午後一時。
俺たち日常部は、歓迎会の買い出しに、スーパーへと繰り出して行く。
我が家から徒歩七分の立地に構える近所のスーパーは、ほたるにとってのホームグラウンドだ。
到着すると、集団で行動しながらそれぞれが欲しいものを選んでカゴに入れていくという、今回の買い出しの方針が決まった。
そこで、まずは自動ドアをくぐってすぐの野菜のコーナーを素通りしようとしたんだけど……。
「えーっと、ピーマンと……たけのこと……」
……ほたるが野菜を選んでらっしゃる!
「……ほたる? 今日の歓迎会、もしかして……」
「あ、うん。ちょっとした中華料理を何品か作ろうと思って」
……インドネシアの金持ちか!
いや、インドネシアの上流家庭って、晩餐会とか開くときに中華料理を振る舞うらしいんだけど、それを思い出してしまった。
野菜のコーナーを一通り見て回ったあとは、肉のコーナーに差し掛かった。
……ここで食いついたのは、この部の部長でもある茨木。
「よっしゃあ! 一番高い肉を買うぞぉ!」
と張り切る茨木は、最高級の黒毛和牛をぽんぽんとカートに放り込む。
……あれ、部費ってこんなに豪快に私的利用していいものだっけ……と、 疑問が頭に浮かぶものの、ここは日常部。
日常生活に彩りを与える手段として、いい肉を腹いっぱい食うという方法は最適かもしれないので、野暮なことは言わないでおこう。
それからしばらく加工肉なんかを見ながら進むと、雪姫が小走りに駆け出した。
頭のいい人はもうお察しだろうが、彼女の視線の先にあるのはお菓子コーナー。
ぱぁっと、満開の桜のような笑顔で駆けて行き、スナック菓子やチョコレートなんかをヨダレを垂らして見つめている。
……前回は部費だってことでお菓子を買ってあげなかったが、今回はどうだろう。
「雪姫〜! 好きなだけ持ってきていいぞ! ただし食べ切れる量にしてね〜」
……部長がそう言うので、乗っかることにしよう。
確かに前回は完全に一人で食べるつもりだっただろうが、今回は歓迎会である。
みんなで食べるなら、部費だって使っていいはずだ。
いや、それにしても今日の茨木は気前がいい。
なんだかーー不気味なくらいに。
それから飲み物なんかを選んで、自宅へ帰って。
糸ちゃんとほたるが食事の用意なんかをしている間に、俺と残りのメンバーがゲームで対戦して。
「さぁ! 杯を乾かすと書いて乾杯だー! 飲め飲め〜!」
と、おっさんみたいな茨木の乾杯の音頭で歓迎会が始まった。
本来、陰キャの中の陰キャである俺はパーティみたいな、大人数でわいわいする雰囲気が大の苦手だ。
みんな話す相手が存在するのに、俺にだけそんな相手は存在しない。
しかしながら、少しでも楽しくなさそうな顔をするとノリが悪いと周りを冷めさせてしまう理不尽さである。
だから気心知れたメンバーではあっても、この歓迎会だって少しの不安は拭えなかった。
ーーでも、そんなことは杞憂に過ぎなかった。
こういった雰囲気に慣れている雪姫がみんなに話題を振り、それにほたるが応え、糸ちゃんもマイペースに話題に乗っかって……。
そんな雰囲気が部屋中に広まるうちに、こういう場に慣れていない俺や変に空回りしていた茨木も、リラックスしてパーティーを楽しめた。
そして、気づいたら夜になっていた。
ーー午後八時半。
最後の清涼飲料水が空になって、この会はお開きになった。
……締めくくりの挨拶として、部長である茨木が、我が家のテレビの前へと歩を進める。
そして一礼をすると、右手を握り拳に変えてマイクを持つような真似をし、口を開いた。
「ーー宴もたけなわではあるけど、もう楽しい時間も終わり。夜になってしまいました」
「あらー! もうこんな時間!」と雪姫。
「えー、この会を締めくくるにあたって、あたしにはどうしても言いたいことがあります」
「なんだなんだー!」と雪姫。うるさい。
「あたしは……このみんなと、出会えて本当によかった。……今日も、これまでも。……だから……ありがとうっ」
……歓迎会でテンションが上がっていたのだろうか。
茨木は、言い終わって勢いよく頭を下げると感極まって泣き出した。
それを見た俺たちも、なぜか、自然と涙してーー。
祭りのあとのような虚無感に包まれながら、三人を見送ったのだった。
最後に、振り返った茨木は、微笑んでいた。
……でも、気の所為だろうか。
笑顔の中に、少しの寂しさとーーほんのちょっとの悲痛さが息をしているように見えたのはーー。
続く。