ゴールデンウィークが明け、俺たちが次に登校したのは、歓迎会から三日後の火曜日だった。
いつものようにほたると登校し、アリの巣のようにそれぞれの教室へと別れていく。
……と、そこで俺は違和感を覚えた。
具体的には、俺の左隣の席。
いつもは俺より先に来ている友人、茨木薫の席が空席だったのだ。
気にはかけてみるものの、単に遅刻しただけかもしれない。
……それでも来なかったらメールをしてみようと思い、読書を始めた。
やがて、朝のホームルームが始まっても茨木が来ることはなかった。
「起きてるかー?」と一応メッセージを入れ、視線を再び読んでいたライトノベルへと戻す。
そして、先生の話を聴き流しながら読書をするという器用な真似をしていたのだが次の瞬間、俺の注意は先生の話のみに集中することとなる。
「ーーと、今日のホームルームは終わりなのだ。……それと蛍原、終わったら先生のところに来るのだ」
「…………え」
驚いたのは、生まれてこの方、波風を立てないように生きてきた俺が、先生からの呼び出しを食らったのはこれが初めてのことだったから。
そして……。
「……えーと、とりあえずそこに座るのだ」
その後、職員室へと向かった俺は、飯森先生に応接室へと通された。
「……まず、今朝笹目から入部届を受け取ったのだ」
「……! そうですか」
雪姫が日常部に入る。
まあ、一緒に行動することが多かったし、雪姫にとっても俺たちにとってもお互いに付き合いやすいメンバーだけで構成された部活である。
いずれ入るとは思っていたが、やっぱりか。
「で、まあお察しのこととは思うが、今日私がお前を呼んだ理由はそんなことを伝えたかったからじゃないのだ」
まあ、普通に考えたらそうだろう。
部活に新メンバーが入るなんて、放課後の部活のときに全員の前で伝えればいいことだ。
「……単刀直入に言わせてもらうのだ……お前たちは、お前の歓迎会の会費をどこから算出したのだ」
「…………え?」
……これは、想像してなかった。
色々な質問と答えのパターンをさっきまで想像していたが、この質問はわけが違う。
なんだか、試験勉強をしてきたら別の科目だった……みたいな、不思議な感じだ。
……質問の意図もわからず、とりあえず聞き返す。
「……ええと、なんで俺にそんなことを?」
「お前に聞いた理由は、私が担任をしてるクラスにいる日常部員が二人で、部長の茨木が出席していないから。そして、この質問をする理由は……まあ、お前の回答を聞いてからにするのだ」
と、肝心なところは今は話せないとばかりに回答を急がせる先生。
部費を勝手に歓迎会に使ってしまったことを怒っている……と考えるのが妥当だろう。
しかし、今の先生に怒っているような様子はない。
むしろ……そう、問題に対して純粋に疑問を抱いているかのような……。
「……実は、笹目から、部費でお前の歓迎会を開いたと聞いたのだ」
「……はい、間違いありません」
痺れを切らした先生が自分から語りだしたが、やっぱり部費を私的利用した件だろう。
俺は、ぎゅっと目を瞑って下を向く。
「そこで、問題なのだが……」
先生は、ちょっとだけこちらに顔を寄せて、言い放つ。
「日常部の部費は、保育実習の時点で使い切っている」
「…………は?」
……訳が分からない。
数日前に、みんなで飲み食いした事実は確かだ。
それに、会費は集めず、部費で賄われたはず。
「……まあ、お前が知らないのは予想していたのだ。たとえお前一人が部費で賄われた歓迎会だと思い込んでいても、他のメンバーがお前のために会費を多く負担して歓迎会を開いた可能性は充分にある。……ただ今回の問題は、部費で賄われていないことを知らなかったのが、お前一人じゃないってことだ」
「それって、つまり……」
「ああ。雪姫から情報を貰ったあと、気になってほたるにも聞いてみたのだ。……そしたら、あいつも部費で賄われたと思ってたよ」
……こめかみを、一筋の冷や汗が通過する。
「……お前に、なにか心当たりはないか?」
「……一つだけ、あります。でも、ここで話すようなことかどうか、確証が持てません。……少しだけ、待っていてもらえますか」
「…………わかったのだ」
……分からない、分からない。
きっと、金の出どころについてはアレなんだろうが、さっぱり分からない。
今、必要な情報を考えるんだ。
……考えろ、考えろ!
……俺は、走りながら頭をフル回転させた。
そして辿り着いたのは……授業が始まる前の、隣の教室だった。
「……ほたる、糸ちゃん! ちょっと来てくれ!」
……普段なら絶対にやらないが、隣の教室へズケズケと入っていき、二人の手を引っ張る。
「……ぇ、ちょっと……?」
「に、兄さん?」
戸惑う二人だが、説明している暇はない。
チャイムが鳴ったが、気にしない。
……俺は、日常部部室にて、緊急の部活動を執行することにした。
続く。