大輔 @ で、本題に戻るんだけどさ
雪姫 @ え! その話まだ続けるの!?私のライフはもうゼロよ!
いや、だってお前!
他の女の子と仲良くなりたいって相談したのに、なんで俺たちがいいムードになってるんだって途中で不思議に思わなかったのか!?
……残念ながら糸ちゃんを好きになってからというもの、他の女子がありえないくらい異性として見られないから別に一般的ないいムードってだけなんだけどさ。
あ! 手紙見つけたときは別な!
そりゃ、初めてラブレター貰ったら嬉しくね? 頬熱くならね?
そこは素直に喜んでいいよな!
雪姫 @ えーっと? 仲良くなる方法だったっけ?
大輔 @ ああ。ご教示賜りたい。
一応、きちんと相談には乗ってくれるようだ。
俺はこいつの、こういう素直で、人に何かしないとばつが悪くなるような性格が好きなんだ。
雪姫 @ んーっとね。
大輔 @ おう?
雪姫 @ まずは頻繁に話しかけてみることが大切じゃない?
大輔 @ いやいやいや、それが出来たら苦労しないだろ!
話しかけたら仲良くなれるのは分かってる!
だからそのきっかけっていうか、なんていうか……そういうものを教えて欲しい!
雪姫 @ 大輔なら、大丈夫だよ!
大輔 @ 何を根拠に……。
雪姫 @ だって、さ。
雪姫は、そのままのフラットなテンションで、続ける。
雪姫 @ 私に話しかけてくれて、そこから私たち、こうやって仲良くなれたじゃん……。
その言葉は、本当に、俺の心に刺さるものだった。
他の人が見てどう思うかは知らないが、俺はーー最高に、嬉しかった。
だってこんな台詞、普通に仲がいいくらいの相手に言うのには、ハードルが高すぎる台詞で。
俺たちの、信頼関係だからこそ、送ることが出来る、友情の証だったから。
だから俺はーー。
大輔 @ ばーか。お前だから、上手く喋れたんだよ。
つとめて軽く、しかし本音の一番深い部分を、雪姫にさらけ出すのだった。
雪姫 @ ……照れるね。
大輔 @ …………ああ、照れるな。
雪姫 @ 明日にでも、頑張って、話しかけてね?
大輔 @ ……おう、ありがとな。
彼女は、最後まで消さなかった。
彼女は今度こそ照れくささに勝って、メッセージを残すことを選んだんだろうか?
いいや、違うだろうと俺は思う。
前者は、不器用な恋をする乙女としての、雪姫。
そして後者は、大輔の親友としての、雪姫。
きっと、天秤にかけた結果ーー敵がいないってのももちろんあっただろうがーー譲れないのは、後者の方だったんだろう。
……俺は、たまらなくその事が……嬉しかった。
気付いたら俺は、糸ちゃんのことを考えているとき以上に緩んだ表情を、スマートフォンの画面に、向けていた。
……、…………、…………っ。
「…………ふぁぁぁ……」
気がついたら、寝てしまっていたようだ。
重たい瞼とぼんやりとした頭を冷やすかのように欠伸を、もう一つ。
何かの番組で有名大学の学生が言ってたが、欠伸には脳内を冷やす役割があるらしい。
だから、その学生はわざと頻繁に欠伸をするんだとか。
……それなのに授業中の欠伸を咎める教師たちは、きちんとテレビを見て勉強してほしいものだ。
寝起きの頭でそんな教育現場の理不尽への不満をぶちまけながら階下へ向かうと、一階のリビングのソファーで、部屋着に着替えたほたるがヨーグルトを食べていた。
「あ、兄さん」
「おう、おはよう」
「夕方の七時前だけどね今」
「……人間は、時間に囚われてちゃだめなんだぞ」
「……ちょっと何言ってるか分からないけど、ヨーグルト食べる?」
「ああ、ありがとう」
言うと、ほたるは自分が食べていたヨーグルトを一口すくって、俺の口へと運ぶ。
俺は、そのヨーグルトを何気なく口にして、飲み物を探しに冷蔵庫へと向かう。
……これが、俺たち兄妹の普通。
家に同級生の女の子がずっといるとか、同級生と間接キスしてるとか、そういったことへの妬みや嫉みは甘んじて受け入れよう。
しかし、別にやましい事があって受け入れるわけじゃないぜ?
