいさだ。
ほたるは学内にもファンが沢山いるくらいだし、雪姫も言動や行動が普通だったなら放っておく男子はいないだろう。
茨木は見た目がちょっとギャルっぽいから少し距離を置かれているが、たまに男子が茨木の魅力についてひそひそ話をしているのを耳にするし、糸ちゃんは俺のナンバーワンだ。
よし、ここで今俺が置かれている状況について整理してみよう。
……ここは、休日の俺ん家。
つまりだな……。
日常部の全員が普段見られない私服姿でこの場所に集結しているのだ!!
まず目につくのは、この中で一番見なれている妹、ほたるの服装である。
ほたるはかなりのお洒落さんで、ファッション誌とかを頻繁に読むわけでもないのに大抵のコーディネートはぐっと押さえている。
そんな彼女の今日のファッションは、白いオーバーサイズのカットソーに黄緑のカーディガンを羽織り、デニム生地のショートパンツ。おまけに、頭にはベレー帽をちょこんと乗せている。
……パーカーにジャージのズボンを適当に身に付けたやつの双子とは思えないお洒落さだ。
そして、それがここまで似合うのも彼女の完璧たる所以だろう。
黒髪で、以前よりちょっとだけ伸びてセミロングに揃った艶やかな髪の毛と、ハナミズキの花びらのように真っ白な肌。
それが、春らしい清楚なファッションにピッタリだった。
今は椅子に腰掛け、脚を組んでほかのメンバーが体力を回復させるのを待っているが、太もものなんと眩しいことか……。
「……兄さーん。なにジロジロ見てるのかなー?」
……おお、さすがほたる。
彼女の叡智にかかれば男の視線なんて、余裕で分かってしまうらしかった。
……続いて目に飛び込んでくるのは、ほたると違って見慣れない、茨木の私服。
いつもは、制服を不思議なほどにまではだけさせて露出高めな格好を好む彼女だったが、休日のスタイルはその真逆。
白地に金の文字が踊るスポーツメーカーのスウェット上下を着ていて、露出は最低限に抑えている印象だ。
……でも、全く違和感は存在しない。
なぜなら、学校での彼女の服装から滲み出る「ギャル感」と、このスウェットから溢れ出る「ヤンキー感」が絶妙にマッチしているからだ!
その点、茨木も自分に似合う服装を選んで着ている分、実は相当なお洒落さんなのかも知れない。
そんな茨木は今、うちのソファーにごろんと横になっているわけだが……。
他人の家でここまでくつろげるとは、さすがスウェットで男子の家に普通に来るだけはあると思う。
彼女はこっちの視線に気づくと「別に……今日くらい好きな格好でいいじゃん……」って、よく分からないことを呟いた。
スウェットが気に入っているらしい。
そして、糸ちゃんの服装も見ていこう。
まず糸ちゃんのファッションには、他のメンバーと異なる点があることをご了承いただきたい。
……それは、服装の季節!
他のメンバーが全員春らしい着こなしを見せている中、糸ちゃんの服装はどう見ても冬!
……ファッションには無頓着だと聞いていたが、季節にすらも鈍感らしい。
そんな彼女が着ていたのは、モコモコとした白ニットのインナー。
暖かくなってきた五月の気候にはそぐわないものを感じるが、似合っているので別にいい。
白と黒しか配色がない落ち着いた感じが、なんとも糸ちゃんらしくて頬が緩む。
「糸ちゃん、暑くない……?」と聞いてみるも、彼女は少し厚着をしているくらいがちょうどいいんだとか。
確かに春でも肌寒い日は多いから、低体温の女子なんかは着込んだくらいが本当はちょうどいいのかもしれない。
……その上から薄い黒のカーディガンを羽織っている彼女は、この時期にはさすがに異常に見えるんだけど。
そして視線を下にずらすと、ボトムスは黒のジャージだったんだけど……。
「あれ、糸ちゃん……そのズボン」
「……ん……? ……ぁ」
……なんと、今俺が履いているジャージのズボンとお揃いだった!
ファッションに無頓着も無頓着。
女の子にしては珍しく、俺と同じくらいの意識だったらしい。
……やった! 糸ちゃんとお揃いだ!
糸ちゃんも俺たちのお揃いに気づくと、気まずさから少し顔を逸らして……それでも、ちょっぴり嬉しそうに言った。
「……一緒……だね」
……うん! かわいい!
最後は、性格があんな感じなのに何故かきちんとお洒落さんをしてる雪姫のファッションチェックだ。
……うーん、いや。
やっぱりあの性格だからこそ、服装もお洒落になっていくんだろうか。
と言うのも、日常部のメンバーは基本的に休日は一人で家にいるタイプのインドア派である。
ほたるも俺も……ついでに糸ちゃんも、休日は家にこもってゲームのオンラインに潜るのを美徳としている。
そんな中、雪姫だけがアウトドア派で、友達も多い。
そうなると必然的に服装に気を使わざるを得なくなってくるのかもしれないな。
とはいえ、彼女の服装こそシンプルの中のシンプルである。
無地の白い長袖のTシャツに、デニム地のオーバーオールを着用しているだけ。
それなのに、雪姫はその服装を着こなしてくる。……すごくお洒落に見せてくる。
そうなると、彼女の毛玉みたいなもしゃもしゃの髪も、ウェーブを意図的にかけたみたいに服装とマッチしてくる。
……その姿は、まるで彼女の明るさ、活発さを体現しているかのようだっ……ぐぇっ!
「なに見てんのさっ! 気持ち悪いよ大輔っ!」
…………油断していたら雪姫に蹴飛ばされてしまった。
活発で明るいのはいい事だとしても、活発すぎるのもどうかと思う俺であった。
続く。