日常部へ、ようこそっ!   作:雨宮照

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妹と、ラブレター。

放課後になって、ほとんどの学生が教室から出ていったあと。

俺は、手元の封筒の中身について再度考えを巡らせていた。

差出人は、何を思ってあの時間に下駄箱に手紙を入れたんだろう。

創作の中での話にはなってしまうけれども、アニメや漫画のテンプレでは、手紙を見つけるタイミングは登下校時と相場が決まっている。

と、いうことはだ。

きっとこの手紙の差出人は、下校時に俺にこれを受け取って欲しかったわけでーー。

そうなると、必然的に「放課後呼び出されて告白」なんていうそれこそテンプレートのような展開が待っている確率は高まるわけで。

「……ってことは、今この中身を見てやらないと差出人が待ち続ける可能性があるってことか」

それは、少なくとも自分に好意を抱いてくれている人に対する態度じゃないな。

ってことで、封を早速開けることにする。

封筒を止めていたユニコーンのシールを丁寧に剥がすと現れる、便箋。

かと思いきや、今度はきっちりと封のしてある封筒が中に入っていた。

マトリョーシカか。

えーっと……今度のこれは、ハサミを使わないと開かないな。

しかし、俺の筆箱をいくら探してもハサミが見つからない。

まぁ、これ以上探してもしょうがないから人に借りに行くことにした。

LINEを開いて、その人物のトーク画面を開く。

そして「ほたる」と、シンプルに下の名前で登録されている俺の妹に、「ハサミ持ってない?」と、これまたシンプルなメッセージを送信した。

すると数秒で既読がつき、「もってるよー」と、フラットな感じの答えが返ってくる。

しかし「さてと……、ほたるのとこに行ってくるか」と、俺が立ち上がろうとしたときだった。

LINEが更新され、妹からもう一件のメッセージが届いた。

ほたる @ 兄さん、今日は生徒会の仕事がないから一緒に帰ろー

大輔 @ 了解した。じゃあ、教室で待ってるな。

かくして、俺はほたると一緒に帰ることになった。

 

そんなやり取りをしてからほどなくして、妹は教室にやってきた。

ボブカットに切りそろえられた髪に、大きすぎも小さすぎもしない、けれどもきちんと自己主張は欠かさない綺麗な胸。

そして、兄としては少し短すぎる気がしないでもないようなスカートの丈。

いつ見ても俺に似ても似つかない整った顔立ちは、妹ながらに俺を癒してくれる。

「兄さん、はいハサミ」

「よし、ちゃんと柄のほうを俺に向けてるな。えらいぞ」

「んっ……えへへ」

頭を撫でてやると、恥ずかしそうにしながらも屈んで目を細めるほたる。

「で、兄さん。なんでハサミが必要だったの?」

「んー……ちょっと、な」

「兄さん、怪しいよ〜? なにか隠してるでしょ」

「いや、なにも隠してないぞ。ちょっと封筒を開けるのに、な」

「ふ〜ん。ま、ならいいけど」

さすがほたる。鋭い。

ほたると俺は小さい頃から家でも学校でも、結構ずっと一緒にいたからな。

普通の兄妹よりも、双子としてお互いのことを分かってるんだ。

これについても多分ある程度推測はついた上で触れないでおいてくれてるのだろう。

しかし……、…………。

「……お前、さっきから急に機嫌悪くなってないか」

「えー? 別にそんなことないよ〜?」

「いや、確実にちょっとピリピリしてる」

「そう〜? 別に兄さんが私に内緒でかわいい封筒を開けようとしてても、妹の私は怒る必要なんかないからねー、ぜんっぜん! 機嫌悪くなってなんかないよー?」

「めちゃくちゃ不機嫌じゃねーか! なんだそのどす黒いオーラは!」

めちゃくちゃ不機嫌だった。

これで妹が小さい女の子だったら嫉妬も頷けるが、なにゆえこの妹は手紙の差出人に嫉妬しているんだろう。

「だってさ、兄さん。考えてみてよ」

ほたるが、俺に嫉妬の原因を納得させようと説明してくる。

「私が他の男子に告白されてさ、あからさまに兄さんに内緒にしてたらどう思う?」

「……いい気持ちじゃないな。もしお前に彼氏が出来たらと思うとなんか……すげえモヤモヤする」

「……っ。兄さん、そんなに束縛したら私以外の女の子だと引いちゃうからね? 気をつけてね?」

「今の『……っ』ってのは別に小さな悲鳴とかじゃないよな! 照れてたんだよなそうだよな!」

恥ずかしくて、早口で捲し立ててギャグっぽい感じに会話をシャットダウンさせたものの、お互いに恥ずかしいセリフを吐いたことには変わりなく……。

だって、「私以外の女の子だと引いちゃう」って……つまり、いくら束縛しようとほたるは引かないで俺のことを嫌いにならないでいてくれるってことで……。

やばい、頬が熱くなってきた。

ふとほたるのほうを見やると、ほたるも若干紅くなった頬を隠すように唇をとがらせ、横に視線を逸らしていた。

蛍原家は今日も平和である。

その隙に、封筒の上部を薄くハサミで切り、中の便箋を取り出す。

アイスクリームの絵なんかが描いてあるパステルブルーのかわいい便箋に、ピンク色の丸っこい文字が踊っている。

ええと……なになに?

「四月九日の放課後、交流棟に来てください……」

ふむ。九日ってことは明日だから、今日はほたるを待たせずにすぐ帰れそうだ。

で、交流棟っていえばこの学校に客人が来たときに使われる特別棟だな。

教育実習生が実習期間中に宿泊したり、部活の合宿にも使ったりする風呂付きの小屋みたいなもんだ。

確かに普段人が寄り付かないところだし、これで呼び出しの内容が告白の可能性がまた上がったか……?

「ねぇ、兄さん……」

「……ん?」

「ひとつ、お願いがあるんだけど、いいかな」

「どうした? らしくないじゃん。なんでも言ってみろよ」

「……あのね、兄さんーー私を置いて、何処にも行かないでね?」

上目遣い&子犬のような儚い表情で告げてくる、ほたる。

「……ああ」

帰ろうか。と、帰宅を促す。

……、…………。

…………ほたるの不安そうな表情は、帰りの道中でも消えることは無かったのだった。

 

続く

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