だって実際、俺たちの間に恋愛感情があってこうしたやり取りをしてるわけじゃないんだから。
そりゃ、同級生の女の子と一緒に住んでるし、俺はシスコンだから全くほたるのことを意識してないってわけじゃない。
でも、常に意識してるわけじゃないってことは知っておいてくれ。
それに、俺は糸ちゃんしか恋愛対象として見られない病気にかかってるから、他の女性のことなんか考えられないんだよ!
……でもまあ、今みたいにソファーで腕に抱きついてこられたら照れるんだけど。
「兄さん、ゲームしよ」
「うん。格ゲーでいいか?」
「私、ちょうど格ゲーがやりたかったよ」
「よし、じゃあこの大手から最近出たバトルロイヤル形式のゲームにするか」
「ふふん、負けないからね兄さん」
そして、二人楽しくゲームをやる。
だんだんとのめり込んで、熱狂的な闘いになって、ほたるが押されてきてーー。
「ほらほら、どうした!」
「んぅ……このままじゃ負けちゃうよぉ……」
「このまま削り切ってやるっ!」
俺がガチャガチャとコントローラーを操作し、トドメの一撃を喰らわそうと体制を整えたところだった。
突如、ポーズ画面に切り替わる画面。
「おいほたる。どうして止めたんだ」
「実力差が出ちゃってるから、ハンデをもらいたいな」
なんと、ハンデが欲しいと申すか。
なんだ? 俺だけガードなしとか、つかみ無しとかだと、正直いってキツい。
しかし、他にハンデなんて……。
「お兄ちゃんの膝枕でやりたい」
「…………ふゃし!」
「何変な声出してるの?」
「すまん、驚きすぎて発音できない言葉が発音できてしまった」
「ふうん、兄さんは面白いね。じゃあ、兄さんの膝に頭乗せてもいい?」
「……す、好きにしろ」
そうして、俺がソファーの上で組んだ膝に、さらさらの髪と軽い頭を乗せるほたる。
本人は心底リラックスしているのか、コントローラーを構えて目を細めたり笑顔になったりしてるが、俺はちょっぴり恥ずかしくて、固くなってしまっていた。
「じゃあ、再開するねー」
ほたるがポーズを解いて、再び画面上では激しい乱闘が起こる。
しかし……。
「兄さん、どうしたのー? さっきまでの勢いが全然ないけどっ」
「それはっ、お前がっ……膝の上でもぞもぞ動くから……っ!」
「ふふっ、兄さんはやっぱりおもしろいね。私、もっと動いちゃおうかなー」
そう言うと、さっきまで以上に体をくねくねさせながらコントローラーを操作するほたる。
すると頭が乗ってる膝はもちろん、股間付近にまで振動が伝わって……。
「……に、兄さんっ。なにか当たってるんだけどっ」
「……ははっ、ほたるは面白いなぁっ! ……面白いなぁぁぁぁあっ!」
「あっ! 負けちゃったー」
妹が気づいてはいけないものに気づいちゃったら、ゲームでゴリ押しして勝って会話を切り上げるのがいいお兄ちゃんだからな。
妹が悔しそうに唇をとがらせてるが、ゲームで負けたことと膝枕をやめたこと、どっちに怒ってるんだろう。
どっちにしろ、この歳になっても一緒にゲームをしてくれたり仲良くしてくれたりする妹に、俺は感謝するばかりなのだった。
続く